先取り
「1日早いけど、メリークリスマス!クルル君」
「……」
そんな台詞と共にやってきたのは、ガルル小隊所属プルル看護長である。そして、彼女が両腕に抱えて持ってきたのは、4つのプレゼント。先程の一言から察するに、おそらくクリスマスプレゼントなのだろう。
「隊長とゾルル兵長と大佐と私から」
開けてみて、と嬉しそうに促すプルルに対し、生憎クルルは抗う術を持たない。邪気無く押しの強いタイプの女性相手となると、何故か無下にあしらう事も他の男のように完膚なきまでに嫌味でつぶすことも出来なくなるのだ。
まあ、幸いなことに一度に4つの箱や袋を渡されることはなく、プルルは「まず、どれがいい?」とクルルに尋ねた。しかし、今回クルルは自主的な動機がないため、『これがいい』などという希望もあるはずも無く。
結局、少々の沈黙の後、
「……別にどれでも……」
という、やる気の無い返事が紡ぎ出された。
それに対してプルルは不快そうな表情もせずに、抱えていたプレゼントの1つを右手に持って、「ハイ!」と差し出す。一応それを受け取って、十字架結びのリボンを解き、バリバリと包装紙を破いて中から出た箱をパカリと開く。すると、一対のガラスのペアグラスが現れた。
透明で、模様は無いが、代わりに側面のカットがシンプルで潔い印象を与えている。
「誰からのプレゼントかわかる?」
「ガルルだろぉ~」
迷うことの無い即答。
「あたり!でも、どうしてわかったの?」
「クック……べつにぃ~?」
不思議そうに問いかけるプルルに、ようやく唇がにやりと歪んだ。
何故わかったのかという理由は、言ってしまえば単なる付き合いの長さというやつだろう。
養父である大佐の直属の部下にあたるガルルとは、何だかんだで知り合ってからだいぶ年月は経っている。その間、お互いの好みといったものが自然と伝わりあっているというのが、クルルとガルルの間柄。
甘さの無い、直線で構成されたグラスの輪郭は、クルルの嗜好にあっている。ペアで寄こしたのは、大方『恋人』との食器として、といった辺りの理由だろう。ガルルは『あの青年』とよくそうしたことを話すために、度々ベタなことをさせたがる。言葉では直接言ってこないが、あくまで主張してくるガルルのやり口に、クルルの唇が苦笑を浮かべた。
そうした様子をプルルは穏やかに見守っていたのだが、ぱちりと目が合うと、
「じゃあ、次はこれ!」
と水色地のドット柄の紙袋を差し出してくる。銀色のシールで封がされた口を開くと、中には白いふわふわのイヤーマフラーが入っていた。
色こそ違うが、かつてクルルはイヤーマフラーを愛用していた時期がある。まだ、本当に子どもだった頃につけていたそれは、もう手元に残っていない。感傷に浸るつもりは無いが、手で触れた白いイヤーマフラーは、記憶の中の物よりもずいぶん手触りに磨きがかかっていた。
「私からのプレゼントなんだけど……ちょっとつけて貰ってもいい?」
似合うと思って買ってきたのだが、確かに実際身に着けてみるまでこうしたものの相性は分からないという。別に強制ではないのだろうが、やはり断りづらい。まあ、クルルも別に身につけること自体が嫌というわけでは無かったため、耳を覆うヘッドフォンを外し、そのイヤーマフラーをぼすんとつけた。
ヘッドフォントは異なる、くすぐるような柔らかさに、一瞬身体が震える。しかし、すぐにそれはなじんだ。だた、それでもついつい久しぶりの感触が気になって、手がすぐに伸び、白い毛を弄ぶ。
そうしたクルルの仕草を含め、じっと見つめていたプルルは、「うん、」と一度頷いて、晴れやかに笑う。
「とっても可愛いわ!」
嬉しそうに、誇らしげに、臆面も無く断言する。
あまりにも言われなれない一言に、サッとクルルの頬に赤味が差した。
「かわいい!!すごく、可愛い!!」
「――っ!」
拷問だった、と後にクルルが語る。プルルの高い良く通る声で、何度も何度も、繰り返された言葉だ。
《終わり》
それだけで、神経が奪われる経験。
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