ケロロ軍曹

そして祈るひと

 寒いから、ママ殿がいないから、子どもだから――。

 そういった事情があって、日向家の初詣は世間の波から例年遅れることになる。前回はそんな3人と一緒に出かけたのだが、今年はやはり大晦日に神社に行こう、と隊員たちを招集したのは、当然隊長である自分。

(だって、だれもそんなこと言い出してくんないし?)

 だから、自分がやりたいと思ったら、自分でそれをアピールしなくてはならないのだと思っている。唐突だとか、そんな言葉は誉め言葉だ、きっと。

 タママはすぐにこの提案に乗ってくれて、ドロロは忘れられる前にと参加を自己申告。ギロロは、やっぱり遊んでばかりじゃ駄目だとか言うのかと思ったが、存外すんなりと了承した。

(意外――でも、ないんでありますかね?)

 そういえば、ケロン星にも初詣の習慣はある。

 1年を無事に過ごせるようにという、いわゆる縁起担ぎの行事だから、ギロロの中では遊びとは違った分類をされているのかもしれない。

 『祈り』だとか、『縁起担ぎ』だとか。

 もう自分は、それに縋る気力もそれを求める人々を微笑ましく痛ましく認める優しさも失っているが、ギロロは違うのだろう。神を信じるだとかではない。ただ、幸せになるようにと祈ることを止めない……ギロロの優しさと、強さ。

 単にお祭り騒ぎを逃すまいとしているだけの自分と比べて、何とも真面目腐った考えをしていそうだ。

(……っと、やっべ)

 暗い思考の波にはまりそうになる自分をこっそりと引っ張り上げて、気を取り直し、言葉を続ける。

「ね、クルルもモチロン行くでありますよね?」

「やだね」

「えぇー!!?」

「何で驚くんだよ。……寒ぃのは性にあわねぇんでなぁ?」

 呆れたように嗤うクルルは、話がそれだけならばラボに戻るという。慌ててそれを阻止して、他の3人と共に説得を試み始める。

 クルルは、いろいろと脂肪が無いからか、暑さよりも寒さが嫌いだ。それは知っているが、自分は小隊全員で――強いて言うならば、クルルと一緒に初詣に行きたいという下心がある。そのため、クルルが来てくれないと、当初の目的の7割以上が果たせない。

「寒いならさ、ホッカイロとかマフラーをしていけばいいじゃん?」

「手袋と帽子とイヤーマフラーをしていけば、ずいぶんあったかいですよぉ~?」

 防寒対策を挙げていくが、やはりクルルは一向に首を縦に振る気配は無い。

 やがて、溜息を吐いて寒さ以外の理由を口にした。

「何で人込みにわざわざ行きたがる奴の気が知れねぇ。知りたくもないがなぁ……?」

「えっと……そ、それも醍醐味、じゃだめ……?」

 やはり、フォローにならないドロロ。

 ギロロが「少しは周囲に合わせろ!」と説教じみたことを言っているが、それをするクルルでないことはギロロもよっく理解しているだろう。このままでは本当にクルルが自主的に留守番をする。

(―――っく!か、かくなる上は……!!)

 最終手段、と拳を握り締めて、解く。

「クルル、ちょっと耳かして」

「あ?」

 内緒話をするときみたいに、クルルの耳に自分の唇を寄せると、視界の端っこでギロロとドロロが表情を歪めている。わかってはいるが、ちょっと溜息を吐きたくなった。

「何だよ」

「――クルル、ドロロに着せる女物の着物欲しいって言ってたよね?あれ、侵略予算と我輩の自腹で一着買うっていうので、どう……?」

 ひそひそ声で音量は落としていたにも関わらず、ドロロには聞こえていたらしい。「ひどいよケロロ君!!」と半泣きで言っているみたいだが、こっちだって自腹を切ることになるのだ。それ位見逃して欲しい!

 そして当の交渉相手はというと、少し考えるように口元を片手で覆ってから、そっと手を下ろして、笑った。

「それ、守れよ?」

「りょ、了解であります!!」

「じゃあ、行く」

 ニヤリとした、いーい笑顔。

(あー……絶っっ対、半端じゃなくイイヤツ買いそぉー……)

 文字通りの『高い買い物』にしょっぱい水が溢れてきたが、取り合えずこれで最初の目的は果たされた。

 よし、と、しておこう。うん。

 

 そして、31日の夜中。

 神社は予想通り雑多な人の群れで溢れかえっていた。

 わかってはいたが、町のどこにこんな人数が隠れていたのかと言いたくなるほど道から人間がはみ出している。

 人にもまれて離れそうになり、てんでばらばらにならないようにと近くに居た者同士で手を繋いだ。

 そして。

「見事にはぐれたでありますなぁ~……」

 予想通りはぐれた。

 人波に流されながら、今繋いでいる手は離さないようにと少し握る力を強める。しかしながら、こんな幸運が今年最後に残っているのかと叫びたくなった。

 自分が手を繋いだ相手は、何とクルルで。

 とうの昔に信じることを止めた神に、今なら感謝してもお釣りがくる。

 何とかすこし道から離れて一息吐いて、その辺を眺めた。しかし、やはり他の3人の姿は見当たらない。

「探すかぁ?」

 そう提案したのは、クルルの方。

 しかし、それに対して自分は首を横に振る。

「むしろ、このまま神社に行っちゃった方がいいと思うであります。きっと3人も似たようなことを考えそうだしさ」

 この流れの先にあるのは、目的の神社。自分の言った言葉は、一応筋は通っている。そのためクルルも「了~解」と頷いた。

 きっと、クルルの(面と向かって尋ねたことは無いが、常に自分たちにつけられているらしい)発信機を使えばすぐに合流できたのだろう。しかし、今はどうせならもうしばらく、2人で手を繋いでいたかった。

 自分の気持ちは伝えていないから、別にこれは恋人繋ぎでも何でもないのだが、それでも特別なぬくもりに思える。

 離れないように、自然と体が近くなるのも役得だった。

 そんな感じで神社に着いたのだが、生憎ギロロたちはそこに居ない。

 お参りはやはり全員で一緒にしたいと思う。しかし、ただ突っ立っているだけは退屈だし寒いので、何となくそのまま賽銭箱に近付いていった。

「……あ、クルル。あのさー」

「利子はトイチ(10日で1割増し)だぜぇ~」

「ちょっ!それ高すぎっしょ!?……じゃなくてぇ、おみくじ引かない?」

 指差した先は、賽銭箱の隣に置かれた木箱。蓋がないそれには沢山の紙が入っていて、小さな立て札に『1回10円』と書かれている。

 賽銭箱の隣にわざわざ置くところが、まんま参拝客狙いだ。

(本当、我輩も汚れちゃったよねぇ……)

 フッと、知らず知らず口元に自嘲の笑みが浮かぶ。そのことに気付いて、きゅっと表情筋に力をこめた。こんな小細工をしたところで、この子どもは騙されてくれないのだろうが、あえてそこを突くことはせず、クルルはおみくじを一瞥する。

 即否定では無いのは、少なくとも嫌ではないとういうことだろう。

 勝手にそう解釈して、「たまには奢っちゃうでありますし!」と、さっさと20円を料金箱に放り込む。

 チャリンチャリンッと金物同士がぶつかる音は、ざわめきの中でもしっかり耳に届いた。

 さっそく手を伸ばして、一番左の方にあったおみくじを1枚摘み上げてから振り返る。

「ほら、クルルも」

「どれでもいいぜぇ」

「もー!」

 しかし、ここで押し問答をしても埒が明かない。じゃあ仕方が無いと、上のほうにあるおみくじから1枚を引き上げて、クルルに渡す。意味があるのかは不明だが、受け取ったので良しとしておくことにした。

「……あれ?クルル、おみくじ読まないんでありますか?」

「んー……」

 飛ばないように手の平の上でそっと掴んではいるものの、子どもは一向に結ばれたおみくじを開く気配を見せない。

「ひょっとして、開くのがもったいないとか?」

「べつにぃ?」

「んー……あ、じゃあまず我輩が、おみくじを開くお手本を見せるであります!!」

「いらねーし。そう言う割りに、ずいぶんと手間取ってるみたいデスガ?」

「いや!これは断じて紙の結び目をほどくことができない不器用さに苦しんでいるのではなく、いかに丁寧に紙を破くことなく開けるのかという職人魂!!――お、どれどれ?」

 長々と喋っている間に、一結びされていた白い紙がパラリと解けた。慎重に紙を開いていき、肝心の文面に視線を滑らせる。

「――――末吉。『ちょっと気が緩んで、仕事が上手く進まない』――って……」

「クーックック……よくありそうな文章だなぁ?」

「っわ、我輩だって、一生懸命やってるもん!!今年だって――あとちょっとで終わるでありますが……ちゃんと作戦だって一杯考えたモン!!」

「全部結局失敗だっただろぉ~?」

「そ、それはあくまで、ただの結果であります……」

 物事を成し遂げる際に大切なのは、その過程。

 結構有名なその言葉を言い訳で使う情けない上司をクルルは可笑しそうに眺めていた。

「じゃ、じゃあ、クルルはどうだったんでありますか!?」

 慌てて自分のおみくじから話を逸らすように叫ぶと、自分以上に綺麗に紙を開いて、ぺらりと差し出してくる。

 見れば、一番上には『中吉』と書かれていた。

「……何か、納得いかないであります……」

「日頃の行いの差ってやつ?」

「余計納得できないって!!」

「ならやるよ。コレ引いたの隊長だしなぁ~?」

 ホレ、と何の未練も躊躇いも無く差し出される紙。しかし、それを受け取る代わりに、その折れそうなほどに細い手首をそっと片手で包んで、おみくじを結ぶための柵へと誘う。

「結べば、厄も無くなるって言うし」

 冷え切った手首が、自分の体温でじわじわとあたたかくなっていく。あったかいからなのか、クルルはその手を拒んだりはしなかった。

「でも、」

「?」

「隊長の場合、『占い』よりも『予測』の方がしっくりくるな」

 それ、とおみくじを指す。

「いや!!コレ、あくまで占いだし!?」

 コワイこと言わないでよ!?と叫んだとき、よく知った声が自分たちの名前を呼んだ。

「隊長殿!クルル殿!」

「2人共、ここにいたんですかぁ~」

「お、ようやく到着したでありますか」

 3人は最初から一緒だったのか、そろって神社に到着。

 さっそくお参りの列に並ぼうかとしたところで、ギロロとドロロの視線が、じっと掴んだままの手と手首を見ていることに気が付いた。

 気が付いたのだが、今は敢えて知らん振りをしようと、そのまま歩き出す。

(――今日くらいは、見逃してよ)

 

 せめて、あと少しの『今年』の間は……。

 

 《終わり》

手を合わせて思うのは、願いか、祈りか……。

| | コメント (0)

恋愛歩調

 始まりは、25日の夕方だった。

(今更、かもしれないけど――――)

 手に持った、少女を誘うための口実用のチケットを、そっと圧迫。意を決して、ラボに降りる。

 大きなディスプレイの前で作業をしているクルルは、いつもと同じドロロの天井からの入室を咎めることなく、背を向けたまま用件を促した。

「クルル君、あの……」

 

 12月26日。

 24日にピークを迎えていたクリスマスモードから一変、鏡餅や注連飾りが幅をきかせている街中を並んで歩く。

 時折、手を繋いだり腕を組んだカップルたちとすれ違うことがある度に、ドロロは目のやり場に困っていた。まあ、ついつい視線が隣の恋人に向いたとしても、少女の両手はコートのポケットの中。

 そして、その手には、ドロロがクリスマスプレゼントとして選んだ、二重構造の手袋がはめられている。凝った紋様などを好むクルルは、口では『しかたねぇから、貰ってやる』と言いつつ、ずいぶんとそれを気に入っているらしい。こうして使って貰えることは、やはり嬉しかった。

 でも、手が。手が、物足りなく、寂しい。

 こうして横に並んで歩くことだけで嬉しいのに、少し恥ずかしいくせにもっともっと、とぬくもりを求めて伸びたがる右手。少し力を込めてそれを押し留め、時折言葉を交わしながら歩く。

「もう、すっかりお正月だね」

「クック……アンタが言うとじじくせぇ~」

「えぇ!?」

 冗談なのだろうが、なかなかグサリと刺さる一言。ショックを受けるこちらの反応を愉しんで嗤い、早く行くぞと歩調を早めた。

 歩幅はドロロの方が大きいため、並ぶとなると、クルルは少し歩調を早めなくてはならない。気を遣って、ドロロはなるべくスピードを遅くするのだが、却ってゆっくりすぎてクルルが追い抜きそうになることもしばしばだ。

 追いついて、並んで、追い抜いて、並んで。

 そんなことを繰り返して辿り着いたのは、市立美術館。

 街中よりもゆったりとした時間が流れているのか、入り口には天辺に星が輝くクリスマスツリーが堂々と置かれている。金や銀、光沢のある色紙で作られた輪っかの飾りがにぎやかだが、人の入りはまばらだった。

 しかし、クルルにとっては好都合であったらしい。

 ドロロがチケットを見せて入館すると、1つ1つの絵画や彫刻を茶化しつつ眺めていく。ドロロが立ち止まって見つめていると、作者のネームプレートと作品を見比べて、時折「そーゆーの、アンタ好きなんだな」と呟くこともあった。

 どうやら、黙って作品とネームプレートを見比べているときは、ドロロが好きそうな作品だと予想がついたということらしい。繰り返すことに、そのことに気付いて、

(クルル君の中の僕のイメージは、こういうものを好きでいるんだ)

と思うと、少し面白くなってきた。

 そう思えるくらいの余裕が出来てきた、というべきか。

 周囲の期待に応えること、周囲の望む自分であることに執着していた頃の自分を思い、ほんのり苦い笑みが浮かぶ。これが、この少女と出会って大きく変化した面なのだろうと思うと、感慨深い。

 一方、ではクルルはどういった作品を好むのかと疑問を抱き、気をつけて見つめてみることにした。

 クルルは、ぐるりと一通り見て回っては、別室に移動する。どれか特定のものの前で足を自主的に止めることがない。

(……コレ、ってものは、ないのかな?)

 本を読むとき同様、映像を流していく少女の鑑賞方法における自分との違い。クルルの好みを察することができないのは、残念だった。

 

 今のギャラリーは、ほとんどがクリスマス向けに開催された個展たち。

 昨日は多くの来館者で賑わっていたのかなぁ、といったことをぽつりと呟くと、

「人見に来たわけじゃねぇから、いい」

という答えが返ってきた。

 単に感想を述べただけの独り言同然のそれに反応が返ってくるとは思っていなくて驚いていると、少し拗ねたように眉を顰めてスタスタと早足に離れていってしまう。

「ご、ごめん!」

「知らね」

「ごめんね、あの……!」

 きっと、周りから見れば奇異な光景だったに違いない。

 ようやく並んで歩けるようになったのは、もう外が真っ暗になった頃だった。

 夕食は、いつものように家で小雪殿と3人で食べることになっている。そのため、このまま途中でスーパーに寄っていく。

「何がいい?」

 何を食べたいかとメニューを尋ねると、大抵はカレーライスになるのだけれど、今日は、

「おでん」

というリクエスト。

 どんどんクリスマスの雰囲気から遠ざかるが、確かに雪が降って肌が冷たくなる今日にはピッタリかもしれない。

「じゃあ、大根と人参はあるから、ちくわとはんぺんと……」

「しらたきとこんにゃく、両方」

「うん。あと、お団子ときんちゃくも入れようか」

「具沢山っつーか、ごった煮だなぁ?」

「ふふ、そうだね」

 雪がやわらかく降る帰り道、あたたかいお鍋のことを話しながら、帰る。もう道を歩く人はまばらで、車だけが忙しそうに走っていく。

 並ぶために、お互いがお互いに合わせて歩くことが暗黙の了解になっていることに、胸が温かくなった。

「――――センパイ」

「え?」

 

 ――――――ぎゅうっ

 

 ポケットに入っていたクルルの手が、その一言と同時にドロロの腕を鷲掴む。丁度上腕の辺りを抱きつくように両腕で捕え、ぴったり、としがみついた。

「っク、クルル君!?」

「クーックックック……」

 真っ赤になってワタワタと慌てるドロロに、ほんのりと上気した頬を隠すように、なおさらぎゅっと身体を寄せるクルル。

「早く、」

 早く、と歩き出す。

 しかし、その言葉にドロロの行動が追いつかず、覚束ない足取りでそれでも何とか進む。

 時折すれ違う通行人から視線を向けられているのは分かっているが、しっかり抱き寄せられた腕を、彼女の腕から抜け出させることなどできない。

(と、とに、かく……!)

 震える脚に、力を込めて転ばないようにしようと、自分を叱咤した。

 

 しっかりと隙間を埋めるようにくっついて歩くのは、意外にもバランスが取りやすい。

 脂肪の無い胸では、もしかしたらこの鼓動が直に伝わってしまうのではないかと不安だったのだが、この様子ではドロロにもそんなことを気にする余裕はなさそうだ。

 そして、本当は、気付いていた。

 美術館に向かう道で、恋人同士が手を繋いでいるのをドロロが見つめていたことを。

 あの時は、それでも気恥ずかしさが勝ってわざと知らん振りをしたけれど、今はもう、辺りは暗い。時々すれ違う他人の視線を流せば、昼間よりもすいぶんと手を伸ばしやすかった。

(あー、あったけぇ……)

 もっと、しがみついたらあたたかいだろうか?

 考えて、止めた。

(今は、ここまで――――)

 

 2日遅れのクリスマスが精一杯の自分たちには、このくらいが丁度いいから……。

 

 《終わり》

スローテンポ・ラブ・ストーリー

| | コメント (0)

子どもたちの夜明け

 ずんどろどろどろろぉぉ~ん……

 独特で古風、かつ背筋に悪寒を走らせると定評のある着信音で、クルルはゆっくりと起き上がる。そうは言っても、ただ上体の2分の1を敷布団から腕をつっぱって浮かせただけで、それ以外の部分はまだ毛布の下で暖をとっているのだが。

 にょっと片腕を伸ばして、枕元に無造作に置かれたままの携帯電話をパカリと開けば、『新着メール1件』というお知らせが光っていた。もう一方の携帯通信機とは異なり、このケータイに連絡を寄こせるのは、ごく限られた人物のみ。ボタンを押して文面を見れば、『北城睦実』というメールの送り主からの、外出の誘いである。

『秋葉原の店でセールをやってるから、一緒に行かない?』

 文章は疑問形であるが、睦実はクルルが断るとは思っていないに違いない。メールは経った今届いたのだから、あと十数分後にはラボにやってくるだろう。もちろん、不法侵入で。

(ま、いけどなぁ~)

 外は寒い。が、セールはやはり魅力的だ。

 丁度、趣味で使う部品を買おうと思っていたところではあった。何より、相手が睦実であるということで、自然クルルも乗り気になる。

 めたぐちゃどぐしゃぁぁ~

 基本、誰も押したがらないインターフォンが響き、クルルはモニターも確認せず、入室を促す。

「開いてるぜぇ~」

「おはようございます!」

 入ってきたのは、褐色の肌に金髪という、最近では見かけない女子高生。――の、姿をしたアンゴル族・モアである。いつの間にか、仕事上のパートナーとして共に居ることが多くなったこの少女だけは、毎回こうして律儀にインターフォンを鳴らしてから入室するのだ。

「今日は随分と早起きですね。てゆーか、時間節約?」

 基本的に不規則な生活リズムで過ごすクルルは、昼頃にようやく起きることもざらにある。そのため、モアもいつもは昼頃に来るのだが、そこにはあえて触れずにクルルは別件を口にした。もちろん、別件とは先程の相棒からの誘いのことである。

「今日はちっと出掛けてくるからなぁ」

 そのため、ラボは閉じていくつもりだということを告げると、モアは目を丸くして驚いたように、

「お出かけですか?」

と言葉を反芻した。その驚きは分からなくもないと、クルルは嗤う。普段、自分が滅多に外出しようとしていないという自覚はあるのだ。

 話の流れからして、てっきり次は『どこへ行かれるんですか?』『どなたとお出かけになるんですか?』といった辺りの台詞がくるかと思ったが、モアは何かを思案するような仕草の後、控え目に口を開いた。

「あの……もしご迷惑でなければ、ご一緒してもいいですか……?」

「……隊長はどうした?」

 たしか、昨日のイヴは小隊・日向家合同のクリスマスパーティ、そして今日のクリスマスにケロロはモアの買い物に付き合うという約束をしていた。その話を自分にしたのはモアで、昨日のパーティでケロロとモアが改めて予定を確認していたところをタママが聞いて、ケロロを黒焦げにしていたのだから間違いない。

「おじさまは、昨日とても一生懸命パーティを盛り上げようと頑張って、とてもお疲れなんです」

「叩き起こせば起きるだろ」

「――確かに、本当は……本当は、おじさまとお買い物に行くのは、とても楽しみでしたけど……。でも、だからといっておじさまに無理をして欲しいわけではないんです」

 そう言って、ゆるく弧を描く唇。笑みに見えないことも無いが、やはりその表情は寂しげだった。

 一緒に出かけたいが、疲れて眠っているケロロを起こしたくは無い。

 それは、モアらしい気遣いではあるが、やはりぽっかりとした空虚さを感じるのだろう。

 クルルと一緒に出かけたいというのは、そういった感情に起因するのだろうか。

 ――空白を埋めるために、手を伸ばす。

 代わりの物を求めることを浅ましいという者はいる。クルルの場合は、ケース・バイ・ケースといったところだ。

 代用品は時に必要だが、そればかりの世界の虚しさも知っている。特に人間関係では、そうした『代わり身』は負の要素が強調されやすい。

 しかし、クルルはモアの求めを振り払うことができなかった。

 他の者たちであれば即行で切り捨てることもできたのだが、この少女はどうにも無下に扱えないのだ。今では最も顔を合わせている時間が長いモアに、こう……ずっと落ち込んでいられると、いろいろ面倒そうだと思ってしまう。

(あー……面倒くせぇ……)

 しかし、まあどうせ睦実も断らないだろう。モアと2人きりでは流石に灰になってしまいそうだと思うが、睦実が適当に相手をしていれば問題ない。

 そうした、実は言い訳じみていることを心の中で呟いてから、同行を承諾した。

 すると、モアはパッ!と、クルルが苦手とするきらきらしい笑顔になり、

「じゃあ、おしゃれしあいっこですね!てゆーか、才色兼備?」

と張り切って衣装や小物を見繕い始めたのだ。

 ひくり、と口元が引きつったが、もう遅い。

 そうも最近、後悔ばかりだと思ったとか、何とか……。

 余談だが。

 クルルが、ギロロが作った靴下に入ったプレゼントたちに気付くのはもうしばらく後のことである。

 

 (おまけ)

「クルルって、何だかんだでモアちゃんのこと好きだよね」

「余計な軽口は寿命を縮めるぜぇ?」

「まあまあ。誉めてるんだし、OKでしょ?」

「クック……どーだかなぁ……?」

 やはりモアの同行に快く応じた睦実と軽口を応酬しながら、会計に向かったモアを待つ。

 本日のクルルの服は、モアが少女ものを選び、その上髪型までツインテールにしたために、クルルを男の子だと思うものはいない。睦実と並べば、恐ろしく釣り合いの取れたねたましいほどの美少年美少女のカップルだ。

(うーん、やっぱり目立つよねぇ~)

 クリスマスイブほどではないにせよ、こうして男女で歩くだけでカップルだと思われる年齢に自分もなったのかと、睦実は感慨深く思う。嫌だというわけではないが、すんなりと受け入れられるわけでもない。

(しかも、今の俺の状態って、何だか二股かけてるみたいだし?)

 視線が、痛い。

 気のせいではなく、刺さってくる。

 恋人が欲しいけどいない男達と、男など所詮女ならばだれでもいいのだろうという女性たちの、遠慮の無い非難の視線。

 クルルも当然それに気付いているらしく、他人事だからと楽しげに嗤っている。

(……まあ、いいけどさ)

 今は、楽しく遊べればいい。

 取り合えず、お金を多めに持ってきてよかったという現実だけで、今は十分だ。

 

 《終わり》

約束の重みを知る。 

| | コメント (0)

クリスマス・イヴ

「日頃お世話になっているでありますから!」

 そんな一言で切り出された『小隊と日向家、合同クリスマスパーティであります!』という提案を、冬樹はすぐに了承した。しかし、夏美は少し不満そうに唇を引き結び、ついで溜息をつく。

 奇跡的に、その日は久方ぶりに秋が夜6時に帰ってくるのだ。

 滅多にない家族水入らずのクリスマスイヴを夏美は過ごしたかった。しかし、おそらく秋も冬樹と同様にケロロの申し出を受け入れてしまうのだろう。

(私だけが言ってもね……)

 やはり少し寂しいとは思うが、仕方が無い。結局、夏美もその合同パーティを承諾した。

(……ん?)

 小隊と日向家の、合同パーティ……。

「ちょっとボケガエル」

「何でありますか?」

「あんたたち全員でパーティをするの?クルルもドロロも」

「モチロンであります!今回はドロロも、忘れずに誘ったでありますよ!!」

「……あんたたちのトコって、こっちみたいな習慣無いの?」

「ゲロォ?」

「――何でもないわ。じゃあ、言っとくけど、くれぐれも変なことはしないでよね」

「は!了解であります!!」

 期待してていいでありますよ~!という台詞は聞き流す。

 一応注意はしたものの、正直この青年が言いつけを守るとは思っていない。どうせまたくだらないことをするに決まっている、と諦めている。

 しかし、今はそんなことより、あの少年のような陰湿な科学者と、なにかと忘れられてしまう青い忍者の青年を思い浮かべる。

(……付き合ってる、のよね……?)

 面と向かって尋ねたことはないが、たまたまあの2人が一緒に居るところを見かけたことがある。

 別に、手を繋いでいたとか、口付けをしているというわけでもなかった。ただ、クルルが青年と向き合い、笑っていたのだ。微笑みという柔らかなそれが、視線を奪った。

 元々、あのぐるぐる眼鏡や毒の強い性格で台無しになっているとはいえ、クルルの容貌はいい。好みを越えて通じるようなその顔で、いつもの嫌味が抜けた笑みを浮かべていた。

 『キレイ』という単語は、きっとああいう時のための、とっておきの言葉なのだろう。

 しかし、ふと自分とクルルの目が合ったとき、それは煙のように消えてしまった。そして、その代わりにいつものシニカルな笑みが唇を形作る。

(――アレは、ドロロ専用ってことね……)

 その後、ケロロやギロロと話しているところを見かけても、クルルはあの表情を浮かべてはいなかった。結局、それを再び見かけたのは、ドロロと出かけているところに偶然出くわした時。

 一方、ドロロは分かりやすかった。

 少女のように、映画のヒロインのように頬を染め、恋しいという好意が表れる。

 クルルを見つめる視線は、穏やかな優しさと、それだけに収まらない熱を孕んでいた。

 それが、お互いの間で暗黙の了解のように浸透している。好き合っているのだと、そう見えた。

(てっきり、クルルとドロロは2人きりで過ごすのかと思ったけど……)

 向こうではそういった習慣がないのだろうか。

(……まあ、今は考えても分からないけど)

 取り合えず、まず買い物に行こうと結論付ける。やはり、せっかくのクリスマスイヴなのだから、自分でケーキを焼きたい。合同パーティで、もしかしたら他の誰かが買ってくるのかもしれないが、それはそれ、だ。

 そう考えて、支度をしてそのまま1人、スーパーへと足を向けた。

 

 そして……。

「……で、やっぱりアンタはロクなことしないわ・よ・ねぇ……!」

「ゲロォー!?何ででありますかぁぁー!!?」

 スーパーから戻ってくるなり、いきなり服を着替えさせられた。最近デパートで売っている、肩がスースーするサンタクロースコスチューム。

 プーケはついているものの、妙に胸元が強調される赤い衣装は、少々健全とは言いがたい。何より、隙間から入り込む風が冷たい。

「な、夏美殿……くるしぃ……ぐえ」

「変なことしないでって言ったでしょ!」

「へ、へんなことなんて……い、じゃん、似合ってんだし……皆も着てるんでありますよ……?形は違うけど……」

 そういうケロロも、ちゃっかりもこもこしたトナカイの衣装を身につけている。しかし、夏美の怒りを解くことはできずに、ぎりぎりと締め上げられていく。

「お……お花畑が、見える……」

「日向夏美ぃ~、トドメは俺に寄越しなぁ~」

「――え、何?クルル……?」

 ふっと、一瞬首元を締め上げる力が弱まり、ドサリと緑髪の青年が床に落ちる。

 つぶれた悲鳴が短く響いたことなど、誰も気にしちゃいなかった。

「え、やだ……ちゃんとかわいいじゃない!」

「クック……薄ら寒ぃ台詞をドーモ」

「白いイヤマフも似合ってるし……何よ、スカート似合うわ!どうせなら、時々でもはけばいいのに」

 リビングから姿を現したクルルは、袖がふくらんだサンタクロースワンピースと、白いふかふかのイヤーマフラーを身につけていた。細く長い脚をさらす膝上丈のスカートといい、ハッキリとした赤と白という色合いといい、すべてがクルルの癖のある綺麗さを引き立てている。その辺の雑誌アイドルなど目ではない。

(……あ、なんか……)

 ついさっきまで、激情に荒れ狂うばかりだった心が、静まっていくのを感じた。ケロロとは違い、同性であるクルルの姿を見ると、単純だが『自分だけではない』と思い妥協しやすくなったのかもしれない。

(後で写真とろう)

 一緒に、と思ったところで、かちゃりとリビングのドアが開いた。ひょこりとそこから現れたのは、三角帽子を被った美少女――いや、美青年である。いつもの忍装束ではなく、白いだぼっとしたセーターと濃い茶色の綿パンの私服姿。ドロロが着ると、その服が一級品に見えるから不思議だ。

「クルル殿、夏美殿、部屋の中の方が暖かいでござるから――」

「ああ、今行く」

 当然のように扉を支えたままで入室をすすめられる。自分の家だというのに、くすぐったい恥ずかしさで、なんだかちょっと入りづらかった。

 流石に人数分の椅子は入らなかったらしく、リビングのソファーをよかして、テーブルをもう1つ並べ、カーペットの上に直接座る形式らしい。

 ギロロとタママは、それぞれトナカイの格好、冬樹とモアは雪だるまをイメージしたような白い服と帽子とマフラー。暖房のきいた室内では暑そうだが、本人たちはいたって平気そうだ。

 何となく、そのままの流れでクルルと隣同士に座る。やっぱり、新鮮だ。

 それぞれが2人ずつ、何となく別れて、何となく話をしている。そんな雰囲気に身を置くことになって、ふと、少し気になったことがさらりと口から出てきた。

「ねえ、クルル」

「何だよ」

「ドロロって、クルルと2人で話しているときは確か普通の話し方なのに、他の時は『ござる』口調なのね」

「ああ。トラウマモードの時も戻るぜぇ」

 てっきり流されると思っていたことに、ちゃんとした答えが返された。そのことに多少驚いて、そしてちょっと周囲の様子を窺う。他の面々がそれぞれの会話に夢中になっていることを確かめてから、思い切って、気になっていたことを疑問として投げかけてみようと思ったのだ。

 これは、このパーティという、一種の非日常に浮かれてのことなのだろうか?

「クルルは――」

 

 ――――ドロロと、恋人同士なの?

 

 ずっと、ただ『わかっている』つもりだったことを改めて言葉にして吐き出すと、急に重みが増す。てっきり動揺するかと思っていたのだが、クルルは至極アッサリとそれを肯定した。

 恥じらいは無く、当然のように頷く。

 むしろ、こちらの方が隠れたくなるくらいの潔さだった。

「訊いておいて、そっちが赤くなってりゃ世話ねえなぁ?」

「……アンタがあっさりしすぎなのよ……っ!」

「クーックックック……ま、向こうに訊けば慌てふためく反応が返ってくるがなぁ……?」

「……」

 ニンマリと愉快そうに唇を歪める様を見て、心の中であの青年に同情する。

 この少女の恋人であることは、容易な覚悟ではやっていけないだろうから。

「――じゃあ、よかったの?今日を2人きりで過ごさなくて」

「コッチじゃそういうパターンが多いんだろうが、ケロン星じゃあマイナーだぜぇ~」

「ふうーん……」

 しかし、今は地球にいるのではないかとも思ったが、そこまでは言わなかった。丁度その時、復活したケロロがリビングに入ってきたからである。

 シャンパン(もちろんノンアルコールのサイダー)の入ったグラスを1人1つ持って、

「それでは、本日のクリスマスイヴを祝って――乾杯!!」

という声と共に、頭上へと掲げた。

 両隣と、カチンッとグラスを鳴らし、コクンッと炭酸を口に含む。

 甘さと、二酸化炭素の冷涼感が広がって、パーティの幕開けを告げた。

 丁度間もなく、家の前でバイクがとまった。

「お、ママ殿が帰ってきたでありますな!」

 ケロロが立ち上がるよりも早く、夏美は玄関に向かう。

 扉が開き、「ただいまー!」という疲れを感じさせない母親の声に、満面の笑みで応える為に。

「お帰りなさい、ママ!」

 3人でのクリスマスパーティも好きだけど、今日はいつもと違う、気に掛けていたことが1つ分かったし、何だかとても楽しくて、嬉しいから。

 だから、今日は大勢で騒ごう。

 今ならそう、こころから思えるから――――。

 

 《終わり》

小さなパーティもいいけれど。

| | コメント (0)

先取り

「1日早いけど、メリークリスマス!クルル君」

「……」

 そんな台詞と共にやってきたのは、ガルル小隊所属プルル看護長である。そして、彼女が両腕に抱えて持ってきたのは、4つのプレゼント。先程の一言から察するに、おそらくクリスマスプレゼントなのだろう。

「隊長とゾルル兵長と大佐と私から」

 開けてみて、と嬉しそうに促すプルルに対し、生憎クルルは抗う術を持たない。邪気無く押しの強いタイプの女性相手となると、何故か無下にあしらう事も他の男のように完膚なきまでに嫌味でつぶすことも出来なくなるのだ。

 まあ、幸いなことに一度に4つの箱や袋を渡されることはなく、プルルは「まず、どれがいい?」とクルルに尋ねた。しかし、今回クルルは自主的な動機がないため、『これがいい』などという希望もあるはずも無く。

 結局、少々の沈黙の後、

「……別にどれでも……」

という、やる気の無い返事が紡ぎ出された。

 それに対してプルルは不快そうな表情もせずに、抱えていたプレゼントの1つを右手に持って、「ハイ!」と差し出す。一応それを受け取って、十字架結びのリボンを解き、バリバリと包装紙を破いて中から出た箱をパカリと開く。すると、一対のガラスのペアグラスが現れた。

 透明で、模様は無いが、代わりに側面のカットがシンプルで潔い印象を与えている。

「誰からのプレゼントかわかる?」

「ガルルだろぉ~」

 迷うことの無い即答。

「あたり!でも、どうしてわかったの?」

「クック……べつにぃ~?」

 不思議そうに問いかけるプルルに、ようやく唇がにやりと歪んだ。

 何故わかったのかという理由は、言ってしまえば単なる付き合いの長さというやつだろう。

 養父である大佐の直属の部下にあたるガルルとは、何だかんだで知り合ってからだいぶ年月は経っている。その間、お互いの好みといったものが自然と伝わりあっているというのが、クルルとガルルの間柄。

 甘さの無い、直線で構成されたグラスの輪郭は、クルルの嗜好にあっている。ペアで寄こしたのは、大方『恋人』との食器として、といった辺りの理由だろう。ガルルは『あの青年』とよくそうしたことを話すために、度々ベタなことをさせたがる。言葉では直接言ってこないが、あくまで主張してくるガルルのやり口に、クルルの唇が苦笑を浮かべた。

 そうした様子をプルルは穏やかに見守っていたのだが、ぱちりと目が合うと、

「じゃあ、次はこれ!」

と水色地のドット柄の紙袋を差し出してくる。銀色のシールで封がされた口を開くと、中には白いふわふわのイヤーマフラーが入っていた。

 色こそ違うが、かつてクルルはイヤーマフラーを愛用していた時期がある。まだ、本当に子どもだった頃につけていたそれは、もう手元に残っていない。感傷に浸るつもりは無いが、手で触れた白いイヤーマフラーは、記憶の中の物よりもずいぶん手触りに磨きがかかっていた。

「私からのプレゼントなんだけど……ちょっとつけて貰ってもいい?」

 似合うと思って買ってきたのだが、確かに実際身に着けてみるまでこうしたものの相性は分からないという。別に強制ではないのだろうが、やはり断りづらい。まあ、クルルも別に身につけること自体が嫌というわけでは無かったため、耳を覆うヘッドフォンを外し、そのイヤーマフラーをぼすんとつけた。

 ヘッドフォントは異なる、くすぐるような柔らかさに、一瞬身体が震える。しかし、すぐにそれはなじんだ。だた、それでもついつい久しぶりの感触が気になって、手がすぐに伸び、白い毛を弄ぶ。

 そうしたクルルの仕草を含め、じっと見つめていたプルルは、「うん、」と一度頷いて、晴れやかに笑う。

「とっても可愛いわ!」

 嬉しそうに、誇らしげに、臆面も無く断言する。

 あまりにも言われなれない一言に、サッとクルルの頬に赤味が差した。

「かわいい!!すごく、可愛い!!」

「――っ!」

 拷問だった、と後にクルルが語る。プルルの高い良く通る声で、何度も何度も、繰り返された言葉だ。

 

 《終わり》

それだけで、神経が奪われる経験。

| | コメント (0)

靴下の願い事

 ケロロ小隊の年齢事情を分析すると。

 まず、クルルとタママは、結構歳が近い。しかし、幼馴染トリオとクルルの間は、結構歳が離れている。

 そして、ケロロ、ギロロ、ドロロの3人は同い年の幼馴染であるために、3人はクルルとタママを『年下組』として一括りに見ることが多い。そして、実は何かと2人のことを構いたがり可愛がりたがる傾向があったりするのだ。

 そして、本日12月22日。

 ケロロとドロロとタママ、ギロロとクルルの2つのグループは、デパートにやってきて探し物をしていた。が、今はそこにいるのはギロロとクルルの2人だけで、他の3人はずいぶんと前におもちゃ売り場に行ってしまっている。

 うんうんと唸っているギロロとは対照的に、クルルは呆れたように少し距離をとってその背中を眺めていたが、ついに一言口を開いた。

「いい加減、テキトーに決めればいいだろうが」

「……そういうなら、お前も選べ!さっきから俺しか見ていないだろうが!!」

「あんたらがクリスマス用に靴下作れとかぬかしたんだろ」

「お前用になるんだぞ?」

「じゃあ、取り合えずおっさんが今持ってるやつは願い下げだぜぇ……」

「――――っ貴様ぁ……!」

「オッサン、そろそろ空気読めよ。すっげぇ浮いてるぜぇ?アンタも、俺も」

 特にオッサンは老け顔なんだからよ、という嫌味にギロロの眉間の皺が3本増える。しかし、やはりそれは事実なので根本を否定することは出来なかった。

 今、2人が居るのは手芸コーナーの布売り場である。筋骨隆々の強面(かつ老け顔)のギロロには明らかに似合わない場所で、更に不似合いな少女用の布を彼は物色しているのだ。

 色も柄も、長年培われてきた価値観としては、『少女』らしいといわれそうなファンシーなもの。これは、クルルのクリスマスプレゼント入れの靴下を作るための布候補なのだが、生憎当のクルルはあまりお気に召さないようである。しかし自分では選ぶ気が無いらしく、傍観者に徹しているクルルに、ギロロは文句を言いつつ、手で次々と他の布を掴んでは眺め、問いかけることを繰り返す。『テキトーに選ぶ』という選択肢は、ギロロの中には無いらしい。

(何でそこまで意地になるのかねぇ……)

 クルルのそうした心境は言葉になることは無く、ただ重い溜息に消えた。

 

 今回の事の起こりは、本日の午前中。

 急にケロロが召集をかけ、どうせくだらない用件だろうと思いつつも、一応会議室に向かうと、何故かドロロと呼び出した張本人しか居なかった。他の2人はどうしたのかと尋ねると、2人には後で話すのだという。きらきらと目に星を散らす幼馴染に嫌な予感を覚えつつ、意を決して内容を話すように促した。

『タママとクルルに、まずでっかい靴下をプレゼントするであります!』

『――まず?』

『そ。で、我輩たち3人からそれぞれサンタクロース代わりに、その靴下にプレゼントを入れるってわけ!ど?』

 いつもの如く――というか、クリスマスが近付くにつれて更に頻度が増したケロロの突拍子も無い提案。しかし、今回のそれには、ギロロもドロロもすぐに乗った。

 他愛も無いことで、地球侵略には露ほどにも関係ないことだが、2人の後輩にプレゼントを渡すということに今では年上としての喜びを感じるほどになっていたのだ。

『3人分となると、絶対とにかく大ーっきな靴下が必要!故に、デパートにも売ってないくらいの巨大な靴下を、本日と明日にかけて作る!そのために、これより我が小隊は、デパートにて靴下を作るための布を買いにいくであります!!』

 滅多にお目にかかれない統率力を発揮したケロロの指示によって、ギロロがクルルの靴下を、ケロロとドロロがタママの靴下を作ることになった。

 ケロロたちはとうの昔にタママの靴下用の布を決めていったのだが、年下の、まして少女用の物となるとどういった色や柄にすべきなのか、確固たる基準を持たないギロロは、なかなか布を決めることができないのだ。そして妥協もできず、あーでもないこーでもないを繰り返し、クルルも一応それに付き合ってここに居る。

 ウサギ柄、クマ柄、花柄、水玉、クリスマス用のツリーやサンタ柄……。

 手当たり次第、とにかく一通りを見ていくギロロの目は、あくまで真剣そのもの。

 そして時折、「これはどうだ?」と尋ねるギロロに対し、クルルは何だかんだで返事を返すようになった。

 クルルとしては、どうも本当にあからさまな女向け、という柄や色は嫌らしい。

 残念ではあるが、クルルの靴下を作るための布なのだから無理強いをするのでは意味が無い。そこで、男女どちらでも通用しそうなものに路線を変更して選び始めたギロロの背中に、ぽつりと言葉が降ってきた。

「サンタクロースは、その存在を信じ、かつ『良い子』のところにプレゼントを届ける――ってことになってたな、確か」

「……?ああ」

 独り言の形式に近い問い掛け、及び念押し。意図を掴めないギロロに構わず、クルルは言葉を続ける。

「少なくとも、俺はそんなものは信じてねえ。『いいこと』なんざ、する気もないんですけど?」

 

 ――だから、プレゼントも靴下も、自分には似合わない。

 

 決してはっきりと聞こえるとは言いがたい音量だった。明日が祝日ということもあり、ざわざわと別の売り場の声が、会話が流れてくる中で、しかしギロロの耳はそんな子どもの言葉をしっかりと拾い集める。

「……そういったことは、問題ないだろう?」

「?」

 当然のようにそう答えるギロロも、そんなことを当然のように言われたクルルも首を傾げた。一度、布から視線を外し、上半身をひねって後ろのクルルに視線を向ける。

「俺たちはサンタクロースではないのだからな」

 大真面目に言ったその一言に、何故か数秒後、クルルは大笑いしたのだった。

 

 《終わり》

無償の愛、なんていう?

| | コメント (0)

冬至閑話

 12月21日、冬至。かぼちゃを食べてゆずを浮かべた風呂に入る日。少々マイナーで、ケロン星には伝わっていない風習に、やはり1番食いつきが良かったのはケロロだった。基地にある大浴場をゆず風呂にして、「温泉に入る前に、卓球大会であります!」という提案をして、急遽セッティングされた卓球台で、白熱した戦いが行われている。

 現在の対戦カードは、ケロロVS夏美。

 どちらも意地になって、これは当分決着がつきそうに無い。

「クルル先輩、隣失礼しまぁ~す!」

「んー」

 いい加減ただ見ているだけにも飽きたタママは、同じく試合から心が離れているクルルの隣に座り込んだ。そこから一応試合を眺めるが、やはり点数は追い抜いたり追い抜かれたりの繰り返し。つまり、こう着状態。

(あ~あ、ですぅ……)

 つまらない。

 せめてもう1台卓球台があれば、暇つぶしにもなたのだろうが……。しかし、適当な相手がいないことに気付いて、すぐにその考えは打ち消した。そのため、タママは別の観賞対象に意識を向けるコトにする。

 当然、その対象はクルルだ。

 クルルは、実はカレー風呂に限らず結構な風呂好きである。今回、ケロロが当日になって言い出した『冬至は日本の真心であります作戦!』(相変わらずセンスがC級ですぅ……)に対し、意外と乗り気で応じたくらいだ。一重に、ゆず風呂目当てで。

「いい加減、温泉に入りたいですぅ……」

「クーックック……」

 そのことには触れないが、おそらくクルルも同意見だろう。

(我慢はお肌の大敵ですよね?)

