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空回りだって悪くない

 地球に着くなり、トロロはパタパタとクルルズラボに向かって駆けて行った。

「ココは前線基地だぞ?小隊メンバーでもない子供が気安く歩き回るようでは……」

「まーまー、ギロロ」

「今回はケロロ小隊の状況を確認しにきたのだから、基地に入るのは構わんだろう?」

 ケロロとガルルに諭され、うっとギロロは言葉に詰まる。しかし、トロロがクルルズラボへ向かう理由は明らかに任務のためではない。そのことを言ったところで、ガルルたちは苦笑するだけだろうが……。

 得てして、大人と言うものは小さな子どもに弱いものだ。

 特に、ああも必死に構って欲しい、気を引こうとアピールする様子は、見ていてすごく微笑ましい。

「本当に、トロロはクルル君が好きなのね」

 ふふふ、と嬉しそうに微笑むプルルの最後の一押しに、ギロロもついに折れた。そのまま、日向家リビングでは年長組みの他愛も無い世間話が始まったのである。

(あら……?)

(……何か、我輩たち、忘れている気が……)

 

 一方、ようやくクルルズラボの前に辿り着いたトロロは、そのままインターフォンを押さずにズイッと足を踏み出した。クルルは何だかんだでトロロを気に入っているため、トラップ発動対象にはしていない。――対象にされていたら、トロロはここまで辿り着けないだろう。

 自動ドアはあっさりと開き、トロロはそのまま1歩、室内に移動した。

 その時、視線を上げると、すっかり上の面々が忘れていた灰色のアサシンが、クルルの傍に立っている。彼は、生身の手に何か、ワインレッドの鮮やかなモノを持って、それを椅子に腰掛けている少女に差し出しているらしかった。

 クルルは肘置きに肘をついて手を頬に当て、呆れたというように溜息を吐く。しかしゾルルは手を引っ込めることは無く、だみ声で何かを耳打ちした。

 その内容は、トロロの耳には届かなかったが、やがて、クルルの少々血色の悪い唇が弧を描いて『苦笑』を示す。それを受けて青年の手が動き、パチンっと軽い金属音が響いた。

「――で?いつまでそうして突っ立てるつもりだぁ~?」

「……っべ、別にっ!」

 盗み見のような形になってしまったことが、何故か今日に限って後ろめたくなってそう言えば、皮肉の笑みをにやりとはりつけただけで、何も突っ込んでこない。

 自分ばかりが気まずくて、何だか無性に腹立たしかったけれど、何故か視線はひたすら金色の髪に飾られた赤に向いていた。

「……何、ソレ?」

「薔薇、ダ……」

「本当、アンタ無駄に器用だなぁ……?」

(あ、また……)

 ふっ、と変化する笑み。『しょーがない』とでも言いたげで、そのくせ、優しいと言うかやわらかいと感じる表情だ。

 そして、そんな表情を向けられているゾルルはと言えば、顔のほとんどが隠れているのに、一目見て分かるくらい嬉しそうだった。

(……ゾルルが、コイツに作ったのかナ?……てゆうか、何か……)

 ――仲が、良さそうだ。

 2人の間にある空気が、2人がいるその空間が、お互いに向ける表情が。

 それが、2人の親密さを物語る。

(……全然、接点なんて無さそうなのに……)

 そういえば、ガルルとクルルは昔交流があったと、何となく聞いたことはある。

 もしかして、その頃にゾルルともクルルは関わりがあったのだろうか?

 ――何にせよ、クルルがゾルルに向ける友好的な態度を見て、もやもやとスッキリしない何かが、トロロの中に広がっていく。

(――ムカつく、シ……!)

