一周年記念企画

空回りだって悪くない

 地球に着くなり、トロロはパタパタとクルルズラボに向かって駆けて行った。

「ココは前線基地だぞ?小隊メンバーでもない子供が気安く歩き回るようでは……」

「まーまー、ギロロ」

「今回はケロロ小隊の状況を確認しにきたのだから、基地に入るのは構わんだろう?」

 ケロロとガルルに諭され、うっとギロロは言葉に詰まる。しかし、トロロがクルルズラボへ向かう理由は明らかに任務のためではない。そのことを言ったところで、ガルルたちは苦笑するだけだろうが……。

 得てして、大人と言うものは小さな子どもに弱いものだ。

 特に、ああも必死に構って欲しい、気を引こうとアピールする様子は、見ていてすごく微笑ましい。

「本当に、トロロはクルル君が好きなのね」

 ふふふ、と嬉しそうに微笑むプルルの最後の一押しに、ギロロもついに折れた。そのまま、日向家リビングでは年長組みの他愛も無い世間話が始まったのである。

(あら……?)

(……何か、我輩たち、忘れている気が……)

 

 一方、ようやくクルルズラボの前に辿り着いたトロロは、そのままインターフォンを押さずにズイッと足を踏み出した。クルルは何だかんだでトロロを気に入っているため、トラップ発動対象にはしていない。――対象にされていたら、トロロはここまで辿り着けないだろう。

 自動ドアはあっさりと開き、トロロはそのまま1歩、室内に移動した。

 その時、視線を上げると、すっかり上の面々が忘れていた灰色のアサシンが、クルルの傍に立っている。彼は、生身の手に何か、ワインレッドの鮮やかなモノを持って、それを椅子に腰掛けている少女に差し出しているらしかった。

 クルルは肘置きに肘をついて手を頬に当て、呆れたというように溜息を吐く。しかしゾルルは手を引っ込めることは無く、だみ声で何かを耳打ちした。

 その内容は、トロロの耳には届かなかったが、やがて、クルルの少々血色の悪い唇が弧を描いて『苦笑』を示す。それを受けて青年の手が動き、パチンっと軽い金属音が響いた。

「――で?いつまでそうして突っ立てるつもりだぁ~?」

「……っべ、別にっ!」

 盗み見のような形になってしまったことが、何故か今日に限って後ろめたくなってそう言えば、皮肉の笑みをにやりとはりつけただけで、何も突っ込んでこない。

 自分ばかりが気まずくて、何だか無性に腹立たしかったけれど、何故か視線はひたすら金色の髪に飾られた赤に向いていた。

「……何、ソレ?」

「薔薇、ダ……」

「本当、アンタ無駄に器用だなぁ……?」

(あ、また……)

 ふっ、と変化する笑み。『しょーがない』とでも言いたげで、そのくせ、優しいと言うかやわらかいと感じる表情だ。

 そして、そんな表情を向けられているゾルルはと言えば、顔のほとんどが隠れているのに、一目見て分かるくらい嬉しそうだった。

(……ゾルルが、コイツに作ったのかナ?……てゆうか、何か……)

 ――仲が、良さそうだ。

 2人の間にある空気が、2人がいるその空間が、お互いに向ける表情が。

 それが、2人の親密さを物語る。

(……全然、接点なんて無さそうなのに……)

 そういえば、ガルルとクルルは昔交流があったと、何となく聞いたことはある。

 もしかして、その頃にゾルルともクルルは関わりがあったのだろうか?

 ――何にせよ、クルルがゾルルに向ける友好的な態度を見て、もやもやとスッキリしない何かが、トロロの中に広がっていく。

(――ムカつく、シ……!)

 

 いつだって、自分は出遅れる。

 

 そんなトロロの様子に、気付かない2人ではない。

「トロ、ロ……?」

 気遣うように声を掛けてくる仲間のそれが、今はすごく、腹立たしくて悲しい。

「……何でもないシ!クル兄、ゲーム!!新しいゲームする約束!!」

「クックック……せいぜい愉しませろよ?」

「ムキー!!何その余裕な態度!?後で泣いても知らないからネ!!」

「クーックックック……」

 ごまかすように、今回の本来の目的を口にしたトロロに、理由を尋ねるといったことをクルルはしない。ゾルルはそのまま用事が済んだからか、どこかへ行ってしまった。

 その後、ゲームで連敗を喫したトロロは逆に泣かされながらも、『あること』を実行しようと心に決める。そのため、どこか心は晴れやかだった。

 

 それから、ケロン星へ帰還し、かれこれ10日。ガルル小隊はいくつかの任務に就き、それらを問題なくこなしている。

 が……。

「また、トロロが出てこなくなったっスね」

「うーん……」

 資料整理の合間の休憩中、タルルとプルルは任務時以外部屋に篭っている新兵を話題に苦笑する。地球からの帰還直後から始まった篭城の、原因は間違いなくクルル絡みなのだろう。しかし、流石にその詳細までは考える材料が少なすぎるため分からない。

「また、クルル君に迷惑をかけてなければいいけど……」

 ウイルスを送りつけたり等、数え切れない前科を持つ少年兵。トロロなりの甘え方ではあるのだろうが、あまり社会的に周囲に認められ辛い手段を、寛大に見てみぬ振りをするわけにはいかないのが現状だ。

「――明日も出て来なかったら、様子を見て来るっス」

「ありがとう、タルル」

 何だかんだで面倒見の良い年下の少年兵に、プルルは感謝と謝罪、両方の意味をこめて、ふわりと微笑んだのだった。

 

 そして、ひとまず彼女たちの心配するようなことにはなっていない。

 しかし、トロロは1人、パソコンの置かれていない机のスペースで、ふと気を抜けば溢れてきそうな涙と闘っていた。

(……クソッ……!!)