 幸い、今は自分達以外は試合に熱中しているのだから、放っておいてもいい気がする。

「クルル先輩、水着持ってきてますよね?もう一緒に入っちゃいましょう!!」

 本日は、本来男湯と女湯に分かれていた温泉を1つにまとめて、巨大なゆず風呂を作ったのである。なので、当然男女混浴。一応、夏美とモア、それにクルルは水着を持ってきているのだが、どうせならタオルを巻いただけで入りたかったのだろう。ケロロと夏美で、男女どちらが先にゆず風呂に入るかと言い合いになったのが、今現在の卓球勝負のきっかけだった。

 それをあっさり無視してのタママの発言に、クルルはあっさりと乗ってくる。元々、そういった恥じらいの意識が薄く、タママもタママで強く意識することがないため、気にしていない。しかし、先輩連中がいろいろうるさいし、それなりの『常識』はあるつもりなので、クルルには水着は着てもらうことになった。

 今年の流行だったセパレートタイプの水着は、ウエストの引き締まったクルルには合っているらしい。今までのタイプだと、胸が余って腰がそれ以上に余るのだ。

(変な意味じゃないですけどぉ……なんか、ちょっとイケナイ気持ちになるですぅ!)

 それが、楽しい。

 

 そして、そのまま『漁夫の利』でちゃっかりと1番風呂に入ったタママとクルルは、つかず離れずの距離で、それぞれゆず風呂に浸かっている。ほわほわっと鼻腔をくすぐる柑橘系の香りも楽しみながら、時折湯をすくったり、浮かび漂うゆずを戯れに掬い上げたりしていた。

「クルル先輩、きもちぃですねぇ!」

「あー、ま~な」

「毎日、こうだったらいいのにぃ~」

「くーっくっくっく……カレー風呂と交互だったら考えてやってもいいぜぇ……?」

「あー……それはちょっと嫌……いえ、何でもないですぅ~!」

 愛想笑いで無理に誤魔化して、ふっと、視線が水着に隠れていないクルルの肌に向く。

 いつもは青いと思うほどに白いその肌が、湯に浸かって血色良く染まる様子を眺めるのが、タママは好きだ。まだ地球に来る以前、戦場のベースキャンプで一緒に風呂に入ったときにも、見ていた肌。恋情の絡みは無いが、見ていてただ綺麗でいいなあ……と思う、そんな感じ。

 淡い金色で、腰よりも下にくるほどに長い髪を後頭部で1つのお団子にまとめ、うなじが見えるようになるのも、艶やかでいい。目の保養という言葉の意味も分かる気がした。

 しかし、流石にじっと凝視しすぎたのか、クルルはくるりとタママに向き合った。含みのある笑みを浮かべ、みせる。隠された背中が惜しいと思うが、正面は正面で見ごたえがあった。

 背中が、綺麗で、前も綺麗なんて、いい。

(――あ、)

 何故か、今更思い至った。

(今日は21日で、冬至で……もうすぐクリスマスイブですぅ……)

 そういえば、小隊でパーティをするとケロロは言っていたけれど、そのパーティにクルルは参加するのだろうか?

(でも、モモッチは、クリスマスイブは恋人と過ごす代表的なイベントだって、言ってだですぅ……)

 冬樹を家に誘うのだと意気込んでいた少女の言葉を思い出して、タママはうーん……と悩みこむ。ケロン星では、クリスマスと言えば家族で過ごすもので、恋人と過ごす者もいるが、それはどちらかといえばマイナーで、特に重視されていなかった。

「……あの、」

「何だよ」

「クルル先輩、クリスマスイブは、その――――」

 思い切って単刀直入に尋ねてみたところ、どうも『恋人との聖夜』という過ごし方をするつもりはない、というような言葉が返される。場所が変わったからそこの習慣にのっとるつもりは、彼女にはないらしい。

(……なんか、らしい、ですぅ)

 『あの人』には悪いと思うけど、小隊メンバーがそろうパーティであることは、やはり嬉しかった。

 この人が、独占されないことは、妙に安心した。

 

 《終わり》

要領よく、共犯。

| | コメント (0)

スピーディー!

 現在、12月20日午前2時13分。日付変更を起きたままで越えたケロロとギロロは、血の気の失せた顔を動かし、死んだ魚同然の目を時計に何とか向けた。

「……あー、お星様が見える……で、あります……」

「……ここは、地下、だろうが……」

 そういう意味ではないのだろが、死にかけても突っ込みを忘れないその根性は賞賛に値するかもしれない。

 もともと、今のこの現状の原因はケロロにある。

 ケロロが、本部からの宿題から逃げ回り、それを溜め込んだのだ。

 既に『昨日』になってしまった19日の夜、『1人じゃ絶っっ対終わらないであります!!』と泣きついて来た幼馴染。出来ることなら、ただ『馬鹿モン!!』と怒鳴って追い返したかったが、ケロロが宿題を出せないことで迷惑を被るのは、隊員である自分たちである。そのことを知っているため、そして何だかんだで人がいいギロロは、こうして文句を言いつつも慣れないデスクワークに勤しんでいるという経緯なのだ。

 しかし、本当に終わりが見えない。

 宿題が今更勝手に増えると言うことはないはずだというのに、一向に減っている気がしないのはどういうことか。

 いい加減不平を言う気力も無くなってきたころ、「ああっ!!」と、急に大声を上げてケロロが立ち上がった。

「っ何事だ!?」

「うかつだったであります!!やっべー!!マジやっべー!!」

 咄嗟に武器を手に立ち上がったギロロの言葉を聞いているのかいないのか。ただ「やばい」と繰り返す隊長の姿に、とうとう頭が崩壊したのかと訝しげに少し距離をとる。しかし、ただ突っ立っていては当初の目的(宿題を終わらせる)が達成できないため、嫌な予感を押し殺してギロロは口を開く。

「おい、ケロロ……何が『やばい』んだ……?」

 すると、ようやくギロロの存在を思い出したかのように黒に近い緑の瞳に、ギロロの赤い髪が映った。

「ギロロ」

「……」

「我輩は、我輩としたことが……重大かつ、危うく取り返しの付かない過ちを犯すところであったであります……」

「――――?」

 やけにもったいぶった物言いに対し、『むしろいつもミスばかりでアホなことばかりをやっていると思うのだが……』と心の中で言葉を返す。しかし、どうせ言ったところで認めやしないだろうと分かりきっているため、取り合えず言葉の続きを待つことにした。

 そして、ケロロはあくまで大真面目に言葉を続ける。

「そう……それは……」

「……何だ?」

「我輩、まだクリスマスツリー飾って無いじゃん!!?」

 ずばん!

 仁王立ちで言い切った。

 真剣な表情で、大真面目に。

「……言いたいことはそれだけか……?」

 ガシャン、と。冷たい銃口がケロロの額に押し付けられたのは、むしろ当然というものだろう――――。

 

 そして、ようやく地下からは拝めない空が明るくなってきた頃。いつものように何の脈絡も無く、紙袋を持ったケロロがクルルズラボにやって来た。

「クールールー、起きてる~?」

「寝てるぜぇ~」

「いや、起きてるじゃん!?」

「クック……朝っぱらからテンション高けぇなぁ?」

「あははー。つか、我輩今徹夜明けなんでありますよねぇ~?だから、何か朝って感じがあんましないの!」

「あっそ」

「反応冷た!?」

「クーックック……つーか、俺も徹夜だったんでねぇ……どうせアンタの用件なんざくだらねぇのが前提条件なんだから、さっさと出てってくれませんかぁ~」

「うっわ!!容赦ねえ!?」

 我輩だって頑張ってるのよ!というケロロの訴えは、目障りな目覚まし時計のアラームよりもたちが悪い。スイッチはどこだ、という要領で、クルルはケロロを黙らせて追い出すための言葉やラボの装置を探し始めた。

 そんなことはお構い無しに、もうケロロは勝手に自分の用件を切り出す。

「クルル、突然でありますが、今日は何月何日でしょーか!」

「ついにそこまでボケたのかぃ?」

「ちょ……もー!真面目に答えてちょーだいでありますよ!?」

「クック(あー、うるせぇ)……12月20日だろぉ……で?」

 何も日にちだけを聞きたかったわけじゃないんだろうと言えば、ようやく構って貰えたと隠しもせずに満面の笑みを浮かべるケロロ。

「そうであります!!ちょっと遅くなっちゃったでありますが、クリスマスツリーを飾ろうと思ってさ~。コレ、クルルのやつ!!」

 コンっと紙袋から出してクルルの机に置いたのは、確かにクリスマスツリーだった。

 とはいっても、植物ではない。金属で枝と幹を作り、その枝先をフック状に曲げてそこにガラス玉を引っ掛けた、透明なクリスマスツリーだ。

 キラキラと光を吸い込んで、不規則に輝くガラスならではのツリー。

「ど?」

「……勝手に置くなよ」

「まあまあ」

「自分の部屋に飾ればいいだろぉ?」

「あ、もう我輩の部屋には飾ったであります!それに、コレはクルルのだって言ったでありましょう?」

 ここに合うと思って、と悪びれずに笑うケロロに、クルルは溜息で答えた。

 確かに、金属の壁で囲われたラボには、このツリーは違和感無く溶け込んでいる。

「今年は、こういうツリーが結構デパートとかで売られててさ。綺麗だなーって思って」

 いいもんでありましょう?という念押しに、クルルは呆れたような調子で、

「あんた、ホント、こーゆーの好きだよな……」

と呟いた。

(あー、持って帰れって言わないっつーことは……まあ、気に入ったってことでありますかね?)

 もしそうなら、今朝、大急ぎでデパートに走っていった甲斐があるというものだ。

 白くて傷のある指で、透明なガラス玉を突く様子を微笑ましく見守りながら、ケロロはしばし、暖かな満足感にひたっていた。

 ――宿題の最終チェックを押し付けられたギロロが、激怒してやってくるまでの、わずかな時間、に……。

 

 《終わり》

急いで、急いで、お祭り騒ぎの始まりだ!!

| | コメント (0)

優しいおしまいについて

『幸せになって欲しいんです』

 臆面も無く、他の者だったら見惚れる程の様になる笑みを浮かべて、そんなことを言う。

 すぐに頭を撫でたがり、伸びてくるその手を何度振り払っただろうか。

『ガキ扱いすんな』

 これではまるで、本当に子どものようだと自分自身、わかっていた。それでも口から出てくる言葉に、相手は苦笑しつつ、『すみません』と応じる。それでも、決して男は子ども扱いすることを今も止めない。

 子どもは守られることに、罪悪感を覚えない。

 男は、何度も手を伸ばす。そして、情のこもった言葉を1つ1つ紡ぎ出した。

『幸せになることに、権利はありません。それは、義務ですから』

 幸せをときに諦めなければならならいことも義務であるというならば、幸せになることも義務だと言う。どんな理屈かと呆れても、そこは譲らなかった。

『クルル』

 名を呼ぶだけで、罪悪感を、厭わしさを、むずがゆい喜びまでもたらす。

 男は――ガルルは、ただ『幸せ』を願った。何故か、自分のそれではなく、こちらの『幸せ』を。

 そんなモノは知らないなどと言えるほど、生憎自分は不幸ばかりの人生ではなくて、知っているからこそ、それを手放せない。しかし、この手にどれ程の幸福とやらが収まるのかをそれとなくはかるようになっていたから、いつもそれを超えないようにとは考える癖がついていた。

 念のために、多くなりすぎないように。

 それでも、幸せをそれなりには手に留めようとはしていた。

 ただ……。

(――なんで、他人の『幸せ』を願う……)

 もう、自分のことを『幸せ』になれと願う物好きは、いなくなったと思っていた。親が子に願うように、漠然としたそれを祈る奴を、自分はとうの昔に喪っている。

 しかし、それはどうやら『絶滅危惧』の範囲に収まっていたらしい。ガルルやゾルル、養父など、片手の指の数くらいの存在は、確かに残っている。

『クルル、幸せになることを放棄してはいけないよ』

 どれだけ誰かを殺しても、どれだけ言葉で傷つけても、『幸せ』を求めることを止めてはならないと、繰り返す。

 それは、作り話の『祈り』を思わせた。

 

 あの頃、まさか他者を特別に好ましく思う日が来るなんて、考えたことはなかった。

 あれから、妙な男に誘われて不恰好な小隊に入り、それなりに面白いと思える連中の中に、ガルルの弟がいただけ。

 落ち着いた紫とは違う、鮮烈な赤。

(からかいやすくて、超が付く馬鹿で、へたれで、武器マニアで――)

 自分とは異なる、決して相容れない価値観を持つ機動歩兵。人を、生き物を殺すしかない武器を……自分が作る、殺傷能力が高いものも含め、それらを大切に扱う様が印象に残った。

 自分が忘れて擦り切れさせた罪悪感や嫌悪感を背負っていく、不器用な愚かさ。

 何よりも他者を愛したがるその心の活力に、惹かれていく。自分には無いもの、自分から遠い存在を、目で追った。

 それは、果たして『恋』と呼べるものなのだろうか?

 ギロロが見ているのは、地球人の少女だ。それは、クルルも周囲も知っている。そして、あの多くの異性に(同性にも)好かれる少女を思う男が、自分のような性質の存在に靡くことは、まず無い。

 そもそも、これが『恋』なのかすら、クルルには判別がつかなかった。

 しかし、芽生えた取り合えず『好意』ではあるのだろうこの気持ちを、『恋情』だとかんぐる緑と青の男達は、何故かあの日のガルルと似た瞳で、歪む笑みを浮かべる。

 泣いてしまいたい、と言いたげに――――。

 

 夏美を追いかける男を見て、妙な重りが心をつぶし、沈める。

 そんな日が来たならば、もしかしたらコレを『恋』だと呼べたかもしれない。

 ――――だが。

 

 『幸せ』は、遠ざかる気がする。

 

 ギロロへの想いが『恋』だといえるようにして、それを選んだとき、それは間違いなく片思いになる。それを取ってしまえば、自分は自分の『幸せ』を願った物好きをないがしろにしてしまう。

 片思いをして、その痛みに酔えるような、自分ではない。

 ただ、気持ちを持て余すだけだろう。

 だから。

 

 『幸せ』らしいそれを、得ようと思う。

 きっと今の自分の『幸せ』は、恋愛という所にはないのだろう。

 だから、あの男を思う自分ではない、自分を選ぶ。

 自分に『幸せになれ』などと言った、物好きたちを選ぶ自分を。

 もしかしたら、ギロロをたった1人にできたかもしれない。しかし、そこに自分が満たされるものが、今は無いだろうから。

(さよなら、とでも思うべきなのかねぇ……?)

 

 恋よりもまず、あたたかな満たされる幸福を。

 

 《終わり》

それも選べる一つの幸せ。

| | コメント (0)

未成熟な雰囲気

 ケロロの部屋に、コタツが置かれる季節になった。

 現在部屋の主である緑の隊長は不在で、そのコタツに足を入れて暖を取っているのは、遊びに来たタママとクルルの2人だけ。

 コタツはゆうに4人は入ることが可能だろうが、2人ならばどちらも足を伸ばすことができる。だから、足が痺れるなんてことはないし、この季節に丁度イイちょっと熱いくらいの温度を感じていられるというものだ。

「はあ~……やっぱり冬はコタツでみかんでですぅ~!」

 クルル先輩もそう思いませんかぁ~?という台詞に、クルルはやる気の無い生返事。

 ちょっとばかりムッとしたタママは、ふと思いついた悪戯を実行することにした。

「えい!」

 ぴとっ、と足の裏を相手の足の裏にくっつける。しかし、予想に反して悲鳴は聞こえず、むしろクルルは小馬鹿にするように視線を向けた。

(……あれ~?)

 おかしいですぅ……と首を傾げるタママは、何となくそのままぺとぺと、ぷにぷにと更に足を密着させるように動かすことを繰り返す。その時、少しだけ相手の足のほうが大きい気がして、ちょっと複雑な気持ちがした。

 ぷにぷに、むにむに。

「……何だよ」

 流石に気になるのか、ようやくクルルが重い口を開く。やる気の無い問い掛けではあるものの、一応答えが返されたことに気を良くした少年は、にっこー、と笑って言葉を紡ぎ出した。

「クルル先輩の足、思ったよりもおおきいなぁー、って思いまして。あ、あと、先輩もちゃんと土踏まずがあるんですねぇ~」

「クッ……まあ、お前の方がチビだしなぁ~?俺よりも足が小さいってことは、それ以上伸びねえってことかもな」

 土踏まずの件はスルー。

 タママもそこまで土踏まずに拘っていたわけではないのか、特にそこを混ぜっ返すことはなく、むしろ「でも、僕はまだ成長期ですぅ!!」と背丈の方を気にしている。実は、後輩であるタルルにあっさり身長を抜かされてしまったことを密かに気にしているのだ。そして、そのことを知っているからでこそ、クルルはわざとらしく「どうだかな」と口元を歪めて嗤った。

(うう~……く、くやしいけど、口じゃクルル先輩にはかなわないしぃ……うぅぅぅー……)

 からかわれていることは分かっている。

 口では敵わないことも、身に沁みて知っている。

 しかし、やられっぱなしでは、やはりくやしい。

 ぶすりとふくれっつらのまま、どうやって反撃をしようかと考えていたタママの思考を、ふとクルルの言葉が遮った。

「つーか、隊長がいねぇんだから、西澤桃華の屋敷に居た方が快適なんじゃねえのかぁ」

「あー、確かにそうですけどぉ……」

 そう。

 タママが居候している西澤家は、世界屈指の大金持ちで、その屋敷内の環境については非の打ちどころが無い。

 長い廊下も大きな部屋も、冬の肌を刺す寒さとは無縁である。

「でも、だからモモッチの家にはコタツがないんですぅ」

「……ああ」

「何か、冬にコタツが無いと物足りない気がしませんかぁ?」

「そーかよ」

「そーです!」

 力強く頷く少年兵に、なんともテキトーな反応を返す参謀。そして、確かにあの洋風屋敷にはコタツというモノは似合わないだろうし、必要も無いだろうと改めて納得する。最適温度に保たれた部屋では、コタツなど求めやしないのだから。

 そこで、再び沈黙が訪れた。

 タママは、カゴの中からみかんを取ってモソモソと食べ、クルルは持ち込んだ雑誌をめくって流し読む。

 別に、沈黙をお互い苦には感じていなかった。

 そして、こうして2人きりで居ることは、珍しくない状況だ。

 そんな中、タママは口を開き、何の脈絡も無いことを口にした。

「クルル先輩、好きな人いますか?」

「……はあ?」

 何を言い出すのか、と視線を雑誌の紙面から外したクルルの驚きを余所に、タママは食べ終わったみかんの皮をよかしつつ言葉を続ける。

「ギロロ先輩と恋人になりたいと思いますか?」

「とりあえず脳みそ捨てて来い。何言ってやがんだよ、ガキ」

「恋人に、なりたいですか?」

 あくまで、そう問うてくる。

 先程、身長のことをからかったことへの、子どもなりの反撃のつもりだろうか?

 その割には、その目に宿る意思はまっすぐで。

 答え辛いものでもないと判断したクルルは、まあ暇だからと一応それに答えを返すことにしたらしい。

「オッサンはオッサンだろぉ~。んな対象じゃねぇよ」

「じゃあ、ドロロ先輩は?」

「からかい甲斐のあるオモチャ」

「むっつんは?」

「睦実のことなら、マブダチってやつ~?」

「念のために、軍曹さんはどうですかぁ~?」

「お前がすきすき言ってる相手だろ。俺にとっては隊長」

「ふぅ~ん……」

 神妙な顔つきで黙り込むタママ。

 ようやく矢継ぎ早でわけのわからない質問が終わったかと、再びクルルは何事も無かったかのように雑誌に視線を戻す。

「じゃあ、僕と結婚しましょう」

 

 ――――音が、止まった。

 

 ただ、クルルは下手な動揺など微塵も見せることなく、ただ顔を上げてタママを見つめた。

 観察するような視線の冷ややかさに対し、タママもあくまで平静である。

「冗談とかじゃ、無いですよ?」

「……へぇ~?」

「あ、何かやっぱり本気にしてませんね!?」

「クーックック……ガキの言葉なんざそんなモンだろ。気でも狂ったかぁ?」

「正気ですぅ~」

「ハイハイ、ワカリマシタ」

「あー!!全っ然、信じてないじゃないですかぁー!!!」

 くだらないことには付き合っていられないと言わんばかりに読書を再開するクルル。その手の雑誌を奪おうと身を乗り出して伸ばした少年の手は、あっさりとかわされ、空を切る。力なく落ちた手を視線が追い、タママは顔を伏せた。

「―――クルルせんぱぁい……」

「……」

「言っておきますけど……本気ですよぉ?」

 これは、本当にプロポーズだと言い募る子どもに、今度こそクルルは呆れたという溜息を吐く。

「……せめて、理由くらい聞いて下さい」

 それから、ちゃんと返事をして欲しいのだと言葉を重ねるが、返事は無かった。そこで、タママはもう勝手に、たった今の発言に至るまでの考えを話すことにしたらしい。クルルは止めなかった。

「僕は、確かに軍曹さんが好きです。でも、この小隊が……ここが、居心地が良くて、大好きなんですぅ……」

「……」

「でも、軍曹さんとギロロ先輩とドロロ先輩は、この小隊の仲間だっていうこと以外に『幼馴染』っていう肩書きがくっついていますけど、僕とクルル先輩には……他の、自分以外の4人と繋がるソレが、今は無いんです」

 『仲間』であるという、今の肩書き自体に不満は無い。ただ、これから先、いつか今のケロロ小隊が解散になり、各自がそれぞれ別の小隊に身を置くことも十分有り得る未来なのだ。

 ケロン軍という、巨大な組織においては仲間である。

 しかし、その間の距離は、とても遠くなっていく。

「そうなった時に、僕はちゃんとした、別のつながりが欲しいんですぅ……」

「じゃあ、隊長を捕まえておけよ」

「それだけじゃ意味がないんですぅ!!だって、クルル先輩は別にギロロ先輩ともドロロ先輩とも、恋人になる気が無いじゃないですかぁ!?」

 自分は、ずっとケロロを諦めない。

 離れても、追いかけて追いかけて、走っていく。

 それは、自分の心ひとつでできることだが、クルルのことはそうはいかない。

 クルルが、小隊の誰かと『仲間』以外のつながりを持たなければ、だめなのだ。

 そうでなければ、タママの願いは叶わない。

「だから、その結論に辿り着いたとでも?」

「そうです」

 首を縦に振って、改めてタママの黒水晶の双眸がクルルを映す。

「僕は、ワガママなんですぅ……我慢なんて似合わないし、失いたくないものは、自分で掴みたい。だから――もし、クルル先輩がギロロ先輩たちと恋人にならないなら、僕と結婚してください」

 

 まっすぐに、求める眼差し。

 

 どこまでも幼い独占欲に忠実な告白に、クルルはいっそ感嘆さえ覚えた。

 確かに、このまま5人が繋がっていようとする時には、おそらくいつか真っ先に離れていくであろう自分を繋ぎ止めようと言うそれは、効率的だ。間違いではない。

 他の3人が耳にすれば、激怒するか大慌てしそうな方法ではあるが、やれないことはないだろう。

 この子どもの、こうした打算的な思考は嫌いではない。

 恋だの愛だのといったものを実感したことはないし、結婚に必ずしもそれが存在するとは、生憎これっぽっちも信じていないクルルだ。そのため、タママのそのやり方自体には嫌悪も無い。

 しかし。

「パス」

「――――――え?」

「クックック……そんなチンケなプロポーズじゃあ、その気にならねえよ。死んで出直しなぁ~」

「ええ!?それヒドイですよぅ!!?」

「クーックックック……!」

 あまりにも軽くあしらわれたタママは、流石にショックだったのか半泣きで喚いているが、クルルは涼しい顔でそれらをスルーした。

 クルルとて、タママのことを一応気に入っている。しかし、だからといって結婚という面倒なコトをしてもいいかと言えば、話は別だ。

 様々な書類や、指輪や挙式。

 万が一、結婚するとなれば、お祭り好きな周囲がやりたいとごねそうな結婚にまつわる1つ1つのことが、とにかく面倒くさい。

 そんな理由で、アッサリとタママによる一世一代の告白は、一度幕を閉じた。

 

 後日。

 実は天井裏でその話を聞いてしまっていたらしいドロロによって、このことはケロロとギロロの耳にも入り、ちょっとした騒ぎになったことを追記しておく。

 そうしてまた、何故かいつもと変わらない日常的日々が重なっていくのだ。

 

 《終わり》

『花籠ロージー』べま様に慎んで捧げる、相互記念リクエスト小説です。べま様限定でお持ち帰りを歓迎いたします。(もちろん、返品・スルー有りです…)

べま様、リクエストをしてくださり、本当にありがとうございました!

| | コメント (1)

ソウゾウセカイ

 その日、クルルがギロロのテントに持ち込んだのは、1冊のスケッチブックと筆記用具。

 いつものノートパソコンは現在ラボで留守番中だと言う。武器を磨くギロロの斜向かいにぺちょんと座り込むと、大きなページを1枚めくった。

 カッターで芯の部分を長く削り出した鉛筆は、ギロロの目には新鮮に映る。黒いそれがシャッシャッ、と軽快なリズムで紙の上を滑っていくのをついつい見つめてしまう。

「――何を描いているんだ?」

 好奇心に負けてそう尋ねれば、

「オッサンの間抜け面」

などという、茶化すための言葉が返される。すぐに、「嘘だけどな」などと小ばかにしたようにニヤリと口元を歪める、いつものパターン。しかし、やはり腹は何度でもたつもので、ミシリ……と武器がきしんだ。

「お前という奴は……っ!」

「嫌な奴?」

「――っ」

「じゃあ、」

 ――――そんな奴と、一緒に居るのは、誰?

 そう言って、先程までとは少し性質の異なる笑みを浮かべる子ども。

 一瞬、頭の中から単語も文法もすべてが吹き飛んで、ぽかん、と。それこそ間抜けに口を開けたまま、固まってしまう。

 そんなこちらの反応に満足したのか、声に出して嗤った後、

「本当は何を描いているのか、気になる?」

と、首を傾げ、上目遣いで訊いてきた。

 性別がはっきりしないということは置いておいて、とにかく見た目はイイ奴だ。

 そんな容姿をここぞとばかりに利用する、その小技がどんどん増えている気がする。そのことに感心するべきか、素直に腹を立てて良いものか……。

 ――――なぁーお……。

「……」

クルルの傍でくつろいでいる猫の鳴き声が響く。ぱちりと目が合えば、猫はもう一度なぁーお、と鳴いた。

 まるで、『意地を張るな』と言いたげに――。

(……俺の思い込みだが……)

 猫が、そんなことを思っているかはともかく、意地ばかり張っていても意味が無い気がしてくる。

「――気には、なるな……」

「じゃ、見るかい?」

 この提案は予想外で、本当に驚いた。

 どういった風の吹き回しかと思ったが、クルルは手を止めてスケッチブックを差し出してくる。思わず受け取って、少し躊躇いがちにページに手をかけ、パラリと1枚、捲って見た。

 

 描かれていたのは、見たことの無い風景。

 

 砂漠のような、荒廃した大地。その所々に岩があり、空は夜なのか黒く塗りつぶされている。

 画面の奥には抉られた崖が置かれ、よく見るとその上空に三日月がぷかりと浮かんでいた。

「……コレは……?」

「今度作る訓練シュミレーションの設定」

 ちなみに別ヴァージョンもある、と言われて別のページを見れば、趣の異なる景観がいくつも描写されている。

 海、宇宙空間、密林、平原、建物の内部――。

 ずいぶんと沢山、様々な種類の場面設定に、思わず感嘆の声が零れそうだ。

「多いな」

「あ?――そりゃあな……」

「――意外と、絵は上手いんだな」

「どういう意味だよ」

「いや……」

 以前、たまたまメモ書きがされた紙を見た時、『古代の未解読象形文字?』と思ってしまったことは、黙っておいた方が良さそうだと判断。

 クルルは、じろりとそんなギロロを睨みつけたが、今は放っておくことにしたらしく、スケッチブックをひったくった。そして、また新しいページに絵を描き始める。

(――出来上がりが、楽しみだ……)

 きっと、シュミレーションを1番に使わせてくれるだろうから。

 

 《終わり》

こっそりと、『花籠ロージー』べま様へ、一方的な相互記念小説として捧げさせていただきます。(ずうずうしいにもほどがある)

べま様、もしよろしければ、こちらも受け取ってくださると幸いです。もちろんスルーOKです。

| | コメント (1)

おいしいしあわせ、皆みんな

「失礼します」

 こうして、本来地球に居るはずのないガルルがクルルのラボを訪れたのには、ちゃあんと理由がある。

 その理由とは、ガルルの部下であり、何だかんだで長い付き合いとなるゾルルのメンテナンスの付き添い。ちなみに、何故れっきとした成人済み男性であるゾルルにわざわざ付き添っているかと言うと……。

「大丈夫か?ゾルル」

「……」

 返答無し。

 そして、クルルはそんな青年を気に掛けることなく手際よく工具を片付けている。

(今回も相当、『厳重注意』を受けたようだな……)

 毎度メンテナンスの度に、「日々の義体の手入れをしろ」と再三言われているにも関わらず、多忙などの理由で、ついついそれを怠ってしまいがちなゾルル。そしていつも、こっぴどく荒々しい整備を受けては、その後しばらくいつも、ぐったりと実験台に突っ伏している。

 声も出せずにいるのだから、これはしばらく動けないだろう。その様子を見て、ガルルはチラリと腕時計を見ると、にこりと笑みを浮かべたままクルルに向かって口を開いた。

「クルル、一緒に買い物に行きませんか?」

「はぁ?」

「久しぶりに3人で夕食をとりましょう。材料を買ってきて……台所をお借りしても?」

 疑問形だが、それはガルルの中では既に『了承済み』となった出来事のようだ。ゾルルはしばらく動けないから休ませて欲しいと言葉が続き、クルルは呆れたように溜息を吐きつつもそれを承諾した。

 ガルルが言い出したら、よほどのことが無い限り引かないと言うことをクルルは今までの付き合いでしっかりと理解しているのだ。

(ま、ど~せ暇だしなぁ……?)

 少し言い訳めいた台詞は、一応心の中で呟いておく。

 そうして2人が出かける支度を始めたとき、ぐったりとしているゾルルのだみ声が割って入ってきた。

「俺、モ……行ク……!」

「アホか」

 必死さがひしひしと伝わる台詞をクルルは容赦なく一蹴する。ろくに腕1本動かせないくせに、それでもゾルルはあくまでついて行くと言い張った。

「絶対……行、ク……ッ!」

 まるで、駄々っ子だ。

 そんな青年に、心底呆れたような溜息を吐き出す子ども。コートを既に羽負っていたガルルはそんな光景に苦笑して、再びコートを脱いで手に持ち直した。

「では、30分後に出発しましょうか」

「――しょうがねぇ~なぁ……」

「――――っ!」

 何だかんだで、クルルの表情も柔らかい。

 こうして3人は、地球で初めて一緒にスーパーへ出かけることになったのだ。

 

 日向家から徒歩で向かったスーパーの食品売り場。

 流石にガルルとゾルルは軍服から私服に着替え、クルルも白衣は脱いできたものの、3人は大層目立っていた。ガルルは正に長身の紳士といって差し支えない美青年であるし、ゾルルは半身のことを抜きにしても元々長身で、クルルたちと居ると不思議といつものような存在感が薄いと言うことが無い。クルルは相変わらず中性的な体型と顔立ち、それもくせのある綺麗さで、人目を引く。

 クルルは普段、あまりスーパーに来ることは無いのだが、たまに食料の買出しに出かける時は小隊のメンバーがくっついてくるので、やはり毎回相当目立つ。そのため、この視線にはなんだか少し慣れてしまったようだ。

 ガルルは悪意の無い好奇心のみの視線は警戒対象外として対処しなれているため、ガゴを持って極普通の態度を保っている。しかし、やはりゾルルは感覚が敏感な分人目が気になるらしく、ちらりと時折周囲の様子を窺っている。

 野菜コーナーの前で立ち止まり、ガルルは今晩のメニューを決めましょうかと切り出した。

「カレー」

「……好、キ…ダナ……」

「クックック……もち」

 クルルにとってのメニューは、カレーかそれ以外らしい。細かいんだか大雑把なのか悩む分類基準だ。しかしまあ、ガルルのゾルルもカレーは結構好きなので、あっさり今晩はカレーライスに決まった。

 にんじん、たまねぎ、じゃがいも――――。

「かぼちゃも入れますか?」

 芋いもしくなるが、かぼちゃを入れるとカレーがいい具合に甘くなるのだ。これにはゾルルが即答した。クルルも異論は無く、そのままかぼちゃもカゴの中へ。

 終始そんな要領で、肉やカレールーもカゴに入れ、「米はある」ということで、そのままレジを通った。

 何だかんだで、具沢山のカレーになりそうだ。

 ガルルとゾルルで野菜たちを持ち、手ぶらなクルルはそんな2人の間に挟まれて歩くことに慣れている自分に苦笑する。ここは地球だと言うのに、両手の指で足りる位のケロン星で3人で出かけた時と同じだ、と。

 面倒くさい手続きをして、ガルルとゾルルと出かけるのは、本当のところ嫌いではなかったと思う。そんなことをあの時は言わなかったし、これからの口にするつもりは無い。

「ク、ルル……」

「――――何の真似だ」

 ゾルルは、荷物を持っていない右手をクルルに差し出していた。その意図に、聡い子どもはすぐに気が付いたのだが、敢えてそんな言葉を投げ、半眼で男を見る。

「手をつなぎたいみたいですね」

「どさくさに紛れて便乗したつもりかぁ?」

 いつの間にか右隣にいるガルルも左手をクルルに伸ばしてくる。それを嘲笑を浮かべつつ、ジトリと見遣るクルル。そして、手を1度つかまれれば振りほどくのが困難であると経験から知っているため、そのまま両手をポケットに突っ込もうとした。

 しかし、流石と言うべきかそれよりも素早く両隣からそれぞれの手をがしりっ!とつかまれてしまう。両手をつかまれたクルルは、無駄と思いつつそれを振り回してみたが、やはり解けない。痛みは無いのに、がっしりとつかんで離れない。

「おい……」

「せっかくですし、ね?」

 なんだか、昔のようだとゾルルが呟く。

 まだあの頃は、クルルは本当に幼くて一緒に歩くとどうしても2人よりも体力を消耗してしまうため、時にはガルルとゾルルが交代で抱き上げて行くこともあった。

 今はもう、子どもの背も伸びて、大人びた内面に少しずつ体が追いついていく。すらりと痩せたままで成長した少女の姿は、3人が関わり合ってきた年月の長さだ。

「離せ」

 歩きにくい、と続く言葉に、しかし2人は首を縦に振ることはない。何だかんだで最後にはクルルが受け入れてくれることを知っているから。

 もう何度目になるのか分からない溜息を吐いて、やはりその手はつながれたままだった。

 

 ラボに設置した簡易キッチンは、大勢で使うことが増えたため、最近少し広くなったばかりだ。3人で並んで手分けをして野菜を刻み、ソレを炒め、米をとぐことだって余裕で出来る。

 あとは煮込むだけとなったところで、急にラボの扉が開いた。

「クルルー!対戦ゲームやろ!!」

「ケロロ!!貴様は先に仕事をせんか!!」

「僕も一緒にゲームやりたいですぅ~!」

「クルル君、その、リンゴが採れたから、よければ――――あ、」

「「「……」」」

 そろいにもそろってやって来たケロロ小隊の4人に対し、ガルルは苦笑、クルルは皮肉の混じった乾いた笑み、ゾルルはどことなく不機嫌そうな表情を浮かべる。

「あ、カレーであります!!」

 目ざとく、コトコトと鳴る鍋に目をつけたケロロ。

 次に、この隊長の口から出てくる言葉が何なのか、容易に想像がつくというものだ。

「お米をもう少し炊きましょうか」

「クーックック……面倒くせぇ」

「……」

 

 こうして、『3人で』するはずだった食事は、あれよあれよと言う間に日向家3人と小雪にもふるまう流れになり、大勢でのパーティのようなことになった。

 ガルルは年長者らしく、その様子を秋と共に見守っている。

 クルルは、こうしたパターンに慣れたこともあってか、口ほどには嫌がっていないようだった。

 しかし、ゾルルだけはムスリと不機嫌を隠そうとはせず、すっかり拗ねてしまっている。久しぶりの懐かしさを一気にぶち壊しにされたとでも思っているのか、カレーを食べている間も、眉間に深い皺が刻まれたままだ。

 そんな青年の、硬いパサついた灰色髪をにゅっ、と横から伸びた白いかさついた手が、撫でるというには少々乱暴な手つきでわしゃぐしゃとかき混ぜた。

「……クル、ル……?」

「カレー食ってる時に、シケた面してんじゃねぇ~よ」

 わしゃわしゃぐしゃぐしゃ、と動く手の平。その感触が、小さかったはずの温もりが、今では少し大きくなっている。そうして、ようやくゾルルはほんのちょっとだけ気分が浮上していったらしい。

 ゆるんだ表情を浮かべると、カレーはようやく美味しく感じられた。

(今、度コ、ソ……3人、デ……)

 ゾルルの思いを隠して、晩餐は続いていく――――。

 

 《終わり》

雪無様の素敵なサイト『闇風』が先日一周年を迎えられたということで、身の程知らずにも「ガルルとゾルルとクルルが3人でお買い物」という小説を書かせていただきました!

雪無様、一周年おめでとうございます!!

これからますます寒さが厳しくなる季節ですので、お体をご自愛下さい。

そして、こちらの小説は雪無様限定でお持ち帰りを歓迎いたします。誤字脱字、返品、スルー可です……。

それでは。

| | コメント (0)

レッツ・スタディ!

「明日は雷雨だなぁ~」

「降水確率80%だって、さっきテレビでやってたけど?」

 だから、例え明日雨が降って尋常ではない位雷が落ちたとしても、それは誰か――この場合は俺――の奇行によるものではないんじゃないの?とほのめかせておく。それに対し、泊まりでアパートに遊びに来たクルルは笑うだけで、こちらの考えを肯定してはくれなかった。

(まあ、そりゃあ、『らしく』ないと思うケド……)

 今、居間に置いてある机の上には、教科書とノート、プリントの類が山積みになっている。特にプリントに至っては、ふっと息を吹きかけるだけでズシャシャシャシャー!!と派手な雪崩を起こすんじゃなかろうかという、見ごたえのある高さだ。

「もうちょっと小分けにした方がよさそうだなー」

「クックック……で?ついに留年か退学でもほのめかされたかぁ?」

「……本当、はっきり言うね」

「クーックックック!」

 他人事だと嗤う声は、上機嫌。まあ、そんなものだろう。

「―――クルル」

「あ?」

「ちょっと、独り言、言ってもいい?」

「勝手にしろよ」

「うん、アリガト」

 独り言、と言っておいて、こちらの口調は『聞いてくれること』を前提にしたような語り口調。ずるいこの性格は今更だし、この相棒はそれを気にする性質ではないから、それこそ勝手に、ここに至るまでの経緯を話し始めた。

 

 高校は基本、授業の出席が重視される。

 義務教育期間と違い、単位制となるため、とにかく授業に出ていなければ進級、卒業が危うくなる。ちなみに、いかにテストでいい点数を取ろうが、そこはおまけしてはくれない。

 自分の場合、まだかろうじて出席日数は足りているものの、あまりにも欠席や早退、遅刻が目立つと常々言われ続けてきた。そして、今回ついに補修課題がこうして大量に出されることとなったわけである。

「温情、らしいんだけどね」

 担任は、嫌味と言うよりむしろからかうようなゆるい調子で、『まあ、北城ならこれくらい難しくはねえだろ?とりあえずガンバ』と軽く言ってくれたが。

 もう、これはすでに――。

(問題の難易度の、話じゃないよなあ……)

 もう、溜息なんて出てこない。精々、力の無い乾いた苦笑を浮かべる程度だ。

「……って訳で、ゴメンな?」

 せっかく、久しぶりに泊まりに来てくれたのにさ、と言うと、「別にぃー」という曖昧な返答。何となく、怒っているとかそういった感じでは無さそう?な、そんな印象を受ける。

「クルル?」

「さっさとやれよ」

「えー……」

 そうは言っても、ただ机に向かっただけでやりたくもないものをサクサクと片付けられるほど、自分は大人ではない。

 だが、クルルはいつものようにどこからとも無く愛用のパソコンを転送させて床に置く。机のスペースを空けようかとも思ったが、この少女はむしろ床に寝そべる体勢が楽なのだということを思い出した。

(目が悪くなりそうだけど、分かっててやってるんだろうし)

 無性に『悪いこと』をしたいという気持ちには、身に覚えがある。そういったものは、反対されると余計に魅力を増し、かえって『悪いこと』をしたくなるものだ。

 だから言わない。

 しかし、パソコンを立ち上げるまではいつも通りだったが、クルルはゲームをするわけでもネットサーフィンに興じるわけでもなく、作成途中と思しきレポートをパッ、と画面上に開いた。

「……クルルも宿題?」

 あ、クルルの場合は『任務』とか『報告』というのだろうか?

 こちらの質問に対し、クルルは軽く肩を竦めて薄く嘲笑を浮かべてみせる。

「隊長が泣きついてきたんでなぁー……?」

「ああ、ナルホド」

 その場面が容易に想像できてしまう辺り、どれだけそれが頻繁に見かけられるか……押して知るべしってね。

(―――あれ?もしかして、コレ……)

「睦実」

「ん?」

「『おそろい』なんて、気色悪いこと言うんじゃねえぜぇ?」

 ニヤリ、と。見慣れた笑顔と、先読みされた言葉に、今度こそ笑った。

「言いたかったのになぁ~」

「クーックック……」

 ああ、でも――。

 こうして、2人で同じ部屋で、種類こそ違うけれど宿題をするっていうシチュエーションが、おかしい。

 よくある場面。漫画も小説も、世間話にだってのぼるソレ。

(まさか、『勉強会』なんてする日が来るとはねぇ~……?)

