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馴れ合い

 一緒に居る時間は、どんどん積み重なっていく。

(そういえば……『接触回数が多いほど、相手に好意を抱き易い』っていう言葉があったっけ……?)

 果たしてそれが、誰の言葉だったかということは覚えていない。が、それなりに信憑性が高そうな台詞だと思う。

 見たことも会ったことも聞いたことも触ったことも無いものなんて、それに対する感想を抱きようが無い。認識していないものには、嫌悪も好意も持たないだろう。

(でも、長い間一緒にいると、相手の嫌なところも分かってきて嫌になってくる、とも言うよねぇ)

 まあ、これらは全て一般論というものでしかない。

 自分たちはそこそこ接触回数とやらは多くて、でもまだまだ少ない方。それでも一緒に居る時間は確実に重なっていっていて、何となく上手くやれている。

(一般論は、当てはまらないってことかな?)

 ひねくれている、というよりも、確かに自分たちはどこか『ズレ』た存在だから。

 

 ――パシャン……ッ

 

「あ、終わった?」

 その言葉に対する返事は無く、クルルはゆっくりと湯船に体を沈めた。

 ついさっきまで体と髪を洗っていた少女からは、甘酸っぱい柑橘類の香りがする。前までは桃の香りがするシャンプーを用意していたのだけれど、自分の好みを言わせて貰えるならば、コッチの方が良いみたい。

 甘いけど、すっぱい。

 じっとりと熱い浴室に、爽快感をもたらしてくれる。

 お湯に浸からないよう、頭の後ろでお団子1つにまとめられた金髪は、少し窮屈そうではあったけれど。

「ねえ、クルルはどっちが好き?」

「あ?」

「この間までのシャンプーと、今回のやつ」

「クック……別に、どっちもどっちだろ。お前のは無香料の癖に」

「いや~、お揃いも捨てがたいけどさぁ……」

 色々、そう。色々事情はあるもので。

「ま、俺としてもゴメンだね」

「あ、ちょっとそれは傷つくかも」

「どーだか」

「――でも、俺が選んだシャンプーのにおいがするっていうのも、正直捨てがたかったから、さ」

「出て逝け」

 あ、ちょっと顔が赤くなった?

 物騒な漢字変換をされたような気がしたけど、気にしないで置こう。

(あかいなぁ)

 白い白いクルルの肌が、ほんのり赤い。

 血色の良い肌の色をしているときの彼女は、『可愛らしい』。

 白い肌色をしているときの彼女は、『綺麗』。

 自分の中にしか無い、とても曖昧な基準は、クルルにも教えていない。他の誰かになんて、もちろん言っていない。だから、自分しか知らない基準なのだ。

 取りあえず。

 だから、今のクルルは、かわいい。

 向かい合うように湯船に浸かっているので、自分のすぐ隣にある、こいつの足。足の甲をそっと撫でてみると、浮き上がった血管が、ビクンッ!と脈を、打つ。

 そしてその後、ぎゅむーっ、と思い切り足の甲を抓られてしまった。

「っいって……!」

「クク……当然」

「……マジで痛かったんだけど……」

「あっそ」

「あっそ……ね。まあ、いいけどさ……」

 これ以上は何を言っても受け流されるから、とそこで言葉を切る。

 クルルの、嗤い方はいつも通り。

 でも、弧を描く唇はハッキリと濃い桃色に染まっていて、艶がある。

 

 ――――触りたい。

 

(さわりたい……かも)

 いや、触りたいのだ。

 手でも、唇でも、いい。唇に触れたい。

 このまま、ほんの少し体を湯船から浮かせてしまえば、キスをすることだってできるはず。

 

 ――――ザバッ……!

 

 そんなことを考えている内に、クルルが立ち上がってしまう。

「もう上がるの?」

「『もう』じゃね~よ」

 あつい、と続いた台詞を肯定するように、クルルの皮膚は、赤い。

 そう思うと、一緒にお風呂に入り始めた自分も熱いような気がしてきた。湯船から掬い上げた自分の腕は、真っ赤だ。

 ちなみに。

 自分はエチケットとしてタオルを巻くけど、クルルは巻いていない。見ても減るもんではない、と断言してしまう彼女の根拠になっているらしい、綺麗になだらかな、胸。それにしたって、最近は少し、ほんのささやかにではあるけれど、成長している。

 男のものではない、引き締まった腰の輪郭。

 脚のかたち、その上にある、ものの形。

(――う~ん……)

 彼女の体は、自分にとって、刺激が強すぎる。

(ドロロみたいにはなれないなぁ)

 いつも一緒に風呂に入る仲であるというあの青年は、本当にすごいと思う。

(だってさ、こんなもの見てたら……)

 触りたい。

 抱き締めたい。

 キスしたい。

 触っていたい――――。

「お前が…………」

「――ん?俺が、?」

「……何でもねえよ。先に出る」

 ――ガラガラ……ガシャンッ。

 でこぼこの、向こうの輪郭がぼやけるように作られた扉の向こうで、クルルが動いている。

 タオルで髪を、体を、拭いて。

 服を着る、衣擦れの音が――――。

「――クルル」

「何だよ」

「冷蔵庫のサイダー、俺の分も残しておいてね」

 ほら。

 また、こうやって、いつもの自分たちに戻ろうとする。

「――クック……じゃあ、早くあがってくればいいだろぉ~?」

「ちぇ~」

 いつも通りの会話。

 いつも通りの自分たち。

(これに安心している内は、まだまだってことか)

 取りあえず、お湯から上がれるのはもうしばらく後になりそうだ。

 

 《終わり》

いつも通りにしかなれないんだよ

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