 机の上には、何やら複雑に表面が凸凹した物体が、ちょんっと乗っかっている。そして、その隣には『宇宙印・ラクラクジュエリービーズキット』と書かれたラベル付きの袋が無造作に放置されていた。

(……何で、上手くいかないんだヨ……)

 地球から帰って来て、トロロはすぐにネット通販でこのキットを購入した。素人向けに、様々なビーズやちょっとした置物が作れるという、女性向けのキット。

 あの人物がキラキラとしたものを置くなんて、昔なら考えられなかっただろう。しかし、ゾルルがクルルにプレゼントした手作りだというコサージュは、あの月色の髪に映えていたし、クルルも呆れてはいたものの、嫌がっているようには見えなかったから……。

 そんな、大層な考えや計画性があるわけではない。

 ただ、自分も何かを作って、それを貰って欲しかった。

 そして、自分だけに――――。

(――でも、これじゃあ……)

 出来上がった、何とも形容しがたいオブジェを見て、トロロは深く溜息を吐く。ウサギを作るつもりだったのだが、何となく長い耳のようなものがあるかどうか、という謎の容貌は、とても愛玩動物には似ても似つかない。

 元々、こういったものは作ったことが無いし、脳に描くイメージを再現するだけの技術が、トロロには著しく欠落していたようだ。

 虚しさ、悔しさ、その他諸々の心ごと、ウサギの成り損ないを隅に押しやって、机に突っ伏す。トロロはそのまま、いつの間にか眠ってしまった――――。

 

 次の日の昼頃、ようやく目を覚ましたトロロは、昨日確認しなかったメールボックスにいくつかのメールが届いていることに気付き、カチリとボックスを開く。

(……クル兄?)

 一瞬、見間違いかと思ったが、差出人は確かに紛れも無くクルルだ。

 滅多に向こうからメールを送ってくることは無いのに……と、首を傾げつつ、しかしやはり嬉しさで浮かれるのは止めようがない。そのまま、本文を展開しようとしたとき――。

「――――っ!?」

 画面に、昨日トロロが作ったオブジェの写真と、1文のみの本文が表示される。今更慌てて机の上や下を探したが、確かにオブジェは無くなっていた。

 そして、たった1文のみの本文。

『ウサギに見えね~よ(@皿@)』

(……分かったんダ……)

 何故、だとか、恥ずかしいとか。

 収集のつかない思いはあるけれど、今は『何か』が満たされたような気がした。

 

 《終わり》

こちらの小説は、リクエストをしてくださったテンユウ様限定でお持ち帰りを歓迎いたします。テンユウ様、リクエストをしてくださり、本当にありがとうございました!!

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我侭レジスタンス

『クルル、一緒に行こう?』

 瓦礫と硝煙と血溜まりが残る空間で、差し出された手。

 お世辞にも綺麗とはいえないそれを伸ばして、その男は言葉を紡ぐ。

『後悔なんてさせないからさ』

 どこから来るのか、根拠の無さそうな自信で断言した。腹にドロドロしたモンを抱えているくせに屈託無く笑うという芸当をやってのける緑髪で童顔の、年上のハズの軍人は、手を伸ばす。

(――――クッ……救えねえバカか……)

 ――――自分を『欲しい』と言った。

 確かに、この脳や手には、価値がつくだろう。

 しかし、自他共に認めるほど自分の性格は歪んでいて、捩れていて……。小隊になんて引き込めば、もれなく上層部に目をつけられる。

 分かっているくせに。

 たった今、この惨状を見たくせに、まだ手を伸ばしてくるのだ。

『クルル』

 名を、呼ばれて。

 手を取ってしまった。

 もう、拒むための理由が無くなってしまったから――――。

 

 ケロロを隊長とする小隊編成も、だいぶ佳境に入ってきた頃。

 『ケロロ小隊会議室(仮)』と張り紙がされた本部の一室で、イライライライラ……と青筋を立てる赤達磨の我慢が、ついに限界点を突破した。

「――っ何で来ないんだ!?アイツは……!!」

「ギ、ギロロ君、落ち着いて……!」

「も~、ギロロってば短気でありますなぁ~。まだ会議開始時間、10分しか過ぎてないデショ~?」

 ケロロの言葉で、ギロロの青筋が更に1本追加。5分前行動を信条としている律儀な軍人は、時間にルーズな発言をする隊長(仮)をギロリと睨みつける。

「ケロロ、貴様がそんなことだからクルルの遅刻癖が直らんのだろうが!大体、今日は小隊の最後のメンバーを決めるための会議のはずだ!参謀がいなければ話にならんというのに……!」

「だーかーらぁー、もうちょっと待つであります。怒鳴ってもクルルが早く来るわけじゃないんだからさぁ~」

「お前は……っ!」

 ぴよぴより~ん。

 更に言葉を重ねようとしたギロロを妙に可愛らしい着信音が遮った。

 思わず沈黙したギロロとケロロが、じっ……と音源を見つめる。ゼロロは真っ赤になって、マナーモードにし忘れた携帯通信機を取り出した。

「ご、ごめん……」

「……」

「あー、ま、次から気をつければいいんじゃね?一応、メール見ておけば?」

「う、うん。――――あ」

「?どうした?」

「クルル君から……何でも、急用が入ったから、今日は会議に来れないって……」

 実は、さり気なく仲がいいゼロロとクルルは、クルルが小隊入りを承諾してから割りと早くに交換したメールアドレスを活用するようになった。幼馴染3人への連絡は大抵ゼロロ経由で行われ、今回もそうだったらしい。