 これで、一息吐くときに飲み物とお菓子。

(でもって、晩御飯にカレーライスを一緒に作って食べれば、完璧じゃん?)

 

 《終わり》

それは、遠かったはずのひととき。

| | コメント (0)

移ろうは、罪か、

 ずっと、初恋で生きていけるのだと思っていた。

 そう呟く声は、自分では受け入れ難い程に情けなくみっともないものだと思うのに、生まれた頃からの付き合いである実兄は、そんな自分を嘲ることなく、笑って諭す。

「心変わりと浮気心の区別は、確かに難しいな」

 けれど、その2つを混ぜてはいけない、とガルルは言う。

 それは、未だに自分は獲得できずにいる、年長者としての穏やかさがずしりと篭っていた。あたたかな優しさが、知らず知らず、胸の痛みを生み出すけれど、今はそれに構うつもりは毛頭無い。

「……なら、それはどこが違うのだ……?」

 せめて、1つだけでも教えて欲しいと願う自分の、なんと我侭なことだろう?

 しかし、やはりガルルは、そういった指摘をせずに言葉を紡いでいく。

「恋愛は、自分が成長することで変わるものだ。多くの他者に出会い、言葉を交わし、共に行為することで『人を見る目』は養われていく。それは、生きていく限り、ずっと続いていくものだ」

「……」

「しかし、結婚や交際というものは、その流れをゆるやかに、時にそこで留めること。……人を見る目の一面を変えないようにと抗う、『人の強さ』とでも言うべきか」

 恋は盲目、と先人が残した言葉がある。

 恋をしたが最後、その熱に浮かれている間は、相手の短所を短所として見なくなるのだ。好きでありたいと願う心が、欠点と言う好意を壊すかもしれない不穏因子から視線を逸らす。

 それを諫めるために用いられる格言だが、今もなお、『恋は盲目』に生きる者は多い。それを愚かだと言ってしまうには、あまりにもその数が多く、あまりにもその者たちはひたむきすぎた。

「私見だが、『心変わり』とは、明確な恋愛対象者の変わり目、区切りのようなものをどこか1点で示すもの。『浮気心』とは、恋心の向かう相手を曖昧にし続け、たった1人の相手に寄り添うことを止めた者のことを言うのではないだろうか?」

 川の流れの方向が変わるか、枝分かれをするか。

 例えられて、妙に納得する自分がいる。

「――ギロロ」

「……」

「お前のそれを責める者は、『唯1人を除けば』存在しないはずだ」

「……その1人が問題なんだ……」

 浮かぶのは、事ある毎に自分の想いをからかい、気まぐれのように手を貸してくれた、金色の髪の少女。

 自分が、夏美に対する恋心の終わりを決めてから、気付いたことがある。

 少女が、少女自身さえだまし続け、手を差し伸べてくれていたことを。

 ――少女が、こんな自分を好きで居てくれたことを……。

 何も、知らなかった。知らずに自分は――きっと、周囲から見れば、自分は好意の上に胡坐をかいているように見えただろう。幼馴染たちが守っていた少女の、ようやくアイツが知りかけていた思いを台無しにしたのは、自分だった。

 

 1つの恋に自分で終わりを決めて見つけたのは、芽をちぎられた恋だった。

 

 向けられていた思いに気付かず、日光も水もやらず、それでも必死で生きようとしていた芽を、ずいぶんと昔に、自分はちぎってしまっていたのだ。

 何も思わず、残酷に。

(――今更、だと……)

 わかっている。

 あまりにも、これは勝手だと分かっている。

 叶わなかった恋を終わらせて、自分に好意を向けてくれた相手にすがってしまった、なんて……。

(……好き、などと……言えるわけが、ない)

 地球人の少女への恋は、もう叶わない。

 そして、今想う少女への恋心は、もう伝えることさえ叶わないかもしれない。

 全部が自業自得で、すべてがどうしようもなく浅はかで――――。

(それでも――――せめて、言葉にできたなら……)

 救われるのだろうか。

 何かがいい方向へ、変わるのだろうか。

 ――そんな、夢物語を見ることを、どうか……。

(――――ゆるしては、くれないか……?)

 

 《終わり》

叶ってくれと祈り辛い、2度目以降の恋へ。

 

| | コメント (0)

酔い本音

 しとしとと降り続ける雨を、どこかのぼんやりした光が照らす。

 日差し避けの屋根は今は雨避けの軒となり、縁側にはチューハイや日本酒の缶とビンがずらりと並べられ、ドロロとクルルは2人きりで酒盛りをしていた。

 元々、ケロロが「久しぶりに小隊皆で宴会をするであります!」と脈絡無く言い出したのがキッカケで、ついさっきまでケロロの部屋ではどんちゃん騒ぎが行われていたのである。

 モアは、お酒を飲むと手に負えない酔っ払いになるためにお酌をする方にまわっていて、ケロロがモアにお酒を注いで貰っている光景を見たタママが嫉妬し、暴れたときにバッシャーン!とすっとんだお酒をものの見事に引っ被ったギロロが気絶。

 まあ、そんなベタなコントのようなシーンを眺めつつ、各自のペースでちびちびと飲んでいたクルルと珍しく忘れられなかったドロロは、そのままドロロたちの家で、こうして酒をあおっている。

 月ではなく、星でもなく。雨を肴に飲む酒は、これはこれで悪くは無い。

 しかし、程好いほてりを感じつつも、クルルは少々現状を『つまらない』と不満に思っていた。

「クルル君、大丈夫?」

「――ああ」

「でも、顔が少し赤いよ……?もうそろそろ……」

 そう言って酒を片付けようとするドロロを制し、クルルは「ん!」と手近にあった日本酒のビンを突きつける。そして、そのまま傾けられるビンの口に、ドロロは慌てて少しコップを傾け、それを受ける。随分荒っぽいお酌だ。

 そして、少し困ったように眉を下げつつ、じとりと『観察』される前で、素直に何杯目か分からない盃をあおる。1口1口、しっかりとかみ締めるように飲み干していくドロロの様子は、いつもと変わらない。

(……つまんねぇ~……)

 顔色さえ変わらないのだから、やってられない。

(全然酔わねぇ~よなぁ)

 クルルは今まで、ドロロが酩酊したところを見たことが無い。そして、それがどうにも気に食わないのだ。

 アサシンとして訓練を受けているドロロが、薬物やアルコールに対する耐性を持っていることは、クルルも知っている。それでも毎回――こうして酒を飲む度に、自分の方が先に酔ってしまうのが、面白くない。

(ドロロ先輩が酔っ払ったら、どーなるのかねぇ……?)

 そんな好奇心9割と、妙な悔しさ1割。

 わざとアルコール度数の高い酒を注いでいくが、あくまでけろりとしたまま、ゆっくりとコップを空にしてしまう相手に、半ば意地になっていく。

 とうとう2人の間のお酒が無くなった頃、酒に強いはずのクルルは、肌寒さなどものともせずに、こてんと寝転がってしまった――。

 

 アルコールが回って眠ってしまったクルルは、小さく丸まっていて、微かに呼吸を繰り返す。警戒を解く者の傍では、こうして寝てしまうと滅多に目を覚まさないのだ。おまけに今回は、少しずつとはいえ、相当な量のアルコールを摂取したのだから、もしかしたら明日の昼頃まで起きないかもしれない。

(……でも、最近はあまり眠れなかったみたいだし……)

 とりあえず、そっと軽すぎる少女を抱き上げて家に入る。

 酒であたためられたクルルの体温は、まるで子どものようだ。しかし、血色がよくなった肌は、年少のものには無いであろう、艶のようなものが浮かんでいる。

 クルルは、悪酔いをしない。

 酔いが回ると眠気が強くなるらしく、深く深く意識を沈め、簡単には目を覚まさない。そうなるまでにはかなりの酒の量が必要になるようだが、地球に来る前には、何度かそういう状態になったことがあった。

 半分、睡眠薬の代わりにもしていたらしい。

 そんなことを思いながら、すでに敷いてあった布団にそっと少女を下ろす。すると、離れていくドロロの熱を逃がすまいと、赤味の差した手がドロロの服の裾をきゅっと握り締めた。無意識の行動だが――だからでこそ、妙に嬉しくなってしまう……。

「……おやすみ」

 長い、長い、秋の夜。

 今日は『おあずけ』となった触れ合いの隙間を埋めるように、そっと、眠るクルルの紙を一房掬い、口付ける。

「いい夢を……」

 酔いに任せて、衝動的に、ということは、出来ない。そんなドロロに飲まれたお酒は、たった1度のキスのための勇気になった。

 

 《終わり》

お酒のよさは、いろいろ。

ひっそりと、『闇風』雪無様への2000hit達成記念という(あまりにもずうずうしい)捧げ物……。

もしよろしければ、貰ってくださると幸いです。

 

| | コメント (0)

甘苦い夢

「タダの風邪だな」

 ノートパソコンの表示を一応見て、クルルはそう断言した。『タダの』という修飾語に、心配して部屋を訪れた冬樹たちも安心したらしい。

「でも、よかったね軍曹。ひどい病気とかじゃなくて」

「全く……本当、アンタって何だかんだでよく倒れるわよね」

「ゲロォ~……」

「まあ、今回の奴は感染力が弱いから安心しなぁ~。とりあえず、2、3日大人しくくたばっていりゃあ直るだろ」

 『治る』と言わない辺りが、なんともクルルらしいというか。

 ベットの中のケロロは、体を蝕むだるさを感じながらそんなクルルの言葉に耳を傾ける。そこには相変わらず、彼女らしい毒が含まれてはいたものの、前回の宇宙喉風邪の時と違い、熱で起き上がれないことを多少なりとも気に掛けてくれたのか……声に、棘が無い。

(……あーあ、であります……)

 今日は、本当なら家事もお休みで、ガンプラを作ったりゲームをしたりしたかったのに……。

 熱のせいでぼやける思考をつらつらと働かせながら、ぼんやりと天井を見る。

「じゃあ、軍曹、あったかくしてしっかり休んでね」

「何かあったら、上に居るから。少ししたら様子も見に来るわ」

 同年齢の子どもよりも、そうした事態に慣れているのだろう。向けられた気遣いには、きちんと感謝の言葉を述べ、扉の向こうに見えなくなる背中を見送った。

「―――クルル?」

 そうして姉弟が出て行った後、クルルはパソコンを閉じておもむろに立ち上がる。

 どうしたの?と視線で問いかければ、いつものような皮肉めいた笑みで、「何て面してやがるんだよ、隊長」なんて言われてしまった。

 鏡が無いし、自分の顔の筋肉の動きがよく分からない今、自分がどんな表情をしているのかはわからないけれど、きっと相当情けなさそうなことになってるんだろうなあ……と、ぼんやり思う。でも、どうしたらいいのかなんて分からなくて――。

「イイコにしてろよ?」

「……イイコにしてたら、早く戻って来てくれるでありますか……?」

 ――あ、よかった。咳で途切れることは無かったであります……。

 そんな台詞に対する答えは無くて、クルルはそのまま基地への入り口を潜って行った。

 

 自分の部屋に1人きり。

 それは、別に変なことじゃない、はず……。

(……でも、変な感じ……)

 することが無い上に、できることといえば、こうして無駄に何かを考えることくらいしかなくて。

 そういえば、『馬鹿は風邪をひかない』はずだとふざけて言われたことは、今までに沢山あったな、とか。そのくせ、地球に来てからの自分は、確かに夏美の言う通り、しばしば風邪にやられてしまっている。

(結構、我輩は繊細だったんでありますなぁ……)

 しかし、まあギロロ辺りは『軟弱なんだ!』と言いそうだ。

 タママは、さり気なく遠まわしにしかししっかりとけなしそうな気がする……。

 そして―――。

(――――クルル……)

 クルルは、どう思ったのだろうか?

 看護隊員がいないケロロ小隊では、専らクルルがその役割を担う。

 クルルは、無駄に仕事が増えたと思っただろうか?

(……ああ見えて、何だかんだでクルル、弱いものには、弱いんでありますよねぇ……)

 少々分かりづらい表現ではあるが、要は弱者を弄ぶ人種の正反対の存在である、ということだ。

 いつもはもっと、ひどいことを沢山言うし、度の過ぎた悪戯だってしかけてくる。

 しかし、こんな時はいつもと違う、わかりやすい優しさを少し見せてくれるから――。

(……コワイ、んだ……)

 

 優しさに、慣れることが。

 勘違いを、したくなる愚かさが。

 そんな自分を、もう1人の冷静な自分に笑われてしまうことが、怖い。

 

 それでも……。

(会いたい、つーか……)

 傍に、居て欲しい。

 こうして弱ってしまうと、いつも以上に人が恋しい。

 誰かがいないと、自分がちゃんと動いているのかよく分からないと思う瞬間に襲われるから……。

 そして―――。

 そんなことを思う内に、いつの間にかケロロは眠りの世界におちていった。

 

 ひんやり、とした温度に反応して、瞼が動く。

 そのまま何とか目を開けたものの、暫くは何を映しているのか脳が認識してくれなかった。

 ぼんやりとした視界とまどろんだ意識の中、かすかに声が零れる。

「……ん……」

 上手く働かない視覚に代わり、触覚が働き始め、手を伸ばす。すると、サラリとした冷たい髪が手の平を滑っていく。

 それは、時折お仕置きを覚悟して触れた少女のものと似ていた。

「……クル、ル……?」

「喋んな、寝ろ」

 そうして、傷跡の残る少しひやりとした体温を宿す手の平が、熱のこもった額にあてられる。

(―――ひょっとして)

 これは、夢だったりするのだろうか?

 現実のような夢は、今まで何度か見たことがあるけれど――。

(……でも、夢でも気持ちいいであります……)

 傷跡がざらついているけれど、汗で張り付いた前髪を避ける動きが、やがて撫でるようなものに変わり、心地よい冷涼感を残していく。

 そして、そのままその重みがふっ……と離れていってしまうのが惜しくて、思わず手を伸ばした。

 

 熱に浮かされていたのだろうか。

 吐き気もおさまっていたからか。

 あんなことを、スラリと口にしたのは―――。

 

 「ここに、いて」

 

 ―――大好きな君のぬくもりは、心地良いのだ、と……。

 

 《終わり》

キッカケのある、変化の兆し。

| | コメント (0)

『王様の耳はロバの耳』

 それは、少し古びた絵本だった。

(……こんなトコに紛れてやがったのかよ……)

 地球に来る前に、ガルルとゾルルと、クルルの養父である大佐が、何やら大量のモノを詰め込んで、『持って行ってね』と押し付けてきた段ボール箱。余計なものはいらねえと突き返してやったら、ゼロロ――ドロロ先輩を介してくるということをされて、こうして自分の手元にやって来たのだ。

 そこまでするかとむしろ呆れてしまい、自覚したくない妙なくすぐったい感じがして、結局押し入れの下の段に押し込めたもの。

 今は、ケロロに頼まれて作った発明品の効果を見て、夏美のお仕置きにあうケロロをそのままに、ラボに戻って来て―――つまり、暇だったのだ。そいった退屈から開いてみた箱の中は、服だの食器だのといったものの他に、数冊の絵本が入っていた。

 その中の1冊、『王様の耳はロバの耳』という絵本を引っ張り出し、最近では珍しくなった手塗りの挿絵をじっと見つめる。

『神の怒りを買い、耳をロバの耳に変えられてしまった王様は、それ以来人前では耳を隠すようになった。

 しかし、放っておいても髪の毛は伸びてしまうため、時折床屋を城に呼び寄せては髪の毛を切らせ、そのまま彼らを牢屋に閉じ込めて帰さない。ロバの耳を見てしまった彼らは、牢屋に閉じ込められてしまい、家族に連絡もとれない。

 たった1人の男を除いて―――。』

 

 ―――絶対に、誰にも言いません!

 

 そうして男は、『王様の耳はロバの耳』であるという『秘密』を抱えて城を後にした。

 しかし、言うなと口止めされると、かえってそれを吹聴したくなるもの。

 我慢の限界を超えた男は、丘の上の地面に穴を掘って、大声で叫んだのだ。

 

 ―――王様の耳は、ロバの耳。かわいい、かわいい、ロバの耳……。

 

 コンッ コンッ

「入ってるぜぇ~」

「――もっと違う言い方ができんのか、貴様は……」

 ウィーン、と自動ドアが開いてラボに入ってきたのは、赤い髪の青年。聞き様によっては少々問題のある応答に小言を口にしたが、それをクルルは一笑で片付けてしまう。

「クーックックック……アンタの荷物はそっちだぜぇ~」

「ああ、スマンな」

 クルルの指す方向には、ちょっと大き目の引越しに使うような段ボールが1つ。

 宛名はギロロ。差出人はガルル。

 以前、休暇だと言って地球に来てから増えたガルルからの届け物は、テント暮らしのギロロの所ではなく、クルルの方に一旦送られてくる。段ボールの中身は食料がほとんどで、おそらく今回も何か旬のものでも送ってきたのだろうと容易に想像が出来た。

 ちなみに、今回はクルル宛にも別の段ボールで荷物が送られてきたのだが……。

 その中身は、フリルレースがふんだんに使われたドレスやワンピースで、ついさっき、即行で送り返されたばかりである。

 昔から服等を滅多に外出しない(あの頃は、外出届の申請が面倒だったというのもある)クルルの代わりに買ってくる連中だったが、今でもちょくちょくこうしてそれらを送ってくるのだ。

 ガルルはどちらかというと、もう少しシンプルなものを寄越すのだが、大佐やゾルルは(特にゾルル)フリルやレース、コサージュの凝ったつくりの服を着せたがる。そのため、クルルにとってはずいぶんといい迷惑なのだ。

 いくら地球が、時折退屈なくらいボケるんじゃないかという平和レベルだとしても、一応ケロロ小隊は侵略に来ているのであって、遊びに来ているわけではない。

(ドレスもワンピースも、一体いつ必要になるっつーんだか……)

「クルル」

「あ?」

「これは、どうだ?」

 べりべりっとガムテープを剥ぎ取ったギロロは、中に入っていたコーヒー豆の袋をクルルに差し出す。いつものように、パズルのように段ボールにぎゅっと詰め込まれた贈り物たちから、いつものようにギロロは『おすそわけ』をしてくる。

 別にコーヒーは嫌いではなく、豆をつぶすのも面倒だが好きなクルルは、「ま、貰っといてやるよ」と尊大にそれを受け取った。

 それにしても、と思う。

(最近、妙に送ってきやがるな……ガルルの奴)

 2ヶ月に1つ、1ヶ月に1つ、1週間に1つ、そして、3日に1つ―――。

 確実に短くなっている間隔に、ガルルのブラコン度の高さを感じ、他人事だからこその嗤いがこみ上げてくる。

 きっと、近い内にあの赤いテントが破けるだろう、という予想(9割確定)にひとしきり心の中で嗤う。何となくバカにされているとでも思ったらしいギロロが怒りで声を張り上げるのをクルルがするりするりといなしていて、ふと青年の視線が段ボールの上の絵本にピタリと定まった。

「――お前が持っていたのか」

「あ?―――まあなぁ~」

 『王様の耳はロバの耳』というこの絵本は、元々ガルルとギロロのものだった。

 そして、まだクルルが10歳にも歳の頃に、ガルルがクルルに持ってきて就寝前に読み聞かせ、そのままプレゼントとして置いて行ったのだ。

 寝る前の本の読み聞かせなど、子どもが受けるものだとつっぱねていたクルルだが、話の内容はともかく、朗々と流れるガルルのソレは悪くないと―――実は、気に入っていた。そして、色とりどりの絵も、まあ物珍しくて、好奇心の強い少女には丁度いい、多少歓迎できる贈り物として受け取ったもの。

 その本を見つめるギロロの瞳に、一瞬、寂しさとでも言うべきものが浮かんでいたのをクルルはしっかりと気付いていた。

「……懐かしいモノ、だな……」

 それは、安心感からなる懐かしさとはいえない、翳りのある響き。

 しかし、それをわざわざ尋ねてやるなんて気遣いは自分の領分ではないと判断したクルルは、特に何も言わず黙ってギロロの様子を見るばかりだ。

 どれくらい、そうしていたのだろうか。

 やがて、のろのろと箱を持ち上げたギロロは、「邪魔したな」という決まり文句を口にして、ラボを後にした。

 珍しくその背を扉が閉じ切るまで見送ったクルルは、ちらりともう一度表紙を見て、再びそれを箱に仕舞いこむ。

 そして、手に持ったままのコーヒー豆をどうせだから早速使うか、簡易キッチンへと足を向けたのだった。

 

 テントに戻ったギロロは、また1つ増えた段ボール箱をドサリと重ね、ようやく苦いものをすべて吐き出すような、重い重い溜息を吐く。

 ガルルが、どんどんこうして荷物を送ってくるようになった原因は、自分にあるということは分かっている。だが……。

(――重い、な……)

 ガルルがやっていることは、些細と言うか、他者がその行為の理由に気付くことのない、程度を守ったもの。おそらく、クルルでさえ気付いてはいないだろう。

 ギロロ宛の荷物は、すべてクルルのラボに送られる。

 クルルは、その度にそのことをギロロに伝えてくる。

 そして、ギロロはクルルのラボを訪れる―――。

 

 ガルルは、口実を作っているのだ。

 ギロロがクルルに会うためのキッカケを作っているだけ……。

(―――だが……)

 今更、どうして想いを伝えられるというのだろう?

 クルルは、自分が地球人の少女を思い続けていた時の全てを見ている。そして、それが終わってしまった時のことも、知っている。

 どうして、『惹かれている』などと言えるだろう?

 多くの他者にとって『嫌な奴』で在ることを求める子どもの理想。

 変わらないモノを退屈だと言いつつ、変わらないモノを喜ぶ子どもの、その小さな呟きを知って、どうして――――『好きだ』と言うことが出来るだろう?

 

 言っては、いけない。

 

 それでも、自分はそれを抱えられるほど器用ではなかった。

(『王様の耳はロバの耳』か……)

 昔、兄が読んでくれた絵本。

 今は、クルルの元にある。

 クルルはああ見えてモノは大切にする性質だから、たとえ箱の中で眠ることになったとしても、きっと本は幸せになれるだろう。

 そんなことを思うと、少し救われた気がして――再び、一気に気持ちが沈みこんだ。

 

 ―――王様の耳は、ロバの耳。

 

 あの床屋の男は、穴を掘り、そう叫んだと言う。

 1人では持ち切れない秘密を吐き出して、肩の荷がおりた晴れ晴れとした表情を浮かべていた挿絵の男を思い出し、自嘲の笑みが自然と唇に浮かぶ。

 穴を掘って叫ぼうか。

 それとも、あの日のようになってしまうのか―――。

 あの穴代わりをさせてしまった実兄のことを思い浮かべ、そのことを少し申し訳なく思うのだ。

 

 《終わり》

秘密を抱えて生きていける人は、どれくらい居るのだろう?

| | コメント (0)

ぎゅ、ぎゅう、ぎゅうぅー。

 ドロロとクルルが、恋人同士なのだと、周囲がしみじみと感じるとき。

 それは、ドロロがクルルを抱きしめている――もとい、クルルがドロロに抱き込まれている光景を見るときだ。

 一言に『抱きしめる』と言っても、その形態は様々である。

 1番よく周囲が見掛けるのは、クルルがドロロの胸に背中を預け、ドロロの膝、もしくは脚と脚の間に座り込み、結果的にドロロがクルルの体をすっぽりと『抱きこんでいる』ような格好。

 本を読んでいるドロロに、構って欲しいのか邪魔したいのか、これはクルルから仕掛けていることが多い。

 本日も、クルルはドロロの膝の上にちょこんと座って、ハードカバーの物語を真剣に読んでいたドロロとその本の間に体を滑り込ませている。本が読みにくくなったドロロはいつものように少し困ったような表情を浮かべるが、やはりクルルに退いて欲しいといったことは言わない。(以前、実に控え目に『本、読んでいい……?』といったことを申し出たところ、その後しばらくクルルに避けられ続けたというトラウマ形成済み)

 ぱたりと本を閉じて、脇に置く。

 そして、改めて腕を緩くクルルの肩から伸ばして抱き込む形にして――。

(……?)

 ふと、ドロロは少し驚いたような表情を浮かべた後、少々躊躇いがちに口を開いた。

「クルル君……」

「……んー」

「眠いの?」

「んー……」

 肯定とも否定とも取れる、生返事。

 そういえば、ここ数日は昼間に会議、夜は別件という過密スケジュールをこの少女はこなしていたのだ。

 基本、慣れのようなもので徹夜を続けることはできると言っていたが、睡眠への欲求はある。

 今は舟を漕ぐ、ということはしていないが、どうも目が半分閉じかけているような気配を胸で感じて、ドロロは優しく、穏やかに言葉を紡ぐ。

「眠った方が、いいと思うよ……?」

 もう少し寄りかかって、と細い体を少し抱き寄せれば、丁度ドロロの胸の辺りに少女の頭が来る。

 何となく、クルルの透明な青い瞳がこちらに向けられるような素振りを見せたが、体制的に無理があり、それはすぐに見えなくなった。

 少しだけ胸から離れた頭が、再びドロロの胸に戻ってくる。

 くたり、と力を抜いた少女の体が、もぞもぞと少し左向きに動いて、心臓の上にヘッドフォンを外した左耳がピタリと押し当てられる。

 やがて、ゆるゆると瞼が下りていく、その様子を見守りながら、ドロロの唇には自然に笑みが浮かんでいた。

「おやすみ」

「……オヤスミ……」

 小さな、小さなそれは、ちゃんとドロロの耳には届いている。

 

 そんな、ゴチソーサマと言いたくなるような平和な光景に、実はずう―――っと部屋の中にいたケロロは、ふぅ――――っと溜息を吐いた。ここは、クルルズ・ラボでもなく、ましてドロロの家でもなく、正真正銘自分の部屋のはずなのだが……。

 ドロロがようやくこちらの存在を意識して真っ赤になった様子に、少しは気が晴れたのだけれど。

(……ドロロが、クルルを大切にしてることには、我輩も満足っつーか満腹なんでありますけど……ねぇ?)

 でも、何だか独り身の今の自分をより意識『させられた』気がして、面白くない。

 そこで、ケロロはわざとニヤリと笑んで、クルルを起こさないように口パクで、

 

 『ゴチソウサマ』

 

 ―――と。

 音にはせずに両手を合わせれば、少女を抱いたままの青年は、りんごよりも真っ赤になった。

 

 《終わり》

平和で、穏やかと言うべき日常に。

| | コメント (0)

ピンクのヘルメット

 クルルは、何だかんだでソーラーバイクを運転することが嫌いではないらしい。

 自分が乗りやすいように改造したバイクは、女性向けの丸い曲線が少なく、どちらかといえばシャープなデザイン。そこが、何となくクルルらしいと、ドロロは微笑ましく思うのだ。

 そして、太陽の光が少し弱まってきた夕方。

 パトロール(某子供向けアニメか!と突っ込むトコロ)から戻ると、丁度バイクを引いていたクルルを見かけて、ドロロはそのまま日向家の庭に降り立った。

「これから出掛けるのでござるか?」

 白衣ではない、上下セットのジャージは、彼女の体にはあまりサイズがあっていないらしく、かなり皺ができている。丈は丁度いいのだが、腕周りや腰周りがどうしても既製品だと余ってしまうのだ。

 出掛けるのかと言うドロロの問い掛けに、ヘルメットを被りかけていた手を止めて、クルルは「まーな」と肯定する。

 しかし、珍しい素直な言葉に対し、ドロロの表情は一気に物憂げになった。

「でも……もうすぐ暗くなるでござるよ?」

 夏至はとうの昔に過ぎ、少しずつ冬至に近付いている。

 少しずつ、しかし確実に日の入りは早くなり、今では5時くらいになるとずいぶんと辺りは暗くなってしまう。暗闇は、後ろ暗いことをするのに適しているのか、どこの星でも昼間より犯罪が起こる確率が高くなる。特に、子どもや女性など体の構造上、どうしても成人男性よりも力が劣る者たちが犠牲になる事件が起きやすい。そのため、心配する方の身としては、これからもっと暗くなるという時間に少女に外出はして欲しくないのだ。

 おそらく、ギロロやケロロがいてもそう言ったであろうし、そのことを経験として知っているからでこそ、彼女も2人が出かけている日にこのような時間にバイクを出してきたのだろう。

 彼女にとって計算外だったのは、己の存在か。

 自分の忠告を彼女が素直に聞いてくれるなどとは思っていないが、それでも正直に心配なのだと言葉にすれば、案の定、呆れたような溜息が耳に届く。

「アンタらは、無駄なトコに神経使うよな」

「……でも」

 本当におかしいというような嘲笑に、落胆ともどかしさが広がった。

 クルルは、そもそもあまり女性としての自分だとか年少者としての自分を守られる存在としては認識していない。

 子どもだろうが大人だろうが、男だろうが女だろうが、自分の身は自分で守るものであり、力が及ばずに朽ちることも自然なことだとしているようだ。それは1つの考えとして、否定されることはないものだが、それでも――――例え、重荷になってしまうとしても、大切に愛されていることを知って欲しいと願ってしまう。

 だから、ほんの少し守られて欲しい。

 それは、流石に余りにも自分勝手すぎると分かっているため、ドロロは何とかその言葉はいつも心の中だけで唱えている。

 しかし、明らかに態度が落ち込んでいる青年に、ふと掛けられた言葉は、彼がその時予想もしていなかったものだった。

「後ろなら空いてるし、乗れば?」

「……え?」

「後ろ」

 荷物も括りつけられていない後部座席は、確かに空いている。

「…………え?」

「乗るのか、乗らないのか」

 早く言え、と。

「あ、ああああえっと……の、乗っても、いいの?」

「しつこい」

「うぅ……っ」

 少し、ちょっとだけ、気持ちが沈む。

 でも、嬉しさの方が大きくて、咄嗟に出てこない言葉の代わりに大きく頷いた。

 それを見届けて、クルルは座席のカバーをパカリと空け、中から何かを取り出すと、ポンッとそれをドロロにそれを投げ寄越す。

 ヘルメットだ、とはすぐにわかった。

 だが、それは、そう、何故か……。

(――――え?)

 

 ピンク。

 鮮やかで、キレイな、ピンク色のヘルメットだ。

「……あ、あの……クルル君……?」

 ニヤリとしたいつもの笑みを浮かべて、彼女はとても上機嫌。

 そして、それはもちろん、しっかりとした確信に満ちたもので。

「先輩用に、って作ってみたヤツだぜぇ?」

「あ、え……あ、あの……その……何で、ピンク色なの……?」

 ピンク色は、何故か女性の色、というイメージが強い。

 子どもの頃見ていた戦隊の特撮番組でも、ピンクと言えば女の人で。

 「女みたい」だといわれたことは――少ない、では済まないくらいではあるけれど、それでも自分は一応、れっきとした男、で……。

 中性的といわれ、どちらにせよとても綺麗だと称される彼女は、思わず見惚れてしまうくらいきれいに微笑んで、とても残酷に言葉を選ぶ。

「先輩用だから、先輩に似合うように、先輩をモデルに作ったから、そんな色になったんデスヨ?」

 ――泣き出しそうになった僕を見て、彼女はやっぱり、とても綺麗にわらっていた……。

 

 《終わり》

ちょっとした固定観念を知る。

 

| | コメント (0)

寂しさは正当に評価されない

 定期メンテナンス(もちろん半身である義体の、である)に来る度に、無遠慮に増やされるトラウマたち。痛覚神経を引っ張られるのは序の口、結合部位の筋組織の再結合を殊更乱暴にされたりといった地獄の時間が終わると、ずっとずっと年下の子どもの、傷だらけの痩せた手の平が、パサついた灰色の髪を撫でていく。

 お疲れ、という意味なのだろう。

 繰り返されるこの合図のような儀式のような行為が、ゾルルはひどく、愛しい。

 多くの者が畏怖し、技術者たちがサジを投げたこの半身を修理調整し、躊躇い無く手を伸ばすのは、この子どもだけ。だから、ゾルルもまたこの子どもには、臆することなく触れることが出来る。

 しかし、流石に左手で触れるのは危ないと、生身の右手をクルルの頬へと動かす。油やサビの汚れを指も使って拭うと、くすぐったそうに目を細めた。

(……大、分……柔ラカ、ク……ナッタ、ナ……)

 思考まで喋り口調に引きずられて久しい。そのことに苦笑しつつ、存外さわり心地のよくなったフニャっとした頬に手をすり寄せる。

 不規則な生活で壊れてしまうんじゃないかと思っていた子どもの体は、最近ではずいぶんと落ち着きを見せていた。相変わらず痩せてはいるし、すぐに並にはならないものの、過労や貧血で倒れる回数も徐々に減ってきている。

 ガルルもそのことを喜んでいたし、ゾルルもソレについてはガルルと同意見だ。

 しかし。

 その功労者である男――ゼロロと、クルルの関係については、決してガルルと意見が合うことは無い。

 ゼロロとクルルがいつ頃から付き合い始めたのか、その経緯はどんなものなのか、ガルルは尋ねれば嬉々として説明するだろうが、そんなものを聞くために耳はあるのではない、とゾルル談。

 「聞けば祝福したくなるよ」とガルルが言葉を重ねてきて、ゾルルは更に耳を塞いだ。両手で両耳(片方はくどいようだが金属だ)を覆う、その行為に、ついにガルルは説明や説得を中断した。

 ゾルルは、もう、ここまでの文脈からわかる通り、クルルが大好きで、とにかく好きなのだ。

 そして、ゼロロには、ガルルにもクルルにも―――誰にも話していない、自分の中での確執がある。

 正か負か。好意を正、敵意を負とするベクトルの世界があるとすれば、正のてっぺんにクルル、負の底辺にゼロロが居る。

 そんなゾルルの世界で、ゼロロとクルルが恋人同士になったという事実は、決して楽に受け入れられるものではなかったのだ。

 ゼロロは、とてもクルルを大切にしている。

 以前、たまたま盗み見になってしまった光景は、どことなく兄妹といえるような――しかし、やはりそれとは違う、あたたかさがあった。その光景からすぐに視線を逸らしたのは、弱さなのかとゾルルは思う。

 『ゾルル、―――それでも、クルルの幸せだけは、喜んで欲しい』

 ガルルのそんな台詞が、今もちらつく。

 あたたかな2人のシルエットが、離れない。

 

 「次、少なくとも1ヶ月後に来い」

「……」

「何だよ?」

「……イ、ヤ……今回、ハ……ヤケ、ニ……早……イ、ナ……」

 いつもなら2ヶ月後という所なのに、と思い、それをそのまま口にすると、少しだけ――ほんの一瞬、視線を外した、子ども。

(……アア、ナルホ、ド……)

 そういえば、2ヶ月後には確かゼロロたちが任務から帰還するのだ。同じアサシンであるため、そのことはゾルルも知っていた。

 そして、それを思った瞬間、いつもは向けない左腕まで伸ばして、小さな小さな身体を抱きしめる。

 ―――否。

 しがみついて、いた。

「――――クックッ……甘えん坊だなぁ……?」

「……ウルサ、イ……」

 思わず零してしまった悪態に、しかし子ども……否、少女はクックと笑うだけで、特に咎めることをしなかった。

 そして、ひどく大人びた仕草で、「硬い」と言いつつ、灰色の髪を梳くように撫でる。

 繰り返し、繰り返し―――。

 そして、2つの身体の隙間を潰し無くそうとするように、ゾルルの冷たい身体が、ぎゅっとさらにしがみついていった。

 

 《終わり》

庇護欲、保護愛は、きっと哀しい。

| | コメント (0)

ディファレンス・デイ

 秋晴れの空を見上げると、一応学校に向かうつもりだった足が、ピタリと止まった。

 青い空、白い雲。それでも、もうそれは夏の暑さの眩しすぎる太陽のものではなくて。

 こんな日にあのコンクリートの建物に入って座りっぱなしなんて、余りにも勿体無い。時間は限られているのだから、有意義に過ごすべきだろう。

(学生の本分は、まず遊ぶことってね)

 そういったわけで、すっかり学校に行く気が無くなったら、さてこれからどうしようかと考え始める。

 バイクを走らせて少し遠出というのもアリだけど、どうせだからブラブラと歩くのもいいかと思う。何かを急いでいるわけではないし、ちょっとした風景を楽しんでいくなんて、ちょっと風流かもしれない。粋、っていう言い方もあるかな?

(さて、と……行き先は―――CDショップにでもしようかな)

 1ヶ月前に出た、結構マイナーな歌手のシングルを買い忘れたことを思い出して、本日の行き先は決定。いや、いくら今の今まで忘れていたとはいえ、1度気付いてしまうと、やっぱり気になるというものだろ?

 財布の中にも、5枚くらいの野口英世がいるから、余裕だね。

 

 平日の少し遅めの朝だから、いつもは賑やかなショッピング街も静かめで、歩道も楽に通ることが出来る。ちょっと頭の中でいいポエムのフレーズが流れていて、足取りはすごく軽い。

 歩道と車道の間に植えられた木々は、葉っぱの色が赤や黄の暖色になっているもの、赤い実をつけているものもあった。それが、朝の空の青と絶妙のコントラストになっていて、心惹かれるものがある。

 浮かんでいるポエムを微かに口ずさみながら、ぶらぶらと歩いているうちに、CDショップに到着してしまった。

「……ん?」

 ふと、入り口付近に立っている人物と目が合う。

 いや、相手は分厚いレンズの眼鏡をかけているから、本当に視線がぶつかったのかは分からないけれど―――。

 その、秋の稲穂色の金髪には、とても見覚えがあった。

「―――――クルル?」

「クッ……アイドルもどきが、朝っぱらから独りで買いもんかぁ~?」

 あ、うん。やっぱりクルルだ。

 声と言うか、その喋り方を聞けば、「やっぱり」である。

 でも、その格好というか、特に髪型がいつもと違っていた。

「どういった心境の変化?」

「あ……?ああ、コレか……」

 そう言いつつ、白くて細いクルルの指が、自身の髪に伸びる。そして、2本の三つ編み――俗に言う、おさげ――となっている内の1本をひょいっとつまみ上げてみせた。

「モアが、『いつもと違った髪型にしていいですが?』って言ってきたから、面倒で好きにさせたらこーなった」

「あはは!成る程ねぇ~」

 クルルの髪は、腰よりも下になる位で、ずいぶんと長い。いつもはそれを後頭部の下の方で1つに括るか、上の方でポニーテールにしているから、一瞬誰かと思ってしまった。服装も、いつものようなあからさまな男物ではなくて、まあ何となく女の子用みたいなシャツを着ているから、まるで漫画や小説に出てくる『文学少女』みたいに見える。

 2つの三つ編みスタイルは、髪が邪魔にならないからかクルルは意外と気に入っているような様子で。

 自分としては、結構可愛いと思うな。……うん、よし。

「ねえ、クルル」

「くっ?」

「俺、これからCDちょっと買ってくるから、その後映画でも見に行かない?」

 最近行っていない映画館にどんなポスターが貼ってあるのかは知らないけど、1つ位は好きなものがあるだろうと楽観視。

 そんなこちらの考えは、ばっちり伝わったのだろう。クルルはそれはそれは、イイ笑顔を浮かべている。

「オゴリならなぁ~?」

「そりゃ、もちコース」

 それじゃあ少し待っててね、と言って店内へ。

 女の子を待たせるのはちょっといただけないけど、その分は後で、ちゃんと埋め合わせするからさ。

 

 《終わり》

成り行きに任せる娯楽。

| | コメント (0)

あなたいろ

 買い物帰り、歩道の横に植えられている木の葉が、少し赤っぽくなっていることに、今更ながら気付いた。行くときも全く同じ道を通ったはずなのに、何故帰り道でこんな驚きを感じるのか。

(―――ああ、そうか)

 自分の隣には、久しぶりに外へ連れ出した金色少女。

 昔ほどは、最近はあまり外出を嫌がらなくなったのだが、だからと言ってすぐに引きこもりが改善されるわけでもなく。

 時折、こうして誘って買い物なり散歩なりをして、それがどうにもこそばゆくて……。

 だから、行くときは周囲を見回す余裕が無かったのだ。

(軍人あるまじきことではあるな……)

 ただ、それもこうして並んで歩くことの出来る、微温湯のような日々のある世界では許されるのだと思いたい。母星ではそうそうこうして、この子どもと並んで出かけることなど出来なかっただろうから……。

 

 ヒラヒラ ヒラリ ――――パシッ

「――どうした?」

「……取ってみたダケ」

 そう言って、手の平にのせて見せてきたのは、まだら色の葉っぱ1枚。

 元は、まだ枝についているもののように緑色だったはずのそれは暖色に染まり、少し水気を失っていた。

「……」

 しかし、どうもそれが気に入ったらしいクルルは、それをコンクリートの地面に落とすことは無く、くるくる、くるくると指先で器用に回している。

 青い幼馴染みと仲が良いと言っても、確かこの少女には植物を愛でるという趣味は無かったように思うが、それは自分の思い違いだったのだろうか……?

 

 くるくる くるくる

 

 左へ右へ、回る葉を、ついじっと見つめてしまう。

「何だよ」

「……いや……それは、持ち帰るのか?」

「ん」

 ずいぶんと短い肯定。

 かなり機嫌がいいのか、その身にまとう雰囲気はとてもやわらかで。

 どちらかと言えば、硬質なそれをまとうことの多い子どもには珍しいそのことが、また、身体の熱を上げる。

 そして、もう1枚、クルルは途中で赤い紅葉に手を伸ばした。

 ひらひらと頼りなく地面に吸い寄せられる葉っぱを、しっかりと捕らえて。落ち葉にならなかったそれをまた、反対の手に持って歩いていく。

 紅葉は、帰ってから何故か出迎え(だろう)た猫に、『土産』と称して渡していて、猫は猫で、それを爪で破かないよう、そっと銜えてテントの中へ運んでいく。

「―――?」

 いろいろと不可解だったが、とりあえず2人(1人と1匹?)の関係は、相当良好らしい。

 

 ―――数日後。

 ギロロのテントで過ごすらしい、ギロロとクルルが不在。タママは家でパーティがあるということで、今日は遊びにこないらしい。「寂しいじゃん!」というケロロの訴えに応える形でケロロの部屋を訪れたドロロは、延々と続くケロロのおしゃべりに、時折相槌を打ちながら耳を傾けていた。

「でもさ、マジでどんどこクルル、かんわいくなるでありますなぁ~」

 オトーサンは複雑!と軽口を叩くケロロに、ドロロは苦笑する。

(でも、確かに……)

 クルルは、どんどんかわいくなる。

 見た目はもとより、何より、言動や行動が、とても微笑ましい。

 度の過ぎた悪戯も健在で、相変わらず人の言って欲しくないことをさらりと口にしたりするけれど、それ以上に少女としての……好きになった人をもっと好きになることが滲み出る様子が見受けられる。構って欲しいというメッセージが現れる悪戯が、多くなったとドロロは思う。

 そして、先日は拾ってきた葉をしおりにしたいとご所望。

 それは、有名な植物のものでもない、これといった特徴のないものではあったが、その色が、とてもあたたかかった。

 赤、と黄、のグラデーション。

 絶妙なそれは、あの少女と、少女が大切に―――そして、少女を大切にしている、あの幼馴染みの色と重なって……。

 もっとも、彼はそのことに気付いてはいないようだったのだが。

「クルルが、あーんないじらしいことしてんのにさ。何で気付かないなんてことがあるんでありますか!?」

「え、っとぉ……」

 それは、仕方が無いことではある。自分たちは、他者の心が読めるわけでは無いのだから。

(アサシンは読心術を使えるでござるが―――ギロロ君は、アサシンではござらんし……)

 しかし、ケロロの思いも、理解できる面がある。

 クルルの行動の意味を、ギロロに知って欲しい、理解して欲しいと願う気持ちは、ドロロの中にもあるのだから―――。

「あー!!もう!!それもこれも、ギロロが鈍ちんなのがいけないんであります!!」

「う、うーん……」

 とりあえず、そのしおりは、金色の輝きの元で、大切にされている。

 

 《終わり》

共通点を見つける喜び。

| | コメント (0)

夏収め

 デジタルカメラを買った。

 これは、衝動というものではなくて、前々からすごく考えてのことだったのだと、彼女は言葉にして言う前にわかってくれていた。一瞬の勢いで買うことができない人種だろう、と断言されたら、なぜか塩っぽい雫が目から溢れてきたけれど。

「おー、すっげー!!かしてかして~!」

「え、あ!ケロロく―――」

 ゴイン!!