 

 いつだって、自分は出遅れる。

 

 そんなトロロの様子に、気付かない2人ではない。

「トロ、ロ……?」

 気遣うように声を掛けてくる仲間のそれが、今はすごく、腹立たしくて悲しい。

「……何でもないシ!クル兄、ゲーム!!新しいゲームする約束!!」

「クックック……せいぜい愉しませろよ?」

「ムキー!!何その余裕な態度!?後で泣いても知らないからネ!!」

「クーックックック……」

 ごまかすように、今回の本来の目的を口にしたトロロに、理由を尋ねるといったことをクルルはしない。ゾルルはそのまま用事が済んだからか、どこかへ行ってしまった。

 その後、ゲームで連敗を喫したトロロは逆に泣かされながらも、『あること』を実行しようと心に決める。そのため、どこか心は晴れやかだった。

 

 それから、ケロン星へ帰還し、かれこれ10日。ガルル小隊はいくつかの任務に就き、それらを問題なくこなしている。

 が……。

「また、トロロが出てこなくなったっスね」

「うーん……」

 資料整理の合間の休憩中、タルルとプルルは任務時以外部屋に篭っている新兵を話題に苦笑する。地球からの帰還直後から始まった篭城の、原因は間違いなくクルル絡みなのだろう。しかし、流石にその詳細までは考える材料が少なすぎるため分からない。

「また、クルル君に迷惑をかけてなければいいけど……」

 ウイルスを送りつけたり等、数え切れない前科を持つ少年兵。トロロなりの甘え方ではあるのだろうが、あまり社会的に周囲に認められ辛い手段を、寛大に見てみぬ振りをするわけにはいかないのが現状だ。

「――明日も出て来なかったら、様子を見て来るっス」

「ありがとう、タルル」

 何だかんだで面倒見の良い年下の少年兵に、プルルは感謝と謝罪、両方の意味をこめて、ふわりと微笑んだのだった。

 

 そして、ひとまず彼女たちの心配するようなことにはなっていない。

 しかし、トロロは1人、パソコンの置かれていない机のスペースで、ふと気を抜けば溢れてきそうな涙と闘っていた。

(……クソッ……!!)

 机の上には、何やら複雑に表面が凸凹した物体が、ちょんっと乗っかっている。そして、その隣には『宇宙印・ラクラクジュエリービーズキット』と書かれたラベル付きの袋が無造作に放置されていた。

(……何で、上手くいかないんだヨ……)

 地球から帰って来て、トロロはすぐにネット通販でこのキットを購入した。素人向けに、様々なビーズやちょっとした置物が作れるという、女性向けのキット。

 あの人物がキラキラとしたものを置くなんて、昔なら考えられなかっただろう。しかし、ゾルルがクルルにプレゼントした手作りだというコサージュは、あの月色の髪に映えていたし、クルルも呆れてはいたものの、嫌がっているようには見えなかったから……。

 そんな、大層な考えや計画性があるわけではない。

 ただ、自分も何かを作って、それを貰って欲しかった。

 そして、自分だけに――――。

(――でも、これじゃあ……)

 出来上がった、何とも形容しがたいオブジェを見て、トロロは深く溜息を吐く。ウサギを作るつもりだったのだが、何となく長い耳のようなものがあるかどうか、という謎の容貌は、とても愛玩動物には似ても似つかない。

 元々、こういったものは作ったことが無いし、脳に描くイメージを再現するだけの技術が、トロロには著しく欠落していたようだ。

 虚しさ、悔しさ、その他諸々の心ごと、ウサギの成り損ないを隅に押しやって、机に突っ伏す。トロロはそのまま、いつの間にか眠ってしまった――――。

 

 次の日の昼頃、ようやく目を覚ましたトロロは、昨日確認しなかったメールボックスにいくつかのメールが届いていることに気付き、カチリとボックスを開く。

(……クル兄?)

 一瞬、見間違いかと思ったが、差出人は確かに紛れも無くクルルだ。

 滅多に向こうからメールを送ってくることは無いのに……と、首を傾げつつ、しかしやはり嬉しさで浮かれるのは止めようがない。そのまま、本文を展開しようとしたとき――。

「――――っ!?」

 画面に、昨日トロロが作ったオブジェの写真と、1文のみの本文が表示される。今更慌てて机の上や下を探したが、確かにオブジェは無くなっていた。

 そして、たった1文のみの本文。

『ウサギに見えね~よ(@皿@)』

(……分かったんダ……)

 何故、だとか、恥ずかしいとか。

 収集のつかない思いはあるけれど、今は『何か』が満たされたような気がした。

 

 《終わり》

こちらの小説は、リクエストをしてくださったテンユウ様限定でお持ち帰りを歓迎いたします。テンユウ様、リクエストをしてくださり、本当にありがとうございました!!

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