 ゼロロが見せたメールに、ギロロは今度こそ噴火しそうだった。しかし、それよりもケロロが早く、ガタリと席を立つ。

「クルルが来れないなら、仕方ないでありますよね。今日の会議はナシっつーことで」

「――――おい、ケロロ……」

「じゃ、次の会議の日程は今日中に連絡するから~」

 そう、言いたいことだけ言って、ケロロは会議室を後にした。完全に閉じた扉を見つめ、残った2人はしばし呆然としている。

「……ケロロ君、大丈夫かな……?」

「――――さあな」

 クルルと出会ってから、安定してきたケロロ。

 表と裏、本来なら1つであるはずのそれを無理矢理別々にしてしまいそうだった少し前のケロロを2人は思う。ケロロの持つ闇は、2人からは余りにも遠すぎて、そのことが彼を追い詰めたのだと、今も2人は気に病んでいるのだ。

 クルルが居て、いまのケロロは保たれている。

 だから、ケロロはクルルに依存している。

 ――重度、に……。

 ケロロの雰囲気から、今回のクルルの欠席原因を察したギロロは、大きな重い溜息を吐いた。

 

 本部の地下に設けられている、クルル専用のラボラトリー・フロア。

 『地獄の入り口』『鬼門』などと言われているこのフロアに好んでやってくるのは、限られた数人のみ。その人数が増えたのは、つい最近のことだ。

「クールール、あーそびーましょ!」

「やーなこったー」

「ヒド!!そこは普通、『あーとーで』じゃね!?」

「クーックックッ……この俺様がそんな『フツー』の返答するかよ」

 口元に手を当てて、ニヤリと嗤う子ども。その様子に「わかってるでありますけどぉ……」と不満そうなケロロをクルルは一笑した。

「で、さっさと本題」

「せっかちさんでありますなぁー」

「どっかの隊長(仮)と違って、暇じゃないんでねぇ……」

「(仮)までわざわざ言う!?」

「事実だろ」

「うわーん!!まじで容赦無ーい!!……で、クルル。何で暇じゃないんでありますか?」

 おどけた言葉の調子に合わない、ヒヤリと冷たい空気。そんなケロロに怯えるのでも気を遣うわけでもなく、一瞥した後、

「アンタとデキが違うから」

という答えを返す。

 ケロロの小隊に入るとはいえ、クルルはこのラボラトリーの主であり、それまでの毎日が急に変わるわけではない。――いや、正確に言えば、変わりはした。ケロロが望まない方へ。

(……気に入らないでありますなぁ)

 階級こそクルルよりは下であるが、これからはケロロがこの少女の直属の上司となる。その自分に内緒で、少女に大量の仕事を流す、本部のやり口が気にくわない。

(ま、我輩のところに持ってきたら、片っ端から握りつぶすけどね)

「思ってるコトが顔に出てるぜぇ~」

「え、マジ?」

 やっべー、気をつけよー、などとふざけて言うケロロをクルルは呆れたと言う様に嘲笑する。そんな子どもに性質の悪い笑みを浮かべた青年が、ゆっくりと口を開く。

「あのさ、ちょっとやらない?」

 何を、とは言わない。

 言わなくても、クルルには伝わる。

 何せ、既に何度かやったことがあるのだから。

 案の定というか予想通りというか、きちんとこちらの意図を読み取ったクルルは、一瞬無表情になった。

「俺様のエモノだぜ?」

「うん、知ってる。だから、半分頂戴?」

「ふーん……」

「だから、派手な奴、お願いね?」

 ニンマリ、と。

 実年齢よりも下に見られる童顔に浮かぶ笑みは、正に悪戯っ子のソレ。

 しばらくクルルは思案するように口元を手で隠していたが、ゆっくりとそれが外され、現れた唇はシニカルな弧を描いていた。

 笑みと分かる形を残したまま、少女は言葉を紡ぎ出す。

「30分後だ」

「了解であります!」

 成された約束にはしゃぐケロロは、次の瞬間『邪魔だから』という理由で、廊下に放り出されたとか何とか……。

 

 上層部と括られる数人の軍人には、それぞれに側近が2、3人ばかり就いている。上層部成員が表に出てくることは極端に少ないため、いつもはその側近たちが幅をきかせているのだ。

「クルル、ターゲット確認。予定コースBパターンの進路であります」

『クック……了解。じゃ、B-3に移動しな』

「ラジャ」

 軍廊下の上にある隠し通路で、目標人物を追跡するケロロ。無線でクルルと連絡をとりながら、クルルの組み立てたミッション通り事を進めていく。

 カツカツと、良い姿勢で歩くその男は、今回クルルに仕事を持ってきた側近だ。

 彼もただ、己に与えられた仕事をやっただけなのだと、そんな言い分もあるだろう。しかし、毎度毎度、仕事を与えてやっているのだという偉そうな態度には、腹が煮えくりかっているのだ。

(―――で、そろそろ1度締めとかなきゃいけないでありますよねぇ~?)

 今回は、どんな暴言を吐いたのか。

 前回、この男は、クルルに向かって随分なことを言い放ったことを今でもケロロはしっかりと覚えている。それは、下種のみが吐き捨てられるような台詞だったとしか、言えない。

(だから、ね……)

 

 許せないなら、極上のトリックを。

 

 男は、何も知らずに歩いていく。

「――お」

『秒読み開始だぜぇ~』

 男は歩く。

 その速度よりもゆっくりとした秒読み。

 2人の唇は、三日月を描く。

『――――3、2、1』

「っうわあああああ―――――――!!?」

 バキッ!!

 ズシャ―――ヒュルルルルル……ドサッ!