 なんだか、とても大きな音がしたかと思うと、ちょっと怒った(むしろ呆れている)ギロロ君が、ケロロ君の手にあったデジタルカメラをこちらに差し出してくれた。

 昔から、皆のものをケロロ君は好奇心で取って行ってしまって、壊してしまうことが多くて、それを止めるのはギロロ君の役目になっていたのだけれど――。今も、もしかしたらそうなのかもしれない、と思うと、なんだか少しの懐かしさを感じて。

 受け取ってお礼を言うと、やっぱり小さい頃みたいに、ちょっとだけ笑ってくれた。

 

 デジタルカメラが欲しいと思ったキッカケは、クルル君と2人で散歩をしていた時に見掛けた、親子連れだと思う。

 お母さんと、4歳くらいの男の子が遊んでいて、お父さんがそれをパシャパシャ!とカメラのレンズ越しに追いかけている。ずいぷんとたくさん、シャッターの音が響いていた。

 それは、懐かしくて、とても温かい光景―――。

『先輩?』

『あ……っご、ごめん!』

『ク……べつにぃ~?』

 久しぶりの2人きりの時間に、失礼なことをしてしまったと思ったけれど、クルル君は特に気にしていないようで、少しほっとする。

 もう1度、と思って再び親子の姿をちらりと見て視線を彼女へ戻す。

 そして、どうやらクルル君も、あの3人を少し見つめていたようだった。

 懐かしさ、厭わしさ、温かさ、喪失感。

 たまたま出会った親子連れを通して、彼女が何を思っているのかは、きっと尋ねていいものではないのだろう。

(……そういえば、もうどれくらい写真を撮っていないのかな……?)

 最後にカメラを意識したのはいつだったか。写真をアルバムにしまって喜んでいたのは、どれほど昔になっているのか。

 他愛も無いといえばそれまでの疑問が、やがて願望に変わり―――。

 そして、どうしても欲しくなって、ついにデジタルカメラを買った。

 

 印刷をする前に、撮ったものを見て選ぶことができるのもメリットなのだと、そうした分野を専門とする彼女談。

 メモリーに残っているのは、この夏休みの間に撮った思い出たち。

 お祭り、海水浴、そして、皆で温泉に泊まりに行った時のもの―――。

 ボランティアで知り合った人たちも、いろいろとこのカメラを買う時に、どこの会社のものが良いかとアドバイスをしてくれた。そんな彼らと撮った1枚1枚も、パソコンの画面にズラリと並んでいる。

(……たくさんになったなぁ)

 昔は、写真に写ることに必死だった自分だけれど、デジタルカメラを購入してからは、撮る楽しみを知った気がする。

 植物や風景の写真は、それが顕著だが……何より、特に……少し怒られてしまったものの、地球に来てから見られるようになった、大切な少女の笑顔の写真たち。

 1番の、特別なそれは、生憎カメラを向ける暇が無く、この心の中――記憶の中にしか残せなかったけれど、それもこれも、愛おしい。

 時々、彼女が撮った自分が写っている写真を見つける度に、ちょっと居たたまれなくなるけれど、今となってはいい思い出とも言えるかもしれない。

(――――あ、)

 そして、見つけた。

 無いだろうと、思っていたもの。

 ―――それは、金色と青色の、1コマ……。

 おそらく、クルルが家に泊まりに来た時だろう。

 2人で寝ているところをきっちりととらえているソレ。しかも、記憶に無いところを考えると、どうもこの写真を撮られたことに気付かないまま寝入っていたのだろう。

(……いったい、いつの間に……)

 ぴったりとくっついて眠る様子を、こんな風に改めて見ると、かなり恥ずかしい……。

(……そういえば、小雪殿……この使い方をとても真剣に……)

 機械の扱いが苦手な同居人が、友人たちからも必死でこのカメラの使い方を教わっていたことを思い出す。

『ドロロへの、プレゼントだよ❤』

 ―――そんなコトバが、きこえてくる……。

 

 《終わり》

流れる日々の中の、不思議な1コマ。

| | コメント (0)

幸せなんて願えない

「トロロ、それはいけない」

「……っ!」

 低い、声。

 自分のようにパソコンもコンピュータも使い切ることなど出来ないくせに、それまで別の方を向いていたはずの隊長は、口を開く。

 叱る、というよりも、注意する、というよりも、それは『諭す』ような響きを持って、帽子越しに耳に届き、脳を侵す。

(……クソッ!)

 命令違反だと分かっててやっている。やろうとした、こと。

 でも、いつの間にかこちらに移動してきた隊長が、ゆっくりと完成していたデータをすべて消してしまった。

「今回は、これ以上のことは問わない。しかし、次は無いぞ」

 ―――別に、1度や2度データを消されたところで、データを復旧させることは出来るし、やろうと思えばもう1度、同じことは繰り返せる。

 それでも、トロロはそれ以上、同じことをする気にはなれなかった……。

 

以前、視察と称してガルル小隊全員で地球に行ったとき。

 思い切って、トロロはクルルに、

『外、行こうヨ』

と誘ったのだ。いつもはトロロとて、進んで外へ行こうとはしないのだが、その前日にプルルが買っている雑誌を暇つぶしに眺めていた時、『デートの鉄則!』という特集コーナーが目に留まった。そこに書かれていた項目の1つに、『デートは男が誘うべし』というものがでかでかと載っていたわけで。

 本当はその後に、如何に男性からデートに行こうと言わせるかという女性用のテクニックが書かれていたのだが、生憎トロロはそこまで読む余裕がなかったらしい。

 何はともあれ、そこで生まれて初めて、トロロは『女性をデートに誘う方法』というサイトを見て回り、どうやってクルルにアプローチすればいいのかを考えてきたのだ。

 自分を翻弄する、年上の技術者。

 負けたとは認めたくないけれど、その能力は紛れも無く本物で、唯一くやしさを感じさせた存在は、やがて実体を持つ異性へと変わった。初めて執着した人物は、いつも自分を子ども扱いし、こっぴどい批評でもって、自分をかき混ぜていく。

 とにかくムカつく、と思っていたはずなのに、それが彼女が自分を『認識』してくれているのだと分かってしまうと、くやしいのに嬉しくて……。

(……すき、なのカナ?)

 初めての感情は、自分のことなのに、自分のことだからか自信が無くて。それでも、何にもしないままでは何も変えられないとわかっているから、トロロはこうしてアプローチをしたというわけで……。

『外?』

『うん』

『嫌だね』

『っ何で!?』

『面倒だから―――と、言いたいところだが……ま、例のブツと交換でなら考えてやら無くもねぇぜ?』

『え……ほ、本当!?』

 それは、クルル流のOKなのだ。

 心の中で『やった!!』とガッツポーズをきめた瞬間――。

『え!クルル外行くの!?じゃ、我輩も!』

『軍曹さんが行くなら僕も行くですぅ~!』

『あ、せ……拙者も是非!!』

『―――ガキばかりでは無用心だからな……』

 そう、ケロロ小隊の面々が言い出したことで、必然的にこちらの小隊メンバーも全員ついてくることになって……。

 2人きりのデート、というつもりでのそれは、あまりにも理想から程遠いものになってしまった。

 

デパートの屋上。公園。喫茶店。

 どこもかしこも、まあ楽しくなかったというわけではないけれど……。

『ごきょうだいかしら?』

『どことなく、雰囲気がそっくりね』

(……きょうだい……)

 クル兄ぃと並んでいたら、よくそんなことを言われた。白衣は脱いでいたけど、腰のライン以外はどことなく男っぽくて、だから多分男兄弟と間違われているんだろうなぁ~と思ったけど、クル兄は特に訂正もしなくて。

『クルル殿、大丈夫でござるか?』

『ん』

 蒼い髪の女みたいな奴が、ペットボトルのジュースを手渡したとき、さっき『きょうだい』と勘違いした連中が、『恋人同士みたいね』と言っているのを聞いて、かなりムカッと苛立つ。

『クルル、向こうのゲームやろ!』

『クルル先輩、あっちの服かわいいですぅ~!ちょっと試着してみましょう!!』

『パス』

『おい、少しは大人しくしろ!!』

 ―――ムカつくムカつくムカつくムカつく!!!

 

帰りの宇宙船の中で、『また次があるわよ』なんて無責任なことを言ったのが、看護長じゃなかったら、殴るなり蹴るなりできたのに……!

(―――相手の幸せを願うなら、身を引きなさいって話があったっけ……)

 アイツの楽しそうな……何だかんだで、あの日もクル兄は、仲間にばかり笑っていた気がする……表情は、自分には向けられていない。そして、自分はあいつらみたいに、ずっと一緒に居られるわけではなくて。

 だから、地球侵略の『実態』を本部に送りつけてやろうと思った。

 もしかしたら、そうすれば小隊は本部に戻ってくるんじゃないかと思って……。

(……でも、もしそうなったら、クル兄は悲しんだりするのかな……?)

 少なくとも、ガルルはそう思ったのだろう。だから、さっきはそれを止めたのだと思う。

 そればかりが理由ではないだろうが、確かガルルとゾルルはクルルとずいぶん長い付き合いなのだと聞いたことがある。関係も良好で、以前いい雰囲気で言葉を交わしていたのをたまたま見かけたことがあるのだ。そして、その光景を思い出すと、やはりまた腹がたってきた……。

 ―――相手の幸せを願うなら、我慢を覚えなさい。

 ―――相手の幸せを望むなら、時には身を引きなさい。

 

 「……っそんなの、無理だシ……!」

 

 もし、本当に身を引くとしたら、それは相手の幸せを思ってのことなんかではなくて……。

 

 「何が無理だって?」

「―――ッうぎゃぁ!?クル……プ!?」

「失礼なやつだなぁ?折角この俺様がわざわざ来てやったっつーのに」

「プ……ってはにゃ!はにゃはにゃせ!!(鼻!鼻離せ!!)」

 突然眼前に現れた想い人は、こちらの反応を明らかに愉しんでいるらしく、鼻をわざときつくつまんで、やっぱり嗤っている。何でケロン星にいるのかは分からないが、とにかくこれは現実なのだと、息苦しさが教えてくれた。

「ケロロ小隊は、今日から2日間、本部からの慰労賞で温泉宿に泊まっていかれることになったのだよ。そこで、折角の機会だし我々もご一緒しないかと、わざわざ誘ってくださっているんだ」

 ようやく鼻を離してもらえたタイミングで、いつの間にかやってきた隊長が今の状況に至る理由を説明する。慰労賞って、何もしてない気がするんだケド……。

「さっさと準備しな、クソガキ」

「っガキじゃないし!!」

「ガキだろ」

「ガキじゃない!!」

「トロロ、取り合えず準備をしなさい。他の方もお待たせしているんだからな」

「う……」

「できるのかぁ?」

「で、できるモン!!」

 本当はこうした準備は苦手なのだが、くやしくてそう叫ぶと、「クックック……」なんて嗤ってるし!!

 ―――でも、何でか知らないけど、どうも自分を呼びに来てくれたみたいだから……やっぱり、うれしいかもしれない。

(……クル兄は、ボクのこと、嫌いじゃないんだよね、きっと……)

 今は、そこまでで―――いいや。

 

 ―――で。

「おい、ケロロ!何をしているんだ貴様は!!」

「しー!!気付かれちゃうでありますよ!?」

「ケロロ君っ!駄目だよ!」

「いーじゃん!大体ドロロはいつも一緒に風呂入ってるから今更じゃね?(ボソ)」

「そ、う……ええ!!?」

 後の文章は、ドロロにしか聞こえないくらいの音量で。

 真っ赤になったドロロに、何にも分かってないギロロは「のぼせたのか?」といった見当違いな心配をしている。

 ちなみに、一行は宿につくなり皆で温泉に入ろうとやってきたばかり。ケロロは、定番といえば定番の、いわゆる隣の女湯の覗きをしようとしているわけで。

「でも、こどもはいいでありますなぁ~」

「トロロには前回悪いことをしてしまいまったからね」

「トロロもこれでしばらくは静かにしてるといいっスねぇ~」

 

 その頃、隣の女湯では……。

「トロロ、そんな隅にいないで、こっちに来たらどう?」

「……」

「なに、いっちょまえに恥ずかしがってんだよ」

「……っ///」

 女性2人から近付いて来ないことを祈る少年の苦悩は、まだまだ続く……。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』7作目です!一応フリー配布小説ですので、もし「いいかも」とおもってくださった方がいらっしゃいましたら、貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想を頂けたら、狂喜乱舞いたします!!(最後までずうずうしいままでした)

| | コメント (0)

いち輪花

 ソーラーバイクに乗せてくれたお礼にと冬樹が選んだのは、ファーストフードでのお昼ごはんだった。

 週休2日制になって久しい今日この頃。部活も休日は休みなので、冬樹の土曜日は大抵フリーであることが多い。

「だから、もしよければ今週の土曜日、秋葉原に行かない?」

「クックック……ま、いーケド?」

 ――律儀な奴だな、どっかの誰かさんと違って。

 その『どっかの誰かさん』が、一体誰を指しているのかがすぐに分かってしまって、冬樹も思わず、プッ、と笑ってしまった。

 まあ、何はともあれ、こうして約束は成立したのである。

 

 「―――と、いうわけでぇ、それがフッキーの『先約』なんですよぉ」

 いつものように日向家に遊び(?)に行って戻って来たタママは、本日の実りの無い会議中になされた話を桃華に報告。

 明日の会議は、クルル不在で無しと言うことが決定したとき、あのギロロでさえ文句を言わなかった。何だかんだで、小隊メンバーはクルルにも、そして冬樹にも甘いのである。

 タママも、冬樹とクルルが出かけることに関しては、まあせいぜい『2人共、結構仲いいですぅ~』ぐらいにしか思っていなかったのだが、どうも桃華はそうはいかなかったらしい。

(……冬樹君と、2人きり……)

 今日の放課後、勇気を絞り出して玉砕した記憶が蘇ってくる。

『あ、あの、日向君……っも、もしよろしかったら、明日、うちに来てくださいませんか!?』

 そして、一緒にお茶会でも……と、言葉を続けるつもりだったのだが、そこで上目遣いに見た冬樹の表情は、少し困ったようなもので……。

『日向君……?』

『ごめん、実は先に約束をしてるんだ。折角のお誘いで悪いんだけど……もしよかったら、また今度……』

『あ、ご、ごめんなさい!あ、そ……それでは……!!』

 ―――回想終了。

「モ。モモッチ……?ひぃ!!」

 ジャキンッ!と、そこで桃華のツノがたった。

 思わず後ずさったタママを気にすることなく、完全に裏化した少女は、いつのまにか現れた執事を連れ、ズンズンと玄関を出る。

(冬樹君と2人きり……冬樹君と……)

 そして、すぐにやってきた自家用車に乗り込むと、鬼神のような形相で、ギン!と正面の硝子を見据えて吼えた。

「冬樹君と2人っきりになんてさせてたまるかぁぁぁ―――!!ポォールゥゥ――!!」

「はいっ桃華お嬢様ぁぁぁ―――!!」

 

 そして、次の日。

「……え?」

「……」

 程好く曇った、なかなかにいい天候に恵まれたお出かけ日和。駅に着いた冬樹とクルルは、『本日秋葉原停車の列車は運休します』という電子板に瞠目した。

「どうしたんだろう?……事故でもあったのかな……?」

「―――そういうワケじゃねえみたいだがなぁ……」

「?」

 持ち歩くタイプの小型パソコンでハッキングを行ったクルルは、にやりと嘲笑を浮かべ、次いでちらりと駅の駐車場に停まっている車に視線を向ける。

(よくやるぜぇ~……クーックックック……)

 秋葉原停車の電車がない、というのは、もちろん西澤家の仕業である。

 大方、タママかこの少年辺りが喋ったか、お得意の盗聴等ででも知って、先回りをしたというところだろう。どうせなら、その分の労力を、この少年を手に入れるために使えないのかと、クルルはおかしくてしょうがない。

(ツメが甘い)

 そもそも、自分と冬樹が一緒に出かけるのに、妙な勘繰りをしている時点で間違っているのだが、そこは敢えて貶すつもりも嗤うつもりもなかった。

「でも、どうしようか……?」

「あー?」

「少なくとも、お昼ご飯は決めなくちゃね。クルルは何がいい?」

「別に、何でも」

「うーん……」

 そうは言うものの、まだ昼食にはかなり早い時間で、冬樹はあまりお腹が空いていない。

 少しお店を見てからにしようと言って、早目に家を出てきたことが裏目に出てしまったようだ。

(うーん……でも、曹長外にずっと居るのとかは好きじゃないよね?)

 公園などで時間を潰すといったパターンは却下。

 さて、どうしようかとなった時、にゅっと影が1つ伸びてきてとっさに顔を上げると、見知った人物が隣に立って並んでいるではないか。

「サブロー先輩!」

「やあ。2人共、どこかへ行くところ?」

「あ、それが……」

 かくかくしかじか。

 冬樹は今の状況を説明し、サブローは時折相槌を打ちながら話に耳を傾けている。途中、クルルと彼の目がパチッと合い、クルルの視線がかすかに外の車を示したことから、サブローは冬樹よりも正確に現状を理解したらしかった。

「成る程ね……」

「ところで、サブロー先輩はどこへ行く予定なんですか?」

「んー……秋葉原に行くつもりだったんだけどね。この後の予定は、2人共決まってるの?」

「あ、まだ……」

 言葉を濁す冬樹に対し、サブローはニッコリと非の打ちどころの無い笑みを浮かべ、言葉を紡ぎ出す。

「じゃあ、よかったら2人共、うちに来る?丁度、作り置きのカレーもあるし」

「え、でも……」

「途中でお菓子とかジュースでも買ってさ。たまには3人で昼食とおやつっていうのも、賑やかで楽しくない?」

「クーッ、よく言うぜぇ」

「あはは!」

「えっと……じゃあ、クルル。秋葉原は、また今度改めてでもいいかな?」

「りょ~かい」

「じゃあ、決まりだね。行こうか」

 そして、さり気なくクルルの左隣に移動したサブロー。ちょっと珍しいトリオは、そのまま周囲の注目を集めながら、横に並んでデパートに向かっていった。

 

 土曜日ということもあって賑やかな食品売り場。

 いくつかのお菓子を選んで、ちょっと大きな1リットルのペットボトルをカゴに入れて、「これは僕が買います」と言った冬樹が会計レジに並んでいる。列に一緒に並んでいても邪魔なので、2人は少し離れた通路側に移動していた。

「わー、やっぱり来てるね~」

「ク……白々しいなぁ、サブロー?」

 冬樹の後ろの方に、一応変装したブルジョア(桃華)と執事(ポール)が居ることに、当の冬樹は気付いていない。気付いている2人は、敢えてそのことを伝えるわけでもなく、ただ「よくやるな~」くらいにしか思っていない。

「まあ、あの子も人を見る目はあると思うけどね」

 サブローも、冬樹のことはいい子だと思うし、おもしろい子だとも思っている。それはサブローのなかなかいい誉め言葉だ。

 だから、彼を好きになった女の子を変だとは思わないが、今回のことは少々やりすぎだと思っている。

(冬樹君は、純粋にクルルにお礼がしたかっただけだろうし)

 クルルは何も言わないが、今回の秋葉原行きについては、何だかんだで楽しみにしていた節がある。

 だから、せめてというか。

 冬樹の本来の目的からは外れるものの、好物のカレーをプレゼントしたいなぁと思ったのだ。

(やっぱ、喜ばせたいよね)

 楽しいこと、嬉しいこと、優しい気持ち。

 冬樹はそれをとても上手にクルルに渡すことが出来る。だから、自分も。

「何ニヤニヤしてんだよ」

「え~?うん、まあね。でも、今のクルルってひょっとして『両手に花』っていう状況なのかな?」

 ホラ、と言えば、確かに冬樹とサブローという異性2人に挟まれているわけで。

 それは、いつものように単なる言葉遊びとしての軽やかさを持っていたため、クルルもまた、フッと皮肉の笑みを浮かべて口を開く。

「自分で言ってりゃ世話ねえな」

「そう?」

「それに……」

「?」

 

 両手に花、ではなく、

 彼ら2人の手に、1輪の花がある

 

 これもまた、クルルにとっての冗談であったのだが、あながちそうとも言い切れないもので。

 こんな軽口を叩けるくらい、自分たちの関係は強いのだと、自惚れろとでも言うような。

(……やっぱり、まだまだかなぁ……?)

 己の未熟さと言うか、そんなことをちょっぴり感じつつ、カゴを持ってきた冬樹の手伝いをする。

 ビニール袋は2つ。

 冬樹とサブローが1つずつ持って、サブローは茶目っ気たっぷりに、

「僭越ながら、エスコートさせていただきます」

と空いている方の手を差し出した。

 悪戯っ子のその言葉に、クルルもまた可笑しそうに悪乗りする。

 重なった手。

 そして、本日初めて、クルルは後ろの少女に対し、しっかりと振り向いた。

「クルル?」

「何だよ」

「んー……ううん、ちょっとね」

「いい根性だなぁ」

「2人とも、どうかしたんですか?」

「ううん。何でもないよ」

 何でもないという言葉を呟くと、いつのまにかあの2つの気配は遠ざかっていった。

 

 「お嬢様……」

 「―――今日は、悪いことをしてしまいました……」

 ポツリと零れた言葉と一緒に、涙も零れそうになった。

 それを何とか我慢して、ぎゅっと服を握り締める。

 

 これから3人は、とても楽しくご飯を食べるのだろう。

 

 (――――キレイ)

 わかって、いるのだ。

 友人同士という関係だと、分かっている。

 本当は、冬樹君とクルルさんのことも分かっていたのだ。

 だから、とても羨ましくて……。

 

 『お前は、トモダチになりたいのかよ』

 「……」

 ―――どうしたら、伝えられるのでしょう……。

 『―――おい』

 もう1人の自分が、きっと怒っている。

 

 (……ごめんなさい……)

 

 沢山沢山、沢山謝って、それから……。

 今度こそ、もう一度、大好きな彼をちゃんと誘おう―――。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』6作目です。この小説はフリー配布となっておりますので、もしよろしければ、ずずいっと貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想等をいただけたら、とても喜びます!(ずうずうしいままで言い訳の余地もありません……)

| | コメント (0)

いつか終わるものを見てる

 トロロの見張り兼子守役として地球を訪れたタルルは、いつものごとく始まったトロロとタママの言い争いを、金髪麗人と共に、少し離れたところから見ていた。見守っている、などと言えば聞こえはいいが、これはいわゆる傍観――完全放置というもので。

 しまいには、タママがタママインパクトを放ちそうなくらいにヒートアップしていったため、巻き添えはごめんだと2人ともどちらとも無く部屋から出て行った。

「……あの、クルル曹長」

「何だよ」

「今日は、師匠と何をする予定だったんスか?」

 本当は、別にそこまで強く『知りたい』と思ったわけではなかったけれど、いい加減言い争いを一方的に聞くばかりだった退屈さから、つい言葉が口から出てきたのだ。そして、何だかんだで相手もそんな感じだったらしく、この他愛もない話題に付き合ってくれるつもりらしい。

「この間のゲームの改造版。ガキは懲りるってことをしらね~らしいなぁ……?」

 クーックックック……という、この人独特の嗤い方。

 ゲーム、という単語から、3日前のタママとの通話が思い出される。

(確か、小隊メンバーで訓練シュミレーションゲームをやって……ゲームプログラムが暴走して大変だったけど楽しかった……みたいなことを師匠が言っていたような……。それのことっスかね?)

 いつもなら、タママとゲームのことを話すことは無い。タママは訓練用などの肉体を使った格闘系シュミレーションゲームが断然お気に入りで、タルルはシューティングゲームが好きだ。趣味が合わないから、話していても噛み合わなくて、何となく避けるというほど大げさなものではないにせよ、進んで話すことではなかった。

『タルルも今度、やってみろよ。すっげー楽しいからさ!』

 思わず、頷いてしまうような、そんな言い方で……。

「師匠、この間のシュミレーションゲーム、とても楽しかったって言ってたっス」

「クック……相変わらずだな」

 どうやら、クルル曹長は師匠がシュミレーションゲーム派だということを知っているらしい。

「クルル曹長は、コレがイチオシっていうゲームタイプとかって何っスか?」

「ま、どれもテキトーな暇つぶしだぜぇ?」

 どうやら、特にコレ、というものはないらしい。

 言われてみれば、何となく彼女はそんな感じだ。

 大体のゲームをして、そのどれも無難にこなす……どころか、トップレベルのスコアを叩き出しそうな感じ。

 それは、きっとゲームなどの世界が、クルル曹長の領域だから。

(……どーでもいいものは、本当にどうでもよさそうっス……)

 ―――例えば、『恋』なんてものは、やっぱり『どーでもいい』方に入るのだろうか?

 ふと、そんなことを思ったのは、ついさっき部屋にいた間に、何回かトロロと目が合ったからだ。

 その目に、師匠がいつも宿しているものの気配を見つけて、真っ先に感じたのは、『呆れ』そのもの――。

(……オイラに嫉妬してどーするんスか……全く……)

 そりゃあ、クルル曹長の見た目は綺麗だし、世間話をするのも結構いいなあとは思うようになったが、だから恋仲になりたいとか、そういった思いを抱く対象ではない。世間話をするようになったのは、こうして師匠とクルル曹長が約束をしている時に遊びに来てしまって、あの2人が喧嘩をするからなのであって……。

 嫉妬なんて、八つ当たりもいいところだ。

(師匠は、トロロのこと邪魔する気満々っスけど)

 別に、師匠もそういった目でクルル曹長を見ているワケではないと言っていた。ただ、この今の世界が気に入っていて、そこにトロロが入り込んでくるのが嫌なのだと……だから、邪魔するのだと、そう言っていた。

 まあ、自分の身の潔白説明文にもう少し理由を付け加えるならば、今は恋愛よりも楽しいものがあるので、それでいいと思っているというところか。

(……クルル曹長の場合はどうなんスかね……?)

 明らかに、トロロのことをそうした恋愛対象として見ていないことは、すぐに分かる。無視しているわけでも、嫌っているわけでもなく、本当にただ恋情がこれっぽっちも含まれていない好意を何となく向けてることが、傍目にも明らかで。

 まあ、それはいい。

 しかし、毎回毎回、報われない一方通行の子どもの一途な片思いを見続けるのは、そろそろ居たたまれなくなってきた。

(もし、クルル曹長がまだ恋をしていないなら、いつかトロロにもチャンスはあるんスかねぇ……?)

「―――あれ?クルル殿、タルル殿……?」

 ふと、自分の名前を呼ばれて声の方向に視線を向けると、蒼い髪の女性のようなケロロ小隊のアサシン―――えっと……。

(な、何かいつもゾルル兵長が言っていたような気が……)

「どうしたのでござるか?」

「別に。ちなみに、隊長なら今いないぜ?」

 何でも、今日は買出し当番と言うことで、ついさっきケロロ軍曹はスーパーに出かけていて不在。しかし、その青年の目的は違っていたようで、隣のクルル曹長に向かって一言、ふんわりと言葉を紡ぎ出していった。

「では、今日の5時に迎えに来るでござる」

 

 ……。

(……今の言葉って……うっわー……)

 ……わかって、しまった。

 何か、分かってしまった。

 蒼い暗殺兵の、少し照れたような柔らかな表情、そして台詞―――。

 そして、かすかに、ほんの一瞬だけ見えた、クルル曹長の表情……。

 つまりは、そういうことなんだろう。

 ―――何だか、知る必要の無い、できれば知らないままでいたかった現実を突きつけられた気分だった……。

(……どーせなら、トロロの前でやって欲しかったっス……!)

 どうして自分が、こんな風に胸を痛めなくてはならいのか。

 誰に文句を言えばいいのか教えて欲しいと呪ったところで、だれも答えてはくれないのだけれど……。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』5作目です。これはフリー配布小説ですので、もし何かが琴線に触れることがありましたら、どうぞずずずずいっと貰っていただけましたら幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想等を頂けましたら、力の限り喜びます!!(ずうずうしくて、本当に申し訳ありませ……)

| | コメント (0)

つらい、いたいと言えないように。

「でも、本当にクルルがバックアップを取っておいてくれて助かったであります」

 そうでなければ、また1から基地も作り直しになっていたし、こうして再び日向家の皆と話せなかったかもしれない。そんなケロロの言葉に、ギロロやモアも頷いている。

 しかし、当のクルルは未だに日向家の塀の上。

 そして、クルルを見上げる少年が1人、にこにこと笑っている。

 

 今回、健康診断での一時帰還を『完全撤退』と勘違いしたのが、そもそもの始まりであった。

 撤退後は、地球上すべてからケロロ小隊の痕跡は消さなくてはならない。

 その軍法に従って、クルルの作った記憶・痕跡消去装置により、1度それは実行された。

 それを命令、もとい合図をしたのはケロロ。ボタンを押したのはクルル。

 そうして、基地が消えていく様を全員が見届けた。

『さよならであります……』

 例え、皆が自分たちを忘れてしまったとしても、自分たちが忘れない―――そう言って、彼らは去り……。

 そして、『完全撤退』ではなかったため、健康診断が終わってから再び彼らは地球にやってきたのだが。

 何せ、もう今までの思い出や小隊基地は全部消去されているため、さてどうしようか、と少し途方に暮れていたところ。何と、冬樹の記憶は戻ったと言うことが判明。そのため、クルルが取っておいたバックアップデータで、全ては元通り。

 めでたしめでたし。

「―――と、素直にいっとけばいいのによぉ~」

「うーん、それは無理かな?」

「クック……しつこい奴は、引かれるぜぇ~?」

「強引さはある程度必要だよ?」

 どうも、今回は引くつもりがないらしい。

「取り合えず、そこから降りない?ちょっと危ないしさ」

 そう言って、当然のように差し出された手を取ったのは、気まぐれと言うものだろう。足が地面につくと、その手はあっさりと離れていったが、それとは裏腹にココからこちらを解放するつもりはないらしい。洗練されたDJ用の笑みが、そういっていた。

(コイツの記憶だけ、ちょっとくらいいじっておいてもよかったかもな)

 大体、記憶消去15分前から、今までの30分くらいの分。まあ、そんな仮定は何の意味もないと、そのまま廃棄したが。

(さーて……どうすっかなぁ~……)

 この男が何を聞きたがっているのか。

 むしろ、何を言いたいのかは、大体伝わってくる。

 が、それにいちいち素直に答えてやるなんて面倒くさいし、自分らしくない。ならば、テキトーにはぐらかしてもいいか、とぼんやり考えた。

「ね、クルル」

「あー?」

「わかってるんだろ?」

 ―――俺が、聞きたいこと。

 視線は合わせずに、それでも唇は弧を描いたままで言葉を紡ぎ出す。

「さーな」

「あーあ、相変わらずだね」

「クックック……」

「―――口に、出して、言葉にしたら、答えてくれる?」

「さて、ね……」

「じゃ、駄目で元々。―――記憶を、また消すつもりはあるの?」

 ―――1つ、想定外。

 ずいぶんと……そう、夏美にあしらわれた時のオッサン級に、情けないコイツの面を見る羽目になったこと。

 ラジオに顔は関係ないだろうが、コイツの性格の悪さを凡人共用にコーティングする武器だっつーのに、かなりひどいザマだ。

 カメラでも向けておけば良かったかもな。そしたら、後で笑ってやろう、なんてできただろうに。

 だが、まあ、悪くは無いのかもしれない。

 馬鹿な奴らは、嫌いじゃないから。(そうじゃないと、俺はココにいないだろうから)

 ちらりと首を回せば、塀の向こうの連中も、影の薄いアサシンも、感動のご対面に夢中。

 ごそごそとポケットに突っ込んでおいたアンチバリア強化版を取り出して、サブローと俺の狭い周囲を遮断する。これで、この中の様子は一切、外からは認識できない。

「……ケロロたちには、内緒?」

「クーックックック……一応なぁ~」

 困るモンではないが、多分知ったら五月蝿そうだから、と言えば、苦笑い。何だかんだで隊長たちとも付き合いがあるからか、そこら辺は予想がついたらしい。

(ここまで言えば、改めて言う必要は無いのだと思うがねぇ……)

 それでも、コイツはこちらの言葉を待っている。

「……特別に、答えてくれるんだろう?」

「さっきの質問モドキにか?」

「うん」

「今更?」

「今更でも」

「ク……じゃあ、『もちコース』、だぜぇ……?」

 また、今度こそ本当に地球を去る時が来たときには、全てを、記憶と言わず物的証拠もすべて無くして行く。

「……でもさ、冬樹君は覚えていたよ?」

「今度は、アイツにはもっと強力なやつを使う」

 脳への影響だとか、色々ある一線の、もっとギリギリのやつを作ると言えば、もっともっと、笑う。

 下手すれば、日向弟の二の舞になるんじゃないかというくらいに、崩れそうな笑い顔で、笑った。

(―――ま、無くなれば当然、そんなモンも感じなくなるけどなぁ……?)

 コイツに残るのは、多分、あの気だるい退屈さくらいだろう。

 戻ってくる、あの空虚な日常を、テキトーに過ごすのだろう。

 ―――知ったこっちゃないが。

(『いつか』は、マジで、いつ来るのかね~?)

 せいぜい、ノロノロ歩いたりさがったりしていてくれよ、などと、非常に不可解なことを考える自分が居たことは、自分しか一生知らないまま。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』4作目です。この小説はフリー配布ですので、もし貰ってくださる方がいらっしゃいましたら、どうぞずずずいっとお持ち帰りください!報告は任意です。

下のコメントから感想等をいただけたら、かなり喜びます!(ずうずうしくて、本当に申し訳ありません……)

| | コメント (0)

fly and go!!

 スピードの出る、結構いいソーラーバイクを購入したケロロは、それが届くなり大喜びでドライブに出掛けて行った。

 ―――が、飛び出した時いつものごとく日向家の天井をぶち壊してしまったため、戻ってくるなり夏美から厳重注意を受け、バイクも禁止されてしまった。

 没収されてしまったバイクの鍵を取り戻そうと、ケロロは必死に無い頭をフル稼働させ、そうしてようやく1つの結論に達した所……。

「夏美殿もソーラーバイクの良さが分かれば、きっと鍵を返してくれるハズ!!名付けて、『朱に交われ!つーか、バイクに嵌めちゃえ大作戦!!』であります!!」

 はい、突っ込むところしかなくて突っ込めねー。

 そして、いつもなら「そんなくだらんことばかりしていないで、真面目に侵略を進めろ!」というギロロは、

「で、我輩は今バイクが使えないから、夏美殿とドライブの役はギロロ、ヨロシク!」

というケロロの策略により、あっさり籠絡された。今はもう、夏美を乗せて何処へ行くかを考えることに一生懸命である。

 

 そして、何とか夏美を誘うことに成功したケロロたち。

「でも、晴れてよかったね」

「全くであります!やっぱり、バイクに乗る日は、こんな感じにいい空が広がっている方がいいでありますなあ~」

 約束の土曜日は、夏と秋の中間くらいのいい晴れ具合で、絶好のドライブ日和だった。何だかんだで、朝からお弁当を作ってみたりと張り切っていた夏美を乗せ、ギロロのソーラーバイクが空を飛んでいくのを見送る冬樹たち。

「……いいなあー、姉ちゃん……」

 ポツリ、と本人も無意識に呟いたのであろう台詞を耳ざとく拾ったケロロは、

「んじゃ、冬樹殿も行って来るといいであります!」

と、二カッと笑った。

 同い年かと思うくらい幼い笑顔に、冬樹は目を大きくして、次いで言葉を濁す。

「でも、軍曹、今バイクの鍵が無いんじゃ……」

「いやいや、我輩じゃなくて―――お、丁度いいタイミングであります!」

「?」

「クルルー!冬樹殿もー!!」

「え……?」

「クッ……りょ~かい」

 そんな言葉と共に、フワリと屋根の上の方から、バイクに乗ったクルルが降りてきた。

 どうやら、こうなることを見越していたケロロがあらかじめ頼んでいたらしい。

 赤と黒の炎が描かれたギロロのバイクとは違い、クルルのバイクは濃紺のシンプルなモノだ。機体と同色のヘルメットを被った少女は、いまいち状況を飲み込めていない冬樹にニンマリと笑い、ポイっとピンク色のヘルメットを投げて寄越した。慌ててそれを落とさぬようにキャッチした少年の様子を確認し、指先の部分がない手袋をはめた白い指が、くいっと後部座席を指す。

(乗れ、ってこと、かな?)

「ササ!ずずいっと行ってらっしゃいであります!」

「え……ちょ、軍曹!?」

 いつものことだが、ずいぶんと強引な展開に何とかブレーキをかけようとするものの、あれよあれよという間に後部座席に乗せられ、カポッ!とヘルメットを被せられる。

「つかまっとけよぉ?落ちるかもだしなぁ~」

「え、う、うんっ」

「じゃ、いってらっしゃ~いであります!」

 ケロロの言葉が終わるか終わらないかくらいで、ヴンッ!とバイクが地面から上昇し、次いで、ブワァ―――っと、風を切って前進した。

 そこまでスピードを出しているわけでは無いのだろうが、これは本当に掴まっていないと吹き飛ばされて地面に落ちてしまうかもしれない。一言断ってからクルルの腰に腕を回すと、ようやく人心地が戻ってくる。

「――――わぁ……っ」

 

 ふと、下を向けば、遠くに地面が見える。

 そこに広がる景色に、家の並びや商店街、公園や丘などに、改めて今自分たちが空を飛んでいるのだと実感。

(軍曹や曹長たちの星では、これが当たり前なんだよね……)

 地球にも、飛行機や宇宙船といったものはあるけれど、それらはこうして、日常で『ちょっとドライブ』という感覚で乗れるものではない。そう思うと、やはり自分たちは広い宇宙の中でも、ずいぶんとちっぽけな存在なんだなぁ……などと思う。

 車が空を走る未来なんて、きっとまだまだやって来ない。

 バイクを運転するクルルの髪は、どうもすべてヘルメットの中に入っているらしい、なんて他愛もないことを思って、ふと疑問に思ったことを口にする。

「―――ねえ、クルル。どこに行くの?」

 風に流れてしまうかな?という心配は杞憂だったようで、しかし流石に振り向くということはなく、ヘルメットに阻まれたくぐもった声が、楽しげに笑う。

「ちょっとそこまで」

 ―――それは、特に目的なし、ということなのだろうか?

 いつもよりも、何だか女の子みたいな喋り方でそんなことを言うクルルは、そのままのスピードでバイクを走らせる。可愛いというよりも、キレイだな、と思う。

(……でも、そういえば、何でピンク色なんだろう?)

 渡されたヘルメットは、何故クルルのものと同じ色でもなく、ピンク色なのだろうか?

 今更といえば今更な疑問を残しつつ、2人乗りのバイクはどんどん走っていく。

 一体どこに行くのかと、一応は気になるものの、好奇心旺盛な冬樹は、あまりそれ以上細かいことは気にしなかった。

 

 そして、夕日が沈み始めた頃に戻って来た2人を、上機嫌なケロロが出迎える。

 ギロロと夏美はまだ帰って来ていないのだと言い、クルルに何かを言ったかと思うと、少女は珍しい類の笑みを浮かべて、ソーラーバイクに再びエンジンをかけ始める。

「曹長」

「あ?」

「今日はありがとう。とっても楽しかったよ!」

 また今度、お礼にご飯でも奢るね、と言えば、いつものように彼女は笑ってみせた。

 そして、そのままフワリと屋根の上に浮かび上がる。

「ヘルメットをしているから分かり辛いでありますが、クルルの髪って、夕日に照らされると、とてもキレイなんでありますよ」

「うん」

 ケロロの言葉は、優しい穏やかな響きで、冬樹は短くそれに同意した。

 ケロロたちが、クルルを大切にしているのはすぐに分かったため、さまざまな意味で冬樹は今日のドライブはいい思い出になりそうだとケロロに報告する。

「ゲロゲロ。それはよかったであります!」

「軍曹も、ありがとう。もうすぐ姉ちゃんたちも帰ってくるかな?」

「んー、ま、そろそろでありますかねぇ~……何せ、どーせ何にもギロロは言えてないでありましょうからなぁ……」

 その時、まるで図ったかのようなタイミングで、あの鮮やかなバイクが空に見えた。

「―――おかえり!」

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』3作目になります。これはフリー配布小説ですので、もしお気に召していただけたら、ご自由に貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想等をいただけましたら……。(ずうずうしくて申し訳ありません……)

| | コメント (0)

ねえ、知ってる?

「トロロ、入るっスよ」

 一応一言断ってから入室すると、予想通り、年下の少年兵は巨大なコンピュータ画面の前の椅子に座っている。どうも、タルルが入ってきたことに気付かないくらい集中しているようだ。

 しかし、その巨大なディスプレイには光りがついておらず、コンソールパネルに置いたノートパソコンの画面を少年は注視しているらしい。

(何をやっているんスかね?)

 好奇心で画面を覗き込もうとすると、ようやくこちらに気付いたトロロが、

「見るな!!」

と言って、画面をかばうように体を割り込ませてきた。しかし、あまりにも勢い良く身を乗り出したため、未熟な筋肉では自分の体を支えきれず、そのままディスプレイを巻き込んでコンソールパネルと正面衝突――!?

「危ない!」

 ――は、寸でのところでタルルがトロロを支えたことで、何とか免れることが出来た。

 しかし、その時遮るものが無くなったタルルの視界には、バッチリノートパソコンの画面が入り込んだ。その宛名の名前は、タルルも知っている。

「―――クルル曹長に、またメールを送ってたんスね……」

「っう、うるさい!見るなヨ!!」

「見えたんスよ。……トロロ」

「な、何ダヨ……」

「クルル曹長は、本部からの仕事とかもあって忙しいんスから、あんまり邪魔しちゃ駄目っス」

「っ邪魔なんて……!」

 してない、と呟く声に、力は無い。タルルは改めて溜め息を吐いた。

 そして、これ以上このことをこの場でとやかく言う事はやめ、代わりに伝言を口にする。

「隊長から召集がかかったっス。15分後にC10に集合だそうっスよ」

「―――了解」

 震える声で、それでも返された言葉に苦笑し、そのままタルルはトロロの部屋を後にする。おそらく、もうすぐこの子どもは大喜びするだろう、と思いながら……。

 

 ガルル小隊に下った任務。

 それは、地球侵略の途中視察であった。

(地球、に……!)

 それは、ケロロ小隊が駐在している辺境の星。

 そして、アイツがいる場所―――。

「よかったわね、トロロ」

「―――っな……!?」

 唐突にそんなことを口にしたプルルは、いやに嬉しそうだ。それに便乗してなのか、タルルもニヤニヤと口を開く。

「顔が赤いっスよ」

「―――っう、うるさいうるさい!!そんなんじゃないシ!赤くなんてないシ!!」

「……赤、イ……ゾ……」

「うるさぁーい!!!」

 というか、今の今まで忘れていた、と叫んでやれば、案の定灰色の男はどこかに消えてしまった。

 ガルルは、散々からかわれる様子を見ながら、あくまでにこにこと微笑んでいる。

「詳しいスケジュールは追って連絡する。それでは、解散だ」

 

 そして、トロロは再びコンピュータの前に座り、メールを開く。

 『チャットメール』という、リアルタイムで会話している感覚で文章を打ち込んでいく、2人用の掲示板といった感じのものだ。

(今は、大丈夫みたいだシ……よし)

 相手のパソコンに、チャットメール開始の合図を送ってから、最初の1文目を打ち込む。

「>今度、地球に行くことになったヨ」

 カタタンッ!とエンターキーまで一気に弾くと、すぐに返事が並んだ。

『>そーかよ』

(短!?)

「>何!?そのテキトーすぎる返事(`Д´)/」

 さっきよりも乱暴にエンターキーを押すと、またすぐに返事。

『>応えてやってるだけ、ありがたいと思え』

「……」

 認めたくは無いけれど、これは、少し……いや、それなりに、落ち込んだ……。

(……ふこーへー……)

 メールはいつもこちらから。

(だって、アイツはボクにメールをくれない)

 追いかけるのは、いつもこちらばかりで、相手は絶対、『構ってやってる』なんて認識だ。

(……むー……)

 その後、何回か文章をやり取りして、自然にクル兄が文章を打つのを止めた。チャットメールの終わりは、いつも向こうが決める。

 自分が追いかけなかったら、切れてしまうと分かるこの関係を続けるためには、追いかけ続けるしかない。

(……クル兄には、わかんないだろうケド……)

 こんなに、自分はくやしいのに―――。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』2作目です。この小説はフリー配布ですので、万が一貰ってくださる方がいらっしゃいましたら、お気軽にどうぞ!報告は任意です。

下のコメントから感想等をいただけましたら、とても喜びます!(ずうずうしさは本日も続きました……) 

| | コメント (0)

僕らの美意識

 ジリリリリ! ジリリリリ! ジリリリボチン!!

「……んむぅ……」

 眠い。

 途方もなく、眠い。

 力を振り絞って目覚まし時計を止めてから、もう一度布団を被る。

(せめて……あと、5分は……寝たい、ですぅ……)

 お決まりの台詞を心の中で呟き、タママは再び眠りの世界に足を沈めていく。

 ―――カチ。

『エマージャンシー、エマージェンシー』

「……ふあ……?」

 突然、物騒な言葉を目覚まし時計が喋り出したことに、一応意識は少し戻ってきたが、完全覚醒とはいかないらしい。間の抜けたタママの声など気にもかけず、目覚まし時計は淡々と役目を遂行するように言葉を続ける。

『この目覚まし時計は、あと5秒で爆発します。至急避難して下さい』

「――――っ!?」

『……3、2、1―――』

 どっかーん!!(古典的)

 

 ズダダダダダダンバン!!!

「クルル先輩!」

「クックックー……よかったなぁ?朝、起きれたじゃねえか」

 文字通り、全身真っ白の粉まみれになってやって来た僕を見ても、クルル先輩は涼しい顔をして笑っている。これっぽっちも『悪い』なんて思っていないだろうその態度に、むかっ腹が更にムカムカしてきた。

 だから、持ってきた、この白い粉を噴出した目覚まし時計をズイッと突きつける。それでも謝罪の言葉なんてなくて、「動いてるし、時間も正確だろぉ~」なんて言ってきた。

 いくら、ちょっと寛大な僕でも、我慢の限界があるですぅ……!

「ひどいですよクルル先輩!僕の目覚まし時計に、チョークの粉の爆弾を仕込むなんて!!」

 そう、この白い粉は、チョークの粉。

 爆発して、部屋も僕も真っ白にしたくせに、自分だけは何か加工がされているのかそのままの目覚まし時計が、何となくこちらを嘲笑っているような気がする。

「お前が、朝起きれないからどーにかしろって俺様のとこに持ってきたんだろーが。だから、ちょっとしたオプションをつけてやったんだぜぇ?」

 ちなみに、クルルがつけたオプションを改めて説明すると。

 まず、目覚ましがなっているのに1分以上音を消すためにボタンを押さなかった場合。

 次に、目覚ましに内蔵されている映像認識システムにより、持ち主が二度寝をする体勢になった場合。

 以上の2つの場合に、内蔵されたチョークの粉が噴出するという仕組みになっていた。

 流石に、いきなりチョークの粉をぶちまけられれば、驚いて眠気もすっ飛ぶというものだが……。

 まあ、確かにタママは起きた。

 全身、チョークまみれになって。

「た、確かに頼んだのは僕ですけどぉ~……でも、コレはいくらなんでもあんまりですぅ!!」

「ちょっとやそっとじゃ起きねえだろ~?それに、お前はどーせ朝風呂に入るんだから問題ねえよ」

「そりゃあ……」

 タママは、夜寝る前と朝起きてからの2回、シャワーを浴びたり、お風呂に入ったりしている。

 それは、こうして本星を離れて戦地に赴いても変わらない。

 そのこともあって、朝は早く起きないと間に合わなくなるのだが、タママはかなり睡眠時間が長くないともたない方で、しかも寝起きがすんごく悪かったりする。以前、起こしにきてくれたケロロを寝ぼけて黒焦げにしてしまい、しかもミッションの合流地点に時間通りに到着できず、シャレにならない事態になったことがあった。

 あの時は何とか他の面々の機転によってどうにかなったけれど、同じ失敗を繰り返すわけにはいかないと思い、きょうこそはちゃんと起きよう!と思ったのだけれど……。

 ちゃんと起きれたのだが、これは……。

(クルル先輩に、お礼は言えないですぅ……)

 これで『ありがとう』を言える人物がいたとしたら、それは、マゾか天然か上をいく皮肉屋に違いない。

 取り合えず、それ以上の問答を諦めてシャワー室に向かい、体を洗って髪も整え、干しておいたアイロンもかけ済みの隊服に袖を通す。

 鏡の前で、変な所が無いかを確認しつつ、ふと以前、ギロロ先輩が言っていたことを思い出した。

『ずいぶんとお前は、格好に気を遣うのだな』

 まあ、どうせ戦闘になれば血みどろになって泥まみれになるのだ。どれだけ完璧にしても、すぐに汚れてしまう。きっと、あの3人は何度もそんな経験を自分より沢山繰り返してきたのだろう。

(でも、これは譲れないですぅ)

 例え汚れるとしても、綺麗でいたい。

 殺していく敵に、そして自分に対する、礼儀として。

(―――さて、と)

 さっき、いろいろ文句は言ったけれど、『コレ』は日課と言うか、戦いに赴く前の儀式のようなものだから。

 もう一度、鏡に映る姿を確認して、クルル先輩のテリトリーへ向かう。

「クルル先輩!準備できました!」

「へいへい。ほらよ、通信機」

「つけてくださーい!」

 戦闘用の通信機は、耳につけるイヤリングタイプのものなのだが、それを自分でつけるとちょっとずれてしまう気がして、いつもクルル先輩につけて欲しいと強請る。先輩は、ちょっと苦笑いしながらちゃんとそれをぴったりの位置につけてくれるから、僕はお礼みたいにきらきらとしている伸ばしかけの金髪にキスをした。

 ギロロ先輩に知られたら、きっとすごく怒られるようなこと。

 でも、当のクルル先輩は唇とか手とかじゃないから良いみたいで、特に何も言わない。

 だから、これで良いんだと思う。

「合流地点は、D16ですよね?」

『ああ』

 短い肯定。通信機は、大丈夫。

 そのまま飛行ユニットを展開させて、秒読みを待つ。

『ゲート、開放』

「行って来ます!ですぅ!」

 そして、この星の空に向かって、ビュンっ!と飛んだ。

 この後、軍曹さんたちと合流して、きっと今日は戦闘になる。

(できるだけ、はやく終わらせて戻りたいですぅ……)

 今基地にはクルル先輩しかいない。

 あの人が簡単にやられるということはないだろうけど……きっと、早く帰るのに越したことはない。

 帰ったら、ただいまと言って……お風呂はそれから入ろう。

 

 《終わり》

『年下の男の子祭り』1作目はタママとクルルです。こちらはフリー配布小説ですので、もし貰ってくださる方がいらっしゃいましたら、ずずずいっと……。報告は任意です。

下のコメントから感想等を頂けたら、すごく喜びます。(今回のずうずうしいスタートです)

| | コメント (0)

戦いの女神

「そろそろ貴方も、外が恋しいでしょう?」

 せめてもの皮肉は、ずいぶんと薄っぺらいモノだったが――初めてそこで、随分と長い間軍から出ていない事実に気がついた。

(外、ねえ……)

 そうは言っても、これから向かう先はケロン星からそれなりに離れた戦場。つまり、懐かしさも何もあったものではない、見知らぬ場所に過ぎない。しかも、そこへ行く理由は、戦況を劣勢にしやがった前指揮官の尻拭いときたものだ。

(使えねえ奴を送ってんじゃね~よ……やってらんねぇ)

 自分だけちゃっかり既に本部に戻って来た指揮官は、今頃上層部の嫌味でも子守唄代わりに聞いているのだろう。戦場から離れることが出来るのなら、それくらい安い代償だとでも思っているのか……どうでもいいことだが、勝手に脳がそんなことを考える。

 今回、戦争を起こしたのはケロン軍の方だ。

 何をしても手放したくは無い、というわけでもない属星で、バッタバッタと死者――ああ、確か『殉職者』とでも言うんだったか?――の数だけを増やす戦争。珍しくは無い、兵士の『無駄遣い』でしかないもの。

(で、そこに送られるってことは、上手くいけば俺様も始末できるってことか。――クックック……軽く見られたモンだぜぇ……)

 そう易々と死んでやる気は、無い。

 これは、きっと自分の中に残った、唯一の泥臭い、意地のようなもの。

 利用しようとしてくる者、妬み恨んでくる者、自分と言うものを他者に同化させた気になって異端者排斥に混じる者。

 少なくは無いそんなくだらない者たちに、何故自分が死んで安息を与えなくてはならないのか。

(思い通りに何でもできる世の中なんざ、『軍』にはもったいないしなぁ……?)

 ニヤリ、と1人笑みを浮かべ、そのまま空間転移装置のスイッチを押す。……が、その寸前で、ガッ!と手を掴まれた。

「……おい、何すんだよ」

「すみません。間に合ってよかった……」

 目に映るのは、紫と灰色。

 このラボラトリーを臆することなく訪れる稀有な存在たちは、珍しく息を切らせている。走ってきたくらいでは、こんなことにはならない2人の珍しい様子を不審がっていると、顔を上げた灰色が、何かをグイッと押し付けてきた。

「持ッテ……行、ケ……!!」

 咄嗟に押し返す、なんてことは何故かできない。

 押し付けられたものが何なのか確認する暇も無く、何かを振り払うようにボタンを押した……。

 

 そして、その戦争自体は一応ケロン軍の勝利で終わった。

 思惑通りに事が運ばず、明らかに不満そうな上層部のヒヒジジイ共は、その属星との新しい条約の締結だの、今回の戦争相手との賠償金額の交渉だのに付きっ切りになっているらしい。

 置き土産代わりに下りてきた兵器開発の依頼は、大して面白くも無さそうだったため、自己判断でゴミ箱行きにしておいた。代わりに、暇つぶしのウイルスを作ってみたりと、久しぶりのアソビに勤しんでいるのだが……。

 何故か、ケロン星に戻って来ると、妙な男が1人、ラボに押しかけてくるようになった。

 はっきり言って、うっとおしい。

 ……だが、この男はとにかくうるさくて、諦めが悪かった。

 トラップに全部引っかかるくせに、ちゃっかりと生還してきて懲りずにまたやって来る。生ゴミ焼却箱にも落としてみたが、生憎その日はシステム調整が重なり、やっぱり次の日もラボにやって来た。

「ケロロ君が、最近よくここに来ているようですね」

「あ?」

「いえ、ケロロ君とうちの弟が幼馴染みなので、何かと話を聞いているのですが……お会いにならないんですか?」

 あの男の名前くらいは知っているのだが、それが思わぬところで繋がっていることにほんの少しの意外性を感じる。ガルルは、あの男のことを買っているようでずいぶんと褒めちぎっているが……俄かには信じがたい。

「クルルも1度、会ってみたら分かりますよ。彼の奥深さなどが、きっと」

「……」

 

 ついに、いろいろと面倒くさくて、

「一体何の用だよ」

とつっけんどんに口をきいたのは、8日目にあたる。その間、この男は毎日ラボラトリーを訪れたのだ。

 男の容姿は、緑の髪くらいはまあ鮮やかではあるが、これといって特徴の無い、平均的なものだった。

 ただ、実年齢はそこそこだというのに、顔がすごく童顔で、下手をすれば新米兵士に見える。

 一応、階級はこちらが上であるからか、男は改まった姿勢のままで口を開く。

「クルル曹長、先日は、お世話になりました!」

「は?」

「曹長殿自ら指揮を取ってくださった、例の作戦のことです」

「ああ……そ」

 この男もあの作戦に参加していたことは、知っている。しかし、それはただの社交辞令であって本題ではない。ついでに言えば、嬉しくも何ともない言葉で無視してもよかったのだろうが、一応言葉であしらっておいた。

 それなのに、男はむしろ嬉しそうな表情を浮かべてくる。

(……マゾか?)

「……あー、あのですね、クルル曹長」

「何だよ」

「我輩、少し言葉を崩してもよろしいでしょうか?その、―――あまり、コレは、好きではなくて……」

「……構わねーんじゃね?」

 別に、ここはうるさい連中が蔓延る会議室でもない。

 すると、ここにきて初めて男は、腹の中に何かを持っていると分かる笑みで、言葉を紡ぎ出した。

「我輩は、ケロロ軍曹であります。クルル曹長、我輩は、貴方が欲しい」

「―――はあ?」

「近々、我輩は1つの小隊の隊長として、小隊を編成し任務にあたる様、上から辞令が正式に出されることになったのであります」

 だから、と。

「我輩たちの小隊の参謀として、『ここ』に来て欲しいんであります!!」

 

 ―――それは、数奇な始まりの合図……。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』7作目になります。こちらもフリー配布小説となりますので、もし貰ってくださると言う方がいらっしゃいましたら冥利に尽きます。報告は任意です。

下のコメントから感想等をいただけましたら幸いです!(ここまでずうずうしくて、すみません……)

| | コメント (0)

道化師が愛する堕天使

 多くの嘘と、偽りを、吐いた。

 幼馴染みの戦友たちにも、他の仲間たちにも、笑って嘘を吐く。

 そうするしか方法が無いだとか、そうすることが相手を傷つけないのだとか言ってみた所で、虚しさが消えるわけでもなくて……。

(我輩はね、わかんないんであります)

 訓練場に入って、父のように、そしていずれはその父を越えろと言われて。

 隊長の素質があるからと、他の2人よりは少し早く出世したけれど、だからといって、何かが変わるわけでもない。

 所詮、軍人。

 殺して。

 死を喜び、死を悼んで。

 偉くならないと、きっとごみくずの様に捨てられてしまうのだろうと、そんな漠然とした不安はあった。それを打ち消すように、誤魔化すように、繰り返していくことをして。

 弾の当たり所が悪くて、昨日までふざけあっていた友人が死んだ。

 戦争を目の当たりにして、狂った知人たちが溢れかえるテントに、せめてあの赤と青の存在が居たことは、救いと言えば救いだったかもしれない。

 それでも、2人と自分は、肝心な部分が共有できていなかったのだ。

(我輩は、ゼロロみたいに皆分の死を悲しめない)

 敵も味方も関係なく、その死を重く受け止める、弱弱しくしんの通った優しさを自分は持てなかった。

(でも、ギロロみたいには味方の死を悲しめない)

 深く、深く。広さこそ限られつつも、大切な者の死を深く重く悼む、誠実さを失ってしまった。

 半端に、涙も出ないこの擦り切れた感情は、きっと一生救えないのだろうと思う。

 きっと、自分は大切な何かを失う代わりに、この笑みを手に入れたのだ。

(―――かわいた、きもちわるい、えがお)

 気持ち悪い、空っぽの、それでも浮かび上がってくる、笑顔……。

 

 そんな中、流れる日々の中、出会えたことをなんと言うべきだろう?

 

 泥沼化した戦場で、多くの軍人が疲弊しきったそこに、幼い1人の子どもが送り込まれてきた。訓練生よりも幼い、細い体つきの子どもを見るなり、多くの者たちは本部が自分たちを切り捨てたのだと嘆いていたことも、今だから笑える。

 子どもは、疲労の色が濃い自分たちを見回した後、きっぱりと言い放った。

「死にたいなら、さっさと死んで来い」

 ―――と。

(あれは、衝撃的だったでありますなぁ……)

 すぐに子どもは、使える者と使えない者をふるいわけた。怪我人や病人はもちろん後者なのだが、戦うための意思を消失しかけた者たちも、子どもは戦力外としたらしい。

 そして、『使えそう』な者たちの能力を把握し、1分もしないうちにミッションを練り上げ、その結果ケロン軍を大勝へと導いたのだ。

 まあ、もっとも子どもは、その功績を喜ぶことはなかったが……。

 その出会いというか、第一印象があまりにも鮮烈に脳裏に焼きつき、思わず帰還するなり子どものことを調べ上げ、押しかけるように会いに行った。

 4回の門前払い、3回の無視(ラボラトリーの中には入ることができたのだが)を経て、ようやくまともに会話をして、わかったこと。

 擦り切れた心を持つこの子どもは、ひどく自分に近しいのだ、と―――。

 

 近い、近い、近い。

 育った環境も違うのに、近い。

『ねえ、クルル』

『あ?』

『我輩んトコ、来ない?』

 それは、一目惚れだったのかもしれない。

 多くの兵器、武器の母たる少女に、その心の危うさに、手を伸ばさずにはいられなかった。

 

 『好き』

 

 ―――これは、1人の少女に恋した男の、始まりである。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』6作目になります!この小説はフリー配布ですので、もしいいな、と思ってくださった方がいらっしゃいましたら、ずずずずいっと貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想をいただけたら、感慨無量で喜びます。(ずうずうしくて、本当に申し訳ありませ……)

| | コメント (0)

オセロ

「……あのぅ、クルルサン……」

「何デスカ、隊長サン?」

「―――これ、もしかして、我輩が打てるトコ、無くない……?」

 緑の盤上のコマは、ほとんど白。ケロロのコマは黒。そして、今はケロロの番。

「相手に訊いてどうすんだよ」

「いや、だってさ……」

 ついさっき、そう、数分前まではケロロが優勢だった。

 それが、今や黒はほんのいくつかだけ残り、器用にも残された空白には置けないようになっている。置く場所が無ければ、置きようが無い。当然である。つまり、ケロロの負け。

「何で?!どーして我輩ばっか負けるんでありますかー!?」

「この俺様に敵うわけないだろぉ~?ほい、1000円っと」

「ううう……クルル!もう1回であります!!」

「4連敗のくせに、何言ってやがんだよ。アンタ、もう金ねえだろーが」

 ちなみに、これはお金をかけたオセロ勝負で、負けた方が1000円払うというもの。すでに4000円をスッたケロロは、もう手持ちが無いはずだ。

 しかし。

「今度の給料から出すからいいの!」

 ……などと言って、あくまでケロロは引くつもりはないらしい。

 カードを持ったら、確実に破産しそうなタイプの定番の台詞だと笑いながら、クルルは「ま、暇だからいいけどなぁ~……クーックックック……」という感じで、本日5回目のオセロに付き合うことを承諾した。

 

 さて、ここで1度説明を加えておこう。

 本日、ケロロはいつものように日向家の掃除にいそしんでいた。そして、何となく外の天気のよさから気分が良くなっていたこともあり、いつもは手をださないクローゼットの掃除でもしようかと思い立ったのである。

 それには、まあ少しいつもよりも頑張って次回のお小遣いアップに繋がればという下心もあったのだが、ちょっとした好奇心もあった。

(何が入っているんでありますかね~?)

 そして、ガラリと戸を開けた瞬間、ゴイーン!!と実にいい音を立てて、何かがケロロの脳天に直撃。

『っついってぇぇぇぇぇ――――!!!でありまーす!!』

『軍曹!?』

『ふ、冬樹殿……』

『大丈夫?』

『ううう……今のでガンプラの発売日が3個ほど飛んでいったであります……ゲロ?』

 そこで、ケロロは初めて、今自分の頭に落ちてきた物体を見た。

『オセロでありますか?』

『あ、軍曹たちも知ってるの?』

 冬樹の言葉に、ケロロはコクリ、と頷く。ケロン星には、遅れているとか言って地球を見下しつつ、地球製のおもちゃ等は結構出回っているのだ。そのほとんどが少々高額で、なかなか子どもがほいほい買うのは難しいのだが、それでも皆お小遣いを溜めて、とても誇らしげにおもちゃを買っていた。

 そんなケロロの説明を楽しそうに聞きながら、冬樹はこのオセロはだいぶ前に買ったものだと言う。セール品で安かったこともあり、いわゆる衝動買いだったのだと。そう頻繁に遊んでいるわけではないが、今でもたまに夏美やママたちとやっているのだとも。

『よかったら軍曹も好きに使ってね。今度は落ちないように、ここに入れて置くから』

『ゲロ!ありがとうであります!!』

 そして、その後家事を終わらせたケロロは、ここぞとばかりにコレを口実にクルルの元へ。元々、こういったゲームは嫌いではないというクルルは、わりとあっさりと対戦を承諾してくれたのだが……。

 大敗だった。

 もちろん、ケロロの。

 あまりにも完膚なきまでにメッタンメッタンにやられてしまったケロロは、すぐさま雪辱戦を申し込んだのだが、これまたあっさりと断られてしまった。

『ちょっとはマシになってから来い』

 戦闘スキルでは、実践で伸びていくタイプのケロロだが、こうした頭脳面では飛躍的な能力向上は見込めない。何度も似たような戦法で向かってくる相手を負かすだけのゲームには興味が無いと言う。

 そこで、ケロロは『賭け』をしようと提案したのだ。

『負けた方が、1試合につき1000円払うってのはどうよ!?』

 クルルは、こういった背水の陣というか、何かを賭けて挑む相手が嫌いじゃないということは、ケロロがよく知っている。誠意云々といった理論ではないが、何のリスクも負わずに高見の見物を決め込む連中や甘ちゃんが、嫌いだということも。

 だから、クルルはケロロが貴重なお小遣いをつぎ込んできた『覚悟』を一応は認めてくれたらしく、こうしてゲームを繰り返している。

 そして、クルルが全勝のまま、5回戦に入ろうとしていた。

 

 ―――で。

「……………」

「10戦中10敗、オメデトサン」

 バラバラバラっと、オセロのコマを紙吹雪代わりのように散らし落とすクルルの言葉は、鋭利な刃として、ケロロの傷心をえぐっていく。

 それでも、まだクルルの口の悪さに耐性があるケロロは、かろうじて言葉を発する力は残っていた。

「……うう……クルル、強すぎであります……」

「当然」

 元々、こうしたゲームには戦争の作戦参謀としての能力が問われている面もある。

 相手の思考を先読みし、常に最終的な形を考え、あらゆる可能性に対応しなくてはならない。

 本職が参謀であるクルルと、隊長とはいえほとんど実戦戦闘分野が主のケロロとでは、必要な能力も鍛えられる面も違うのだ。

「……しかも、ちっとも手加減してくれないし……」

 手加減してほしいわけではないのだが、ついついお決まりの恨み言を口にすれば、ずいぶんあっさりと、「手加減してやったぜぇ?」という言葉が耳に届く。

 弾かれたように見るクルルの顔には、ケロロを嗤うそれこそ浮かんではいたものの、どうも嘘をついているようには見えなかった。

「……マジ?」

「まじ」

 だから、ここまで時間がかかったし、ケロロのコマもいくつか残ったのだとクルルは言う。

 クルルが得意とするのは、心理戦。

 相手の動揺を誘い、自分に有利な状況に持っていくこと。

 今回で言えば、相手のミスを誘いやすい早打ちに持ち込んでケロロを瞬殺することもできたという。

 もしかして、クルルも自分と一緒にもうちょっと居たいと思ってくれたのかな~、なんて、そんな自分に都合がいいことを思いつつも、今、ケロロが改めて思うことは別のことだった。

(……味方で良かったであります…………いや、本当、マジで)

 もし、クルルが敵だったら――――。いや、それは考えたくも無い。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』5作目です。こちらはフリー配布小説ですので、もし何か気に入ることがございましたら、貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想をいただけると、すごく、すごく、喜びます。(ずうずうしさは、もう直らないなんてことがないように祈っています……)

| | コメント (0)

少女のあしに捧ぐ靴

「ケロロ小隊の初任務だ。―――健闘を祈る」

「はい!」

 上官の執務室で、ついに言い渡された辞令。

 敬礼をして執務室を出ると、廊下で待っていた赤と青の幼馴染みが順番に口を開く。

「任務、だな」

「そ。ついに、ね」

「内容は?」

「ココに全部書いてあるであります」

 そう言って、たった今受け取ったばかりの紙切れを渡す。ギロロとゼロロは、2人でそれぞれの速度でその紙の上の文字列を読むと、義務のように溜め息をついた。

 任務の内容……、まあ、場所とか難易度は、普通だろう。

 難しすぎず、簡単すぎず。小隊の能力を計るにはなかなかいい戦場だ。

(油断は禁物でありますがなぁ~)

 ちなみに、小隊自体はだいぶ前に編成済みだったのだが、今までは全員それぞれの場所で別々の任務に就いていたため、『ケロロ小隊』としての任務は、コレが初めてとなる。

 ―――それは、ついにクルルが本部を離れると言うことでもあった。

 クルルは、この本部の地下にある専用のラボラトリーで、多くの兵器開発やプログラミングに関わってきたのだが、戦地へ赴いたことはずいぶんと少ない。本部よりも死亡率が高い、戦場。

(自分で誘っといて何だけど……やっぱ、くるであります……)

 外へ連れ出したいという思いはあれど、やはりこうしていざ戦地へ……となってしまうと、様々な苦いものがこみ上げてくる。

 それらを振り払うように、努めていつもの笑みを浮かべられる自分に、少しだけ感謝した。

「あのさ」

「「?」」

「明日、ちょっと我輩出掛けるからさ。訓練の方、うまく言っといてくんない?」

「はあ!?貴様、何を――!!」

 明日は午前からずっと、バーチャルシュミレーションを駆使した模擬実践訓練があるのだ。大勢の軍人が使用するため、その訓練を受けるためには2ヶ月くらい前に予約をしなくてはならない。ちなみに、今回予約をしに行ったのはギロロで、面倒くさい予約票を書くのに四苦八苦し、その日の昼飯を食いっぱぐれたという落ち付きである。

「ギロロだとボロが出そうだから、ゼロロ、よろしくね!」

「おい!?」

「……こんな時ばっかり……でも、分かった。教官にはちゃんと説明しておくよ」

 呆れたような言い方でも、あの真面目な優等生のゼロロがサボりの片棒を担いだことに、驚きを隠せないギロロ。それに対し、ケロロは、二カッ!と笑みを浮かべて、

「恩にきるであります!!」

と言うと、そのままエレベーターの方向へと歩いていった。

 途中からは、スキップで。

 

 ―――次の日。

「いやー、平日はいいでありますなー!」

「……」 

 今、私服姿のケロロは、クルルを連れて大型デパートへやってきていた。軍本部の近くは、知り合いに見つかるとまずいからと、わざわざ電車に乗ってのお出掛けである。

 先程も言ったとおり、本日はごくごく普通の平日。

 こどもたちは学校へ、多くの大人は会社などに出勤中。よって、デパートは人が少なく、ずいぶんと楽に通路を歩くことができた。そして、ケロロはそのままクルルを引っ張って、お目当ての場所へと歩いていく。

 ケロロたちが向かった先は、デパートの1階にある靴屋だ。

「いらっしゃいませ。どういったものをお探しですか?」

 よほど退屈だったのだろう、すばやくやってきた店員に、ケロロは愛想よく「ちょっと、こっちの子の靴を買いに来たんであります」と答え、店員が見立ててくれるという申し出は丁寧に断った。

「それでは、女の子用の靴はあちらに揃っておりますので、もしお探しのサイズが見つからない場合は、お声を掛けてください」

 店員も、あまり干渉されることが好きではない客に慣れているのか、さり気なく必要そうな情報だけ言って、そのままカウンターの方へ戻っていく。

「あ、そういえば、クルルって足のサイズ何センチ?」

 今更といえば今更な質問に対するクルルの答えは、「さ~な」とまるで他人事のようで。

 仕方なく、ケロロはいくつかのサイズの靴をクルルに履かせていくという地道な作業によって、靴選びを始めた。

 

 実は、昨日いきなりケロロはラボにやってくるなり、

『明日、一緒に靴を買いに行くことになったから、8時に迎えにくるであります!』

と一方的に約束を取り付けていったのだ。

 ちなみに、本来クルルは七面倒な手続きをしないとラボから出ることは出来ない。今回は、どうやらケロロと結託したガルルが、上のお偉いさん連中を丸め込んだらしかった。

 そして、本日クルルは8時5分前にやって来たケロロによって拉致同然に連れ出されて今に至る。いつもは15分遅刻当たり前のケロロの奇跡的な行動は、クルルにとってはた迷惑でしかなかった。

(ホント、隊長って脈絡がねぇ~し)

 一応、クルルも本日は私服姿ではある。服は、最近ガルルとゾルルが勝手に買ってきた少女用のシンプルなシャツと短パン、そして、履物はずいぶんと履き古したサンダルだ。これは、クルルの外出用の、唯一の履物でもある。

 流石に前線に赴くのにサンダルでは何かと不都合もあるだろうと、近々軍からブーツが支給されることにはなっていた。

 しかし、ケロロは「そんなの可愛くないから駄目であります!」等と言い、別の靴を買えと五月蝿いのである。

「お、コレふわふわでありますヨ!クルル、コレはいてみてー。あ、こっちのスニーカーも」

「……おい……」

「靴って、履き慣れておかないと辛いでありますから、何としてでも今日中に選んでしまうであります!あ、クルルはどういうの履いてみたいー?」

 この際だから、履きたいやつは試しておくであります!と、まるで自分の靴を選ぶようにはしゃいでいる。どんどんクルルの前には、ケロロが見立ててきた靴が並び、結構すごいことになってきた。

 ……しかし。

「―――別に、いらねーだろ」

 編み上げブーツも、ファーのついた靴も、どれも戦場用ではない。

 これから出て行く『外』は、戦うための場所なのだから、必要ないものだとクルルは言う。

 しかし、ケロロはその言葉に対し、

「いるの!!」

と、力強く、叫んだ。

「これから、必要になるんであります!」

「……?」

「任務が終わって帰ってきたら、皆で遊びに行くんでありますから―――!」

 だから買うのだ、という台詞に、レンズの向こうの瞳が大きく見開かれる。

 しかし、やがて驚きはゆっくりと掻き消えていき、子どもは、少し……少し、困ったように、呆れたように……。

 ちょっとだけ、頬を緩めた。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』4日目でございます。これはフリー配布小説となりますので、もし「いいな」と思ってくださった方が貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想をいただけると、かなり喜んでしまいます!(ずうずうしさと焦りでなんだか収集がつかなくなってしまいました……)

| | コメント (0)

口約束の効能

 町の視察―――なんて言って、やって来た玩具屋。

「おいケロロ!貴様はどうしてすぐにサボろうとするんだ!?」

「だってさー、たまにはこうして皆で出掛けるのは大切でありますよー?それに、玩具屋って、結構我輩のインスピレーションを活性化してくれるんであります。こうしていれば、きっといい作戦が……ゲロン!!」

 ごちん、といい音が響き、頭を抱えてケロロはうめく。もちろん、殴ったのはギロロで、凶器は拳骨だ。まあ、鉛弾ではなかったことが唯一の救いかもしれない。

 その後、ギロロの小言は続いたが、それにもめげずケロロは30分くらい玩具屋に滞在することを決定事項として口にした。あろうことか、「隊長命令であります!」などと権力の無駄遣い……。しかし、何だかんだと言いつつ、各自店の中を自由に歩き回ることを楽しんでいる様だった。

 タママはBB弾とおもちゃの銃を、ドロロは少女たちが好みそうなビーズセットを、ギロロは電車の模型を興味深そうに眺めている。

 ケロロは、特に何かの前で止まることなくクーラーの恩恵を受けるのみのクルルの元へ駆けて行き、ぎゅっ、とその手首を握った。

「――何だよ?」

 最近では、ケロロのこの前触れの無い接触に慣れてきたらしく、ちょっと呆れたように眉をよせるものの、手を振り払うことはしない。それが、ケロロにとってはとても嬉しい。嬉しくて、嬉しくて、それが上乗せされた笑みを満面に浮かべて、

「ちょっと、こっちに来て欲しいんであります!」

と、クルルを引っ張っていく。面倒そうに、しかし敢えてそれを拒むことも無くダラダラと歩く少女を、早く早くとせかす。

 いつもへばりついているプラモデルコーナーを素通りして、ケロロはどんどん歩いていった。

 そして、ようやく立ち止まったのは、会計レジの硝子ケースの前。

 ぞのケースに飾られている、少々高価なおもちゃたちをじーっと見つめていたかと思うと、二カッ!と幼い笑みを浮かべてケロロはクルルに言葉を紡ぐ。

「実は我輩、ついにゲームを買おうと思うんであります!」

「……隊長、コンピュータ持ってるだろぉ?」

 最近では、コンピュータでいろいろなゲームが出来るようになっている。ケロロもよく様々なゲームをコンピュータに取り込んで遊んでいるし、テレビゲームよりもそっちの方がケロロは気に入っていたはずだ。

「いやー、そういうんじゃなくて、こう、持ち運びが出来てゲームをやるためだけに作られたやつが欲しいんであります!」

「へー」

「ね、どれがいいでありますか?」

「……はぁ?」

 いきなり何を言い出すのかと、半眼になったクルルが、「何言ってんだよ?」と首を傾げる。買いたいなら、勝手に自分で選べばいいのに、と思っているのだろう。

 言葉が足りないことは百も承知だったのか、ケロロはそんなクルルに対し、更に言葉を重ねていく。

「だから、2人で同じ機種を買いたいの!」

「―――……?」

「一緒に通信ゲームとか、したいんであります!……ちょおっとカッコ悪いんでありますが……我輩、自分の分しか買えなくて……クルルはクルルで買ってくんない?」

 押し売り、悪徳商法のような台詞に、今度こそクルルは呆れ返ったようにケロロを見下した。まあ、ケロロの小遣い数ヶ月分を食い尽くすような額の値札を見れば、ケロロがゲーム機を1台買うのが精一杯ということは分かる。

 そして、小隊の中でゲームをするのは、ケロロとクルルなのだ。

 しかし……。

(……勝手だねぇ……)

 相変わらずだと溜め息をつくクルルに、ケロロは必死になって、「ね!いいでありましょう!?」と叫ぶように声をあげる。

 勝手なのは、ケロロとて十分分かっている。

 しかし、どうしても、少しでもクルルと接点を持ちたいのだ。

「クルル~……」

「……」

「ね?―――一緒に、どうしても、どーしても、通信ゲームしたいんであります!!」

「……」

「クルル!」

 すると、ほんの一瞬、ちらりとクルルが視線を向けてくれたことを察知したケロロは、『もう一押し!』と、更に何か言葉を紡ぎ出そうとして……それよりも早く、クルルが唇を動かした。

「で、それで?」

「ゲロ?」

「俺様の、メリットは?」

「え……?クルルもゲームでき……」

 ふと、ケロロはそこで言葉を不自然に切る。

 ゲーム機を買って、ソフトを買って、ゲームができるというのは、当然のことで。

 クルルが言っているのは、そんなことではないと感じたからだ。

(―――つまり、我輩がクルルに何か……何か、しなくちゃいけないんでありますな……)

 しばらくケロロは考えるように天井を見上げていたが、やがてしっかりとクルルと視線を絡めて、たった1つの『約束』を口にした。

「クルルが『通信ゲームしたい』って言ったら、絶対我輩は断らないであります!」

「……へぇ」

「ね、いい?」

 少し、これでクルルがOKしてくれるか自信が無かったのだが、一応クルルの合格ラインに達する答えではあったらしい。

 そして、ついにケロロはクルルとおそろいでDS本体とゲームソフトを購入したのである。

 

 ―――そして。

「クールール!DSで対戦しよ?」

「パス」

「……クールールー」

「忙しいンデスヨ」

「……」

 侵略作戦を考えよう!と部屋に篭ったとき、部屋まで来てゲームをしようと言ったクルルからのお誘いを、「充電しなくちゃいけないから」と嘘をついて断ってしまってから3日後。ケロロは、ずっとこの調子であしらわれ続けている。

 口約束とはいえ、約束は約束。

 まして、それを交わした相手は、記憶力抜群のクルルで……。

「……ゴメンナサイ!!もうしません!!」

「クーックックック……何のことだか」

「うそだー!!絶対、絶っっっ対、怒ってるじゃん!?」

「知るかよ、クックック……」

「クルルゥ~!!?」

 

 それから約3ヶ月、クルルは1度もケロロからのゲームの誘いに応じなかった。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』3作目です。この小説はフリー配布ですので、もしお気に召してくださった方がいらっしゃいましたら、貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

下のコメントから感想などを頂けたら、狂喜乱舞いたします!(ずうずうしくて申し訳ありません……)

| | コメント (0)

感覚と思考回路の相違

 それは、ドロロがようやくケロロ小隊に合流して間もなくの頃―――。

「え?」

「だから、アンタはどーゆートコを作って欲しいかっつってんの」

 久しぶりに会議に出て、(まあ、1度も発言を求められなった辺り、やっぱり忘れられていたのだろうけど……)そして、本当に久しぶりに2人きりになった会議室で、唐突にクルルはそんなことを口にした。

 いつもは会議が終わると真っ先にラボへ戻る彼女が、ケロロたちが「解散~」と出て行った後も会議室に留まっていて。そのことが気になって、何となくそのまま会議室に残り、ついに2人だけになった空間は、とても静かで。

 ただでさえ、聴覚訓練で大変良く鍛えられているドロロの耳は、しっかりとクルルの言葉を拾うことができていた。しかし、肝心の脳内処理が間に合わず、思わず間の抜けた呟きを口にしてしまったところ、珍しくクルルは言葉を復唱してくれた―――という成り行きだ。

「あ、あの、作って欲しいところって?」

 しかし、やはりいまいちその言葉の意味を図りかねて念の為に確認すると、自分よりもずっと幼いはずの少女は、呆れたようにしつつ、説明を加えてくれた。

「基地の中の施設に決まってるだろぉ?」

 他に何がある、という台詞に、心の中で苦笑する。

 彼女の細腕からは、本来そういった大工仕事のようなものは縁遠く見えるのだが、多くの機械を操作することで、彼女は巨大な施設を3日とかけずに作ってしまう。それは、ドロロも既に良く知っている事実。

 だが、ただでさえ多忙な少女に、これ以上何かが増えて徹夜続きになってしまっては、ドロロにとっては本末転倒なのである。クルルの申し出はやはり嬉しかったのだが、ドロロは、「気持ちだけで、とても有難いでござるよ」と微笑んだ。

 どうか、その分ぐっすりと眠るといった休息を大切にして欲しい、と言うと、何故かクルルは、そう……急速に、不機嫌になっていった……。

(……え?)

「―――あっそ」

「ク、クルルど―――!」

 慌てて手を伸ばして何かを問いかけようとするドロロから、フイッと視線を外すと、そのままクルルは専用ルートを開いてクルルズ・ラボへ。

 独り取り残されたドロロは、ショックを受けて、しばし呆然とその場に固まっていた……。

 

 ラボに戻ると、いつもの椅子がクルルをじっと待ち続けていたかのように出迎えた。

 しかし、こんな気が立っている時にそこに座ってもロクなことにならないということは身をもって知っているため、クルルはそのまま私物置き場と化している机にツカツカと向かうと、それとセットになっている椅子に座り、そのままべちょっ、と机につっぷしてみる。

 その体勢は、何だか自分が拗ねていると公言するようで腹がたつ―――というか、好きではない。が、やはり何だかんだで楽なので、ついついやってしまう。

(……ムカつく)

 ふと、先程のドロロの言葉を思い出して、舌打ち。

 寝ろだの休めだのとうるさいが、じゃあ自分はどうなんだと言ってやりたい。

 しかし、それはまるで、自分がドロロのことを心配しているように聞こえるので、言いたくない。

 心配なんて、少なくとも自分らしくはないものだし、この苛立ちはそれとはどこか違う気がした。

(……心配なんて、そもそもあんましたことねえし……)

 それは、そうだろう。相手もそんなにいない上に、無駄に任務達成率が高い連中ばかりだったのだから。

 それはともかく。

 この地下基地を作るにあたって、元々はケロロたちが基本的なところを作っていたのだが、そこにクルルは幾つかの施設を増設した。

 ケロロは、巨大プールが欲しいと言った。

 ギロロとタママは、新しい訓練施設が欲しいと言った。

 そして、自分にはこのラボラトリーがある。

(1つくらい、あってもいいかもなんて―――思うんじゃ無かったぜぇ……)

 いつも、忘れられただの寂しいだのとうるさいから、じゃあ1つくらい、ドロロが望む場所があってもいいのではないか。

 東谷小雪という同居人と暮らす家はあるのだから、そういったものではなく、この基地の中に、そんな場所があってもいいのではないか、なんて……。こんな考えはどうかしている、自分には合わないものだと思いつつ、切り捨てられない。

 欲しいと望まれるものを作ることばかり求められ、そんな中で生きてきたクルルに、ドロロはそういった関わり方をしてこない。だから、どうしていいか分からなくなることがある。

 一応ある程度は受けておかなければ面倒だからと、最近は専ら本部からのくだらない依頼の品ばかり作っていたから、本当は少し毛色の違うものが作ってみたかった。それが、ドロロの好きなものだったら……おもしろいかと思っただけ。

(―――ま、いっか)

 そう。

 これは、自分の為。

 ほんの、息抜き。

 言い訳じみて聞こえる考えに、やはり自分もまた地球に来て毒されたのだと感じながら、クルルはその日から2日かけて、基地にまた1つ施設を増設した。

 そしてその施設は、基地の散策と称して宿題をしろと言ってくるギロロから逃げ回っていたケロロによって発見され、そのままドロロにもケロロがあっさりと喋ってしまった。そして、その施設の管理はドロロに任されることとなり、あの日のわだかまりは何となくの内に影を潜めていくのである。

 ―――その後、ケロロがどうなったのかは、まあ、お約束ってことで……。

 

 そうして、季節は巡り……。

「クルル君」

 地上が、少しずつ秋らしくなってきてしばらく。

 例の、ドロロが管理している施設――地下の菜園にも、秋がやってきた。

 野菜、果物、花やちょっとした珍しい他の植物等、にぎやかに育つその場所は、今やドロロの大切な空間で。

 そこで収穫したものを真っ先にクルルに届けることも、ドロロの中のあったかい決め事になっていた。

 インターフォンが押せないくらい、両腕いっぱいにそれを抱えてきた彼を、呆れつつも受け入れるように扉が開く。

「お邪魔します」

「んー……うっわ」

「クルル君!ついにこんなに沢山、コスモスが咲いたでござるよ!」

 むせ返るほどのピンクの花に埋もれている青年。

 全く違和感が無いという現実が、笑いを誘う。

 クルルがそんなことを思っていることにも気付かず、ドロロはいそいそと、持ってきた花瓶に水を入れて機械から離れた簡易キッチンのテーブルに置く。

 元々、クリーム色に統一され、シンプルに、しかし、物寂しくもあった空間が、それで一気に明るくなった。

「どうでござるか?」

「ピンクい」

「ま、まあ……そうでござるが……」

 そっけない返答に、ドロロは少し困ったように笑う。

 クルルは、花を見てもあまり『キレイ』といったことは感じないと、以前言っていたことがある。というよりも、その『キレイ』だといって笑うドロロたちが、不思議に思えてならないのだと、本当に不思議そうな顔をされた。

 見ていて安心したり、好ましく思うというものは、所詮不確かなもので、それをどう扱えばいいのか分からないのだと、ガルルが説明してくれた。クルルを実の妹のように大切にしている彼は、いつもドロロの相談に快く乗ってくれたものだ。

(……ガルル中尉も、寂しいと、言っていたっけ……?)