 サラサラ……ズズズズズズズ……。

 

 謎の効果音の正体は、その数日後、ギロロとゼロロの耳にも届いていた。

「貴様ら……!」

「だってさぁ~、いーじゃん?カワイイイタズラなんだし」

「どこが可愛いんだ!!」

 あの後、ケロロによって一応救助された男の証言によると、男の足下にいきなり大きめの穴が現れ、男はそこから真っ逆さまに落下。そして、ズシャンと底にぶつかったと思ったら、そこは一面砂と暗い天井しか見えない空間で……。現状を整理しようかと努め始めた時、急に砂の地面が流れ出した。

 そう、それは、巨大な蟻地獄のように――――。

「最後はちゃんと助かったんだから問題ないっしょ?」

「少しは反省しろ!クルル、貴様もだ!むしろ、今回のセッティングをしたのはお前だろうが!!」

「怒ってばっかだとハゲるぜぇ?オッサン」

「――――っ!!」

「ま、まあまあ……」

 ついにゼロロがギロロを宥め始めるが、よほど腹を立てているらしいギロロの説教は、当分おさまりそうにない。

 ケロロとクルルは、そんなまっすぐな怒りをアッサリかわして、ちらりとお互いを見て、にやりと笑い合った。

 

 道化のフリをして、鮮やかに仕返しを。

 理由を忘れるほどに、派手なお祭りを。

 

 《終わり》

こちらは、リクエストをしていただいた雪無様限定でお持ち帰りを歓迎いたします。雪無様、リクエストをしてくださって、本当にありがとうございます!

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80点の彼氏

『ケロロ小隊に告ぐ。

 ワール星へと赴き、彼の星のマザーコンピュータ、通称「マム」のデータ、及び主導権を奪取せよ。

 健闘を祈る』

 

 ――――と。

 何とも気楽に言ってくれるが、口で言うほど楽ではないその任務は、面倒なことに持久戦に持ち込まれそうだった。ワール星の『マム』は、一般家庭のネットワークとはつながっていない。データバンクの役割を担うソレのデータを盗むには、直接出向くのが手っ取り早いと判断したクルルは、そのことをメンバーに話した。

 しかし、参謀であり、基本的に非戦闘要員である少女が直接本拠地へ乗り込むことに、他の4人は猛反対したのだ。

 残量エネルギーの問題等を説明しても彼らは頑として譲らず、結局今朝も敵の攻撃に応戦するために出撃した。

 そして、その隙を突いて、タママ1人が基地でシャワー室に向かった時。クルルは単身、マムの元へ向かうつもりでバイクを出したのだが――――。

「お前が、どうしても行くと言うのなら、俺も行く」

 予定よりも早くに帰還したギロロに見つかり、無駄な問答を少し繰り返し、そのまま2人で本拠地に向かったのである。

 

 マムがある――と言うよりむしろ、マムを守るために作られたこの星の軍の中枢部。次々と現れる敵を打ち倒しながら、ギロロは後ろのクルルの気配を感じて溜息を吐く。

(……拗ねているな……)

 それこそ口にすればどんな目に遭うのか分かったものではない言葉だが、今の子どもの状態に合う言葉は、これが1番だろう。

 ギロロが進路の前に立ちはだかる敵を排除し、クルルは後ろのイレギュラーを処理しているのだが、いつにもましてクルルの『処理』が荒っぽいことにギロロは気付いていた。

 敵の兵士たちの、死への恐怖ではなく、純粋な痛みに対する悲鳴、絶叫、呻き声……。

 男として、人として思わず同情してしまう。

 非戦闘要員とは言え、クルルは戦場で闘う術はキチンと持っている。体力は無いが、銃などの扱いも慣れているし、倫理や道徳を排除した純粋に身を守るためだけの効果的な護身術を身につけているのだ。

 ただ、それを理解していても、自分たちはこの少女に命のやり取りを肌で感じる戦場に出て欲しくないと思う。

 大切だから、守りたい。

 ずるい言い方をすれば、守られて欲しいという本音。流石にそんなことを口にすることは出来なくて、ずるずると何となくごまかしてはいるが、クルルはそのことに気付いているようだ。

(――ならば、少しは自重してくれればいいものを……)

 勝手ながらそんなことを思うのだが、クルルの性格ではそんな望みは現実離れしすぎている。無意識に溜息が零れた。

「おい、オッサン止まれ」

「オッサンではない!――そこか?」

 一見、ただの壁にしか見えないが、クルルがそっと触れた場所がパカリと開き、デジタル式のセキュリティボードが現れる。あっという間に暗証番号を入力し、扉を開いたのは流石と言うべきか。

「――誰もいないのか?」

「ああ。ここに生体反応はねぇよ」

 てっきり軍人が警備をしているか、科学者たちに囲まれていると思っていたマムの部屋は、冷たく重々しい、巨大な金属の柱があるだけで、がらんとしている。

 柱は、表面に凹凸が無く、のっぺりとしていた。

「クルル……本当に、これが『マム』なのか?」

 これ以外何もないのだからそうなのだろうが、支柱のようなそれは、ギロロが知るコンピュータとは似ても似つかない。そんなギロロの疑問をふっ、と鼻で嗤い、クルルはツカツカとその巨大な柱に歩み寄る。そして、ジャッ!とヘッドフォンを展開させ、先程のボード同様に隠れていた接続部を開き、ヘッドフォンの端子をはめこんだ。

 今回、クルルはいつも使っているノートパソコンを持ってこなかった。

 何でも、基地からの転送は『マム』が発する特殊電波で、この基地周辺に限って妨害されるらしい。

 ずっと持ち歩くのは邪魔だからと、愛用しているヘッドフォンをいろいろと改造し、音声によってキーボードのように扱うことが出来るよう設定してきたのだ。

 パソコンの時は、何をしているのか全く分からなかった作業をクルルの声が端的に命じていく。

(それが、どういったことなのかは、具体的には分からんがな……)