 キレイと言う感情に戸惑う彼女が、せつない。

 しかし、そうした感覚は、押し付けても虚しいだけだから……。

「コスモスって、『秋の桜』って書くんだってな」

「え……?あ、うん……?」

 ふと、いきなりクルルが口にした内容について行けず、頷いたのか首を傾げたのかイマイチ分からない首の動きをする。そのことを皮肉の笑みで一笑した少女は、面白そうにそのまま言葉を続けた。

「秋の花見でもするかぁ~?」

 丁度飯時だし、カレーもあるし。

 そんな、一風変わった、しかし少女にしてはずいぶんと素直に可愛らしいお誘いに、ドロロはぼひゅうっ!!と真っ赤になる。そして、そのことをからかわれて更に赤面しつつも、満面の笑みで頷いたのだった。

 

 《終わり》

「闇風」の雪無様から、ありがたくもリクエストをいただき……『ドロクルでほのぼの』、いかがでしたでしょうか?

リクエストに沿っているか、不安ですが……もしよろしければ、雪無様、貰ってやってくださると幸いです。

これからもちょくちょくサイトにお邪魔させていただきます!!(ちゃっかりと主張。良い子は真似してはいけません)

 

| | コメント (0)

頬で触れる

 今、部屋のど真ん中で、重く、湿っぽい影を背負っているのは、決していつも皆に忘れられるアサシンではない。

「ゲロゲロゲロゲロォ……うう……」

 まるで覇気が無く、地を這うようにべっとりとした鳴き声を発するのは、この部屋の主ケロロ軍曹である。深く、黒に近い緑色の瞳からは、粒になる暇も無くひっきりなしに流れる涙が、滝のように溢れていく。

(……全く、このボンクラは……)

 そんな隊長であり、幼馴染みでもあるケロロを見るギロロの目は、とても冷ややかで。

 何となく、やはり涙を見ると多少なりとも心が揺らぐものだと思うのだが、流石の情に厚いギロロでも、この男に対する同情は、これっぽっちも湧いてこない。

 理由は、2つ。

 まず1つ目の理由は、そもそもこうしてケロロが大泣きしている『理由』の内容だ。

(……たかが、今日発売のガンプラを買い逃しただけで……!)

 こうも泣く奴があるか!と。

 しかし、ケロロにとってそのことは『たかが』で済むものではない。一応、今回の事の経緯を少々詳しく付け加えると―――。

 本日ケロロは、新作のガンプラを買いに行こうと、貰ったばかりのお小遣いを手に玩具屋さんへダッシュ!!―――しようとしたのだが……。

『ちょっとボケガエル!またお風呂掃除サボって何処行く気!?』

『ゲ、ゲロ~!?な、夏美殿!?』

 ……とまあ、こんな具合に夏美に外出を見咎められ、風呂掃除が終わってからにしろと言われてしまったのだ。売切れてしまう、と言ったところで、やはり聞き入れては貰えない。

 いつもならここでフォローをしてくれる冬樹が、西澤桃華とクラブの話し合いに出掛けて留守だったのが運のつきだった。

 仕方なく猛スピードで家事を終わらせ、玩具屋までソーラーバイクを転がしたケロロは、店の中を全速力で駆け抜け、プラモデルコーナーへ向かう。その距離、わずか数メートル。そして……まあ、今更だが。

『よかった!最後の1個ゲット!!』

 ……目の前で、買われてしまったわけで。

 おまけに、どうも目をつけていたらしい宇宙警察官にスピード違反の罰金まで取られたというのだから、救えない。これが自分たちの隊長だというのだから、結構本気でこちらが泣ける気がする。

 そして、2つ目の理由。

 それは、今のケロロの体勢―――。

 今、ケロロは丸まっていた。ちなみに、足は正座を崩したような感じで。

 そして、涙でぐっちょぐちょになったケロロの顔は、なんとパソコンをいじっているクルルの膝の上である。

「うぇ……クルルゥ~……出た……?」

「まだ」

 クルルが見ているのは、ネットオークションサイト。他にも何個かウインドウを開いているが、ギロロはそれらが何なのか全く分からない。ケロロに至っては、他のそれらは目に入ってもいないのだろう。

 ネットオークションに、本日買い逃したガンプラが出るのを、ケロロは待っているのだ。

「うう……我輩のザク……ザクが……うううううー……」

「出たとしても、隊長の手持ちでは買えねぇだろ~がなぁ~?」

「わぁーん!クルルのイジワルー!!」

 意地悪なんて、本当にお前はいくつなんだ!!と、出掛かった言葉は何とか飲み込んだ。

 そして、そんなことを言いつつ、ここぞとばかりにクルルの膝の上で、もっとくっつこうとする緑色の幼馴染みを見て、ギロロは隠すことなく溜め息をつく。

 汚すなと言いつつ、クルルは別にケロロが膝にのっているのを拒むつもりは無いらしい。足がしびれないように伸ばして、まるで幼児のようだとすりよるケロロをからかっている。

 ―――これっぽっちも、きっとクルルは、ケロロを『そういう』対象としては見ていないのだろう……。

 そんなことが、ひしひしと見ているだけのギロロにさえ伝わってくる光景である。

(……全く……)

 ケロロの恋を、すすんで応援しようとは思わない。

 思わない、が……。

(―――本当に、何と言うか……同情せずにはいられない、な……)

 

 一方。

 ケロロとて、クルルのちょっと骨ばってて心配になるような、それでもちゃんとあたたかい膝を堪能しつつ、やっぱり自分のことは全く異性として意識されてないんだなぁ~、ということは分かっている。

 それは、振られるよりも嫌われるよりも、人によっては寂しくて残酷なことなんだとも思う。

 身にしみる、そんな痛みは、ある。

 それでも……。

(やっぱ、今は幸せなんでありますよねぇ……)

 だから、もう少しこのままでいたいなんて、やっぱり思ってしまう……。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』2日目です!これもフリー配布小説ですので、もし何か印象が残った、いい意味で!という方がいらっしゃいましたら、貰ってくださると幸いです!報告は任意です。

下のコメントから感想をいただけたりしたら、相当喜びます!(ずうずうしさは本日も絶好調です!)

| | コメント (0)

真っ白なシーツ日和

(いーい天気でありますなあ……)

 誰が言ったか、『水色』なんていう青色の仲間の名前色一色の空。もくもくと威勢のいい白い雲が、ゆっくりと流れていく。その様を見ていると、自然と口元が緩んだ。

 死ぬかと思った湿気たっぷりの暑さも(湿気だけなら大歓迎なのに……)何となく和らいできた最近は、洗濯物を干しに外へ出ることも苦では無くなってきた。そよそよと涼しさを運ぶ風を感じながら、物干し棹いっぱいに白いシーツを広げて、皺を丁寧に伸ばしていく。

 ぱたぱた、と旗のようになびくそれが、視界を真っ白に埋めた。

「あー……やっぱり足りないでありますか」

 まだシーツは3枚あるというのに、やっぱり棹1本につき、シーツは1枚。しかも他の服なども干さなくてはならない。

(これはやっぱり、こいつの出番であります!!)

 パンパカパーン!と、ケロロが取り出したのは、折りたたみ式の物干し台。立方体の形をしていて、上の4本の辺にそれぞれハンガーを掛けたりできるタイプのものである。

「ゲロゲロリ……これさえあれば、バッチリ洗濯物を全部干すことが出来るでありますな」

 すっかり自分の準備の良さを自画自賛モードに入ったケロロ。……の背後から、独特な笑い声が響いた。

「クーックックック……主夫だねぇ~……」

「ク、クルル!?」

 振り返れば、おそらく徹夜したのだろう、隈のついた顔でニヤリと笑うクルルの姿がガラス戸の向こうに見える。一度手を止めて、きちんとそちらに体を向け、ケロロは再び口を開く。

「でも、珍しいでありますなぁ~。クルルが朝から上に上がってくるのは」

 いつもなら、こうして日向家に上がってくるとすれば大体昼過ぎになる。今は朝で、しかも冬樹たちが学校に行ってから、そう時間は経っていない。

 そんなことを考えて喋っていけば、クルルは等閑に手にしていた文字がずらりとプリントアウトされた紙の束をぺらり、とケロロに向けてきた。

 それは、ケロロがクルルに押し付け―――いや、頼んだ報告書……。

「ゲ、ゲロ……っ」

「出来たから、さっさとハンコ押せ」

「わ、わぁーい!!あんがと、クルル!!あとちょっとで干し終わるから、もちっと待ってくれたりしませんかであります……!!」

 日本語、崩壊。

 しかし、てっきり「こっちを先にやれ」だの、あと諸々の皮肉や文句を言われるかと身構えていたのに、クルルはずいぶんとあっさりと「ん」と頷いただけであった。短い肯定に、何だか肩透かしを食らってしまったが、その辺を突いて手痛いお仕置きをされるのは御免である。

 取りあえず、残っていた洗濯物をパパパパパパっといつもよりも手際よく干し終え、カラになったカゴを持ってガラス戸から家に入った。

(……あり?)

 すると、床に座り込んだクルルがソファーにもたれかかって、すうすう……と寝息をたてているではないか。

 ちなみに、報告書は適当に床に小さな山となって積まれている。

(……眠いんでありますな……)

 多分自分のせいだろうが、そこは敢えて棚上げしておく。ケロロは一応気配や音を消して、ソロソロと近付いていったが、ある程度の距離に入ると、クルルは緩慢に目を開けた。

 しかし、やはり眠いらしく、乱暴に目を手の甲でこすりながらだが。

 それは、見ていてとても心癒される仕草ではあるのだけれど、目が悪くなりそうなので、手を伸ばして止める。

「クルル、寝てていいんでありますよ?」

「……隊長、サボるしなぁ……」

「うわ、ひっど!?我輩、やるときゃやるのよぉー!?」

「クック……説得力マイナス値」

「うわーん!クルルひどいであります!!」

 そんな言い合いをしている間も、眠たそうなクルル。基本的にちょっとやそっとの徹夜ではバテないクルルが、ここまで睡魔に負けそうということは……一体、何日寝ていないのだろうか?

(あー、休めって言ってみたところで、素直に休まないだろうしなぁ~)

 天邪鬼だし、ひねくれてるし、照れ屋だし。

 いろいろ考えて、ある案が浮かんだとき、ケロロはすぐさまそれを実行に移した。

「……じゃ、今はやらないであります」

「はあ!?」

 何をしないかって、もちろんこの場合、『仕事』をしないわけで。

 何を言い出すのか、と非難の言葉が出るよりも早く、ケロロはガバチョ!!っとクルルを抱いて、そのままソファーにボスーン!!とダイヴした。

 ポヨンポヨン……と何度か軽く上下に揺れながら、少しあっけに取られているクルルに対し、二カッと笑う。

「一緒に寝よ!」

 

 そして、それから「「ただいまー」」と夏美と冬樹が帰ってきた時、リビングではケロロとクルルがすやすやと気持ち良さそうにくっついて眠っていた。

 あまりにも気持ち良さそうに眠っているものだから、何だかんだ言いつつ夏美も冬樹の言うとおり、ケロロを起こすことはせず……。

 眠る2人に毛布をかけ、結局代わりに洗濯物を取り込んでくれたという、そんな話。

 

 《終わり》

ケロ→クル『ベクトル祭り』第1作目です。こちらはフリー配布小説ですので、もし気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら、ずずいっと貰ってくださると幸いです!報告は任意です。

感想等を下のコメントから頂けたら、すごく嬉しいです!(ずうずうしさに磨きがかかっていきます)

| | コメント (0)

アイム・ソーリー

「……あ、あの……ごめん、ね……?」

 無言。

「も、もう、こんなことが無いように心掛ける、から……っ!」

 沈黙。

「―――ごめんね……クルル君……」

 ―――――無視。

 

 さて、ここで少し説明を加えよう。

 長期任務に就くことが多いゼロロと、仕事量が半端でなく多いクルルは、そうそう気軽に頻繁に会うことは出来ないというのが現状である。そのため、普段は周囲からの勧めもあって、2人は携帯通信機で連絡を取り合っているのだ。

 凝り性なクルルによって作られた携帯通信機は、軍事用の無線レベルに性能が良く、激戦区での任務が多いゼロロが、妨害電波や盗聴等に悩むことが無いという位だ。

 ――まあ、ちょくちょくゼロロのアサシン仲間がメールを盗み見していたりするのだが。

 それはまあ、もう防ぎようがないので置いといて。

 任務や開発の合間に繰り返される、メールのやり取り。

 軍の敷地内で一応お互い就寝しているはずで、現在の生活空間は同じ軍の敷地内であるはずなのに、これではまるで遠距離恋愛だ。しかし、何だかんだでこの関係はちゃんと続いていて、少しでも時間があれば、他愛ない世間話なんかをして。

 そして本日、ゼロロは実に2ヶ月ぶりにクルルに会いに来た。

 ……非常に、ビクビクと怯えながら……。

 

 今回の任務は、比較的短期のものだったと言っていい。

 長期となれば半年ほど戻れなくなることを考えれば、約2ヶ月で済むのは短い方だ。

 しかし、短期集中型だった今回の任務は、内容の難度が高く、鉄壁と呼ばれる軍隊で守備に徹した相手の本陣を討ち取れと言うもの。本当に、この2ヶ月はいつ眠ったかも分からないほどに忙しく、毎日気を張り詰めていなくてはならなかった。

 そして、ようやく明日本星に帰還できるという目処が立った時、同じように休憩に入った仲間が、『そういえば』と口にした言葉。

『ゼロロさ、今回カノジョに1回も連絡してないんじゃない?』

 ―――血が凍る、とは、正にあの瞬間のことだろう。

 出発する前日に、『あまり連絡できないかもしれないけど、少なくとも何回かはメールするね!』と、思い切って言ってきた自分を思い出し、ゼロロの白い顔は、一気に真っ青になった。慌てて荷物の中から携帯通信機を引っ張り出し、ぱちっと二つ折りになっていたそれを開く。

 電源さえ入っていないそれ。

 ボタンを長押しして、やがてパッと画面が明るくなった。

(え、えっと……な、なんて送れば……!)

 こういう時、ぱっと文章が思い浮かぶ人が羨ましい。

 ゼロロはいつも、じっくり考えてから文章を書き始めるので、メールの1文目、書き出しでずいぶん時間をかける。そして、休憩時間はあまり長くないので、早く早くと気が急いて、余計に考えが纏まらないという悪循環。

(明日帰ります、とか、かな……?でも、多分クルル君はもう知ってるよね?えっと、ご、ごめんなさい……?それとも……明日―――)

『おーい、ゼロロ』

『っふぇ!?』

『何面白い声出してんだよ。長官が全員B-11区に集合せよ、だとよ』

『あ、え……っ』

『あー、まだ出してねーのか……お前も運が無い奴だな。ゴシューショーサン。ホレ、行くぞ』

『ああああ……っ待……っ!』

『(珍しく往生際悪)しょーがねーだろ?帰ってから土下座でもバク転でもやって謝り倒せ。もう今日は……つーか、帰還するまで休憩はねーよ』

 そう言って、硬直したゼロロの手から通信機をひったくると、電源はつけたままでパチンっと本体を折り畳む。そして、動かないゼロロの首根っこをつかむと、そのままズルズル……と引き摺って行った。

 

 そして、帰ってきてすぐ、ゼロロはクルルのラボラトリーを訪れた。

 正規のルートではなく、アサシンの身体能力をフルに(無駄に)使う非公式のルートを通り、インターフォンを鳴らす。

 扉は、驚くほどあっさりと開いた。

 そして、クルルがこちらを振り向くよりも早く叫んだのだ。

 ―――ごめんなさい、と。

 

 そうしてようやく、冒頭に戻る。

 いつもの椅子に座っていたクルルは、ほんの少し、片目だけがゼロロから見えるくらいに振り返って、スウっ……と目を細めた。

 それは、獲物を見つけ、狙いを定めた肉食獣の眼差しに似ている。

 それならば、子どもに謝罪を繰り返す青年は、今にも食いちぎられそうな草食動物だろうか?

 謝罪を繰り返すゼロロの言葉には沈黙を続けていたが、ついに頭を下げて俯いた青年に向かい、子どもは愉快そうに止めを刺した。

「初めから、期待してねえよ」

 ―――と。

 そして、クルルの予想通り、ドロロはその言葉に大粒の涙を零したのだった。

 

 その言葉は、クルルにとって本当では無いが、嘘でもない。

 実はこの2ヶ月間、クルルもまた連日軍が勝手に増やしてくる仕事に忙殺されていたのである。

 まあ、それでもクルルは1度だけメールを送ろうとした。

 しかし、電源を入れていないようだとわかったので、取り消して、結局それからは1通も送らなかったが。

 そしていつの間にかクルル自身、送ろうとしたメールのことも、相手が出立前に置いていった言葉も、すっかり頭の隅に追いやってしまっていた。

 昨日、ゼロロたちが帰還することが決まった時でさえ、改めてそのことを思うことは無かったのに……。

 相手が特に気にしていなければ謝る必要は無い、など、きっとこの男の辞書には無いに違いない。

 言わなければそれで済んだことを混ぜっ返すということを、お決まりのようにやってしまうこの青年が、面白く、愚かで……やはり、嫌いではないのだ。肩書きつきの関係になって随分たつが(まあ、そのうち一緒に居た時間は相対的に随分と短いけれど)、いちいちやることがどこか抜けていて、まだ飽きない。もしかしたら、これからもずっと飽きないかもしれない。

(そんなこと、いちいち言ってやるつもりはねえけどなぁ~)

 さて。

 5分にも満たない時間の間に、かれこれ二桁以上「ごめんなさい」もどきを口にしたゼロロ。いつもの影の薄さはどこへやら、落ち込んでトラウマスイッチモードになり、うっとおしいくらい影が濃くなっている。

(ま、今回はコレくらいでいいか)

 

 『ごめん』なんて、必ずいつも受け入れていい言葉では無いのだろう。

 許せないことはあるし、言えばいいなんていう惰性も侵食していく中で、それでもこの青年の言葉は色あせ無い。

 だから、ゼロロの『ごめん』くらいは受け入れてもいい気がした。

 

 《終わり》

「尻にひかれてるな」

とかいって、出歯亀アサシンが天井裏と地下にいたら面白い、かもしれない。

| | コメント (0)

ごはんを食べよう!!

 ぐきゅるるるぅ~……。

「……お腹減ったでありますなぁ~……」

「……まあな」

 きっと、こんな所で言う台詞では無いのだろうが、それでも空腹なのは事実である。さらにオマケと言わんばかりにケロロの腹の虫の声も、咎めようが無い。

「あー……マジで我輩、もう動けないかも……」

「それは大げさだろうが」

「大げさじゃ無いモン!本っ当に、ほんっとーに、我輩つぅーかぁーれぇーたぁー!!お腹減ったぁぁー!!」

「それだけ喚けるんなら大丈夫だろ……ああ、わかった」

「?」

「ゼロロからだ。この辺りにはもう俺たち意外に生命反応は無い。1度、基地に戻れというクルルからの指示があったらしい」

「了解。――あ、でも、どーしよー……」

「……どちらにしろ、クルルはもう知っているに決まっている。諦めろ」

 実は、この場所に来る途中の交戦でケロロは無線を壊してしまったのである。ちょっとやそっとでは壊れないクルル製の無線をどうやって駄目にしたのかは、ギロロも少し気になる。そして、ケロロはさっきからクルルにどれくらい怒られるかと気が気では無いらしい。

 歩き出すのを渋るケロロに、流石にギロロは呆れたように声を掛けた。

「おい」

「……うー……」

「腹を括れ」

「ギロロは他人事だから、そんなことが言えるんであります……」

「自業自得だろうが」

「ううー……あ、でも今日クルルが当番じゃん!」

 こうして他星に赴いた際には、小隊ごとに食事をとる。ケロロたちの場合は、食事係はなんとなくではあるが当番制で、本日は電脳世界を制圧し終えたクルルが晩御飯を作ることになっている。

「クルルの作るご飯って、何だかんだでおいしいんでありますよね~」

「……まあ、な」

 時々、妙な薬が入っていたりすることもあるが、確かにクルルの作るご飯はおいしい。

「よっしゃ!!早く戻って、メニューをリクエストするでありま―――す!!」

「―――っ!?」

 だぁーしゅ!と、急に走り出したケロロをギロロも負けじと追いかける。

 なにせ、ケロロは所かまわずにクルルに抱きついたりするものだから、ギロロとしては目が離せないのだ。

 無線のことなどすっかり頭から飛んでいるのだろう、そんなケロロに呆れつつ、ギロロも少し走るスピードを上げて、クルルが守る基地へと駆けて行った。

 

 基地に戻るとゼロロが既に戻っていて、タママもあと少しで戻ってくるということだった。

「ケロロ君に無線が繋がらないから心配だったけど、ギロロ君と一緒でよかったよ」

「ちょっ!ゼロロ、しぃ―――!!」

「クーックックック……今更だぜぇ?たーいちょ」

「ひぃ――――!!ク、クルル!?」

「無線ぶっ壊してくれたみたいだなぁ……?後で、じっくり話でも聞かせてもらうかねぇ~……?クックック……」

「あ、あは、あはは……(やっぱ怒っていらっしゃるぅぅー!?)」

 冷や汗をダラダラと流すケロロを見るクルルの眼鏡が、いい具合にキラり~んっと光る。シニカルな三日月を描く唇が、あからさまな毒を放つ。

 しかし、ぐきゅるるるるきゅ~っという腹の虫の再発をキッカケに、ケロロはこうして急いで帰還した理由を思い出した。

「っそ、それはそれとして、クルルぅー!我輩、すっごく腹ペコで……げふん!!」

「っくみゅぅ!?」

「――全く、油断もスキもあったものではないな……」

 ケロロががばちょ!っと抱きつく前に、しっかりとクルルを自分の腕の中に収めたギロロは、呆れ返ってそんな台詞を口にする。自分の行動の大胆さについては棚上げらしい。ゼロロが目の前の光景に真っ赤になっているのにも気付かない。

(……すっげー、始末に終えねえ……)

 心の中でクルルが、後で絶対に実験台にしてやる……と誓っていたことも、生憎ギロロは察することが出来ずにいた。

 さて、顔面スライディングをかましたケロロが復活して、再び話は元に戻る。

「クルル!!今日は我輩、オムライスが食べたいでありまーす!!」

「貴様は懲りると言うことを知らんのか!!」

(アンタもな)

 先程の光景が再現される寸前で、今度は何とか踏みとどまったケロロが、ムッと唇を尖らせてギロロを睨んだ。

「何よぉー。いーじゃん、ギロロは将来的にクルルの手料理を独り占めできるんだから、ここは我輩たちに譲ってくれてもさ」

「……っな!?」

 思わぬ反撃に、強面と称されるそれが生娘のように真っ赤になったのをケロロがからかおうとした時。

「あー、軍曹さんたち何やってるんですかぁー?」

「タママ!」

「タママ君、お帰り」

 丁度、タママが帰還した。

 そこで、ゼロロがことの経緯をかなり割愛して(無駄な破壊行為を避けるためと思われる)説明すると、やはりタママもクルルにご飯のリクエストをしたいと言い出した。

 結局いつものことで、4人は『即席!ジャンケン大会!!』なるものを実施。勝った者が、クルルに晩ご飯のリクエスト権を得られるのである。

 クルルは完全に傍観者になっているのだが、これはもういつものことなので、好きにさせるつもりらしい。

 ちなみに、4人で一斉に出しているので、やけにあいこが続くことになるのだが……。

「あいこでしょ!」

「も一丁、あいこで―――――っしょ!」

「無駄に引っ張るな馬鹿者!」

「ふ、2人共喧嘩しちゃだめだよう……!」

 数えるのが面倒なくらい続いたあいこの結果、その勝利を射止めたのは、赤い髪の彼であった―――。

 

 その日の晩ご飯は、ギロロのリクエストになったとは言え、やはり「おいしい!」と、皆大喜びで頬張っていた。クルルもそんな感想は満更でもないようで、主にケロロと軽口を叩き合いながら、結構楽しそうに食事をしていた。

「やっぱ、ご飯はいいでありますなぁ~!」

 ―――だって、戦場での楽しみは、やっぱこれしかないでしょ?

 ケロロはそこまで口に出してはいなかったけれど、多分それは、他の4人には伝わっていただろう……。

 

 そして、食事が終わり食器を洗っている時に、ギロロはふと、隣にいるクルルに向かって言葉を紡いだ。

「クルル」

「何だよ」

「……いや、今日の飯も、美味かったと思ってな……」

「――当然だろ」

 揺ぎ無い自身に裏打ちされた言葉は、潔い。尊大な態度も納得できる程の腕を、クルルは持っている。

 しかし、ギロロは本日の晩ご飯の時、ある1点が気になったのだ。

「……特に、肉じゃがは、よく味がしみていて、美味かった」

「……」

 肉じゃがは、ギロロが好きなおかずの1つ。そして、今日ギロロがリクエストしたおかずでもあった。

 本日、お腹が減ったとダダをこねるケロロを黙らせるように、料理はずいぶんと手早く用意されたと言うのに、肉じゃがはしっかりと煮込まれていたのだ。

「……」

「初めから、用意しておいてくれたんだろう?」

 よほどのことが無い限り、おそらく他の3人が勝っても、メニューに加えてくれるか……少なくとも、次の日には食卓に並べてくれるつもりだったのだろう。

 そんなことを言えば、「ナルシスト」という、棘のある言葉が返ってくる。

 しかし……やはり、自分の予想は当たっているのだろう。

(……赤い)

 金色の髪で隠れなかった肌が、少しだけ、色付いている。

 昔の自分ならば、きっと言えなかった。言ってしまうと、何だか次の日には、自分が他人になっているような気がしたから。

 しかし、これは、言わなくてはならない。

 飯を用意してくれた者への、礼儀でもあるのだから。

「――――ありがとう」

 うまかった、と……。

 

 《終わり》

君のいる場所、君が作ってくれたごはん。

あたたかな、いきていく場所に……。

| | コメント (0)

ハツコイ

けろ茶作品ですが、これは川谷圭のみのお話で、コラボレーションではありません。

 土曜日の巨大なショッピングビルは、大勢の客たちで賑わっている。女同士で買い物に来た面々は、ふと1つの店の前で足を止めた。

「ここじゃない?例のお茶屋さん」

 横文字の看板に似合わないネーミングだが、そうとしか言えない。先日発売した情報誌に載っていたお店は、通路としきる壁も無く、ぽんっとそこに在るといった感じだ。

 夏美は改めてメモと看板の名前を交互に見る。そして、「やっぱりここみたい」と他の3人に言えば、きらきらと目を輝かせたモアと小雪が、嬉しそうにブースに足を踏み入れた。そして、なかなか入ろうとしないクルルのほっそりとした手首をつかんで、夏美もそのまま店の範囲へ入り込んだ。

「でも、本当にいろんな種類があるのね」

 一言でお茶といっても、その香りや味は多様である。スーパーの売り場には無い珍しいお茶に、感心するばかりだ。

「迷っちゃいますね。てゆーか、想像以上?」

「クルルさんは、何か買わないんですか?」

「……」

 いつもならすぐに「買うわけねえ」等の台詞が返ってくるのだが、クルルは今回はそういったものも無く、ようやく自由になった手をポケットにつっこんで、3人とつかず離れすの位置に立っている。

 何だかんだで、こうして4人で出掛けることも多くなり、少しずつだがクルルもそんな現状に慣れてきたようだ。

 ――『慣れ』が『諦め』に似ているなんて、言っちゃあいけない……。

 そして、それぞれが目立つ整った容姿を持つ4人が集まれば、当然人目を引く。周囲から好奇の視線が集まる中、結構図太い神経を誇る面々は大して気にせず買い物に夢中になっている。様々な種類があれば、その分選ぶのにも時間がかかるのが定説。そして、女の買い物は大抵長いのだ。

「今、新発売の緑茶の試飲をお勧めしているのですが、いかがですか?」

 すっと、店員の女性がお盆に4つのカップをのせて、1人1人にそれを渡していく。流石に受け取らないわけにはいかないと思ったのか、ポケットから出てきた手にも、ちょこんとカップがつままれていた。

 先にカップに口をつけた小雪が、

「おいしい……」

と、感嘆して呟く。次いで、モア、夏美、クルルもくいっとカップを傾けて、こくん、とそれを口に含んだ。

 カップに口を近づけたときに、自然と香る香り。

 よく知っている香りだと記憶を辿っていくと、黄色い楕円に近い、すっぱい果実の姿が思い浮かんだ。味はもちろん緑茶なのだが、渋みが無く、程好い苦味とサッパリした後味が、夏の暑さを和らげてくれる。

「あの、これはなんて名前なんですか?てゆーか、興味津々?」

 よほどこの味が気に入ったらしいモアがそう尋ねると、空になったカップを回収していた店員がフワリと微笑んで、テーブルにセッティングされた茶缶を指差した。

「『ハツコイ』って言うんですよ。今飲んでいただいたのはアイスティーですが、ホットでもお楽しみいただけます」

「へぇー……」

 感心している面々に、店員は、

「ここでは他にもブレンド等も行っておりますので、よろしければそちらもどうぞ」

と、付け加える。あまり押し付けがましい感じのない、現代向きの誘い方だ。

 モアと小雪が1度ブレンドティーのコーナーへ向かった時、クルルはもう一方のテーブルに向かって移動した。夏美はそんなクルルが気になるらしく、主にクルルと一緒に、テーブルに置かれている商品を眺めて回る。

 夏らしく、アイスティーが中心となっているディスプレイだ。

 香りもフルーツ系のものが目立ち、見本を手にとってにおいをかぐと、甘く、まるで本物のような香りが鼻腔を満たす。

(―――たまには、こういうのもいいかも)

 果たして、弟やあの居候たちが気付くかは分からないが、たまにの贅沢は、いいかもしれない。

(もう少し見てから決めよう)

 そこで、ちらりと隣のクルルの様子を見る。

「クルルは、何か買うの?」

「さ~な」

 たわむれに手を伸ばしてはその場を後にする、という少女に問いかければ、ひどくやる気の無い返事。まあ、それはいつものことなのだけれど……。

 溜め息を吐いて、間違っても先に帰らないようにと念を押して、夏美も小雪たちの居るブレンドティーの方へ向かって行った。

 帰り道、ガサガサとお茶葉の入った紙袋がそれぞれの腕の中で揺れる。

 結局、クルルも何か買ったらしく、4人はおそろいの紙袋を持って並んで歩いていた。

 ちなみに、モアは紅茶、小雪は緑茶、夏美はピーチティー。

「クルルさんは、何を買ったんですか?」

「ナニか」

 終始こんな感じで、結局クルルが何を買ったのかは分からずじまいだったのだが。

 

 それから3日後。

「ん」

「――――え?」

「やるよ。いらねーなら、その辺に置いとけ」

「い、いや!かたじけない……」

 そう言って慌てて差し出されたカップを受け取り、香りを味わう。ドロロは、香りを愉しんでからお茶の味を感じる、という順序を守っているのだ。

 いつもならばクルルのラボでもドロロがお茶を淹れるのだが、今日はどういった心境の変化なのか、しっかりと冷えた緑茶が出されているわけで。

「――レモンの香りでござるか?」

「ああ」

 短い肯定。

 クルルは自分用に用意していたコップを傾けて、一気にそれを飲み干した。なかなかに男らしい飲みっぷりに、ドロロは心の中で苦笑する。そして、自分もコクリ、とひとくち、コップを傾けて、お茶を口に含んだ。

「……」

「……すごく、あっさりしていて……おいしいでござる」

「そうかよ」

 微かに驚きさえ含んでそう言えば、クルルの唇は満足そうに弧を描く。その、思わずぎゅっとしたくなるような表情を前に、何とか堪え、

「これは、何と言う名前のお茶でござるか……?」

と、ごまかすように尋ねた。

(そういえば、一昨日は小雪殿たちと買い物に行ってきた、と……)

 おそらくその時に買ってきたものなのだろう。その日の夕飯に、小雪が「クルルさんは結局何を買ったのかなぁ?」と不思議そうに呟いていたことを思い出す。

 すると、クルルはニンマリと、面白がっているような笑みを浮かべて、やはり楽しそうに口を開く。

「ないしょ、だぜぇ?」

「……」

 計算された笑みは、反則的な魅力を持っていたのだけれど……。

 

 1日目は、紙を見てよく分からないまま淹れてみた。

 すると、ちょっとばかり渋くなってしまって、舌打ちしつつ1人で飲んだ。

 2日目は、大分あの日飲んだものに近くなった。

 3日目につくって、室温で冷ましてから冷蔵庫に入れて、こうして2人で飲んでいる。

 

 そう。

 手間をかけて、祈るように。

 『ハツコイ』は、ほんのり苦くて、おいしかった。

 

 《終わり》

出来ることなら、悠氏に捧げたいのだけれども、ちょっとドロロの出番が少ない気がしてしまう……。女の子同士のやりとりは、書いていると止まらないんですよ!!

| | コメント (0)

海の家で

 夏休みも半ばを過ぎて、どこか行き残したところは無いかと考えてみた。

 約17年ばかり日本で生活している身としては、まだ『日本の夏!』としてやり残しているものがあると、何となく後で悔しい思いをするような気がする。

 連想ゲームにも似た、知識と記憶の連結。

(―――あ、そういえば……)

 今年はまだ、行っていない。

 その時浮かんだのは、去年のままの海水浴場の光景。

 毎年毎年、全く同じということは無いはずの海の記憶は、まだ重ねられていない。

(よし、行こう)

 幸いラジオの収録は、今日は無いのだ。

 思い立ったらすぐ行動。その方が、断然おもしろいということを自分は経験上よく知っている。

 ちなみに、現役共学の高校生ではあるものの、「一緒に行く?」と誘う彼女は生憎いない。一人、とてもおもしろいマブダチが思い浮かぶのだけれど、アイツが炎天下のこの夏の真昼間に海に行きたがるとは、到底思えなかった。

(―――独り、かな?ま、いいけど)

 タンスの奥から海水パンツを取り出して、一応着替え等もすべてカバンの中へ。

 そのままサンダルを引っ掛けて、真夏日の太陽に照らされる世界へ出て行った。

 

 じりじりと砂を焼く、日光の熱。

 それに負けじと、裸足で走り回っているこどもたち。

 カップルなんかもちらほら居て、周囲から生暖かい視線や迷惑そうな視線をものともせずに手を繋いでいたり。

「―――――クルル?」

「……あー」

 そんな海の方から少し離れて、海の家で少し遅い昼食をと思って行ったら、そこにはついさっき思い浮かべたマブダチが、気だるそうにベンチに腰掛けているではないか。

 驚きはしたけど、折角だし何なので、一言断ってから返事を待たずに隣に失礼する。クルルはそのことに口では文句を言っているが、どこか楽しそうだ。クルルはコレくらいのことで動揺したりはしないし、隣に座るなんて自分たちの間ではいつものことだし?

 そして、やっぱり定番の他愛も無い言葉ははずせない。

「来てたんだ」

「ムリヤリな」

 そして、やっぱり少し不快指数は上がってしまったらしい。

「あー……ケロロたちと?」

 これはもう、質問ではなく確認。

 案の定、クルルは「その辺に居る連中に、連れてこられた」と、やっぱり日焼けとは無縁そうな白い指で、ビーチバレーに精を出す一団を指し示す。

 そこでは、いつものようにモアが審判となって、真剣に、見ている方が飽きないような試合が繰り広げられているらしかった。

 ちなみにビーチバレーをしているメンバーは、全員水着姿。

 少女たちには、周囲の男性の描写を躊躇う視線が。

 男性たちには、他の女性客たちのあっつい視線が、遠慮なく向けられている。だが、試合に熱中している面々は、全く気がついていないようだ。

 元々、どちらも整った容姿をしているのだからそれは十分想定内のことだろう。

 そして、彼らに負けず劣らず綺麗な横の人物に向かって、口を開く。

「クルル」

「何だよ」

「その水着、クルルが自分で選んだの?」

「……モアたちが、勝手に持ってきて着替えろとかぬかしたんだよ」

「そっか」

 クルルが着ているのは、キャミソールのような形状の上と、下に短パンといったタイプのもので、黒の地に青と白の長方形や正方形が不規則に散りばめられている。それが、目にも鮮やかな金髪ととても相性がいいと思った。

 「かわいいし、よく似合ってるよ?」と言えば、「サムイ」なんて言われて、少し心外。

 おそらく、何だかんだで色々心配性な彼女の仲間たちのものだろう。明らかにサイズの合っていないパーカーが1着、等閑に肩に掛けられているのを見て、こっそりと笑った。

 誰のものなのかと好奇心がうずいたけれど、それを訊くのは野暮というものだろう。

 尋ねる代わりに、1度席をたって、海の家の主人からラムネを2本買ってきた。

 買ってから「飲む?」と言ったら、やっぱり嗤われたけれど、受け取ったということはやはりクルルも喉は乾いていたんだろう。

(どのくらい前から来てるのかは知らないけど)

 再びビーチバレーの方を見れば、砂地に書かれた得点と思しき数字が目まぐるしく変わっている。

 じりじりと肌を焼く太陽に挑む彼らを感心して眺めつつ、あくまで自分たちは日差し避けの恩恵を享受しているのだ。この位置は、結構おいしいな、なんて、我ながら思う。

 ラムネのビンに掛けられたフィルムを剥がして、ぷしゅっとビー玉を落とす。

 シュワシュワと昇ってくる炭酸の泡ごと口に含むと、ひやりとした温度が喉を滑っていった。

 そして、口を離してビンを目線の高さに持ち上げると、キラキラと輝くビンの中で、ビー玉がただ一つ、異なる輝きを放っている。浮力をものともせずに底に居座るビー玉が、小さい頃の自分には、宝石よりも綺麗に光っていたことを思い出し、改めてガラスの玉に向き直ると……やっぱり、今も心惹かれるものがあった。

「綺麗だと思わない?」

 コレ、と言ってビンを少し向ければ、一口飲んだばかりのクルルが、ニンマリと笑う。

「……ま、ガキかカラスが好きそうなものではあるなぁ?」

「あは!そうかもね」

 自分が子ども扱いされているのは分かるけれど、別に今は大人ぶりたいとも思えないから、それでいい。クルルも、やはりそんなこちらの考えなどお見通しなのだろう。言葉にはむしろ柔らかな響きが含まれていた。

「にいちゃん!ビー玉、ちょーだい!!」

「やだよ。ほしかったらじぶんでかってもらってこいよー!」

 丁度いいタイミングで、そんな子どもの会話を聞いたものだから、もう2人で顔を見合わせて、遠慮なく笑い合ってしまった。

 

 暑い夏。

 日本の夏。

 これで、海とラムネはクリアした。

(さて、あとは何か、やり残したことはあるかな?)

 今度も、思い立ったその日に行動を起こすことになるだろう。そして、今度は一言、だめもとで誘うのもいいかもしれない。

 

 《終わり》

誰を、なんて、口ではまだ言わない。

| | コメント (0)

特別なキッカケの無い始まり

「タマちゃん?」

「ねえモモッチ、このお菓子貰っていっていいですかぁ?」

 このお菓子とは、カレースナックのことだ。西澤グループが今年の夏に開発したばかりの試食品。

「いいわよ。それはまだスーパーに出すか検討中だから……よければ感想を教えてね?」

「あ、じゃあ丁度いいかもですぅ」

「?」

「これからクルル先輩のところで、ネットサーフィンをするんですぅ。何かお土産が無いと格好がつかないからと思って」

「ああ、そうだったの」

 桃華はあまり接点が無いのでクルルという人物を詳しくは知らない。しかし、いつもケロロ絡みで出掛けることの多いタママの口から出た話に、少し興味が惹かれた。

(とても見た目が綺麗な方だとは思いますけど……)

「モモッチ?」

「あ、ごめんなさい。気をつけてね?」

「はいですぅ!」

 そんな感じで、その時は特に話が発展することも無く終わった。

 

 その日。

 帰って来てから、いつものように夕食を囲んでいたときに、タママは今日の出来事を楽しそうに語った。

「あのクルル先輩が『まずくない』って言ってたから、あのお菓子はいいと思うです!」

 どうやらカレーが大好きなクルルからOKが出たらしい。ハンバーグを頬張りながらの言葉に、同席していた開発研究所の責任者も嬉しそうだ。

 そして、買い物がどうだったという話も終わりに差し掛かった頃、ふと、何となく桃華は今朝感じた疑問を口にした。

「クルルさんって、どんな方なのかしら?」

「クルル先輩ですかぁ?モモッチも何回か会ってますよね?」

「うん。そうなのだけど……」

「う~ん……嫌な奴で嫌な奴であることにポリシーを感じている、陰険陰湿陰鬱で、頭がすんごくいい人ですぅ~」

「……えっと、そういうのじゃなくて……タマちゃんはそういえば、いつ頃から皆さんと一緒に居るの?」

 何を聞きたかったのか桃華自身もよく分からなくなって、話題を変える。タママはその問いに、「訓練所を卒業してすぐにです!」と答えを返す。そして、そのままの流れで、少々その時を懐かしむように、つらつらと当時のことを話し始めた。

 

 ケロロを慕い小隊メンバーとなったタママは、当初はただひたすら浮かれていた。憧れていた人に少し認めてもらったという誇らしさや、熱っぽさ。ただその嬉しさに夢中になっていたが、やがて少し落ち着いてくると、冷静に小隊を観察するようになる。

 ケロロ、ギロロ、ゼロロの3人は幼馴染み。そのためか、よく喧嘩をしたり睨みあったりしながらも、その結びつきは強いような気がする。任務で組むと抜群のコンビネーションで力を発揮する。その基本にあるのは、年月に裏打ちされた『信頼感』というものなのだろうか。

 そして、クルルの立ち位置は、いつも絶妙だった。

 性格に難が有るというか、かなり人の心を引っ掻くような物言いが目立つが、やはり想像以上に、噂以上に技術力が高い。タママの認識語を借りるなれば、『頭がいい』となる。

 サボりがちなケロロの仕事を何だかんだで付き合って、熱くなりやすい真面目なギロロをからかって、忘れられたゼロロをつっついて。

 近付いては離れ、離れては歩み寄る。

 くっつきすぎず、離れすぎず。

 クルルは、幼馴染みの領域を侵さなかった。

 そして、歳が1番近い割りに、タママとクルルの間には微妙な距離があった。もちろん任務の話はするし、全員でのミーティングで雑談は交わすが、それはよそよそしい感じが抜け切らない……少なくとも、『仲間』らしいというには、何かが足りない関係だ。

(―――うーん……)

 寂しいのか、構って欲しいのか。

 そうしたことが、タママ自身よく分からない。

 分からないまま、月日は過ぎていった……。

 

 そこまでの話で、傍に控えていたポールが口を開く。

「失礼。それでは、タママ殿はいつごろから私的にクルル殿と会話をするようになったのですかな?」

「そういえば……」

 今日も随分と楽しく過ごしてきたようだし、と桃華も同じように疑問に思う。

 2人からの質問に、タママは腕を組んで、「えーっと……」と首を傾げる。しばらくの間、記憶を思い返しては違う、ということを繰り返し、ようやくお目当てのものが見つかったのか、

「あ、そうそう!」

と嬉しそうに手を打って、再び言葉を紡いだ。

 

 夏の、いつものように暑い日。

 確か、いつもの幼馴染み3人が「『暑い』と言ったら罰金!」というゲームをし始めたことがあった。どうやらそのゲームには後輩2人も参加者として含まれていたようだが、特に会話に参加することも無くそれぞれ好きなことを黙々と暇つぶしにしていた2人は、全く喋ると言うことをしない。

 結局、よく喋るケロロとギロロのお財布ばかりからお金が逃げていく。

(―――ヒマですぅ……)

 読み終わってしまった雑誌を脇に置いて、タママはふと目の前でパソコンをいじっているクルルを見た。

 少し離れたところでは、幼馴染みたちがはしゃいでいる。

「―――何やっているんですかぁ?」

 ぽつりと呟いた言葉に、クルルは抑揚の無い淡々とした調子で、

「ゲーム」

と簡潔に答える。

 反応があったことによって、何のゲームなのかと気になって見に行くと、カラフルなブロックが落ちては消えていく四角い画面が目に映った。

 いわゆる『おちもの』と呼ばれる、同色のブロックを上下左右に固めて消していくというものを繰り返していくゲームらしい。それを、クルルは何の感情も見せず(まあ、所詮暇つぶしだからだろう)黙々と続けていた。

 とにかく、上手い。

(……どんどん消えていくですぅ)

 それとは逆に、どんどん加算されていく点数。難度は最高ランクだというのに、まるで魔法のようにブロックが消えている。

「―――クルル先輩」

「―――あ?」

「やらせてください」

 その時、初めてクルルがタママを見た。いつも何となく思っていたが、こうして見るとかなり造形の整った顔立ちだと分かる。可愛いと言うより、綺麗なタイプで。

「……できるのかねぇ?ガキに……」

 ―――しかし、その口から紡ぎ出される言葉は相変わらずの嫌味だった。

「っできるですぅー!!見ろやコラァァァァ――!!!」

 思わず裏を出現させて凄むと、わざとらしいにやりとした笑みを向けられて……それでもパソコンを譲られた。ちなみに、ゲームはそれなりにはできたのだが、やはりクルルの高得点には追いつけないまま、ゲームオーバーになってしまった。

「―――で、その日の罰金で、クルル先輩とドロロ先輩とアイスを食べてぇ~……またゲームする約束をしたのが、よく思えば初めてだったかもしれないです」

 よくよく考えなくては分からないほど、それは何気ない日常の1コマだった。

 今の今まで、忘れるくらいに。

 そんなタママの言葉に、桃華とポールはニコニコと笑いながら、

「そういうものでしょう」

「そうね。きっかけって、実は何気ないことだったりするもの」

と言葉をつなげた。それが、何となく嬉しい。

(……今度、久しぶりにゲームをしたいですぅ)

 彼女は覚えているだろうか?

 彼女のことだから覚えていそうな気もするし、わざと忘れているような気もする。

(――早く明日が来ないかなぁ……)

 

 《終わり》

埋もれた日常は、心地よくて。

 

| | コメント (0)

姫君らは旧暦を偲ぶ

 夜のパトロールをしていると、ふと日向家の屋根の上に、キラキラ輝く光を認めた。覚えの有る見知った金髪であると、小雪はぐんっと重力を味方につけ、華麗に隣に舞い降りる。

「こんばんは!」

「―――ああ」

 にこにこと笑いながら挨拶をすると、ちらりと一瞬だけこちらを見て、すぐに視線は空へと向けられた。クルルがかけている眼鏡はとても分厚いもので、正面からでは視線の動きさえ分からないくらいなのだが、眼前にある横顔は、儚さと妖美を纏う綺麗さがある。

 白く、細かい傷が目立つ指が持つのは、朱塗りの盃。

 どうやら手酌で月見酒を楽しんでいたらしいと経緯を察した小雪は、一度断りを入れ許可を得てから隣に腰を下ろし、クルルに倣う形で空を見上げた。

(―――白くて、きれい……)

 月は何度も見ている。

 夏になると、月を隠す雲も少なく、少々遅い時間に空を仰げば、夜闇に浮かぶ毅然とした輝きがそこに存在しているのだ。

「きれいですね」

 月も、あなたも。

「―――……」

 クルルは答えない。代わりに盃に少しだけ注いだ酒をコクンと含んで飲みこんだ。

 夏と言えども、クーラーのきいたラボで過ごすクルルの服装は基本的に厚着なのだが、外に出るときはそれらしい季節感のある格好になる。単純に簡潔に言えば、肌を外気にさらすようなタイプの服を身につけるということだ。ちなみに、今のクルルはタンクトップに短いジーパンという組み合わせである。

(ドロロは、すごく慌ててたなあ)

 以前、皆で出掛けた時の赤面したドロロのうろたえっぷりを思い出すと、小雪は自然と口元が緩む。ずっと年上のはずの青年が、そんなときは弟のように思えるから不思議だ。

「――でも、お久しぶりですね。クルルさんがここにいらっしゃるのは」

 最近では珍しい、クルルの屋根の上での宴。

(そいうえば、昨日はドロロが会いに行って、でもお仕事が忙しそうで、あんまりお話できなかったって言ってたなぁ)

 ここ数日、クルルが屋根の上に登ってこなかったのは、仕事が忙しかったからだろう。

「お仕事、終わったんですか?」

「まだだな」

 端的な返答に、小雪は意外だと言いたげに目を丸くする。

 まだまだドロロたちと比べれば、小雪とクルルは付き合いが短いのだけれど、いつもほとんど休憩をはさまずに仕事にのめりこむというクルルのスタイルは知っているため、純粋な光を宿す瞳が素直にそうした心情を伝えてくる。

 クルルはその光を避けようと足掻きながら、やがて溜め息1つと共に、彼女が望んでいるであろう『理由』の欠片を口にした。

「今日は何月何日だ?」

「あ、えっと……あ!」

 一瞬、安直に日付を答えそうになったが、その数字の並びと空に散らばる小さな輝きを見上げてすぐ、小雪はクルルの言わんとすることを理解した。

 クルルもまた、小雪がこちらの意図を汲み取ったことを察し、にやりと唇で弧を描く。ドロロも小雪も、こうした頭の回転は悪くないため、含みを持たせた言葉を示す甲斐があるというものだ。まあ、クルルの性質上、こういったことが口にされるということは決して無いであろうが……。

(――旧暦の、七夕だ……)

 今日は、8月7日。

 七夕は7月7日に、空の上で織姫と彦星が年に一度再会する日として祝われる『星祭り』だが、旧暦の場合それが約1ヶ月程ずれるのである。

 旧暦と新暦は、行事を曖昧にさせている。

 旧暦から新暦に換算して行う行事もあれば、日付の数字を変えずに行うものもある。

 七夕は、多くの地域では今の7月7日に行われているらしいが、中には8月7日に行う地域も存在しているという。忍の村で育った小雪は、あまりそういった行事を祝うということは無かったが、知識としては知っており、丁度1ヶ月前に夏美たちと近所の七夕祭りを楽しんだことは、今でもあたたかい思い出である。

「えっと……じゃあクルルさんは、七夕のお祝いをなさりに?」

「俺様がそんなサムイことするかよ」

 小雪の予想は、きっぱりとした辛口によって否定された。

「じゃあ、なんでですか?」

 今度ははっきりと疑問を口にした小雪に対し、クルルはどうも釈然としない表情で、ポツリと呟く。

「雨でも……」

「?」

「雨でも降らね~かと思っただけ、だぜぇ?」

 そして、もし雨が降ったら大笑いしてやるつもりだったのだと、真意なのか迷うような返答を寄越す。ちなみに、雨が降ったら天の川が氾濫して2人が会えなくなるというのは有名な話で、少なくともそれに絡めた嫌味であることだけは確かだろう。

 小雪としては、是非年に1度の恋人たちの逢瀬が穏やかであるようにと祈りたい。そのため、クルルの言葉に、一瞬寂しげな表情を浮かべたが……。

(――――あ、れ……?)

 ふと。

 そう、ある1箇所が、急にどうしようもなく気にかかってしまった。

「あの、クルルさん」

「何だよ」

「2人は、年に1度しか会えないんですよね?」

「伝承上の話だがなぁ」

「結局、7月7日と8月7日のどっちに2人は会えることになるのでしょうか?」

「―――――はあ?」

 いきなり何を言い出すのかと、思わず少女を直視するように振り返る。

 ちなみに、中学3年生という思春期真っ只中の少女は、反抗期などどこかに忘れてきたような素直さで、どうも真剣にそのことについて悩んでいるらしい。

(……マジかよ……)

 一緒に暮らしている者同士は、どこか似るというが……。

 こんな所ばかり似なくてもいい、とクルルは1人心の中で毒づく。

 恋人だからといって、苦手意識はいぜんとして消えない青年の姿を思い浮かべつつ、

「……所詮、昔どっかの誰かが言い出しただけのことだろうが……」

と、かなりぼかした言い方をした。これがドロロ相手ならば適当にいじってトラウマスイッチの1つや2つを押せば状況を楽に変えられたのだが、この忍者娘に対しては、そういった手法が通じないから厄介だ。

「……あの、じゃあ、年に2回会えるっていうのはどうですか?」

「……」

「今年は7月7日も晴れていましたし、きっと2人はずっと頑張っていたご褒美をもらったんですよ!」

「……そーかよ」

 力ない、しかし否定ではないその言葉に、小雪は嬉しそうに微笑む。

 それを見つめつつ、クルルは実は「パトロールはどうしたんだ」と密かに思ったのだが、あえてそれは胸の内に留めた。別に自分が気にすることではないし、多分ドロロ1人でも大丈夫だろう。

「……」

「……飲むか?」

「あ、いただきます」

 未成年とは言え、修行でアルコール摂取にも慣れている小雪。そのことを知っているクルルは、躊躇いも無く酒ビンを渡す。盃は1つしかないので、交代で使うしかないだろう。

 

 ゆらゆら ゆらり

 きらきら きらり

「でも、今日は本当に空が綺麗ですね」

「――大してかわんねえだろ」

「でも、本当に、やっぱり綺麗です」

 月見酒でも、この三日月は十分にいい。

 しかし、今夜のこれはむしろ――。

((星見酒))

 少女たちの酒の飲み交わし。

 2人きりの小さな宴は、星たちの下、つつましやかに行われていった。

 

 《終わり》

「いいねえー、ああいう雰囲気」

「そうでござるな」

 少し、日向家から離れた屋根の上では、睦実とドロロがウーロン茶を飲みつつ、小雪とクルルの様子を何となく眺めていた。

 本日は拍子抜けするほど平和で、あまりにも平和すぎて、その分暇を持て余していたドロロは、小雪がクルルの元へ降り立つ前から睦実と2人、こうして言葉を交わしていたのである。

「なんかさ、ひょっとしてあの2人、結構仲良いかもね」

「確かに。小雪殿もクルル殿も、とても聡明でござるし……」

「……」

「睦実殿?」

 急に黙り込んだ青年を不思議そうに見つめて首を傾げると、何故か「ぷはっ!」と、ふきだすような笑いがこぼされた。

「???」

「あー、うん……気にしないで。ちょっと考え事」

 何か分からないまま上機嫌になった睦実は、ニコニコと笑みを浮かべ、1人納得している。

(ドロロは、やっぱりドロロ、か……)

 楽しくて、愉快で。

 そして、少しばかりあの唯一無二のマブダチを羨んで……。

 手にはウーロン茶、ではちょっと格好がつかないけれど、雲1つ無い夜空を見上げ、乾杯、とするように、ペットボトルを掲げてみた。

 

 《本当に終わり》

睦実は、「ドロロと小雪は似ている」という前提から、ドロロとクルルの仲をからかっているのですが、ドロロにはいまいち伝わっていない、という、見苦しい解釈……。

間に合いませんでした……。

| | コメント (0)

かおりのカケラ

 少し離れた町の、最近オープンしたばかりのデパートは、平日の昼間だというのにずいぶんと混み合っていた。

 クーラーはおそらく、この二酸化炭素削減などと叫ばれている世論に逆らって、がんがんに利いているのだろうが、人々の妙な殺気で相殺されてしまっている。

「……おい」

「んー……」

「いつまでそうしている気だ」

「むう―――……」

 買うべきか買わざるべきか、とさっきから玩具屋のプラモデルコーナーから動こうとしない緑の幼馴染み。これが自分たちの隊長かと思うと泣けてくる……と、ギロロは震える拳を更に強く握り締めた。

 何せ、おそらく小・中学生くらいであろう子どもたちがその妙な集中力におそれをなして、なかなかお目当てのプラモデルを手に出来ずにいる。つまり、今のケロロはぶっちゃけかなり邪魔だった。

(こんのバカ……!!)

 もう殴ってでも引きずって行くべきか……と思い、善は急げとゲンコツをつくった時、

「ギロロ先輩!」

と、幼い少年の声が耳に届いた。

 振り返ると、キラキラと大きな黒い瞳を輝かせたタママが、

「ちょっとコッチ来て下さい!」

とギロロの腕を引っ張ってくる。無邪気な様子に微笑ましい気持ちになり苦笑するが、あのはた迷惑なボケ隊長をそのままにしておくのは気が引ける。

 しかし、タママはチラリとケロロの方を見て、次いで周囲の少年たちを見ると、

「軍曹さんは、確かにしばらく動かなそうですけど、周りの人たちも本当に見たかったら無理矢理にでも手をのばすですぅ~。何より、多分今僕たちが何を言っても軍曹さんには届かないだろうし、引っ張っていくのも無理だと思いますぅ~」

と、やはり呆れたように言葉を紡いだ。

(……確かに、な……)

「後で迎えに来ることにして、少し付き合ってください。買いたい物があるんですぅ」

「?わかった……」

 買いたい物があるのならば自分で買えばいいのに、と思うが、取りあえず引っ張られるがままに、タママの行きたいところへ向かう。

 タママがギロロを連れてきたのは、バスセットなどが売られている、カラフルな店だった。タママは違和感無く溶け込んでいるが、自分は相当浮いてしまうような、明らかに女性向けの世界だ。

 立ち去りたい気持ちが強いものの、いくら子どもとはいえ突撃兵の少年の力は結構馬鹿にできない。そのまま店員の生温い眼差しにさらされながら、ずるずると引きずられていく。タママはキョロキョロと商品を見ながら、目的のコーナーを探しているらしい。

「えっとですね……あ、ココ!ココですぅ!!」

「……入浴剤か?」

「『バスビーズ』っていうんですよ?」

 漢字かカタカナかの違いで、中身はほとんど一緒だろう、とギロロは思うが、やはりそういったことは大切にしているらしいタママは律儀に訂正する。

 そこには、青、ピンク、緑、黄色、オレンジなどの大きな粒――球形や星型もある――がつめられた透明なビンが、整然と並べられていた。

「コレ、クルル先輩のお土産にしようと思うんですぅ」

「クルルの?」

「はい。でも、すごくたくさん種類があるから迷っちゃって……。だから、ギロロ先輩にも選ぶのを手伝って欲しくて」

 クルルは『人混みなんざメンドー』と言い、デパートへ行くことを拒否して、今もおそらくラボに篭っている。確かに人混みは気持ちのいいものではないが、だからと言えどクルルは引きこもりすぎじゃあないかとギロロは思う。

 やはりたまには外へ連れ出した方がいいか、ということまで考えて、「ギロロ先輩?」というタママの声に、現実に引き戻された。

「大丈夫ですかぁ?」

「ああ……すまん」

「……えっと、他のものの方がいいですかぁ?」

「いや、いいと思うぞ」

 クルルは実は風呂や温泉といったモノが好きだし、香りの良いモノも好きだ。そういった意味で、タママの土産選択はアタリだろう。

 さり気なく後輩同士、いい関係を築いているらしく、タママとクルルは結構仲が良い。そのことを微笑ましく思いながら、ギロロは、「じゃあ選んで買っていくか」と言って、黒い髪をぽんぽんと撫でた。タママは一瞬驚いたものの、すぐにニコッと笑って、「ハイですぅ!」と、お試し品に手を伸ばす。

 おいていかれた!と大慌て且つ半泣きのケロロがやってくるのは、2人がバスビーズを買い終わった直後である……。

 

 日向家の玄関、ケロロの部屋を通り、クルルズラボに向かう。クルルと違い直通のルートを持たない彼らは、いつもこうして正規のルートを通るしかない。しかし、今ラボに向かう2人は、どこか軽い足取りで長く動く廊下を歩いていた。動く廊下の意味が無いとかいっちゃあいけない。

「クルル、入るぞ」

 ウィーン、と自動で開くドア。すると、中からミャ―っと白い猫が出てきてトトトっと2人のそばを通り過ぎラボを後にした。

(……何故、猫が……?)

「クルル先輩、ただいまですぅ~!」

「クーックックック……ずいぶんと長い買い物だったなぁ……」

 隊長がガンプラの前にへばりついていたのか?と、疑問形で確定事項を口にするクルルに、2人は苦笑と溜め息をもって応えた。ケロロの行動パターンは、隊員全員の周知事項となっているのだろう。

「で、何の用だよ?」

「えへ!あのですねぇ~……」

 テホテホとクルルの傍まで歩み寄り、背中に隠していた袋を差し出すタママ。それを見て、かすかにクルルの目が見開かれたのをギロロはしっかりと見ていた。

「お土産ですぅ~。ギロロ先輩と選んだんですよぉ?」

「オッサンとねぇ……クックッ……どんなモンになってんだか」

「悪かったな」

「デパート、結構いいお店がそろってましたよ?今度はクルル先輩も一緒に行きましょうね!」

 サラリと誘い文句を口にするタママ。

 そんな、少年のみに許された言葉に対し、1度袋の中身を見ていたクルルだが、いつものようにニヤリと笑んで、

「気が向けば、な」

と返した。

 つい、呆けたような表情をしてしまった2人を、クルルはとてもおかしそうに笑う。

「……意外ですぅ……」

 誘った本人が呟く台詞に、タチの悪い笑みが深くなる。それを察知したタママは素早く、

「じゃ、じゃあ、軍曹さんのトコロに行くですぅー!」

と、ラボを脱出した。

 残されたギロロは、溜め息を吐いてくるりとクルルに向き直る。

 てっきり、ギロロもその後すぐに出て行くと思っていたクルルは、そのまま自分に近付いてくるギロロを訝しげに見つめた。

(せめて、不思議そうに見て欲しいのだが……)

 少し棘のまじる視線に苦笑して、そっとポケットから出したものを手に、金糸の髪に触れた。

 

 パチンッ

 

 「……?」

「それも土産だ。邪魔ではないだろう?」

 生憎、ココに鏡は無いため、クルルは今の自分の状態を見ることは叶わない。

 クルルの金色の髪を一房、まとめて留まっているのは、ギロロが個人的に選んできた髪留めだった。夏物のセールを行っていたからということもあるが、純粋に似合いそうだからと、ついつい珍しく衝動買いをしてしまったのだ。

 本当はブレスレットなども良さそうなものがあったのだが、作業をするときに肌に違和感を感じるのが嫌いなクルルには合わないだろうと髪留めにした。そういったところには、細かい気配りが出来る男なのだ、ギロロという男は。

「……」

「――何だ?」

「――別にぃ……」

 気になるのか、髪留めの辺りを指で探る仕草を見せる後輩に、ついつい和む。

 やはり睨まれてしまったが、この買い物は正解だったと、ギロロは胸のうちでこっそりと呟いたのだった。

 

 そして、ギロロもまたラボから出て行き、再び静寂に包まれた空間。

 ―――の、はずだが、クルルは珍しくどこか穏やかな苦笑いを浮かべた後、いつもの嘲笑を浮かべて天井に向かって声をかけた。

「見事に忘れられてるな」

「……」

 天井裏からは何の音も聞こえないが、今の言葉で明らかにどんよりとした重苦しく湿っぽい雰囲気が色濃くなる。

 言う必要もないだろうが、天井裏にいるのはドロロだ。

 今日、3人が出掛けていくときに、例の如く誘ってもらえず半泣き状態でクルルの元に来た、哀れな青年。そして、何故だかドロロに付いて来たギロロの同居猫も加わり、独特な相談会のようなことが、ついさっきまで行われていたのである。

 タママとギロロの気配を感じてドロロは天井裏に移動したのだが、同じく行かなかった(まあ、クルルはちゃんと1度誘われているのだが……)クルルへのお土産はあるのに、自分のことは欠片も思い出してくれないらしい面々に、トラウマスイッチはバッチリと押し込まれてしまったらしい。

 スイッチのバネが壊れて、戻らないんじゃないかというくらいに……。

(―――さて、と)

 別に、このまま放っておいてもいいのだが、せっかくこうして土産というモノが手の中にあるわけだし、と、クルルは再び口を開く。

「風呂、入りマスカ?」

「……」

 そして、やはりドンヨリ……と落ち込みつつもラボにおりてきた青年を引っ張って、少し早い夕方入浴としゃれ込んだ、という話である。

 後日、クルルとドロロから土産のシトラスミント・バスビーズの香りがすることに気付いた3人が、いろいろ慌てる様子が見られたとか。

 《終わり》

お土産を選ぶワクワクドキドキな気持ち。貰ったときの照れくささ。

 

 〈オマケ。ギロロ編〉

 バスビーズを買った後、また玩具屋に行きたいと言ったケロロ。なんでも、さっきは結局買わなかったガンプラがやはり欲しいということで。

 本気で的にしてやろうかと思うが、あんまりにもうるさいので1分で買って来いという条件付で向かう途中、『夏物セール!!』という旗が下がった店に目が留まった。

 思わず足を止めると、タママとケロロも立ち止まったらしい。

「アクセサリーじゃん。ギロロ、何か新しいの買うんでありますか?」

「でも、ここ女性用アクセサリー売り場ですよ?」

 シルバー系のアクセサリーを時々好んで身につけるギロロに尋ねるケロロに、タママがそう答える。女性用のアクセサリーを身につける男性もいるらしいが、ギロロが選ぶものはいつも男性用のものだけだ。

 そんな2人の会話には特に反応せず、ギロロはおもむろに、「先に行っててくれ」と店の中に入っていった。

 先に行けといわれても気になるので、2人も周りの視線などお構い無しに店の中に入る。

「ギロロー、どしたの?」

「何か見つけたんですかぁ?」

「……まあ、な」

 そういってさっさと会計に向かうギロロの手には、確かに何かがあったのだが、2人の位置からはそれを見ることは叶わず、その後ギロロに尋ねてみても明確な答えが返されることは無かった。

 ただ、ギロロはずいぶんとその後、機嫌が良くて。

(思わず、買ってしまったが……)

 そして、少し困ったようにも見えた。

(あいつに、きっと、似合う……)

 

 〈オマケ。ドロロ編〉

 バスビーズを入れると、シュワーっと泡が出てきた。

「……いい香りだね」

「シトラスミントだとよ」

「しと……?」

「シトラスミント」

 一応もう1度クルルは繰り返してくれたのだが、生憎あまり聞いたことが無い単語はドロロの中に上手く入ってきてはくれない。流石にもう1度、と頼むことは気が引けるし、何よりこのままでは寒いので、2人は一緒に湯船の中に体を沈めた。

 ドロロとクルルは、実は温泉や銭湯に頻繁に行っていて、そういうところで趣味が合うのだ。異性が一緒に風呂に入っていいのか!といったことは、まあこの2人だからOKということにしておく。

「色はあまりつかないみたいだね」

 とても淡く綺麗だった薄黄緑色は、無色透明な湯船の湯に飲み込まれてしまった。その時、ついつい視線が体に向かってしまい、ドロロは慌てて別の場所を向く。

「顔、赤いぜぇ?」

「う……」

「もうのぼせたのかよ」

「え……っと……あ、その、今度このお礼に泊まりにきてくれないかな!?あ、あの、新しい入浴剤を作ったんだ!!」

 とにかく話題を変えようとそう叫ぶと、バスルームに不自然に音が反響した。しかし、クルルはたいしてその辺は気にしていないのか、むしろ新しい入浴剤に興味が惹かれたらしく、「ん」と短い返事がなされる。

(……かわいい……)

 今日のことは、やっぱり悲しかったけれど、悪いことばかりじゃないんだなあ……と、ドロロはふんわりと微笑んだ。

| | コメント (0)

絶対領域

「ただいまー」

 本日、バレー部の助っ人をしてきた夏美は、きれいに脱いだ靴を並べて家に上がる。その時、ちらりと廊下の隅を見ていくことも忘れない。

 何せ、ケロロはしょっちゅう掃除を手抜きして楽に済ませようとしてしまうのだ。少しでもチェックを怠ろうものなら、余計調子に乗るものだから気が抜けない。

(今日は、しっかりやったみたいね)

 いつもこうだったらいいのに―――と思う。大っぴらには誉めることができないため(やはり調子に乗るから)、まあ今日の夕飯で少ししょうが焼きのお肉を多くしてあげようと思いながら、帰り道の途中で買ってきた食材を持ってキッチンへ。

「おー、夏美殿。お帰りであります!」

 すると、必然的に通ったリビングで、緑の短髪を何故か飾りゴムで前髪だけ噴水のように縛ったケロロが陽気に出迎えた。それだけならば良かったのだが、いつもとは違いひそめられた声が気にかかり、もう一度言ったただいまと共に視線をずらす。

 すると、ソファーに座っているケロロの肩を枕にして、クルルが眠っていた。

「……何やってんのよ……」

 人の家のリビングで……と言いつつ、夏美の声もひそひそ声である。

 クルルがあまりにも静かに、とてもきれいに眠っているものだから、いつも通りに突っ込むことが躊躇われたのだ。

 ケロロはそんな夏美の気遣いに礼を述べ、次いで、

「見ての通りであります」

と、ひどく優しい眼差しをクルルに向けた。

 うっすらと隈の浮かんだ、白すぎる肌。

 あまり、こうして気持ち良さそうに眠るクルルの寝顔を見たことが無いため、そのことに新鮮さを感じつつも、夏美は呆れたような溜め息をケロロに寄越す。まあ、ケロロはあくまで悪びれることなく笑うだけだが。

 ケロロがクルルを何かと大切にしていることは、周知の事実だ。

 そして、クルルがケロロにどこか甘えようとしていることも、同様で。

 それは、微笑ましく、非難されることではないと、夏美も思う。

 思う、が―――。

(ちょっと、スキンシップの度が過ぎると思うのよねぇ……)

 年頃の少女と、れっきとした大人に(一応)分類される男が、白昼堂々くっついているなんて、そうそう見掛けない。そうしたスキンシップのレベルなんて、自分たちと彼らのそれは基準が違っているのかもしれないが、こう、目に留まりすぎる所でのそれはやはり慎んで欲しいというのが本音で。

 しかし、まさかクルルを起こすなんて選択肢を取る気にはなれず、もう一度重い溜め息を吐いた。

「溜め息を吐くと、幸せが逃げるでありますよ~?」

 ゲーロゲロ、という間抜けな笑い声が響き、そのまま黙って去るのは少し腹立たしくて、口を開く。

「ボケガエル、明日、お風呂掃除も追加ね」

「ゲロォー!?そ、それはあんまりでありますよ夏美殿ぉ~!」

 あくまで、声は抑えて。

 オーバージェスチャーも無く、ケロロはあくまで肩にかかるかすかな重みを気遣っている。

 そこには夏美も心底感心して、(しかし、それとお風呂掃除のことは話が別だが)言葉を続けた。

「アンタたちって、ホント仲いいわね」

「―――ゲロォ?」

「何か―――――」

 

 仲間。

 友人。

 先輩と後輩。

 上司と部下。(階級は逆らしいけれど)

 

 2人の間にある関係の名前を、夏美は探す。そうして口にしたものは、今挙げた4つの単語の、どれでもなかった。どれも、事実ではあるのだが、どれも何かが違う気がしたのだ。

 そして、その言葉が声として耳に届くと、ケロロは一瞬呆けたような表情を見せ、そしてやがてゆるゆると口元が緩み―――。

「―――それは、我輩、光栄であります」

 とても理想的な弧を描く、唇の形がそこにある。

 そんな、見せたことの無い表情に夏美は少し驚きつつも、すぐに晴れやかに笑って見せた。

 

 《終わり》

守られた眠りの間に交わされた言葉の意味

| | コメント (0)

夜空に咲く

「わっ!」

 ぐんっと、一気に遠くなった地面に驚いて、思わず悲鳴のような声が零れる。その声に敏感に反応したガルルは、素早く後ろを見た。

 しかし、危惧したような事態は起こってはおらず、それまでクルルの斜め後ろを歩いていたゾルルが子どもを抱き上げたのだと知る。

 半身が機械で造られた義体であるゾルルは、そのことを気にしてなのか滅多に自分から他者に手を伸ばして触れることをしない。唯一の例外は、今彼の腕の中に収まっている、きらきらと輝く月色の子どもだけ。

 しかし、抱き上げられた子どもは不機嫌で、それを隠すことなく少し上にあるゾルルの顔を睨むように見上げた。

「下ろせよ、先輩」

「人ガ……増エ、テ……キタカラ、ナ……」

 あくまで離す気は無いらしい。

 腕に座らせるようにして、クルルを抱いたままゾルルは再び歩き出す。1度言い出したことは曲げないゾルルの性格を知っているクルルは、諦めるためだろう、ずいぶんと大人びた溜め息を吐いた。

 ガルルは努めて口元を引き締めると、少し立ち止まって、ゾルルと彼に抱かれたクルルと並び、ゆっくりと歩く。ガルルの身長も平均男性と比べてかなり高いのだが、ゾルルは規格外だ。そんな男の目線近くまで持ち上げられた子どもは、少し落ち着かないのかちらちらと目線を動かしている。

 ふと下を見れば、確かにゾルルの言葉通り、ずいぶんと人通りの量が多くなっていた。周囲など見えていないと言うように走り回る者も多い中、確かにこれではクルルのような子どもは他者に流されてしまうだろうと、ガルルはひっそりと笑う。

(ゾルルには感謝しなくてはな)

 クルルへの気遣いも、今回のことも。

 自分とクルルの2人きりよりも、やはり3人の方が楽しいと思う。ゾルルはお世辞にも口数が多いとは言えないし、クルルは最初、今回の外出自体に辟易していたが。

 話を沢山するとか、そういうものではない心地よさがこの時間にはある。

 たまには、いつものメンバーで違う、非日常に飛び込むことも大切だ。

(しかし、相変わらずすごいな)

 今日は、年に2回ある花火大会の内の2回目。花火を見るためだけの、なんともシンプルな祭りだが、毎年大勢の人々が我先にと海岸、橋の上、小高い丘の上等に押しかける。

 ガルルは生憎、昨年のこの時期には用事が入ってしまい、見ることが出来なかったが……。今年はクルルにもこの花火大会を見て欲しくて、4日間かけて説得したのだ。その時にゾルルも休みを取るという流れになり、今に至る。

「ガル、ル」

「ん?」

「ドコ、ニ……行ク……ノ、ダ?」

「もう少し先だよ。おそらく、他に人はいない」

 向かう先は、ごくごく普通の、しかしこの辺りでは珍しい様相を呈している民家の裏の空き地。ずいぶんと前に、場所探しをしていて見つけたのだが、ほんの少し高くなっている地面と、あまり高さのない家の上で咲く花火は、いつだってとても綺麗なのだ。

 今年も是非、クルルを説得して良かったと思えるようなものであって欲しい。

 一方、他に他人がいない、ということに安心したのか、クルルから少し険しさが消えていく。確かに多すぎる他者は、そこまで気分のいいものではないかもしれないが、この子どもの抱えるものを思うと、寂しい気持ちになる。仕方が無いと思いつつも……。

(―――もうすぐ、2年、か……)

 クルルが、軍に組み込まれてから、もうすぐ2年。

 その間に、こうして外出したことなど片手で足りてしまう。

 クルルがあまり外出したがらないということもあるが、日に日に子どもを取り囲む環境は悪くなっているように感じる。今回の外出届も、実は上の許可をもぎとるのに少々時間がかかったのだ。

 管理体制が、いつのまにか度の過ぎた『監視体制』へと姿を変えていく。

 毎日毎日、暗いラボで、かすかに光を反射する金属に囲まれて生きている子どもは、これからもこのまま、なのだろうか?

 この子どもに、自分たちは何ができるのだろうか?

(―――感傷、だな……)

 祭りの楽しい雰囲気が、暗いものを呼び起こしたのか。

 いつだって、嬉しいことと辛いことは、プラスマイナス0になるように出来ているのだと、格言か教訓のように繰り返す。

(だとしたら、クルルはこれからどうなるのだろうか?)

「おい」

 ふと、たった今思い浮かべていた子どものはっきりとした声が耳に届き、あくまで如才なく、

「はい?」

と自然に応対した。この辺りは、軍に入ってからずいぶんと鍛えられた能力だ。

「あと5分だぜ」

 3人の中で唯一時計を持っているクルルの言葉が響く。

 律儀な真面目さをみせる子どもに、ガルルは今度こそ笑いかけて、

「もうすぐ着きますよ」

と答える。しかし、念のためにと大人2人は歩みを速めた。

 広くも無く、しかし狭くも無い空き地に着いてしばらく。なぜか今だにクルルはゾルルに抱き上げられていたが、あえてガルルは何も言わなかった。

 やがて、バーン!と派手な輝きが夜を照らすとき―――。

 刹那、刹那に、3つの影がゆらりと空き地に揺らめいていた……。

 

 《終わり》

大勢でも2人きりでもない、この距離、面積。

| | コメント (0)

虫よけ

 『こどもの箱庭明け方の宙』の相方・悠氏とのコラボレーション小説です。もしかしたら、2つ併せて読むと、おもしろいかもしれません……。

 虫刺されだらけのドロロの隣にいるのは、散々熱を上げられた赤だるまではなく、ぶらぶらと石に腰掛けて、自由な足を振り、空を見上げている金髪の後輩。

 暑いからと昼間はほとんど見ることのできなかった、普段日に当たることのない白い肌が、月明かりでぼんやりと浮かぶ。幻想的で、魅惑的で。思わずそこに視線がいってしまうのは、仕方ないだろう。

(だって、我輩、男の子だし☆)

 夏美たちが選んだ水着を着たクルルを拝めただけで、ここに来た意味は十二分にあったというものだ。流石に手を出す、なんてことはできないだろうけど、折角の機会を無駄にしないようにと、ケロロはじ―――っと、クルルを遠目に見つめてみる。

「おい」

「ゲロ?お、復活したでありますか~?ギロロ」

 低い声に呼ばれて振り返れば、案の定、ついさっきまでその辺に座り込んで、なんだかもういっぱいいっぱいだった赤い幼馴染の姿。ニコニコと上機嫌なケロロとは対照的に、その、ただでさえ『怖い』と評される顔は、3割増しでキツくなっている。

「さっきから、何をしているんだ貴様は……」

「何って……心を潤すための、目の保養?」

「アホか!この変態が!!」

 かすかに声は抑えられてはいるものの、その言葉に心外だといわんばかりに、ケロロもムッと、口を尖らせた。

「ヘンタイとは、聞き捨てならんでありますなあ……。我輩は、まっとうな青年男子として、心の赴くままにある一定の節度を持って行動しているだけであります」

「やってることは、ただののぞきと大差無いだろうが!」

「何おう!?そういうギロロだって、さっきまで虫刺されで涙目になってるドロロを見て、真っ赤になって危ない人になっていたくせに!!」

「――っな……!?だ、だれが……!!」

「それに比べたら、まだまだず―――っと、我輩の方が健全でありますよ!このヘタレ赤だるま!!」

「―――っだ、だまれ!!」

 がさっ。

「軍曹さーん、ギロロセンパーイ、薪集まりましたかぁ~?」

「タ、タママ……いや~、ちょーっと手間取って……っおお!?ずいぶん沢山拾ってきてくれたんでありますな!ありがとうであります!」

 いきなりのタママの帰還に2人は慌てたが、誤魔化すように言われた言葉の後半部分は、きっと本心だろう。そんなケロロの言葉に、タママは誇らしげに、かつ、とても嬉しそうに笑っていた。

 

 その頃……。

 ようやくかゆみが完全におさまってきたドロロと、その隣でぶたの蚊取り線香をいじっているクルル。

 ドロロは、自分よりも低い位置にある金の輝きを見つめながら、ふっと自分の思考に集中する。

(ケロロ君が、手順を踏まずに先走ることって、このコトに関してはないだろうけど……)

 散々自分のことを『乙女』だの『ロマンチスト』だのと言う、実は自分以上にドリーマーでロマンチストな緑の幼馴染。しかし、流石にこんな時にクルルと2人きりにするのには、やはり抵抗がある―――。

(やっぱり、今は、まだ……)

 

 クルルは、自分よりも高い位置にあるであろう、蒼い銀の輝きを思いながら思考を深めていく。

(あのヘタレなオッサンが、そうそうこれ以上突っ走るなんざ、無理だろうがなぁ……)

 ついさっきもあれだけのことであっさり引き下がった、赤い赤い男。しかし、やはり念には念を入れて、万策を打っておくべきだろう。

(備えあれば憂いなし、ってなぁ……?)