 それこそ、専門外であるのだから仕方が無い。

 異変が起きた際にすぐ対応できるよう、手の中のトリガーを確かめ、エネルギーの残量を確認する。

(後2発、というところか)

 一撃で仕留めるというよりも、威嚇や目くらましを交えて追い込む自分の戦法には心もとないが、とにかくこれで乗り切るしかない。

「第5ブロック、D7、データE0121インストール。第8エリア、接続――」

 よどみなく流れるそれは、まるで歌のよう。

 場違いにも、思わず聞き惚れてしまう程に、それは心地よい。

 多くのコードでコンピュータとつながり、電子世界で戦う少女は、現実離れした綺麗さがある。

 『インストール』という単語が、何度も繰り返されていく。

 クルルが昨日、3分ほどで十分だと言っていた事を思い出し、ギロロは今どれくらい時間がたっているのかと考える。しっかり時計を確認していなかったことを悔やんでも、今更だ。

 

 その時。

 それまで青白い輝きを放っていた室内灯が、パッと赤く染まった。

 耳障りな警報音が鳴り響き、反射的に身構えると同時に、すさまじい轟音をたてて、壁の一部が爆破。

「いたぞ!!」

 3人の兵士が、こちらを見て通信機に向かって叫んだ。

「―――クルル!」

「分かってる!!」

 丁度というか、何とかデータをすべて入手したのだろう。ヘッドフォンとマムをつなぐコードが離れ、クルルは小銃を構えた。

 ギロロも銃を構え、刀を振りかざしてきた相手を1撃で黙らせる。

(――撃ってこない……?)

 兵士は、腰に銃を携帯していたはずだ。それなのに、あえて刃物でこちらに挑んできた。

 その理由は、ギロロにもすぐに察しがつく。

(クルルの後ろに『マム』があるからか……)

 果たしてマムの強度がどれ程なのかは知らないが、下手に発砲して弾があたってはまずいということだろう。まして、一般兵ではなおさらだ。

 しかし、ギロロたちもずっとここにいると言うわけには行かない。そして、時間が経つにつれて敵の援軍が集まってきて、この部屋からの脱出が困難になる。

(くそっ!)

 膠着状態に陥った現状に歯噛みしつつ、ギロロは少しずつ後ろへ――マム本体のそばに追い詰められていく。クルルと敵の直線上に体を割り込ませるが、それは気休めにしかならない。

「オッサン」

「――?」

「前見てろよ?」

 クルルが1発、どういった意図を持ってか、敵兵の足下に発砲した。

 それは、足をかすめることも無く、狙ったかのように床に刺さる。

 

 ――ドン!!

「――っ何をしている!?」

「……っすみませ……!!」

 クルルの銃声に反応して、新米兵の1人が勢い余って引き金を引いてしまったらしい。それはマムにも当たらず、ギロロたちにも当たらずに見当違いな方向へ飛んでいったが、その場を混乱させるには十分だった。

 己の失態でパニックになった新米兵の緊張が、他の2人にも伝染する。

 その隙を見逃すことは無く、いきなりギロロはクルルを片腕で抱き上げると、有無を言わせずにそのまま3人を突破した。

「――っアホかオッサン!!」

「うるさい!大人しくつかまっていろ……!」

 突破するつもりではいたが、まさか抱き上げられるとは思わなかった少女の非難をギロロは一喝する。

「片手で逃げ切れるわけねえだろ!!」

「貴様の不健康な体を抱えたところで、大した不利も無い!!」

「オッサンのくせに下手な屁理屈こねてるんじゃねえ!さっさと下ろせ!!」

「断る!!」

 そんな妙に緊張感を削ぐような言い合いをしつつ、ギロロは日頃から鍛えている肉体を駆使して、全力で廊下を走っていく。怒鳴りつつもナビゲートを忘れないクルルのそれに従い、何とか追ってくる敵と距離を保ちながら、外に出ることができた。

 アンチバリアをかけ、置いておいたソーラーバイクとソーラーボードを呼び出し、それに飛び乗って空に浮かぶ。

 その、一瞬の隙をつかれた。

 追いついた最初の1人が、その銃口をバイクに乗った少女の背中へ向けるのを見て、ギロロは咄嗟に、弾道に自分の体を滑り込ませたのだ。

「――――っ!?」

 息を呑んだのは、どちらだったのか。

 ギロロの左腕を射抜いた電子の銃弾が、赤い液体をほとばしらせ、焦げ臭い匂いを生む。

 痛みでソーラーボードのバランスを崩したギロロをクルルはソーラーバイクの後ろに素早く回収。敵の2撃目をバイクで避ける。

 そして、ギロロは右手に持った銃をガシャンとあげ、最後の1撃で敵の銃を撃ち落した。

 

 基地に戻ると、怒ったり泣いたり心配したりという3人に出迎えられた2人。とりあえずギロロの傷の手当が先決だということで、今ギロロとクルルは医務室に2人きりだった。

「……」

「……」

 遠慮の無い、むしろわざとであろうという手荒い処置を受けるギロロは、歯を食いしばって、消毒液の激痛に耐えている。

 対するクルルは、実は滅多にお目にかかれない、完璧な無表情で黙々と治療を進めていく。

 嫌味の1つもないクルルに対し、本気で恐怖を感じるギロロ。

 ギリギリ……と包帯を巻き終えられた後も、ギロロは何となく立ち上がることも立ち去ることも出来ずに、ただ、重苦しい沈黙に身を置き続けている。

(ど、どうすればいいんだ……?)