「クルル殿」

「ドロロ先輩」

 2人の言葉は、示し合わせた和音のように、きれいに重なる。

 

 《終わり》

ほら、日常から離れても、日常は続いている。

| | コメント (0)

目に映る世界

 本部に捏造した報告書を送りつけて、ようやく面倒ごとから解放された。

 いや、確かにトラブル&アクシデントは自分の信条なのだが、面白くも無いくそじじい共へのくそマジメな文章など、書く甲斐もないというもの。しかし、このままもうしばらくこの馬鹿みたいなぬるい生活を続けていたいなんて、そんなことを思う自分も居て……まあ、そういった理由から、一応文章自体はしっかりと構成して完成させた。

 もっとも、あれだけ精巧に綿密に、矛盾無く組み立てた文章であっても、上の連中の中には気付いているやつもいるのだろう。

 まがりなりにも大佐という地位につき、この自分を引き取った物好きが、勝手に頭に浮かんでくる。それを払いのけて、誰もいないラボで、かちゃりと眼鏡を外した。

 

 一瞬で、世界が溶ける。

 色彩はわかるが、物体の境界はひどく曖昧で、よほど近くないと分からない。

 まあ、これはある日いきなりこうなったわけではないから、そこまで悲観する必要は無いだろう。ずっと地下の暗闇で、ディスプレイの薄暗い明かりを頼りに作業をしていれば、視力が下がって当然だ。

 視力が下がれば、その都度眼鏡の度を調節して。

 補うものがあるのならば、そこまで困ることは無い。

 そして、何もせずにこうしてボーっとしているときは、眼鏡を外しても、全く困らないのだ。

 はっきりしない世界は、小さな埃が気にならないとか、そんなもの。

 何かを求めることも無く、自分以外に心を向けなければ、視覚も聴覚も必要ない。

(それに、ここも悪くねえ)

 物が歪み、溶けた世界は、識別能力が働かない代わりに、かつては安穏を与えてくれた。

 何も出来ないのだから、何もしなくていい、と。

『ゆっくり、休め』

 そういって、自分を撫でた大きな手。

 それは、言葉にして言ってやったりはしないけれど――心地、良かった。

 見える世界が明確であればあるほど、本当に幼く、言葉も拙かった頃に当たり前のように持っていたものを失った。そして、目に映るものがどんどんつまらなくなっていく。

 世界はいつからか、2つに切り離された。

 1つは、ハッキリとした、人々の居る世界。この世界を見ることができなければ、人々は口々に『不便でしょう?』と問うてくる。

 だが、そのことと引き換えに、自分はあの世界を得た。

 

 溶けて、塗りつぶして。

 色だけが残った、こどものかいたスケッチブックの画面のような空間。

 

 「クルル、入るぞ」

 声が、聞こえる。

 来訪者が入ってこれるようにロックを解除。次いで眼鏡をかけようか、と思い……しかし、そのままそれを折りたたんでコンソールパネルの奥に置いた。

 そして、くるりと椅子を回転させ、光がこぼれているらしい方向に視線を向ける。

 切り取られた、黒っぽい赤い、大きな影。

 こちらはそれくらいのことしか視覚からは分からないが、向こうはこちらが眼鏡を外していることまで見えるらしく、ずいぶんと近くまで歩み寄る。いや、もう距離などほとんど残ってはいない程に―――。

「―――……」

「寝るか……?」

 ぼやけた世界で、優しさなどというものを含んだ声が、言葉を紡ぎ出す。

 戸惑いと、理解がまじったこの男の言葉は、やはり嫌いではないらしい。

 自然と浮かんだ笑みを感じながら、頷くなんてことが出来ない代わりに、精一杯両手を伸ばした。

 

 《終わり》

なにもできないから、なにもしないまま、休んでいてもいいといってくれた。

| | コメント (0)

たとえば、人と会うことについて。

 前回お流れになったデートについて。

 結局あの後、散々土下座を繰り返し、床に額を打ち付け続け、涙の海に埋もれたゼロロにクルルが呆れ、そのまま彼が許されたのが4日後。

 そして、仕切りなおしということでようやく再びデートの約束が成立したというわけだ。

 面倒くさそうなクルルを説得して、何とか外出届を上層部に提出してもらい、それが許可されたとき、ゼロロは無邪気に笑っていた。

「クルル君は、どこに行きたい?」

 地図を手に嬉々として尋ねてくるゼロロ。その様子をちらりと見て、クルルは小さな声で、

「―――別に」

と、そっけない言葉を返す。

 しかし、所在無さげというか、そわそわと髪を指に絡めているところを見れば、その心境は察することが出来る。心なしか、白い頬がほんのりと色づいていることからも、分かる。

 ゼロロは、クルルが自分との外出が満更でもないということを感じ取り、心から安堵した。

 そして、さて本当に何処へ行くのがいいのかと首を傾げる。

(映画がいいかな……?クルル君、確かこのシリーズ好きだよね)

 今、丁度映画館で放映中の作品を思い浮かべてみた。その中の、シリーズ3作目になるアクションコメディは、以前2人で1作目と2作目をDVDで見たことがある。

 クルルらしく、主に作品に対して「CG処理が甘い」「ネタが別の物とかぶっている」等のツッコミを入れていたが、それが彼女なりの楽しみ方なのだろう。何だかんだといって、映画を見た後の表情が満足そうで―――可愛かった。

(チケットも平日だから当日で間に合うだろうし、1日に8回放映しているし……)

 そして、映画を見た後で喫茶店でお茶でも飲んで、ふらりと周囲の店を回るのもいいかもしれない。

 何というか、デートの王道を行っているような気がして、ゼロロは自然と頬が熱くなるのを感じた。

 そして、そんな様子を訝しげに見つめる視線に気付き、慌てて「ごめん……」と謝罪する。なぜ謝るのかと問われたが、これはもう条件反射のようなもので、癖になってしまっているのだ。

(―――ちょっと、情けないけど……)

 気を取り直して、クルルに映画に行かないかと訊いてみると、スンナリとOKが出た。やはり、結構あの映画がお気に召していたらしい。

 その日のメインが決まったところで、待ち合わせはどうするかという話に移った。

 待ち合わせと言っても、クルルは基本的にこのラボラトリーのあるフロアから自由に出入りすることは、(あくまで『基本的に』)出来ないようになっている。そのため、いつもはゼロロが当日に迎えに来ているのだが……。

「泊まればいいだろ」

「……え?」

 

 今、何か。

 何かが、耳から入って脳で処理されて、アドレナリンを大量に放出した。

「同じこと言わせるなよ?」

「え、え、ええ――――――っ!?」

 サラリと言われた台詞に、今度こそゼロロは全身真っ赤になった。今の悲鳴(?)をあげてから、口はぱくぱくと無意味に動くだけとなる。

 大胆であり、爆弾発言でもあり……。

 クルルからの誘いに、ゼロロはただあわあわと慌てふためくばかりである。

 そんなゼロロを横目で眺めながら、クルルは淡々と言葉を続けた。

「どうせ、前日も休みだろ、先輩」

「う、え、う、うん……」

「―――嫌なのかよ?」

「―――っそ、そんなコト……!で、でも……いいの……?」

「ああ」

「……」

「―――何度も言わせんじゃねえ……」

「う、うん」

 

 じゃあ、お言葉に甘えて―――。

 呟いて、頬を染めて微笑むゼロロから、クルルはふいっと顔を逸らす。

 どうやら、久しぶりのデートは前日から期待できそうだと、ゼロロは今から嬉しくなったのだった。

 

 《終わり》

同じことをして、少しだけ近くにいて……。

| | コメント (0)

金平糖がおちてきて

 最近、夏らしくなってきた。

 暑く、昼間は無慈悲に照りつけてきた太陽は、今ではこの地球の別の国を照らしている。

 雲は無く、漆黒と呼べるような空の世界に、小さな光の粒が輝いていた。

 日向家の縁側で、濃紺のシャツを纏うクルルは、服は夜の闇色に溶けてしまいそうなのに、その金色の髪が空に浮かぶ月よりもきらきらと輝いている。

(……きれいでござるな)

 思わず見惚れてしまいそうだと、今更ながら、思う。もう何度もこうして彼女の髪を眺めているというのに。

 今、日向家の面々や小雪は、祭りに出掛けていて不在。

 面倒だと言って残ることを選んだクルルを見て、ドロロも自然と留守番を選んだ。

 折角珍しく忘れられずに誘われたのだから行って来い、とクルルは言ってくれたが、自他ともに認める頑固さで、ドロロはそのまま他の面々を見送った。

 今日は、7月7日。

 七夕である。

 空の中で一際輝く星を見つけ、

「あっちがアルタイルだったよね」

と昔の口調で尋ねれば、やる気の無い、

「ヨクデキマシタ」

が返された。

 いつもは屋根の上で天体観測となるのだが、今日は何となく地面に近いところから空を見上げたい気分らしい。

 硝子のコップを2つ、麦茶の入った容器を1つ。お盆の上にそれらを並べて、自分とクルルの間にそれを置き、腰を下ろした。

「きれいだね」

 星も。大切なひとも。

 流石に今はそこまで言うことは出来ず、ただ雰囲気で言葉を紡ぐ。

 しかし、コレに対してもクルルは、

「そうかよ」

とそっけない。

「あの……クルル君の気遣いは、とても有難かったし、嬉しかったんだけど……やっぱり今日は、一緒に居たくて……」

 年に1度、織姫と彦星が会うことの出来る日。

 機嫌がいまいちよろしくない―――恋人にそう言えば、何故かフイっと顔を逸らされてしまった。

「ク、クルル君?」

「うるせえだまれ喋るなヘタレ天然馬鹿っ」

「え!?ええー!?」

 トラウマスイッチを連打されたドロロは、半泣き上体で体育座りになってしまい……。

 クルルは、そんなドロロを見てようやく機嫌が良くなり、喉を鳴らして笑っていた。

 

 その後、二人で今日全員で飾った笹のそばへ歩み寄り、色とりどりの短冊たちを覗き見る。

 ドロロは一応止めたが、

「ホントに知られるのが怖いモンを書く奴はいねえよ」

と、全く取り合っては貰えない。

 お小遣いアップ、上司がまともになりますように、恋愛成就などなど。

 それぞれの筆跡で書かれたそれを見て、笑い合い、時に妙に納得する。

「クルル君は何を書いたの?」

「それ」

 指差された短冊には、彼女のうずまき模様が1つ、大きく描かれていた。

 らしい、といえば、クルルらしい。

 昔、ギロロから聞いた話を思い出して、ドロロはやわらかく笑っていた。

「で、先輩がコレか」

「う、うん……」

「……アンタって、マジで……救えねえなぁ……」

「え―――!?」

 興味を失ったというようにひらりと水色の短冊から離れると、クルルは再び縁側に腰掛けた。それを慌てて追いかけると、ふと、ポケットに入っているものの存在を思い出す。出掛けに入れておいて、今の今まで忘れてしまっていたのだ。

 お盆とは反対の、クルルの隣。

 一応一言断ってからそこに座って、袋をがざがざと取り出す。

「手を出して?お菓子なんだ」

「―――……」

「――何のお菓子か、あててみて?」

「……金平糖」

 さすが、クルルとでも言うべきか。

 クルルはドロロをロマンチストだと呆れつつも、一応手の平をお皿のように差し出した。

 ざらざら、と2、3粒の金平糖が、我先にとこぼれてくる。

 白と、緑と、黄色。

「……」

「アンタの分も出せよ」

「え……あ、ありがとう」

 お言葉に甘えて、と、もう一度袋を傾ける。

 ざらざら。

 あと3粒。

 今度は、ピンクとまた白と、青。

 クルルは一度だけドロロを見上げ、ひょいっと白い金平糖を口に含んだ。

「甘い」

「うん」

 砂糖菓子とは、そういうものだ。

 ドロロも白いそれを1粒、口の中で転がしてみる。

 あと、2粒ずつ。

「「……」」

 緑と黄色とピンクと青。

 さて、先に動くのはどちらになるのか?

 空の星、手の平の星たちは、そんな2人を見守りつつ、じれったく、やきもきするのだった。

 《終わり》

星を食べるなんて、贅沢者の幸せ者!

| | コメント (0)

ウィズ・ユウ

 実体化ペンで線をピュッと引けば、ファスナーの出来上がり。

 泥棒顔負けの堂々とした不法侵入経路の出来上がりだ。

「クルル、今忙しい?」

「クククー!相変わらず勝手なやつだな、睦実」

 まあ、確かに。今日はアポなしで来たしね。

「どうせなら、ゴーイングマイウェイって言って欲しいな」

「横文字にしただけでイカシテイルと思うのは、日本人のバカなところらしいぜぇ?」

「まあまあ、気にしない気にしない」

 軽口を叩き合うということは、今の彼女は結構余裕があるということらしい。

 上手くいくかもしれない、なんて、ちょっと期待。

「あのさ」

「あ?」

「もうすぐ創立記念日で、学校休みなんだけど」

「お前はいつもサボりだろ」

「そうだけど、まあそこは気分。

 ――で、丁度その時、新作の映画やるんだって。ラジオ局の知り合いからボーナス代わりにそれのチケット貰ったから、一緒に行かない?」

 コレ、クルルも好きだと思うし。

 そう言ってチケットを見せると、一瞬じっとそれを見て、それからこちらの顔を見つめた。

 一応、アイドルもどきで自分の顔は結構整っていると言われるのだけれど、それでにっこり笑ったところで、クルルは赤くなったりはしない。

 せいぜい、ニヤリと笑われるのが関の山。

 だから、楽と言えば楽なんだけど……。

「ど?」

「行ってやってもいいぜぇ?」

「その言い方、クルルらしいよね」

「おねだりでもしてほしかったのかぁ?」

 ―――クルルのおねだり……。

「……ちょっと、興味あるかも……」

 こわいものみたさ、というやつである。

 当然クルルは、少し後ろに下がって、「キモイ」なんてことをサラリと口にした。

 そっちが言ったのに、なんて反論をしてみたりしつつ、そのままの流れで、当日は迎えに来ることを伝えた。

 現地で待ち合わせにしても良かったのだが、どうせなら少し話しでもしながら、というパターンが捨て難かったのだ。

 クルルもそれについては特に反対はしなかったから、OKということなのだろう。

「じゃあ、クルル。また前日に連絡するから」

「他の女を誘わねえのか?色男」

 ここまで話しを持ってきて、クルルは突然そんなことを口にした。

 クルルらしいといえば、それまでなのだけれど……。

「クルルと行きたいから」

「クーックックック……ガキだな」

 うん、わかってる。

 だから、これからも今も、クルルを選ぶんだよ?

 

 《終わり》

世界で求めるものは、ひとそれぞれ。

| | コメント (0)

祭りのあと

 近所で行われている夏祭りから、たった今丁度帰ってきたばかり。

 ラボに着くなり、その辺に下駄を脱ぎ捨てて、ぺたぺたと素足と床がくっついては離れる音が響く。そんな音源であるクルルの後姿からは、明らかな不機嫌オーラが滲み出ていた。

(……これは、しばらく何を言っても無駄か)

 無駄というより、逆効果だろう。

 今は、どんな言葉も相手の神経を逆なでするだけだ。

 ちなみに、クルルは今、秋のお下がりの浴衣を身につけている。

 けっして口にするつもりは無いが、夏美やモアたちとはまた違う趣が感じられて、とてもよく似合っていると思う。長い金髪を2つに分けてそれぞれ三つ編みにしていると、知性的な魅力が増したように感じられた。

 だが、クルルはどうもこういった格好をするのが嫌らしい。

 昔から男物のパーカーやシャツ、ズボンばかりを身につけ、女物の衣服はタンスの中に仕舞われっ放しだったことを思い出す。

 その容姿は、確かにあからさまに女性的というわけではなく、中性的で、格好によって左右されるもの。そして、男性の格好をすれば女性が振り返り、女性の格好をすれば男性が振り返るという、美形。

 秋の濃紺の浴衣は、白い肌とも相性が良く、とても似合っていた。

 ついつい見つめてしまうほどに……。

「……何だよ」

「いや……少し、な」

 訝しげに問いかけられて言葉を濁せば、細められた瞳に剣呑な光が宿る。

 しかし、特にどうするといったこともなく、クルルはフイっと顔を背けてしまった。

(どちらにしろ、機嫌を損ねてしまったらしいな……)

 どうにも察するということが自分には出来ないらしい。

 溜め息を吐きそうになるのだけは何とか堪えたが、それ以上は何も出来やしない。

 

 ふと。

 そういえば、昔1度だけ、クルルは自分の母親の浴衣を着せられて。

 1度だけ、2人で祭りに行ったことがあった。

 何かを買い食いするわけでもなく、ただ屋台の並ぶ道を歩き、帰り道に後ろで打ち上げられる花火を時折振り返りながら眺めて―――。

 後で聞いた話では、それはガルルにお膳立てされた計画だと知らされたが、いつもはうっとおしく思う兄の気遣いが、その時は嬉しかったように思う。

 そして、あの頃のクルルはまだ成長期を迎え始めたばかりだった。

 そのため、背丈も自分の胸より下くらいまでしかなかったと記憶している。

 しかし、着物に合わせて下駄を履いていたため、あの日のクルルの目線はいつもよりも少し近くなっていた。

 そして、今日。

 他の面々と祭りの通りを歩いていたとき、さり気なさを装って陣取った隣で横を見ると、ずいぶんと目線に近いところに金色の髪があった。

 月日は、確かに流れていて。

 その間に何かが確実に変化していたのだと、今更視覚的につきつけられた。

(寂しい……のか?)

 それは、しっかりとは当てはまらないような気がする。

 そして、嬉しいとも違う気がした。

 言葉にすることは自分には難しい、いろいろなものが混じりあったような、そんな感覚。

 空の色や海の色を水色や青色のチューブの絵の具そのままで塗った時に感じた、あのもやもやとしたジレンマに似ている。

 そう。

 形にせず、そのままにして置きたいような、そんな気持ちだ。

 そんなことを考えている間に、まだここに自分がいるというのに浴衣を脱ごうと帯に手をかけるクルル。

「おい、ちょっと待て」

「何だ、まだ居たのかよ」

「……さっきからずっと居るだろうが。せめて一言言え。そして、俺が居るのに脱ぐな」

「今更だろ」

 そう言ってそのまま着替えを続行しようとするものだから、出口よりも近いクルルの方へ近付いて行き、帯を締めなおす。出て行くべきなのだろうが、祭りの余韻に浮かされた今を一人で過ごしたいとは思えなかった。

 下駄を脱いだために、少し広がった身長差。

 自然と、見下ろす体勢になる。

 そして、自然と見上げてくることになる、月の金色の目。

(この身長差が残っていてよかった)

 こっそりと思うだけに留めた言葉は、沈み込んで、それと一緒に体も屈み込む。

 目を閉じず、そのまま重なり合った光景は、後で監視カメラで見ることがあるとしたら、相当奇妙に違いない。

「これ、日向秋のなんだがねぇ」

「汚れないようにすればいい」

「オッサンが着替えの邪魔したんだろうが」

 正にその通りなのだが、どうしてこう、こういったタイミングでこちらの気持ちをくじくようなことを口にするのか……。

 自然と眉間に皺が寄り、子どもはいつものようにそれを笑う。

 こうした光景をケロロたちは痴話喧嘩だの何だのといい、「かわいいスキンシップじゃん」とまで言っていたのだが、当事者としてはこの上なく面白くない。むしろ、笑って流せるほど、寛大な心は持ち合わせてはいない。

 すると、今度はクルルの方から背伸びをしてきて、かすめるような、ほんの一瞬。

 少しいつもよりも湿った、やわらかな感触が、頬に―――。

「……おい」

 行動と言動が、一致していない。

 そのことを咎めるように口にすれば、『悪戯成功』というようなそれで、

「後でどっちにしろ洗う」

と言葉を返す。

 気まぐれな性格は昔からだが、昔はこういった性質のことは言わなかった。

 変化しているものを今日はやけに意識する。

 ―――だが、それは、拒絶するものでは無いと、そう思いたい。

「―――自分の言動には、責任は取れるのだろうな?」

「さあね、あんた次第だろ」

「言ってくれる……」

 今度こそ、しっかりと唇を重ね、笑みの形を作るそれを確かめ合う。

(祭りに浮かれているからだと、そういってしまえばいい)

 それだけで、多くのことは許される―――。

 

 《終わり》

ギロクル『トマトジュースとレモンスカッシュ!』最終話です!

こちらもフリー配布小説ですので、気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら、貰ってやってください。報告は任意です。

感想等をコメントから頂けたら幸いです。

| | コメント (0)

背伸びをしていた

 ガルルに引っ張ってこられて、何故かギロロ先輩と夏祭りに行くことになっていた。

 そんな予定は今の今まで知らなかったし、そもそも一体いつの間に外出届を出していたのか……。

「俺は、初耳だぜぇ?」

「一応お話しはしたんですが……。ああ、そういえば丁度プログラムを作成されているときでしたね」

(ワザとか――)

 おそらく、しっかりと話せば即行で断ると思ったのだろう。もちろんそのつもりだが。

 しかし、最近以前にもましてこういう知恵が働くようになったガルルを今更ながら恨めしく思う。ついでに言っておけば、ギロロ先輩も了解するな、少しはコイツの言葉に不信感を持て。

 だが、ガルルたちの実家に連れて来られてしまってはもう、そんな文句を言う気力などありはしない。

 あれよあれよと言う間に、2人の母親だという女性に引き渡され、抵抗する間も無く浴衣なんぞを着付けられてしまった。

「少し形が古いのだけれど……。ああ、でも嬉しいわ。うちは男ばかりだから、こんな風に自分の服を着せるなんてことが出来なかったの」

 成人した男2人は、確かに女装が似合うタイプではないだろう。

 どちらも体は筋肉質――俗に言うマッチョ――であるし、顔立ちが女っぽいわけでもない。強いて言うならばガルルは多少この女性に顔立ちが似ていないことも無いが、やはりギャグ狙いでもないのに女の格好をするというのは無理がある。

 ――では、なくて……。

(……冗談じゃねぇ……)

 久しく着ていない女物の衣装を身につけた自分を、拷問のように大きな鏡が映し出す。

 形が古いと母親は言っていたが、浴衣自体はおそらく質がいいのだろう。

(いつぶりだよ、こんな格好……)

 物心ついたばかりの頃に1度着せられた以来ではないだろうか?

 とにかく着慣れているはずも無いため、窮屈で動きづらいのだが、しきりに「似合うわ!」と連呼されて髪まで梳かされ始めると、やはり何も言うことが出来なくなる。

 これがオッサンやガルルたちならばどうとでもできるんだが、女が相手となると、やはり調子が狂う。

「この髪飾りがいいかしら?とても綺麗な金色の髪だから、はっきりとした色が映えるわね」

 短い自分の髪では結うこともできないだろうが、それでもピン止めのような花飾りをつけられ、整髪料で髪型を整えられる。

 そのうえ、化粧まで施されてしまった。

 鏡の中の自分は、できればそっくりな赤の他人であったら嬉しい。

「ギロロ、いいわよ」

 母親の言葉で、ずっと襖の向こうに居たらしいオッサンが、がた……とそれを引き開けて――固まった。

 ピキッ!と。そんな音がしたのではないかと思うほどに、いい硬直っぷりだ。

「ああ、クルル。とてもよくお似合いですよ」

 そして、如才なく寒い台詞をさらりと口にするガルル。着替えている時間は決して短くは無かったはずだが、ずっと待っていたらしい。そんなに暇なら、どこかの遠征にでも行きやがれ。そして、しばらく戻ってくるな。

 母親はガルルの言葉に満足そうに笑いながら、

「ほら、ギロロ!」

とオッサンをつついている。

 つくづくこういった面で正反対な兄弟であると再認識して、そして、出来ればこのまま何もしゃべるな黙っていろ、とオッサンに軽く念を送ってみた。

 だが、このただでさえ鈍い男がそれを察するはずもなく、閉じきっていた口が微かに開く。

 

 「―――――クルル、か……?」

 

 「……残念だがなぁ」

 まあ、その台詞がかなり間の抜けたものであったのだから、まだマシか。

 自分自身、これが自分だとは信じたくないのだし。

 母親は不服そうだったが、そんな母親をガルルがなだめつつ、

「もう祭りは始まっている頃だろう?気をつけて行ってこい」

とオッサンに声をかけた。

 玄関に行くと、ご丁寧に下駄までしっかりと準備されており、いつもの私服姿のオッサンを恨めしく思いながら、それでもそのまま外へ向かうしかなく……。

 

 カラン カラン

 履き慣れないため、最初は歩き辛かったが、少し歩けばコツがつかめてきた。

 気持ちとは裏腹に軽やかに音を立てる下駄。

 いつもよりゆっくり……そして、何故かいつもとは違い、隣を歩く先輩……。

 ――それが、自分をほんの少し落ち着かなくさせる……。

(―――ん?)

 ふと。

 何か、いつもと何かが違う、という感覚。

 ちらり、と辺りを見るために視線を動かす。

 そして、その違和感の正体は、隣を歩く先輩を見てすぐに分かった。

 下駄で、いつもよりも目線が高くなっているのだ。

(―――数センチの違い、のはずなんだがなぁ……)

 ほんの少しの違いで、ずいぶんと様変わりするものだと改めて思う。

 そして、その自分よりもずいぶん高い位置を見ている先輩―――。

(――俺もまだ、伸びるんだろうが……)

 だが、おそらく今の、この男の目線にさえ追いつくことは出来ないのだろう。

 そう思った瞬間、今のこんな自分が、ひどく滑稽に思えた―――……。

 

 《終わり》

ギロクル『トマトジュースとレモンスカッシュ!』第6弾。

こちらもフリー配布小説ですので、好きだと思って下さる方が居られましたら、ずずいっと貰ってくださったら幸いです。報告は任意です。

コメントでの感想等もお待ちしております!(ずうずうしくて申し訳ありません……)

| | コメント (0)

夜に散歩をする

 白、青白い月が、少し欠けて空に浮かんでいる。

 だいぶ最近では日中は暑くなってきたものの、夜はまだ少し肌寒い。

 そのため、珍しく前を歩くクルルの体には丈の長い上着が重ねられており、ひらりひらりと時折羽根のように靡いている。

 道には、他に歩いている者はいない。

(まあ、そうだろうな……)

 何せ、今は深夜の2時くらいなのだ。こんな時間にフラフラと外を出歩く方が奇妙だろう。

 つまり、今の自分たちの行動は、一般的に見れば『普通』とは違うわけで。

「―――おい、転ぶなよ」

 声を掛けても振り返らないのはいつものこと。

 しかし、やはり少し頭にきて歩みを早めると、歩幅の差もあってあっさりと追いついた。

 薄暗い夜道。

 電灯の光と月明かりを頼りに歩く世界は、閉鎖的で、神秘的で、ひたすら静かだ。

「クルル」

「何だよ」

 名を呼べば、ようやく返事を寄越す。振り返った子供の金色の瞳は、まるで月のようにも見える。

 反応が無ければ、何となくこのまま夜に溶けてしまいそうで不安なのだ、と心を吐露すれば、

「アンタにしては、ずいぶん詩的なことを言うな」

と笑われた。

 9割は冷やかしだろうが、おそらく1割くらいは褒めているつもりなのだろう。

 10割褒めるということをしない子供なのだとわかってはいるが、分かっていても、どうも素直に喜べない。

(――昔なら、こんなことは考えなかっただろうな……)

 言葉をすべてだというつもりは無い。しかし、どこかでそれに頼り、相手がどんな気持ちで、どんな含みをもってその言葉を紡ぎ出したのかということを深く考えなかった過去の自分。

 クルルと出会い、共に時間を過ごす中で、初めて本当に『知るための努力』をしたいと願ったことを思い出す。

 決して口にするつもりは無いが、クルルと出会ったことは、顔も知らない誰かに感謝したい。

 

 歩く速度は、速くも、ゆっくりでもない。

 何故この速さで歩いているのか。意識はしていないが、歩きやすい。

「ソッチが転びそうだぜ?」

「―――っつ!」

 カツン、と微かなアスファルトの段差に引っかかり、危うく転びそうになるのを何とか堪えた。クルルの遠慮の無い笑いに気まずさを感じて、ふいっと顔を逸らす。

 トンッと。

 微かに、音というか、何かが変化したことを感じ取り、再び顔をそちらに向ける。

 すると、少し上のほうにクルルの顔があった。

 歩道のブロックに登ったらしい。

 いつもより、自分よりも高くなった目線で、クルルは歩く。

 自分たち以外に人がいない空間で、いつもよりも少し気分が開放的になっているのだろうか?

 存外、子供っぽいところもあるのだと微笑ましく思い、そのまま並ぶように歩いていく。

「落ちるなよ」

「転ぶなよ」

 軽口を返す子供に、溜め息を吐いて。

 ふと、クルルはおもむろに立ち止まった。何の前触れも無く止まるものだから、1歩分追い越して立ち止まる。

「どうかしたのか?」

「別に」

 そっけない返事をして、クルルは再び歩き出す。

 わけが分からない……。

(そういえば……)

 そもそも、何故クルルは、こんな夜遅くに外出をしようと思い立ったのだろう?

 たまたま、クルルがガラス戸から庭に出てきた所に出くわし、どこかへ行くらしかったため、付いて来ただけなのだ。

 そのため、ギロロはクルルがどこへ何をしに行くのかを全く知らない。

 そもそも、何か目的があるのかさえ分からない。

 今更だとは思いつつ、一応そのことを尋ねてみれば、案の定しっかりとそのことを指摘してから、クルルはニヤリと唇を動かした。

「散歩日和だろ?」

 

 月は、白い。

 しかし、どこかクルルの色に近付いていく。

 

 クルルの言葉が本心なのかは知る術が無いが、確かに悪くない日だ。

 そして、そう言った時のクルルは、何故かとても満足そうに笑っていた――。

 

 《終わり》

ギロクル『トマトジュースとレモンスカッシュ!』第5弾です。

今回の話もフリー配布小説となりますので、気に入って下さった方がおられましたら、ずずずずいっと貰ってくだされば幸いです。報告は任意です。

感想等が頂けましたら、相当喜びます。(どんどんずうずうしさが増していく今日この頃です…)

| | コメント (0)

猫の心、君、知らず。

 松ぼっくりの首輪をゆらゆらと揺らしながら散歩から戻ると、ギロロはテントに居なかった。それ自体は珍しいことでは無いのだけれど、帰ってきたときに誰もいないというのは、何となく物寂しい。

 ギロロと一緒に暮らす前は、ちゃんと一人で遊んでいたし、ごはんだって食べていた。

 でも……。

(遊んでほしかったにゃぁ……)

 仕方が無いので毛づくろいをしようかとしゃがみこむと、ガラッとガラス戸が開けられる音が聞こえた。誰が出てきたのかと気になってテントから出ると、予想外の人物が視界に飛び込んでくる。

 金色の髪と、お月様みたいな白に近い、金色の目。

 分厚い眼鏡は掛けているけれど、いつも耳に着けているヘッドフォンが見当たらない。

 けれど、それは紛れも無く、地上では滅多に見掛けない人物――クルル曹長だった。

(――珍しいにゃ……クルルが昼間から外に出てくるにゃんて……)

 夜は、ギロロたちは知らないのだろうが、ちょくちょく屋根に上っているのを見掛けている。

 空を見ているのか、地面を見下ろしているのか。

 そういったことは、自分には分からない。分厚い眼鏡のせいなのか、それとも距離がはなれているからなのかも分からないのだ。

 ただ。

 月明かりに照らされて、高いところに居る少女が、月並みに言ってしまえば、とても綺麗で―――。

 いつの間にか、毎日のように屋根を見上げるようになっていた。

 

 昼の光は、クルルを一層白く見せる。

 夜のときは、儚くぼんやりと輪郭が覚束ない存在に見えていたのだが、昼間にはしっかりとした実体を持つ存在なのだと主張されていて、何だか新鮮だ。

(―――近くに行って見てみたいにゃ……ちょっとだけ……)

 ギロロはクルルを『嫌な奴』だとか、『ロクでもない奴』だと言う。

 いつもいつも実験台にされるし、からかわれるしでいいようにされている。

 そんなことばかり聞いているからか、すぐにはそれを実行する気にはなれなかった。

 が、好奇心が打ち勝って、ついにトコトコと近くまで寄っていく。

 近くで見ると、より一層整った容姿をしていると思った。

 顔はきつい印象のビジンな部類になるだろう。中性的な、スラリとした痩身。

 縁側に座っているので少し分かり辛いが、自分が人間になった時より身長はあると思う。ただ、ギロロたちと違って、他の4人よりも細身で、とてもソルジャーには見えなかった。

「―――何か用かぁ?」

(にゃ!?)

 急に話しかけられて毛を逆立てると、どうでもよさそうというか……やる気が無い?覇気が感じられない気だるげな調子でクルルはお構い無しに言葉を続ける。

「言っとくが、例の銃はメンテナンス中だからな。しばらくは使えねえよ」

 別にそんなつもりは無かったのだが、そういえばあの銃があれば話が出来るのだと今更ながら気付いた。どうやらクルルの中で、自分はクルルに銃を貸して欲しいといってくる依頼人のような存在と位置づけられているらしい。

(微妙なポジションにゃぁ……)

 嫌だとか、そういう訳ではないのだが、何となくしっくりとこない。

 そして、何でもないことのように話しかけてくるクルルの行動は、正直意外だった。

 そこで、沈黙が流れる。

 無意味に鳴くつもりも無いので、黙ってしまったクルルを付かず離れずの距離で見つめてみたら、その瞳がどこか1点をほんやりと眺めていることに気付いた。

 ―――視線の先には、赤い、赤いテントが、ある。

 そこは、自分も暮らす住処。

 クルルは、それをただひたすら視界に入れている。

(……ひょっとして……)

 クルルは、とても大切な思いを向けているのでは無いのだろうか?

 自分が、そうであるように。

 ―――名付けることを止めた、気持ちが、あるのではないだろうか?

(えっと……うーんと……)

 全く同じというわけでは無いだろうが、何となく有り得ないことではないと思う。直感が、そう言っている。

 だとしたら、クルルがギロロにやたらとちょっかいをかけたり、その実どこか一歩引いて眺めているような印象を受けるのも納得がいく。

 しかし、それでは―――。

「……オカエリだぜぇ?」

 行けよ、と指し示された先には、夏美と買い物から帰ってきたらしいギロロがいた。

 ギロロはこちらに気付いたらしく、家の中には入らないでまっすぐにこちらに向かってくる。

「――珍しいな……」

 ギロロもさっきの自分と同じことを思ったのか、そんな感想を口にする。

 けれど、こちらとクルルを交互に見ているから、この組み合わせ自体に驚いているのかもしれない。

「つーか、先輩。どうせならテーブルまで荷物持って行けよ」

「う……!」

 ――まあ、確かに。

 思わず心の中で同意してしまったけど……。

 気まずそうに視線を彷徨わせているギロロ。それを見ていたクルルは、いつもの作り物めいた嘲笑、もしくはからかうような笑みをニヤリと見せた。

 

 「夏美との『デート』は楽しかったかい?オッサン」

 

 デート、の部分を強調して。

 ギロロは案の定真っ赤になって、金魚のように口をぱくぱくさせている。

 そこまでは、いつも通りというか、予想通りだった。

「な……!何で、貴様にそんなことを言われねばならん!!」

(にゃ……!?)

 赤くなって、怒鳴るように吐き出した、ギロロの暴言。

 クルルはあくまで笑ったままで、そのまま家の中へ戻っていってしまった。

「っ……全く、何なんだ!あいつは……!」

 イライラしたギロロの言葉と表情。

 いつもクルルと衝突した後は、こんな感じなのだが、事の経緯を知ってしまっている今回ばかりは、それがひどく身勝手なように思えて……。

 ズボンの裾ごと、がりっと引っかいたのは、せめてもの『痛みわけ』である。

 

 《終わり》

ギロクル『トマトジュースとレモンスカッシュ!』第4弾。

今回もフリー配布小説です。もし気に入ってくださった方がおられましたら、どうぞお持ち帰りください。報告は任意です。

感想などを頂けたら、かなり喜びます。(ずうずうしくて申し訳ありません…)

| | コメント (0)

おいかけっこ

「またメールか?」

「まーな」

 月並みな言葉で形容するならば、『流れるような』タイピング。

 持ち運びに適したノートパソコンで、かれこれ30分程、ずっとメールを送信し、受信しての繰り返しである。

 クルルがここまでマメにメールのやり取りをする相手は、今のところ、実は一人しかいない。

 ガルル小隊の、トロロ新兵である。

(しかし、何と言うか……ずいぶんと懐かれたものだな)

 あの日、クルルとトロロ新兵がどれほどの激戦を繰り広げたのかは、生憎門外漢のギロロにはほとんど理解できない。2人の戦いは、現実との並行世界、電子界で行われていたため、目で見ることも肌でその空気を感じることも当事者である2人以外は出来なかった。

 そして、軍配はクルルに上がり、敗北を喫した(もっとも、本人は認めていないようだが……)トロロは、以来何かとクルルにメール等でコンタクトを取ってくる。

 それは、ギロロの目には、必死で背伸びをして構ってくれと強請る子供そのものに映っていた。

 クルルの方も、こっぴどい批評や憎まれ口や皮肉といったものは健全で子供に対しても容赦がないらしいが、ちゃんとトロロに向き合って構っている。

 どうやら、プログラムやウイルスの甘い箇所を指摘するという、家庭教師的なこともしているらしい。やり方や言い方はともかくだが……。

 クルルがトロロを構うことが、ギロロにとっては『意外』だった。だが、ガルルに言わせて見れば、想定内の成り行きらしい。

『クルルは元々、女性や年下の者には、幾分か分かりやすい優しさをもって接するし、面倒見も悪くないぞ?』

 生憎、ギロロは年下でも無ければ女でもない。

 そのため、クルルのその『わかりやすい優しさ』を向けられる対象とは成り得ないわけだが、それはガルルも同じである。

 昔から物事を広く、客観的に見ることに長けたガルルと、言外に比べられることが多かった。その時に感じていた劣等感がチクチクと痛むのを感じながらも、ギロロは幼い2人のやりとりを年長者の眼差しで見守っている。

 更に、30分が経過した。

 そして、更に20分……。

(―――長いな……)

 よくそれだけ画面と向き合っていられるものだ、と思う。

 せっかくこうして2人で居るのに、クルルの意識はネットワークの向こう側……トロロに向けられているのだ。

 ネットワークなどという便利で曖昧なものが無ければ、少なくとも今、この存在は目に見えない相手にばかり構うということは無かったのだろうか―――?

 そんな、詮のないことを思ってしまう。

 

 『嫉妬などをして、クルルを困らせるなよ?』

 

 呆れたような。

 それでいて、ひどく穏やかで落ち着いた兄の声。

 いつだったか、からかうように言われた言葉が、ふっと脳裏をかすめる。

 一体どれほど努力を重ね、年月を過ごし、様々なことを経験していけば、あの遠い背中に並び、追い抜かしていくことが出来るのか―――。

『クルルを困らせることは、するなよ?』

「―――わかっている……」

「?何だ?」

 心の中で呟いたつもりだったが、それはどうやら口に出していたらしい。

 1度、画面から視線を外して問いかけてくるクルル。

 だいぶ伸びて、今ではもう肩下を流れる金糸の髪。

 微かに上目遣いで問いかけてくる相手に、ギロロは苦笑した。

 そして、無骨な指をそっと、細くきめ細かな髪に絡める。

 上から下へ。

 ゆるゆる、ゆっくりと。

 年上の者が年下の者を慈しむように、其の頭を、優しく、ぎこちなく撫でてゆく。

「―――おい、何だよ」

「……何だろうな……」

 強いて言えることといえば、年上らしく振舞ってみたかったのかもしれない。

 ぽつりと零すようにそう言えば、あからさまに不快だと言いたげに、クルルの眉間に皺が寄った。

 

 《終わり》

ギロクル祭り『トマトジュースとレモンスカッシュ!』第3弾!

この小説もフリー配布ですので、もし気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら、ずずずずいっと貰ってください。報告は任意です。

感想等をコメントからいただけたら喜びます!(ずうずうしさには日々磨きがかかっています)

| | コメント (0)

小さな夕焼け

 夕飯の買い物に出掛けた帰り道、ゆらゆら揺れる影法師は2つ。

 少し距離をあけて、並んで揺れる。

 ガサガサと音を立てるスーパー袋は、クルルに1つ、ギロロに2つ。

 ついでに付け加えると、クルルの持つ袋に入っているのは、朝食用の食パンなどの軽いものばかり。ズシリと重量の有る野菜などは、すべてギロロの袋の中である。

 しかし、今日は元々ギロロが無理矢理クルルを連れ出したようなものであった。別に鍛えているギロロにとって、これくらいの荷物は大して苦では無いし、そういったことから、この荷物持ちの配分に文句は無い。

 そう。

 問題は、別にある。

(……やはり、これは、怒っているのか……?)

 出掛けた時から悪そうそうだったクルルの機嫌が、現在進行形で降下し続けているのだ。

 理由は分からないが、何となく、いくら鈍いと言われる自分でも分かるくらい、今のクルルの機嫌は悪い。

 全くこちらを見ようとも口をきこうともしない相手に、ギロロはつい溜め息を漏らした。

 『一緒に出掛けることが、楽しくて、嬉しい』

 いつだったか、同僚の自慢兼惚気として聞かされた時の言葉だ。

 ちょっとした口実を作って、何でも無い日常の中で、ほんの少し、さりげなくそれらしいことをしてみる。

 その話では無いが、ギロロ自身何となく、そうした関係にある者と出掛けるといったことは心躍るものなのではないかと考えていた。そして、これが『常識』という枠に収まっている多くの生き物に共通する価値観だと思っていたのだが……。

 どうやら、それはこの後輩には当てはまらないらしい。

(―――一体、何に苛立っているのだ?)

 そこまで買い出しが嫌だったのだろうか?

 それとも、それ以外に何か理由があるのだろうか?

(『察する』といったことは不得手なんだがな……)

 何か仮に、自分がクルルの気に障るようなことをしたとしても、そうした明確な意図を持って行ったものでもない限り、そのことを知るということは困難である。

 クルルのように、他者の心の動きを知る力は、自分にはまだ育ってはいない。

 ギロロの場合、それは彼の性格に起因している面もあるため、更に難易度は上がってしまうことを追記しておこう。

 つまり、今の彼にとってクルルの不機嫌な理由を知ることは、名前しか書かれていない手紙を遠いどこかか近くのどこかに届けて来ることほど大変な難関なのである。

 レベルが違いすぎるのだ。

 だからといって、それを放棄しないところがギロロの長所でもある。

 少し後ろを歩くクルルを振り返ると、あからさまにぷいっと顔を逸らされてしまったが……。

 ピリピリとした刺々しい雰囲気を遠慮なく突きつけられれば、やはり悲しい。

 もう一度溜め息をつき、ふと、空を見た。

 

 見上げたわけではなく、目に入った空の一部。

 丁度、赤味を帯びた橙色の太陽が、少し傾いているところだった。

 その『夕日』という呼称を持つものの輝きによって染め上げられる空を見て、そのまま少しずつ、自分にとっての真上へと視線を上げていく。

 すると、ずいぶんと始めの方で夕焼け空は薄れて途切れ、代わりに水色の今朝も見た空が、世界を覆っていた。

 見上げたまま立ち止まると、クルルも立ち止まる。

「意外と、夕焼け空は狭いんだな……」

「―――?」

 ぽつり、とこぼした呟き。

 それをきっかけに視線を下ろせば、ようやく眼鏡越しの瞳と目が合った。

 いきなり何を言うのか、と如実に伝えてくるような、訝しげな表情。

 ここで笑ってしまっては余計機嫌を損ねると、腹や顔の表情筋に力をこめて、なんとか堪える。

 そして、何とか感情の波が去ってから改めて口を開いた。

「夕焼け空は、もっと、この空すべてに広がっていると思っていたのだ。

 ―――俺は」

「―――馬鹿じゃね?」

 久しぶりに聞いた気がする声が紡ぎ出すのは、そんな皮肉。

 まあ、理屈で考えればその通りなのだ。

 夕焼けは夕日の光が届く範囲のものであり、沈んでいく(ように、地球からは見える)それが影響を与える範囲は広くはない。

 ―――だが。

 この目で見て、ようやく実感することと理屈は、やはりどこか別物なのだ。

 頭で理解することと、こうして実感することは、やはり違う。

 目で、耳で、肌で。

 見て、聞いて、触れて。

 そして―――。

「キレイだと、思わないか?」

「……」

 クルルは、再び沈黙してしまった。

 しかし、先程よりは幾分か、身に纏う雰囲気がやわらかいとギロロは感じる。

 伸ばした手は生憎避けられたが、ほんの半歩分縮まった距離で、2人は再び歩き出した。

 

 《終わり》

ギロクル『トマトジュースとレモンスカッシュ!』祭り第2弾!

もちらもフリー配布小説ですので、もし気に入ってくださった方がおられましたら、どうぞずずいっと貰ってくださると幸いです。報告は任意です。

感想等をコメントから頂けましたら、すごく喜びます。(ずうずうしくて、申し訳ありません…)

 

| | コメント (0)

携帯通信機越しで会う

 珍しく、日向家のリビングでクルルがくつろいでいる。

 くつろいでいるというか、何かをいじっているらしい。その様子を庭から見かけたギロロは、好奇心に任せてスタスタと傍まで歩み寄った。

 特に文句も言われないので、そのまま手元を覗き込むと、日に焼けていない白い手には地球の携帯電話を模した『携帯通信機』が握られている。

(確か、夏美や冬樹たちも持っていたな)

 あの姉弟が持っている携帯電話には、いくつかのストラップがにぎやかについていたように記憶しているが、クルルの持つ携帯通信機には、そういった類のものは一切ついていない。

 その本体の橙色と黄色は鮮やかだとは思うが、何となく物足りない感じがした。

「何をしているんだ」

「メール」

 何となく手持ち無沙汰で、他愛も無いことを問いかけると、存外あっさりと返事が返ってきた。その間も、カチカチとボタンを押す指は動き続けている。

 話しながら違うことを文字にするということは身体の構造上難度の高い技術だと思うのだが、クルルにとっては朝飯前らしい。話している側としては、少々癇に障る態度だが、何かをしている相手に話し掛けた形なので文句は言えない。

「オッサンは持たねえのかよ」

「……?携帯…通信機のことか?通信ならば、音声用のもので十分だと思うが――」

 メールの送信が完了したらしく、ぱちんと音を立てて、携帯通信機が折りたたまれる。

 コンパクトになったそれを上着のポケットにしまいながら、クルルは言葉を続けた。

「メールとかはできねえだろ、それじゃあ」

「まあ、な。しかし、今のところそういった予定は無い」

「……」

「―――ガルルのメールは、お前が取り次いでくれているからな……」

 軍から支給される音声専用の通信機には、生憎録音機能等がついていない。

 戦場で敵に味方との通信内容を知られることが無いよう、元から付けられていないのだ。

 そのため、メール等をするためには個人で携帯通信機を購入しなくてはならない。ケロロやタママたちは、各自で購入しているのだが、機械類に(武器以外)疎いギロロは、わざわざ安い給料を割いてそれを買う気には全く起きなかったのだ。

 ガルルが一時期しつこく購入を迫ってきて、しまいには誕生日か何かにプレゼントするとまで言ってきたことがあったが、いらない必要ないと断った。いつもいつも、いちいち兄からのメールに対応しなくてはならないなど、冗談ではない。

 そういった意味では、クルルはずいぶんとマメであると思う。

 何だかんだと言って、ガルルが自分宛に言付けたメールの文面をプリントアウトして渡してくれる上に、ガルルとの私的なやり取りや本部からのメールにも対応している。

 それが仕事だといってしまえばそうなのだが、自分には到底出来ない芸当だと、こっそり心の中で感心していた。

 

 しかし。

 もしかして、クルルはそういったことに疲れているのかもしれない。

 空のメールボックスに気落ちする者もいるが、逆にメールが溜まり続けるという現象もまた、個人にとっては負担になることがあると聞く。

 少なくとも、ガルルが自分宛に送ってくる、何でもない世間話レベルのものがクルルのメールボックスの負担は、少しは軽くなるのではないか?

「……やはり、俺も携帯通信機を持つべきか?」

「ク?……まあ、便利だとは思うぜぇ?使いこなせれば、の話だがなぁ……?」

(……コイツは……!)

 こちらの機械音痴具合を良く知っているクルルの嫌味に、生憎反論できるような綻びは無い。青筋が額に浮かび上がっているであろう自分を見て、クルルはニヤリと口元を歪めている。

 なぜいちいちこんな腹の立つ言い方しか出来ないのか、と思うが、もうこれはどうしようもないのだろう。歳相応の可愛げだとかを持て、と言った所で、何の意味も無い。

(これが、こいつの基本的なスタイルなのだろうな―――)

 ふっと、クルルの