 ついさっきまでの、いくら緊急事態だったとはいえ、勢いだけでおこした行動の数々を省みたところで、後の祭りだ。

(……本当に、どうしろと……)

 ふと。

 それまで閉め切っていたクルルの唇が、かすかに動いた。

 そこから、ぽつりと言葉がこぼれた瞬間、様子を見に来たケロロが医務室に入って来る。

 ――と、同時に。

 ぐしゃり、とギロロが見事に椅子からずり落ちた。

「ゲロ?ギロロー、どしたのー?」

 返事が無いので、クルルにどうしたのかと尋ねたが、クルルは「さ~な」とそっけない。救急箱を片付け、そのままの足でシャワーを浴びに行くと言い残すクルルを「やっぱ女の子でありますなぁ~」と見送った。

 しかし、だからと言って今回のことをうやむやにする気は無いのだが。

「本当、すっごいじゃじゃ馬姫でありますなぁ。そー思うでしょ?ギロロ」

「……」

「顔、すんげー赤いでありますな」

「……言うな……」

「ゲーロゲロ!やだよーん!」

「……」

 

 たったさっきの、たった一言。

 脳を侵食する、音の連なり。

 他のことなど考えるなとでも言うように、強烈で、鮮烈だった。

 

 『……一応、サンキュ……』

 

 小さな、小さな声が、少女の思いの重さを物語る。

 零れ落ちたようなお礼が、ギロロの胸を、回っていた――。

 

 《終わり》

こちらはリクエストをしていただいた猫柳きら様限定でお持ち帰りを歓迎させていただいております。猫柳きら様、リクエストをしていただき、本当にありがとうございました!

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1日限りのパスワード〈逢瀬編〉

 ガルルの上官である大佐が引き取った子どもが、軍の地下で生活するようになって1ヶ月と半分。

 初めて会いに行ってから半月。任務が本部での訓練教官などが中心になっていたこともあり、ガルルはほぼ毎日、子どもに会いに行っていた。

 子どもは、そんなガルルの来訪を歓迎もせず、拒みもせず、無視をしたり少し話に答えたりと、その態度は微妙なものである。ただ、口では散々に言うものの、養父である大佐のことは多少気に掛けているようだったため、ガルルは努めて子どもに大佐のことを伝えるようにしていた。

 子どもに対するガルルの印象は、他の伝令係たちのものとは、多少食い違う。

 確かに子どもは、大人に甘えたり大人からの誉め言葉を求めるといったことはしないが、それが一概に『生意気で気に食わない』という面ではないとガルルは思った。勝手ながら、そのことに寂しさは感じるものの、それは子どもの思慮深さを示している。

 見目は、確かに子どもだ。

 しかし、大佐に引き取られるまでの環境や、この現状により、子どもの思考や物の見方は大人よりも冷静だった。

 冷静な思考は、誤りを防ぐ。

 悪いことではない。

 そうした見解に基づいて、ガルルは子どもを侮ることなく、1人の存在として接することに努めた。話をすれば、子どもは大人のような語彙を使い、言葉を紡ぐ。子どもの気が向けば、ようやく少し世間話が成り立つようになり、それがガルルにとっていい刺激となっている。

 しかし、やはり半月かそこらで、そんな親密な関係を築くのは困難だった。

 焦ってはいないと言えど、やはりどうせならば少しでも打ち解けたいとガルルは思う。大佐から時折語られる、大佐たちが『家族』として共に暮らしていた頃のことを聞いて、その思いは一層強くなった。

 子どもは、幸せを知っている。

 あたたかな場所を知っているのだ。

 そんなぬくもりから離れ、ほとんど1人で地下に留まり続けるのは、きっと、辛い。

 知らないものは、求めない。

 けれど、知っているものには、人は焦がれるものだから―――。

(せめて、少しでもあそこに、ぬくもりを届けることはできないものか……)

 

 そして、次の日。

「……何だよ」

「コレですか?」

「他に何があるんだよ。テメエの脳みそでも分かるだろ、それくらいは」

 久しぶりの皮肉と、あからさまな呆れ口調。

 どうやらこの子どもは自分が手にしている箱の中身を尋ねているわけではなく、何故この箱を持ってきたのかと言いたいのだろう。

「これはお土産です。せっかくですし、紅茶を淹れて食べましょう」

 箱の中にはケーキが4個。

 反対の手には、紅茶の入った水筒。

 今までは、作業場である第一研究室に食べ物を持ち込んでいいものかと悩んでいたのだが、どうやらこの子どもはココで食事をしているらしいことが先日判明したので、せっかくだからとオススメの店のケーキを持ってきたという経緯である。

「フルーツケーキとショートケーキとチョコレートケーキとチーズケーキですが、どれにしますか?」

「……おい」

「はい?」

「――――やっぱ、変な奴……」

 ポツリと零れたそれは、きっと独り言だったのだろう。

 子どもにとって、どうやら自分は、今までの分類基準では、どこにも属さないはみ出し者、ということらしい。

 正直、ケーキを持ってきただけでそう再び言われるのは、寂しいし、歯痒いし、少し心外なのだが……。

「……ひょっとして、ケーキは苦手ですか?」

 ふと気になって尋ねたところ、別に苦手と言うわけではないらしい。しばらくして、

「ショート」

という短い返事が返ってきた。

 赤い苺ののったケーキは、確かにおいしい。

 特に、子どもは上に乗った苺に目を輝かせる。

 本人の性格や早熟さが目立つものの、その嗜好の可愛らしさに安心感を抱いて、戸棚から失敬した皿とフォーク、お茶をいれたコップを差し出した。

「一緒に食べてもいいですか?」

 ここで、駄目だといわれたら、いくらなんでも傷ついたに違いない。

 幸い、そんなことは言われなかったのだが……。

(……うーん……)

 ガルルたちがテーブルとして使っているのは、研究室の机(長方形)で、2人の位置関係は、はす向かい。

 隣でも向かいでもない微妙な位置に、ガルルが座ると同時にズルズル……っとケーキたちごと移動されては苦笑するしかない。

 一緒に食べることは何とか受け入れられたものの、急に近づける、なんて都合のいいようには進まないのだ。

(……まあ、今は、これで……)

 はす向かいで、小さく手を合わせてからケーキを食べ始めた子どもに倣い、自分も手を合わせてチーズケーキをパクリと1口。

 評判の良さに違わぬ味の良さに、幸福感が広がってゆく。

(きっと、ショートケーキもおいしいだろうな)

 あまり表情は変わらないものの、ちゃんとフォークが動いているということは、つまりそういうことなのだろう。

 

 初めてのおやつタイムが終われば、子どもはもう一度手を合わせた。

 おそらく大佐の家で教えられたのであろう、その礼儀を行う所に好感を覚える。

「おいしかったですか?」

 自然な流れで尋ねたのだが、返事は無く、子どもは立ち上がって机から離れていく。

 一気に広がった距離に苦笑して、カチャカチャと机の上を片付け、洗い物をして研究室を後にする。

「それでは、また来ます」

 これも、返事は無い。

 拒むことは無いが、受け入れることも無い。

 半月、こんな関係が続いているが、それをガルルは少し前向きに受け止めていた。

 余ったケーキ2個は、冷蔵庫に書き置き付きで入れておく。

 サプリメントの類がいくつか入った冷蔵庫は、少し物足りなそうだった。

(今度は、何か食材でも持ってくるか)

 まだ、大佐はココと訪れることが出来ないから、おそらく2人だけになるだろうが、誰かとする食事は、悪いものではないと思う。

 そんなことを思いながら、もう1度退室の挨拶を口にして、ウィーン、と扉は閉まった。

 

 閉じた扉を、子どもはじっ、と凝視する。

 極短い時間ではあったが、それは紛れも無い、1つの変化だった。

(……変な、よくわかんねぇ~奴)

 心の中の言葉が、少し増えた、そんな日。

 

 《終わり》

この小説は、リクエストしていただいた春斗様のみお持ち帰りを歓迎いたします。春斗様、リクエストをしてくださり、本当にありがとうございました!

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求められた温度

 クルルが熱を出した。

 それをゾルルは、たまたま軍の廊下で出くわしたガルルの口から聞かされたのだ。

 クルルは普段の不規則な生活で、しばしば貧血や眩暈、過労で寝込むが、ベットに縛り付けられる時間は短いのが常である。1日横になっていれば、次の日には起き上がって仕事をこなす。

 これを大体1ヶ月に1度、もしくは隔週で繰り返すのだが、今回は少し長引いているようだった。

「おそらく、季節の変わり目の風邪だろうな」

 一応、昨日と一昨日、ガルルはクルルのラボに泊まりこんで看病をしていたらしい。少し声の調子が低く、疲れているように感じられる。

 それは体力面で、というよりも、子どもを心配して、という心理面が原因だろう。

「本当は、こんな時くらいはせめて傍にいたいのだが……運悪く、任務が入ってしまったんだ」

「長期、カ……?」

「いや、日帰りだ。だから余計、断れなかった」

「……」

「ゾルル?」

「……ワカッ、タ……俺、ガ今日……ハ、クルル、ヲ見……テイヨ、ウ……」

「―――それは、とても有難いが……確か、これから任務だったはずではないのか?」

 義体のメンテナンスの都合で、最近では長期と言えどせいぜい2ヶ月程度のものばかりになった。つい5日前にメンテナンスを終えたばかりのゾルルは、今日から他星への増援に加わるはずである。

 そのことを思い出して問いかけるガルルに対し、ゾルルはキッパリと、

「有休ヲ、使……ウ」

と、言い切った。

 曰く、3日程有給休暇を取って、その後本隊に合流するつもりらしい。

 今回の増援は今日から3回に分けて現地へ向かうことになっている。どの日の宇宙船もまだ定員までは余裕があるはずだから、大丈夫だと。

「……ソレ、ニ……ズ、ルイ……」

 ガルルばかり、クルルと一緒に居るのはズルイ、と。

 まるで幼児の様な主張にガルルは苦笑し、

「それじゃあ、クルルを頼む」

と。夜には戻るからと言ったガルルに対し、ゾルルはいささか不満げに、こっくり、と頷いた。

 

 元々は、ベットも何も無かったというクルルのラボ。

 ガルルが家具を揃えるまでは、毛布を引っ張ってきて床や椅子で眠っていたと聞いたことがある。

 仕事部屋と日常の生活空間を分けた方がいいとガルルが言い出した時、クルルは1日でラボに隣接した小部屋を作った。滅多に使われないその部屋のベットで、熱のせいか少しだるそうに横になっている子どもは、入ってきた灰色の暗殺兵を見て、面倒そうに視線を上げる。

「……任務は?」

「休ン、ダ……」

「アホか」

 勢いは無いが、皮肉はちゃんと出てくるらしい。

 呆れたという半眼の視線に、何だかずる休みを見咎められた時のような居心地の悪さを感じて、ゾルルは近くの台に置かれたポカリを差し出す。生身の右手でコップを掴むと、自分の体温で中身の液体は、一層冷たさから遠ざかっていった。

 そのコップが、緩慢な動作で小さな手に移動し、そっと縁を唇に銜えられる。中身の、少し濁った液体は、ほとんど減らないまま突き返された。

 一気に飲め、とは言わないが、もう少し飲んだほうがいいのではないかと心の中で呟く。しかし、そのままぽすんっと口元まで布団に潜り込んだ少女に、それを言うことは出来なかった。

 仕方なくコップを元の位置に戻し、ギシっと椅子をきしませる。

 半身の義体は、金属とはいえバランスをとるために生身のウエイトと変わらぬように設計されているのだ。そのため、普通の椅子に座ってもそれが壊れると言うことは無いし、ある程度ならば感知センサーによって触覚のようなものも感じられる。

「……」

 生き物らしからぬ半身を、そのままに保ちたいと、かつてゾルルは望んだ。

 まるで『本物』のような人工皮膚で覆われた義体が普及する中で、ゾルルはあくまで、性能に似合わず旧式な外見の義体のままでありたいと願った。

 それを叶えてくれた少女は、それだけでなく、決してゾルルが得ることは出来ないと決め付けていたものをくれたのだ。

 醜いばかりの自分が、見ることも出来ないと思っていたものを、くれた。

 

 ふと、ひたりと左腕に微々たる圧力と熱反応を感知して、そちらに視線を移す。そして、クルルがゾルルの義手をぐいぐいと引っ張っていることに驚き、そして首を傾げる。

 しかし、クルルはそんなゾルルの疑問などおかまいなしで手の平の部分を枕の隣に落ち着けると、そこにぺとっ、と自分の頬を押し付けた。

「……」

「……」

「……クル、ル……?」

「んー……?」

「……硬イ、ト思、ウンダ、ガ……?」

「ま~な」

「……?」

「氷代わり」

 冷たい、と。そっと呟くその声は、どことなく上機嫌で。

 金属らしい、生き物の熱を奪う程の冷たさは、他の者ならば忌避するというのに、この子どもにとっては氷というか冷エピタの代わりらしい。

(……ダガ……)

 左手では、クルルの生身のぬくもりも手触りも、どこか遠かった。

 それだけが、ひどく残念だ。

 ついさっき、熱を計るために伸ばした右手は、問答無用でぺいっと払われたことを思い出す。思わず吐いた溜息は、諦めるためのそれだった。

 珍しく甘えるような子どものぬくもりは、無機質な左手しか知ることはできないらしい。

 ならばせめて、と左手を注意深く、ふにょふにょと多少柔らかさを持つ子どもの頬に滑らせる。ぎこちない、さびた人形のような動きで。

 しかし、それは拒まれるどころか、その左手にぴっとりとくっつく子どもは、先程よりも少し、嬉しそうだった。

 

 そして、夜。

 ガルルがラボを訪れた時には、体を寄せ合って眠る2人が、ベットで丸くなっていたという――――。

 

 《終わり》

こちらは、リクエストをしていただいた有栖川ゆーた様のみ、お持ち帰りを歓迎いたします。リクエスト、ありがとうございました!

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いっちょやっとく?リクエスト祭り、であります!!

11月6日で、『俺様世界』が1周年を迎えます。

その感謝と記念ということで、今回『リクエスト祭り』なるものを開催することにしました!

リクエスト期間: 10月5日(日)~10月13(火)24時まで

概要: ケロロ軍曹、されど罪人は竜と踊る、家庭教師ヒットマンリボーンの3ジャンル全てが対象となります。

皆様からいただいたリクエストを川谷が精一杯小説という形で表現させていただく、といった企画です。

小説は、11月6日から順次アップしていきたいと思っています。

リクエストは、お1人様1つまでで、どなた様もお気軽にリクエストしていただければ幸いです!

リクエスト方法; この『いっちょやっとく?リクエスト祭り、であります!!』記事のコメントで、①ジャンル ②希望カップリングやコンビ、団体 ③シチュエーション(どこかへ行く、何をして遊ぶ、戦う、キャラクターに言って欲しい台詞など) を本文に記入してください。

お名前は、本名、HNのいずれかを必ずご記入ください。

〈本文記入例〉

①ケロロ軍曹

②ドロクル

③2人で水族館デートをする。(恋人繋ぎ)

注意点: 恋人の描写は、「手をつなぐ、抱擁、キスする」までの表現が中心です。

激しい性描写、メインキャラクターの残酷な死亡は、描写力の不足により、お受けすることができません。あらかじめご了承下さい。

なお、著しく『俺様世界』のメインキャラクターが出てこない小説のリクエストは、場合によってお受けできないことがございますので、その都度ブログ上でご報告させていただきます。(基本、クルル受、ストラトス受、千種受は書くことが出来ると思います……)

参考までのブログの傾向; 

①ケロロ軍曹

クルル(擬人化、女の子設定中心)が好かれているような小説が多いです。

お相手としては、ケロロ小隊メンバー、ガルル小隊メンバー、小隊パートナーズ(モアちゃんと秋ママもここに含まれています)、あと、まだアップはしていませんが、ダークケロロ小隊も加わります。

シチュエーションは、時間軸、場所、シリアスほのぼのコメディなどなど……。1番ジャンルの中で自由度が高いものだと思われます。

なお、今回折角のリクエスト祭りということで、『性別があまり気にならないクルル』もリクエストとしてお受けしたいと思います!

男の子!と言い切れるような小説は書けない可能性がありますが、『クルルが女の子でも男の子でも読める』という小説をご希望の方がいらっしゃいましたら、本文の③シチュエーションでその旨をご記入下さい。未記入の場合は、おそらく『女の子クルル』になるかと思われます。

②されど罪人は竜と踊る

ストラトス(男の子、女の子どちらでも大丈夫)中心です。

お相手は事務所メンバー4人とオリジナルキャラクターのみで、かなり限定されています。

時間やお相手は限定されますが、作風は大体シリアスもコメディも書けると思いますので、最近はめっきり更新をしていませんが……リクエストをお待ちしております。

③家庭教師ヒットマンリボーン

柿本千種(男の子、女の子どちらでも大丈夫)中心です。

お相手は、黒曜中、並森、ハルが中心となっております。(一応、雲雀がメインのはずです……)

10年後設定の場合、激しい捏造が入って来るので、その点をご注意ください。

沢山の方々のリクエストをお待ちしております!!

それでは、↓から、是非!! 

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